移民
ふと思いついた作品です。よろしくお願いします。
「ねぇ。“スズメ”見たことある。」
学校帰りに夕暮れの海岸を歩いていると隣を歩く彼女(別に付き合ってるとかじゃなくて、ただ家が隣とか幼なじみとかで一緒に帰ってるだけで、付き合いたいとか別に……何言ってんだろ僕。)がそんなことを言い出した。
「別にスズメじゃなくて“カラス”でも“ツバメ”でも“虫”でもいいからさ何か空飛ぶ生き物“見た”ことある。」「何言ってんだよお前。スズメもカラスも見たことあるし鳴き声も聞こえる。ツバメは今の時期なら北に行って見れないだろう。それに何より今朝も俺はセミの大合唱で起きたんだ。」
今は7月中旬夏真っ盛りである。朝早く具体的には日が昇ると同時に彼らは鳴きだす。一斉にただただ鳴きだす一心不乱に鳴きだすのだ。(たださえ暑くてイライラするのに朝早くからミンミンとぉ………以下略)
「見たことあるって、いつ西暦何年の何月何日何曜日何時何分何秒地球が何回廻った日?」
と彼女。
「何時何分何秒って今時小学生も言わねぇよ。」
(久々に聞いたわ。何時何分何秒って小さい頃はよく言ったぁ。小学生の頃喧嘩したら言ったもんだ………あれっ言った気がするのに何の喧嘩で言ったんだ………小学校2年生の………駄目だぁ思い出せねぇ。15にしてボケたかぁ。)
「………たことあるのって話を聞いてないなぁ。」
彼女に叩かれた。叩くとは何事だろうか!この国は問題の解決に武力は使わないというのにその国の国民が問題解決に武力を使うとは!
「もう一発いる。」
笑っているのに笑っていない笑顔の彼女。正直怖い。般若だよ般若。
「誰が般若かぁー。もうしらない!」
綺麗な顔面への回転を加えた蹴りをかましてくれて彼女は駆けていった。『とりあえず帰ったら心の蛇口を締め直しておこう』というのと『中学生でウサさんパンツはどうかと』この二つを思いながら僕は意識を手放した。
「白い天井だ。」
目を覚ますとベッドで寝ていた。
「おしいですね。そこは『知らない天井だ。』ですね。」
不意に僕の一人事に答える若い男性のような女性のような中性的な声がした。
「医師〔センセイ〕。どうしてここに?」
ベッドの横で本を片手に容姿も中性的な女性。まるで一枚の絵画みたいだ。
「絵画みたいって恥ずかしいこといいますね。質問に対してはここが診療所だからです。それと、看護士の彼の目を逃れてサボるため。今の所他に患者さんもいませんし暇だから。後は…………君が心配だから?」
「なんで最後疑問系!!!後声にでてました?」
高等テクニック病み上がりツッコミを炸裂させた。
「バッチリでてましたよ。気をつけて下さいね。バカに付ける薬と心の声が洩れちゃうのを止める薬は今だかつて開発されていませんからね」
何気にヒドイです。
「ケガはたいしたことありませんでしたよ。もう帰っても大丈夫です。診察料ですが、暇でしたしタダでいいですよ。あぁ帰りに看護士の彼に御礼を言った方がいいですよ。彼が連れて来てくれましたから。それじゃ。お大事に〜。」
そう言って彼女は出て行った。
僕はその後きちんと看護士の男性にお礼を言い帰って行った。帰り道もう午後5時だというのにやはりセミは鳴き続けていた。
その夜
「『オーナー』気付きだしたお客様もいるようですが。」
看護士男性が言う。
「問題ありませんよ。今の所気付きだしたお客様は一人だけですから。」
中性的な声と容姿の女性が答える。
「また擬似記憶を植え付けるのですか。」
男性が批難する。
「今回は使いません。代わりにこれを使います。」
彼女の手には一般にクマゼミと呼ばれる物が乗っていた。
「飛行生物は禁止では!まさか完成したのですか!」
驚く男性。
「えぇ完全生体部品製自動機械蝉型。他にも雀型、烏型、蝶型など全て生産体制に入りました。これで“空飛び生き物がいない”という認識による真実への到達は暫くはごまかせるでしょう。」
そういうと手に持つ蝉型の起動キーを解凍し窓から外へと出してやった。蝉型はセミとなり夜の空を飛んで行った。
「さぁ明日もお客様に快適な“船旅”を送って頂けるようがんばりましょう。」
「了解です。『オーナー』」
二人は会話を終えそれぞれの部屋に戻って行った。
蝉型からセミとなった物は
偽りの空を飛ぶ。
満天の星空がモニターに写された映像だとしても。
空を飛ぶ。
空に天井があったとしても。
空を飛ぶ。
天井の2000m先に広がるのが生きる物がいない満天の星の海だとしても。
空を飛ぶ。
お客様が第二の故郷に辿り付くまで。
彼らは空を飛ぶ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。私の宇宙移民船のイメージです。ご意見ご感想お待ちいたしております。P.S.分類はSFで大丈夫でしょうか?