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かくして少年は狂った

 整えられた調度品、審美のほどが分からぬ者にはとことん理解できない絵画、豪華な刀剣類、一体何人で寝るのかというほど大きな寝具が置かれた大きな部屋は、とある寝室である。

 この部屋を始めてみた者が、ここがたった一人の狩人見習いが使う場所と聞けば驚くだろう。それほどに、見習いが使うにしてはいささか豪華が過ぎる。ちなみに、もっと大きな部屋が3部屋もあるのだから呆れたものだ。

 元は王都から長期派遣されてきた役人が住むために造られた部屋だが、現在は王都の貴族の御曹司の部屋として使われている。

 見習いたちは総じて寮に無料の一室を宛がわれるが、自分で金を出して部屋を借りる者も中にはいる。

 この部屋の主、ゴーラスもまたその一人だった。


「はあぁぁぁぁなぁぜぇぇぇぇぇ!!!」


 血走った眼、激昂の余り真っ赤に染めあがった顔、いつものゴーラスからはとても想像がつかない醜態である。


「いけません、坊ちゃま、落ち着いてください!」


 目の周りが紫色に変色させながらもゴーラスにしがみ付く老人は、執事の一人である。

 一般人からすれば、怒れる新人類など暴れる獣に等しい。事実、ゴーラスお抱えの使用人たちでは全く歯が立たず、狩人見習いの取り巻き連中が何とか抑え込んでいる状態だ。


「まだだぁ! まだおわっでないぃぃ!! おわっでないぞ、こしぬけぇぇぇぇ!!!!」


 未だ決闘服に身を包む彼は、つい先ほど目を覚ましたばかりである。あの決闘で意識を失った後、ここまで運ばれてきたのだ。医者もすでに帰り、数人の使用人と取り巻き連中で目覚めを待っていたのだが、いざ目を覚ませばこの有様だ。

 彼の顎には、痛々しい内出血の跡がある。シュアンに決闘で打ち砕かれた部分だ。新人類の頑丈な骨は幸いにも少しヒビが入った程度で済んだが、彼のプライドはボロボロに砕かれ、今まさに崩れ落ちんとしている。


 敗北。

 自ら仕掛け、見下していた存在に無様な姿をさらした。それも、卑怯な手の一つも使われればまだ救いがあったが、正々堂々たる一戦で決着したのだ。

 その事実は、とてもゴーラスが呑み込めるものでは無かった。


 ゴーラスの生家は王都の貴族バングラ家、その三男坊である。

 古くは王室とも繋がりがあったとされるが、父も跡継ぎの長兄も社交界での注目は薄く、現在は手堅い農地経営で細々と食いつなぐ中堅どころ、悪く言えばパッとしない貴族だ。

 平々凡々だが優しい父、厳しくも過保護気味な母、どこか抜けているが常に領民に寄り添う兄、頭は良くないが腕っぷしは立つ次兄という家族仲の悪くない中で育った末っ子のゴーラスは、常に甘やかされて育った。

 そして、とある日に発覚するゴーラスの新人類としての素養は、バングラ家の一同を湧き上がる。


 貴族界隈においても新人類の存在というのは近年増えつつある。かの名門ジェネガイム家においても嫡子が新人類として華々しく騎士団を率い、鎧獣を蹴散らすさまは国民の羨望を集めているほどだ。王国騎士団か、狩人か、いずれを選んだとしてもバングラ家の名を知らしめる良い機会となろう。結果、ゴーラスへの期待は高まりに高まり、甘やかし度も比例した。

 結果、ゴーラスは己より力量のないと判断した者へ高慢な態度を取るようになり、騎士団に入団すれば無能の下へ着くことになるかもしれないからと、狩人になることを決めたのだ。


 かくして、一家の期待を一身に背負い、この深い森の中までやってきて、挙句の果てが半年で退所に追い込まれる。未だ成人を迎える前の幼いゴーラスが、そんな恥辱にまみれて平静を保てるわけがなかろう。

 ただでさえ素質はしっかりとあるゴーラスである。その剛腕を振り回して取り巻き連中すらなぎ倒し、ついに部屋を飛び出した。怒り狂った彼には、もはや執事や使用人の声すら届かない。


「殺す! 必ず殺してやるぞ、ジュアアァァァァン!!!」


 かくして、夜も更けた大通りを、決闘着の少年が疾走する。どこに行くでもなく、ただ、憎き仇を探し求め、一匹の小さき獣が解き放たれた。


ゴーラスほんと好きなんですよね。狂わせたい。

短いのでもう一本投稿します。

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