好意
私、アミエは今日もパーティーでサミエル様を発見しました。突撃です。はじめこそ嫌がられておりましたが、いつの間にか私に微笑みかけてくれるようになりました。
私も最初こそサミエル様のお顔がお金に見えておりましたが、麗しいお顔、品のあるしぐさ、教養のあるお話にいつの間にか私自身がサミエル様に魅せられておりました。今では目的のためではなく、心からサミエル様のそばにいたいと思うようになっていました。
ただそれだからこそわかることもありました。サミエル様は、わたくしにお優しくダンスやお話もよくしてくださいます。婚約者のモリッシュ様の事は、なんとも思っていないように見えました。
けれど時々サミエル様の視線が、さまよう時があることに気が付きました。そんな時の視線は、いつもモリッシュ様を探しているのです。そしてモリッシュ様のいる場所を確認すると、目が和らぐのです。私にとってそれがすごく不思議でした。不仲と聞いており、サミエル様の態度から見てもモリッシュ様に心を寄せているとはとても思えません。けれど時々見せるサミエル様のお顔を見ると、本当にモリッシュ様の事がお嫌いなのかしらと疑問に思ってしまうのです。
私は一応父を通して公爵夫人にも確認をとりました。やはりサミエル様は、モリッシュ様に冷たいようです。顔を見るのも嫌がるほどに。やはり私の勘違いなのかしらと思い込もうとしました。
なぜなら私にとってその方が都合がいいからです。私は、サミエル様の事を本当に好きになってしまいました。
最近では、パーティーでもいつもダンスを踊っていただきお話もしてくれ私にとってとても楽しい毎日でした。
今日はサミエル様の婚約者であるモリッシュ様の社交界デビューでした。ですが、サミエル様はエスコートだけしてすぐに私のもとにやってきました。
「サミエル様、よろしいんですか?婚約者様といらっしゃらなくて」
「ああ」
サミエル様は、私がモリッシュ様の事を言うと、いやそうな顔をしました。本当にお嫌いになってしまわれたのでしょうか。以前父に聞いたところでは、サミエル様の方からどうしてもということで婚約されたと伺っております。ちらりと婚約者様を見ると、とても寂しそうにしておりました。周りでは、私とサミエル様の方を見てはあれこれといっている者もおります。モリッシュ様の事もずいぶん話のタネにされておいででした。
ただその時の私は、傲慢にもやっぱりサミエル様は私と一緒にいる方が楽しいんだわと、勝手に思ってしまっておりました。ただモリッシュ様の寂しそうなお顔が、どうしても頭の片隅から離れませんでした。
サミエル様と楽しくお話をしていた時です。またサミエル様が何かを探すようなしぐさをしました。そしてある一点に釘づけになっておりました。私も慌ててサミエル様と同じところを見ました。
婚約者のモリッシュ様と今を時めくエドワルド様が、楽しそうにお話しされているところでした。どうやらモリッシュ様はおかえりになる途中だったようです。
ふと見ると、隣にいたはずのサミエル様の姿が見えません。見ると、サミエル様がモリッシュ様の方へ走って行かれておりました。
そしてモリッシュ様は帰られておしまいになり、サミエル様はモリッシュ様に声をかけるわけでもなく呆然と立っておりました。
「モリッシュ様は、エドワルド様と仲がよろしいんですね」
私は、サミエル様に声をかけました。エドワルド様は、サミエル様と並んでとても人気のある方です。しかもエドワルド様には婚約者がおりません。エドワルド様はおモテになるのですが、うまく女性をあしらってしまわれます。ですが先ほどモリッシュ様を見つめるまなざしは、ものすごく優しいものでした。エドワルド様のあんな姿を私は初めて見ました。
その時です。私の中にもしかしたらと思ったことがありました。エドワルド様は子爵家ですが、サミエル様の公爵家をしのぐほどの財産をお持ちです。我が侯爵家に援助を申し入れてきたのは、エドワルド様なのでしょうか。
私がそう考えている間、サミエル様は先ほどの私が言った言葉からエドワルド様の名前をつぶやいておりました。
それからすぐでした。サミエル様がモリッシュ様と婚約破棄をされたのは。そのお話は、私は自分の屋敷で聞きました。私はそれを聞いた時、とても嬉しく思ってしまったのです。そんな私には、やはり罰が当たりました。
「アミエ、聞いたかい?これでサミエル様と婚約できるようになるな。先ほど公爵夫人からも話があった。きっとお前と婚約するために婚約破棄をしたんだといっておられた。お前はどうしたい?」
「そうなのですか。私は、サミエル様をお慕い申し上げております」
しかしサミエル様と私の婚約の話は、進むことはありませんでした。それどころか、サミエル様は自分で婚約破棄をしておきながら、とても後悔されているというのです。
私は、公爵家に招待されてサミエル様のところにお伺いしました。
サミエル様は私の顔を見たくないとばかりに、会うのを拒否されました。まるで私がモリッシュ様の様になったようです。いえ違いました。サミエル様はモリッシュ様の事は、見たくないという態度をとりながら、その実いつも視線を向けていたのです。それほど気になっていたのです。
でも私の事は、視線を向けるどころか、存在さえどうでもいいようでした。
やはりサミエル様は、モリッシュ様の事を愛しておいでだったのです。いつもサミエル様を見ていた私だからこそ余計にわかったのかもしれません。
やはり婚約破棄という人の不幸を願った罰が当たってしまったのです。