一軍淫夢VS二軍淫夢.pawapuro 七回戦
投降するので初失踪です
翌日は市内の観光で一日を潰した。
と言っても最前線都市のドライブルグで見物出来るといえば精々鍛冶屋と道具屋ぐらいだ。
教養を磨くなら首都に行けば良い、強化兵の施術はそもそも秘術。中央と西部の違いとして挙げられるのは武器や防具の思想だろう。
西部は近接武器は昔から大きく変わっていない。しかし中央では頑丈な毛皮や甲殻を持った魔獣が多くそれらを破る為の工夫が目立つ。
仕掛け武器としてノコギリ鉈を愛用している身としても、目立つ点はある。
ノコギリは言うまでも無く頑丈で滑りやすい毛皮にしっかり食い込ませる為の構造であるし、
鉈は先端に返しがついていてそこを起点に頑丈な甲殻を叩き割れる構造だ。
辺境故未知の鉱石も多く、それらを使った合金開発も盛んである。
防具に関しても差は大きい。
西部では生存性の為に金属鎧を採用しているが、中央では金属は好まれない。
第一の理由は身動きの軽快さに直結しているからだ。中央で現れる魔獣の攻撃は一撃が致死性の塊で、受け止める事より避けた方が無難である。
次に装備の金臭さを消すためである。武器は臭い消し出来るが、防具までとなると手間が掛かるからだ。
魔獣と言うのは大抵鼻が良い。狩人自身も鼻が利く為金臭いのは苦手とするものもいる。
それと、魔獣の危険度が高いという事はそれらから得られる素材も良いという事だ。
金属系の限界よりも魔獣素材の革製品の方が身軽で良い装備になる。
中央国家連盟達の対外輸出品目の上位が高位の魔獣素材で埋められているのも納得だ。
武器防具や道具類を四人を連れてワイワイ見漁る。
気分は観光ガイドでやる気もガッツリ下がる一方だが、表には出さない。
こいつらは所詮は余所者、どうせなら良い気分で帰ってもらうのが国にとって一番だろう。
「皆様お楽しみ頂けたでしょうか。人類と魔獣の最前線故文化的趣向は難しいですが、
皆さんに馴染み深い武器防具や小道具は一見の価値はあるかと思います。」
RPG的に言うとこの街はラスボス前の最後の街と言ったところか、やたら周囲の敵が強くて売ってる武器も強力な場所
公王陛下的にはそこでパワーレベリングする権利をあげたという感じだ。
中央地域は西部とはあまり仲が良くないので(対魔獣意識の差)、此方に来れる西部の人間は制限されている。
それだけ今回の彼らは特別という事だ。
「あぁ!凄いな此方の合金で作られた剣は!鉄が簡単に切れるぞ!」
この世界ではヘンリー・ベッセマーに相当する人物はまだいないようで、大量生産の鉄と言えば鋼鉄ではない。硬いが脆いタイプだ。
特殊鋼もまだまだ黎明を迎えていない現状。中央地域の製鉄品は文字通り格が違う。
しかし何度も言うがそれでも魔獣に対して互角が精いっぱいなのが辛い所。
「基本的に武器防具共国外持ち出し厳禁でありますが、皆様には販売許可が下りております。必要になれば購入いただいても構いません」
喜びの声が上がるのは難しくない。
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休息が取れた翌日。私達はドライブルグにおける"普通"の狩場にやってきていた。
今日は狩場の荒れ具合は"普通"。普段通りやれば何の問題も無いだろう。
「なぁ狩人殿」
「なんでしょうかカニンガム卿」
キャンプ地からちょっと先の見渡せる場所では体長20mクラスの大型飛竜達が楽しそうに縄張り争いしている。
縄張り争いに負けた番や個体が大森林の先である村や街を襲うのは分かりきっている事実だ。
