細川忠興
秀吉から謹慎を命じられ、細川忠興は頭を抱えていた。
秀次から多額の金を借りたため、借金の帳消しと引き換えに秀次の謀反に味方したのではないかと疑われているのだ。
秀次から借りていた分の金を秀吉に返すことで赦免すると言われたが、あいにくと持ち合わせがない。
困ったことに、親しい大名たちは軒並み文禄の役で消耗しており、金を貸せるだけの余裕がないという。
ただでさえ、借りられるところから借り尽くしてしまっただけに、これ以上借りるあてがない。
どうしたものか。
思案に暮れていると、誰かが屋敷の門を叩いた。
訪問者の名前を聞くと、忠興は目を輝かせた。
「木村殿……!」
木村吉清の正室は忠興の側室と姉妹にあたり、親戚関係にあたる。
また、吉清が明智光秀の家臣だった頃からの付き合いもあり、吉清との仲もそれなりに良好なつもりだ。
なにより、文禄の役で明を攻めたことで、諸大名の中でもかなり潤っているのだという。
忠興はいそいそと吉清を客間へ連れて行くのだった。
忠興から話を聞くと、吉清がなんてことない様子で提案した。
「それでしたら、それがしが融通しましょうか?」
「……いいのか? 文禄の役でかかった分も合わせると、かなりの額にのぼるが……」
「構いませぬ。細川殿の側室に、それがしの妻の姉が嫁いでおります。ここで貸さなくては、妻に怒られてしまいますゆえ」
吉清が冗談めかして笑うと、忠興も頬を緩ませた。
「氏郷から聞いていたと思うが、何かあれば遠慮なく俺を頼れ。何でも力になろうぞ!」
頼もしい味方が出来たことに胸を撫で下ろしつつ、吉清が締めの挨拶に入った。
「それでは、藤殿やガラシャ様にもよろしくお伝えください」
そう言って吉清が席を立とうとすると、忠興が吉清の腕を掴んだ。
「……………………待て。玉と会ったのか? いつ、どこで、何をした!?」
目を血走らせた忠興が詰め寄る。
吉清の胸ぐらをつかむと、吉清の首を締め上げた。
「お、落ち着いてくだされ、それがしはキリシタンゆえ、セミナリオで顔を合わせる機会があっただけにございます!」
「嘘ではないな!?」
「誓って! 南無八幡大菩薩に誓って嘘ではございませぬ!」
「…………そうか。取り乱してすまなかったな」
吉清の乱れた着物をただすと、忠興はニッコリと笑った。
「それはそうと、金を貸してくれたこと、まことに感謝してるぞ!」
氏郷からは、何かあったら忠興を頼れと言われたが、本当に大丈夫なのだろうか。
吉清の胸に不安が渦巻くのだった。




