【3】まずは、月なのか
銀色の3つは、とりあえず、アンドロイドとしておこう。入口というか出口をふさぐように1つ。俺の背後に1つ。俺の足の先の方に1つが立っている。
「言葉は分かりますね?」
俺が医者と判断したやつがしゃべってきた。
「地球上で使われていた日本語というものですが」
もう1人の医者が聞いてきた。内容が変だが。
「わ、分かります」
俺は答えた。
医者は、まあ、普通の人間なんだろうか。
日本語をしゃべるが、日本人ではないのか。
白ずくめの服からかろうじて分かる目の色が緑色だ。
「突然の出来事で、さぞ驚かれたことでしょう」
医者は言った。そりゃ、あったりまえだ。
今でも驚き続けているぞ!
「私は、医師のスイキといいます。こちらは同じく医師のセニオといいます。銀色の3つの物は、HDというヒューマノイド・ドローンです」
人間型ドローンか。アンドロイドでも間違いじゃないな。
「ここは月の裏面の基地です。あなた方は地上からドローンに乗り、上空でシャトルに回収され、この基地へやってきました」
さて、分かんないぞ。
この医者が何を言ってるのか、分からなくなってきた。
「ちなみに今は、西暦2020年5月18日です。時間的に相違はありませんが、空間的にはあなたの世界と違っています」
うーん、俺はバカなんだろうな。
頭のいいやつなら、この話が分かるんだろうな。
今は今だけど、場所は月だということが。
「あの!アツシは?俺の友達は?!」
俺は突然、大事なことを思い出して、聞いた。
「イシダ・アツシさんですね。
大丈夫です。生きています。隣の部屋で。」
この医者、なんつー、引っ掛かる言い方をするんだ。
「とにかく、お2人とも、大丈夫です。すぐには今の状況が把握できず、我々の話にもついてこれないでしょうが、ご心配には及びません。じきに慣れますよ」
心配してくれるのは分かるが、なんかムカつく。
「しばらく、このHDを置いておきますので、何かありましたらご指示ください。では」
医者2人とHD2体は、部屋から出て行った。
黒い出入口は白くなり、壁と区別がつかなくなった。
俺は足の方にいるHDとにらめっこ状態になった。
「あのー。話ができるんですか?」
俺は、HDに聞いてみた。
「はい。話せます」
HDは答えた。
「名前とかあるんですか?」
HDに名前はあるのだろうか?
「MHD-7258-6133-」
「あ、もういいです」
俺は、HDの名前を聞くのはあきらめた。
「隣のアツシと話はできるの?」
「ドクターの許可がありません」
俺の問い掛けに、HDは冷たく答えた。
「生きてるんだよね?」
「機能停止したとは記録されていません」
うん。よく分かった。
「何か、飲みたいんだけど」
俺がそう言うと、HDは左の方へ歩きだし、
壁に触れると黒く四角い穴が開いた。
HDは、そこからトレーに乗ったコップに注がれた液体
を取り出して、俺のそばへ持ってきた。
「どうぞ」
「これは、なに?」
俺は、一応、聞いてみた。
「水です」
「ほんとの水?」
無色透明な液体だけど、なんだかは分からない。
「水以外の、ほんとの水とは、何がありますか?」
水のように見える何かあるかもじゃん!
「ア、アルコールとか、なに?ガソリンとか?」
俺は、ムキになった。
「それらは、そもそも水ではありません。
例え似ていても、そもそも水ではない物を、水と言うことはありえません」
分かったよ。俺は、こいつを好きになるべきか嫌いになるべきか、真剣に考えようと思った。
で、とりあえず水であることを信じて飲んだ。
「ここは、月なんだよね?」
「はい」
HDの方から話し掛けてくることはない。
基本、俺の質問に答えるだけだ。手短に。
「月にある基地なんだよね?」
「はい」
「誰が作ったの?」
「地球の人間です」
「いつ?」
「物理的な着工開始は、西暦2150年です」
今から130年後に、月面基地ができるのか。
「今、2020年5月なんだよね?」
医者は、そう言ってたよな?
「はい」
HDは、そっけなく答える。
「でも、この基地は2150年より後にできたんだろ?」
「はい」
「意味がよく分からないんだけど?」
「あなたには、分からないと思います」
マジで、ぶん殴ろうかと思った。
「思うに、時間と空間の、なんか難しい関係?」
「はい」
「相対性理論とか?」
「それも含まれます」
「ブラックホールとか、重力とか?」
「もちろん、関係しています」
おー、俺も、なかなかやるじゃん。
「人類は、火星にも行ったの?」
「はい」
おー!火星にも到達したのか!
「ボイジャー1号、2号は、どこまで行ったの?」
「行方不明です」
ボイジャーは太陽系を出て、行方不明になったのか。
「あのー、外は見れないの?」
HDが右の方へ歩いて壁に触れると、
壁は大きな窓になり、
外が見えるようになった。