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ピロートーク

 隣の布団で寝息を立てる淀殿を見つめ、吉清は頭が真っ白になってしまっていた。


 やってしまった。


 後悔の念が吉清の中で渦巻いていく。


 どこで間違えた。どこで踏み外した。


 ぼんやりした頭で、吉清は昨夜の記憶を辿った。


 淀殿に勧められるままに酒を飲み、料理を食べた。


 朦朧とした意識で記憶が定かでないが、その後、淀殿と致してしまったのだろう。


 不慮の事故か、不運な巡りあわせか。


 後悔と共に、吉清の中である男の顔が浮かんでいた。


 ……秀次もこんな気持ちだったのだろうか。


 秀次から、拾が自分の子かもしれないと聞かされた時は耳を疑ったが、今なら納得できる。


 きっと、不慮の事故から致命傷に発展したのだろう。


 そうでなくては、いくら女好きの秀次とはいえ、淀殿に手を出すはずがない。


 何はともあれ、共犯者が起きなくては話にならない。


 吉清は淀殿の肩を揺すった。


「起きてくだされ」


 淀殿が目をこすりながら身体を起こす。


「ええと、あなたは……」


「木村吉清です」


「木村……?」


 首を傾げる淀殿に、吉清は声を荒らげた。


「虎狩りです!」


「ああ、虎狩りの!」





 淀殿に何か羽織ってもらうと、吉清はその場に土下座をした。


「……この度は、まことに申し訳ございません。あろうことか、殿下の側室であらせる淀殿を抱いてしまうとは……」


「気にしなくていいですよ。わたくしが襲ったので」


「……………………え?」


 悪びれる様子もなくさらっと言い放つ淀殿に、吉清は言葉を失ってしまった。


 今になって思い至った。


 あの料理だ。薬か何かを盛っていたのだ。


 さらに酒と合わせて酩酊させ、吉清の意識を奪ったのだ。


 計画的な犯行。そのくせ、なんと向こう見ずなことか。


「こ、こんなことをして……もし殿下にバレでもしたら…………」


「大丈夫ですよ。まだバレてませんから」


「い、いえ、そういう問題ではなくてですね……。

 そもそも、殿下というものがありながら、それがしと事に及ぶなど……」


「いけませんか?」


 不思議そうな顔をする淀殿に、吉清は思った。


 吉清とて、決して善人ではない。

 むしろ、小悪党と言った方がいい。


 だが、悪いことは悪いこととわかっているつもりだし、その上で悪いことをしているのだ。


 だが、淀殿はどうだろうか。


 まるで善悪という基準そのものが、常識というネジが欠落しているようではないか。


 秀吉はたしかに恐ろしい存在だが、それでもまだ理解できる行動をとっている。


 しかし、淀殿の行動はまるで理解できない。


 あきらかに、リスクとリターンが釣り合っていない。


 狂人じみた思考をしているくせに、妖しく男を惑わす美貌で見る者を魅力する。


 美しく、そしてなんと不気味なことか。


 思わず、吉清は口を開いた。


「一つ、淀殿にお伺いしたいことがあるのですが……」


「なんでしょう」


「拾様は、いったい誰の子なのですか?」


「拾はわたくしの子ですよ」


「…………太閤殿下のお子ではないということですか?」


「さあ?」


「さあって……」


 本当に誰の子かわからないのか、あるいは心当たりが多すぎるのか。


 どちらにせよ、秀次以外にも摘んでいるということなのか。


 吉清が罠にハメられたように、他の武将や大名も淀殿と交わっているのだろうか。


 …………これ以上、彼女に関わるべきではない。


 挨拶もほどほどに、吉清は逃げるように淀殿の元を離れた。


 頭が冷静になるにつれ、事の深刻さに気がついた。


 今回の不祥事で、結果的に淀殿に弱みを握られてしまった。


 もし淀殿に何かあれば、吉清は全力で手を貸さなくてはならない。


 今ならまだ問題ないが、これが徳川の世になった時には、どうすればいいのだろうか。


 豊臣と徳川。両者の亀裂が鮮明になった時に、もし淀殿から助けを求められたら、吉清は手を貸さなくてはいけないのか。


(まずいことになった……)


 吉清は鬱屈とした思いで朝帰りをするのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハメられたのははたしてどちらか?(笑)。
[一言] 確か淀殿の子供は祈祷の結果できた子供ってのがあった気がする この場合の祈祷ってのは複数の男性を集めて誰の子供かわからない状態にしてやる事の隠語らしいし、その時できた子供は神様からの授かり子っ…
[一言] このズベ公がぁーーー!!
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