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初夜と夫婦喧嘩 前編

 清久と駒姫の祝言が始まると、木村家、最上家の重臣が集結し、挨拶やら酒宴が始まった。


 酒宴を催す傍ら、吉清は一人縁側に腰を降ろしていた。


 腫れた頬をさすり、「ふぅ」と息をつく。


「いったいの〜」


「父上!」


 呼び止められ、吉清が振り返った。


「おお、清久か」


「此度は私の我儘を聞いてくださり、何とお礼を言えばよいか……」


 頭を下げる清久に、吉清は手を振った。


「気にするな。最上との婚儀は当家にとって利になる」


 最上家は足利の支流、斯波氏の分家にあたる由緒正しい家柄である。


 また、最上義光の正室は大崎義隆の妹ということもあり、駒姫には大崎の血が流れている。


 大崎の旧臣を多く抱える木村家にとって、大崎の血が得られる意味は大きい。


 少なくとも、ただ中央から派遣されてきた大名ではなく、大崎の血を引く大名となれば、旧大崎領を治める正当性を得られたということに他ならず、大崎旧臣がより木村家に忠誠を尽してくれることを意味している。


 そういった思惑もあり、最上との婚儀はまったく意味がないわけではない。


 ただ、それはそれとして、最上義光と親戚になるのは気に食わないが。


「父上、その……お聞きしたいことがあるのですが……」


 清久が恥ずかしそうに吉清の耳元に口を寄せた。


「……その……実のところ此度の初夜が私の初陣となるのですが、うまくできるかどうか……」


 つまり、童貞だから自信がないということか。


 しょうもない悩みに、吉清は笑いを堪えた。


 童貞だから自信がないというのなら、手っ取り早く童貞を捨ててしまえばいい。


「一度、その辺の侍女なり娼婦で練習してはどうじゃ?」


「なっ……なんてことを言うのですか! これでも祝言を挙げて間もないのですよ!? そんな不誠実なことはできませぬ!」


 面倒くさい。こちらはそれどころではないというのに。


 吉清は腫れた頬をさすりながら適当に答えた。


「とにかく挿れることじゃ。一度挿れてしまえば、大抵のことはどうにかなる」


「なるほど……」


 わかったようなわからないような顔で清久が頷く。


 ふと、吉清が頬をさすっているのが目についた。


「あの……大丈夫ですか?」


 吉清の頬を差し、清久が言った。


 叩かれた跡なのか真っ赤に腫れており、見ているだけで痛々しい


「……大したことではない」


「何があったのですか?」


 少しためらって、吉清は言った。


「……紡の侍女にお手つきした」


「なっ……!」


「死ぬほど叩かれたわ……」


「道理で母上の機嫌が悪いと思ったら……」


 祝言の際も、紡がどこか不機嫌そうにしていた訳がようやくわかった。


 まったく、いつも適当なことばかりしていると思ったら、息子の祝言直前にそんなことをしていたとは。


「のう、清久。……儂と一緒に、紡に謝ってはもらえぬか?」


「なぜ私が……」


「おう、駒姫と婚儀を結べたのは誰のおかげじゃ、ん?」


 痛いところを突かれ、清久が思わずたじろいだ。


「……それはそれ、これはこれです」


 吉清はため息をついた。


 清久が協力してくれないとなると、使える手も限られてくる。


 顎に手を当て、「ううむ」と考える仕草をした。


「……適当に物で釣れば、許してもらえるかのぅ……」


 あくまで搦手を用いようとする吉清に、清久は呆れた様子で言った。


「ちゃんと、心を込めて謝ることです。誠心誠意、自分の気持ちを伝えれば、きっとわかってもらえるはずです」


「気持ちか……」


 いつでも策を弄し、根回しをし、搦手を用いてきた吉清にとって、誠心誠意とは最も縁遠い言葉であった。


 しかし、これもいい機会かもしれない。


「……今夜あたり、紡に改めて謝っておこう」


「その意気です、父上!」


 そうして、二人は各々の戦場へ向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公、存在する価値ある???
[良い点] 新婚早々、息子が夫婦喧嘩したのかと思いましたが、お父ちゃん、何やってんだよ……。誠心誠意謝れるのかしら……。心配。
[一言] こっちは、ただのクズおやぢwww
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