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義光と駒姫

 秀次の切腹に伴い、秀吉は秀次の妻子も根絶やしにしようとしていた。


 次々と側室や子息が捕えられていく中、屋敷に半ば軟禁されていた義光は気が気でなかった。


(駒……どうか無事でいてくれ……)


 監視に見張られている状況で何かできるわけもなく、義光はただ祈ることしかできなかった。


 監視に状況を問いただすも、はっきりとした答えは返ってこない。


 既に捕まったのか、危機を察知してどこかへ潜伏しているのか、あるいはまだ京に着いてすらいないのか。


 悶々とした日々の中、とうとう義光の正室である大崎夫人も寝込んでしまった。


 夫人を気遣いつつ、義光もまた限界に近かった。


 そんな折、義光の元に木村吉清から文が届いた。


 形式的な枕詞に、『今度、連歌の指南をして頂きたく』などと見え透いた誘い文句が書かれている。


 文と一緒に、見覚えのあるものが添えられていた。結納に持たせていた、駒姫の櫛だ。


「これは……なぜ木村殿が持っているのだ」


 文が届いて間もなく、最上屋敷に木村家の者がやってきた。


 今回の秀次事件に関して取り調べをするので、木村家の屋敷まで参上して欲しいとのことだった。


 ちょうどいい。義光としても、吉清に話があった。






 義光が客間に通されると、木村吉清が迎えた。


「これはこれは最上殿、よう参られた。ささ、座ってくだされ」


「そんなことより、なぜ木村殿が駒の櫛を持っておる!」


 鬼気迫る様子の義光が吉清に詰め寄った。


 吉清が手を叩くと、後ろの襖が開かれた。


「父上!」


「おお、駒!」


 父と再会できたのがよほど嬉しかったのか、駒姫が抱きついた。


 普段は気丈に振る舞っていたが、内心は心細かったのかもしれない、と吉清は思った。


 義光の声に涙が混ざった。


「無事じゃったか!」


「はい、木村家の方々には、良くして貰っております」


 駒姫も安堵した様子で頬を濡らしていた。


 家族の再会に水を差すのも悪いと思いつつ、吉清は一応説明を始めた。


「関白であられる秀次様が腹を召された今、今度は妻子まで処刑されると聞きましてな……。


 このままでは、親類縁者に至るまで罪が及ぶ。されど、まだ若く、床を共にしておらぬ姫君まで処されるというのは、あまりに不憫……。

 殿下からお叱りを受けるのも覚悟の上で、こうして匿い申した次第じゃ。


 本当であれば、最上殿の嫌疑が晴らされ次第お伝えするつもりだったのだが、姫君が行方不明になってからというもの、最上殿の奥方が体を崩してしまったと聞きましてな……。


 これ以上隠しては、奥方に申し訳が立ちませぬゆえ、こうして打ち明けた次第じゃ」


「なるほど、そういうことであったか。……早合点してしまい、申し訳ない」


 駒姫から離れると、義光が深々と頭を下げた。


「とはいえ、いま姫君を最上家の屋敷に戻してしまっては、わざわざ隠した意味がない。ほとぼりが冷めるまで、当家の屋敷に置いておきたいのだが、いかがか?」


 義光が頷いた。


 現在、最上屋敷では監視の者が目を光らせており、厳戒態勢が敷かれている。


 そのような環境に、駒姫を置いておきたくはなかった。


「そうそう、最上殿の奥方もここに招かれるがよい。一刻も早く、安心させてやりたい」


「かたじけない」


 吉清の配慮に、義光は再び深々と頭を下げるのだった。






 義光を屋敷に送ると、吉清は清久を呼んだ。


 この頃、秀次事件や駒姫のことで手一杯だったこともあり、清久の婚姻の準備があまり進んでいなかったのだ。


 清久が現れると、挨拶もそこそこに、早速本題を切り出した。


「お主の嫁のことだがな。前田家から貰おうと、今話を進めておる」


「それなのですが、父上。お話ししたき儀がございます」


 今までになく緊張した様子の清久に、吉清まで身構えてしまう。


「なんじゃ、急に改まって……」


「それがし、駒殿を妻に迎えとうございます!」


「なっ、なに!?!?!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 木村氏の役割からすれば近隣大勢力から姫を迎えるのって話にならんでしょう、九州や蝦夷地の奥に飛ばされたいならいいですが。 よく考えたら家康との婚姻関係も危ないですね、家が第一なら遠方の大名の…
[一言] 息子のムスコが暴走しちゃった!
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 「清久、何故にそなたは見えている地雷を踏みに行くのじゃ!」 「ふん。父上こそ駒姫殿を助けるのは酔狂が過ぎませぬか。リスクが高過ぎましょう!そもそも何故父上も地…
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