【2】ここはどこ?
「これに乗れってか?」
アツシが言うと同時に、メールが着いた。
「そのドローンにお乗りになり、シートベルトを締めてください」
俺はアツシと顔を見合わせた。
「乗るしかないんだろうな」
ガラス張りになってるわけでもなく、フレームだけ。
座席は2人分で、操縦装置らしき物もない。
これで空を飛んだら、たぶん怖いだろうな。
仕方なく座席に座ってシートベルトを締めると、
4基のプロペラが回りはじめた。
よくある小型のドローンのような騒々しい音がしない。
リニアモーターのような静粛性だ。
ま、リニアモーターが静かか、知らないけど。
突如、ドローンは上昇した。
すげーGが、真下に向けて働いた。
こんな地面に張り付けられるような重力を感じることは、普通はないだろうな。
つーか、単に気持ち悪りぃだけ。
どこかでリモートコントロールしてるんだろうが、
人が乗ってることに配慮しない操縦だ。
計器など何もないので、
速度も高度も方向も、何も分からない。
分かることは、息ができないということだけ。
ほぼ、45度の角度で、前方へ上昇している。
んだと、思う。
隣のアツシは、
たぶん、気を失っている。
雲に突っ込んだ。
最初は霧の中のようだったが、
しだいに夕立の中のようになった。
寒いし、痛いし、ビショビショだし、
ほとんど息ができない状態だ。
もう、ムリだ。
これで生きろというのは、ムリだ。
* * *
目が覚めると、ベッドの上だった。
ほぼ全てが真っ白な部屋の中。
そうだ、コンビニの駐車場からドローンで飛んで、
たぶん、気を失って、今、ここにいるんだろう。
服も、体も、髪も乾いている。
部屋は、暑くもなく寒くもなく、快適温度だ。
天井全体が照明になってるようだ。
部屋にはこのベッドしかなく、
そこに俺が寝かされている。
それだけだ。
上半身を起こして見回したところ、
ドアも窓も、何かを入れるような所もない。
なんとなく低い機械音がわずかに聞こえる。
俺の知識の範囲では、
どっかの医務室という認識になるか。
そうだ、アツシはどうした?
あの状況では、死んでもおかしくないかも。
俺は、生きてるようだが。
とりあえず、俺は自分を隅々まで見たり、
触ったり、動かしたりしてみたが、
ケガをしたり、足が無かったり、
そーゆーことはないようだ。
まー、
だんだんと気分が落ち着いてくると、
一番知りたいことを思い出してきた。
ここは、どこ?
「おーい」
俺は、とりあえず、小さい声で呼んだ。
前に映画で観たように、やみくもに大声を出したり、壁を叩き回ったり、物を壊しまくるようなことは、たいてい良い結果とならない。
まー、誰かを呼んでも、壁を叩いても、聞こえているかどうか分からないし、物を壊すといっても、ここにはベッドしかない。しかも、完全に床に固定されているし、道具も無いから分解もできそうにない。このベッドに八つ当たりするには、俺の手とか腕とか足とか、体全部で体当たりするとか、つまり自分が痛い目にあう方法と引き替えにするしかない。それは、損だ。
「誰か、いませんかー」
俺は、一番痛くなくて、損ではなさそうな方法を、
とりあえず選んだ。
あんまり期待せず、誰かを呼んでみる方法だ。
シュイーン
部屋の右の方で変な音がしたので見てみると、
ただの白い壁だと思っていた中心部分に、
縦2メートル、横1メートルくらいの黒く細い線が入っていた。素直に考えれば、ドアのような形といえる。
とりあえず俺は、1辺が10メートルくらいの正方形の部屋の中心に固定されたベッドの上で上半身を起こした状態でいて、天井までの高さは4メートルくらいだろうか?まー、天井の高い教室くらいの部屋にいる感じだ。
なので、音のしたドアのようなところまでは約5メートルくらい。けど、そこへ行くべきかどうか考える数分が何時間に感じたかも覚えていない。
ベッドの上で体勢を変えて、足を床に下ろすべきか、足を床に下ろして立ち上がり、ドアの方へ行くべきか。
自分が置かれた状況が分からないと、人間はどう行動してよいのか判断できなくなることが分かった。
で、その後に次から次へと起きる事態にも、状況把握と安全確保と事後予測が正常におこなわれないこともよく分かった。
まず、ドアのように見えていた部分が、黒くなっていた。
そして、白っぽくて細長い人間のような形をしたものが3つほど部屋に入ってきた。
その後に、これはたぶん人間だろうと思われるものが2つ、部屋に入ってきた。
最初の3つは、俺の知識の範囲内では、ロボットというかアンドロイドとでもいうのか。全身が光を反射する銀色のおそらく金属でできた物体だ。
そして後から入ってきた2つは、俺の知識の範囲内では、白い服を着た、医者だ。
あくまでも、俺の知識の範囲内では。