【1】それは高1のある日曜に始まった
やっとのことで終わった高校受験。
5月になってゆとりができたので、
中断していたオンラインゲームを再開したが、
フリーズしたため、仲間とコンビニへ休憩しに行ったものの、どうも様子がおかしい。
そこへ、ゲームの不具合に対する特典として、
無人ドローンが迎えに着陸した。
「え、フリーズかよ」
俺は、黒田俊樹。通称クロ。
やっとのことで高校受験を通過してからの、
5月頃の日曜日。つまり、高校1年になって、
ようやく落ち着きはじめたんで、
これまで中断していたゲームを再開させたんだが、
もう少しで駆逐艦を狙える位置に着けたのに、
なんでいいとこで止まっちまうんだよ!
俺は、一緒にプレーしているアツシに電話した。
「おう、クロの方も固まったか?」
電話の先は、石田淳。本名も通称も、アツシだ。
アツシの画面も固まってるらしい。
ゲームはオンラインで味方の宇宙防衛艦隊を操作し、
敵の攻撃から我らが太陽系を守ってやる。
で、敵の駆逐艦を発見し、左舷後方からロックオンしようとしたところで、固まったわけだ。
「シンヤとカズも、固まってるだろな。しばらく休ませて、あとで再開しようぜ」
シンヤは、角松慎也。なかなか勉強はできる。
カズは、土橋和人。こいつは、まー、ふつーだな。
俺ら4人は、同じ中学から同じ高校に入った。
で、ついでに同じクラスになった。
面倒な自己紹介が省けたことだけは、よかった。
「じゃ、いつものコンビニで休憩するか」
俺はとりあえずアツシを誘って、コンビニでアイスでも食べて今後の作戦を考えようと思った。
シンヤとカズは、後から誘えばいい。
俺はとりあえず、ゲームのスイッチを切った。
のだが、なんか、変な感じがする。
机の上の財布と家の鍵を持って、自分の部屋から階段を降りて1階へ行った。
両親と妹と4人暮らしだが、今日は誰もいない。
家の外へ出て鍵を掛け、チャリでコンビニに向かった。
だか、なにか変だ。
コンビニに着くと、先にアツシが来ていた。
しかも、一人で突っ立って。
「おい、どうしたんだよ」
俺はアツシに声を掛けた。
アツシは、ゆっくりこっちに首を回しながら、
「店の中を見てみろ」
と言った。
俺は入口の自動ドアのところじゃなくて、雑誌売場の上のガラスの部分から、店内を覗いて見た。
別に、なんてことはない。
弁当売場に男が1人、ドリンクケースの所に男が1人、
レジの1つに、いつもの女の店員が立っている。
「中が、どうした」
俺はアツシに聞いた。
「分かんねーのか?」
アツシは、中を凝視したまま言った。
俺は、今度は双眼鏡でも見るように手をかざして、
ガラスにくっ付けて中を見た。
じーっと見た。
じーっと見続けた。
「誰も、動かねーだろ」
アツシは言った。
たしかに。
「止まってる?のか?」
俺は言った。
俺は思わず振り返った。
そういえば、店の前の道を、車も通らなければ、人も通らない。なんの音もしない。
ずーっと変な感じがしてたのは、これだったんだ。
回りに何も動く物が無ければ、音もしないのだった。
「どーゆーことよ?」
俺はアツシに言った。
「分かんねーよ。けど、ヤベーよな?」
アツシもおびえている。
「け、警察に電話した方がいいかな?」
アツシの手は震えていて、スマホを落としてしまった。
「つか、先にあの人たちが生きてんのか、見てみた方がよくね?」
俺はそう言いながら、自動ドアの方へ歩いた。
センサーが感知すると、ドアが開いた。
俺とアツシは、コソドロのように、ゆっくり店内に入った。お客が入ったことを知らせるチャイムみたいのが鳴ったが、店内の人間は誰も反応しなかった。
俺とアツシは、ゆっくりと店内の人間を見て回った。
目の前で手を振ったり、ほっぺたを触ったり、肩を叩いたり。だけど、何の反応もない。呼吸すらしていないようだ。俺がふと壁の時計を見ると、秒針が止まっていた。
その時だった。突然、俺とアツシのスマホが同時に鳴った。メールだ。
「【オンラインゲーム・太陽系防衛軍・戦艦アスカ】の不具合につきまして、プレーヤーの皆様には大変ご不便をお掛けしたこと、心よりお詫び申し上げます。つきましては、対象のお客様には弊社より些少ながら特典をご提供させていただきますので、その場でお待ちください」
「ここで、このまま待つのか?」
アツシがスマホを持ったまま聞いてきた。
「次のメールを待ってりゃいいんじゃね?」
俺は、そう答えたが、来たのはメールじゃなかった。
コンビニの駐車場に、ドローンが降りてきたのだ。
普通のクルマくらいの大きさだ。
リモコンで飛ばすオモチャみたいのは知っていたが、
こんなにでかいのは、見たことがない。
てか、人が乗れるドローンなんてあるんだ。
俺は、まずそのことに驚いた。
着陸すると、すぐにプロペラは止まった。
モーター音などしないで、すごく静かだ。
だから、上空から降りてきたのにも気付かなかった。
もしかしたら、みんな気が付かないだけで、
こんなのは、しょっちゅう上空を飛び回っているものなのか?
俺は、色々な意味で、色々と心配になってきた。