「あの竜達が狩りの標的とか、そういう事だったりします?」
「当然です。あんな程度でも竜は竜。火を吐き空飛び人を襲います」
何を分かり切った事を言っているのだろうか、西部地域でも一流所なら殺しているだろうに。
それがたかが10匹くらい集まった程度で怖気づいてもらっては困る。
「いやいやいや、一匹ならともかく纏めて全部とか無理だから!死んじゃうから!」
魔導師のプリムが手を左右に激しく振りながら拒絶の意志を示す。
西部なら大型魔獣相手に一番頑張る魔導師が根を上げてどうするんだ。
我々なんて専業魔導師は正直お荷物だから強化兵なんて人外に頼っているのだぞ。
他の面々の顔を見るとヘイズは明らかに冷や汗をかいているし、エイリーは腰が抜けそうになっている。
前提資料と情報が違うぞ。火竜程度なら殺せるんじゃなかったのか。
「仕方ないですね。私が殆ど殺しておきますから、残った奴だけでも始末してください。それ以上は面倒見れません」
そう言ってキャンプ地から飛び出し、颯爽と森の中を駆けていく。
雑竜とは言え一つも残せない。彼ら用に一匹だけ残して全て殺そう。
ほどなくして竜達の縄張り争いの現場に到着すると、背中に刻まれた強化刻印を起動し手近な羽ばたいている竜に左腕のかぎ縄を投げつけて引っ掛けた。
引っ掛けた縄を支点に力を込めてジャンプし、その火竜の頭部に乗り移る。
私に乗っかられた火竜が素早く反応し振り払おうと暴れ出すが、既に遅い。
頭部を守る鱗の一部をノコギリ鉈で剥がすと、それで出来た頭部の隙間に右腕を叩き込む。
叩き込んだ右腕は、強化刻印によって名剣を超える鋭利さと硬度を持って頭蓋骨を叩き割り、内部の脳髄に致命傷を与えた。
次の瞬間暴れていた火竜が死んだことで墜落し始め、急いで次の竜へとかぎ縄を投げる。
これを繰り返せばこの程度の雑竜共など大した脅威ではない。
抉り出す脳髄の感触が少々楽しい程度だ。
これに愉悦を覚えるあたり、私は前世からのサイコパスでは無かったのではないかと考えてしまう。
元が平和で闘争と殺戮から遠かっただけで、素質自体はあったのではないかと。
まぁ今更考えても仕方のない事だ。
いつ狩りで命を落とすかも分からぬ狩人の身。なら存分に殺戮を楽しもうじゃないか。
所詮人間など多少知恵の回る獣に過ぎない。
群れの殆どをぶち殺し、ヒカセンたちの様子を見に戻れば。残しておいた火竜の一体と戦闘していた。
カニンガムが冷気を纏った剣と盾を振るって火竜の攻撃を引き付け、ヘイズが特大剣で顔面を痛打する事でブレスを封じ、
プリムが全体に指示を出しつつ魔法で翼を破壊し空への逃走を許さず、エイリーがカニンガムとヘイズへの回復と補助魔法を切らさない。
なんだ君ら、やれば出来るじゃないか。
とはいえこれでは一度に相手出来る数が少なすぎる。
格上相手でも安定するだろうが、環境の違いだろうな。
中央では多少無理してでも殲滅を優先し、西部では安定性を取ったというところか。
大木の上で観察していた所から彼らが戦う火竜へとかぎ縄を引っ掛けて飛び移る。
「あっ!?」
全体を見ていたプリムから声が上がるが、もう遅い。
ノコギリ鉈を背中に着けて右腕を火竜のズタズタの顔面に振るう。今度は殺すのではなく気絶させるために。
雄叫びも無い一撃が火竜の顔面にぶち当たる。
そうすると、火竜は意識を失いその場に崩れ落ちるように倒れた。
かぎ縄を左腕に回収しながら倒れた火竜を足蹴に言葉を吐いた。
「皆様の戦いは観察させてもらいました。どうやら数の相手は苦手なご様子、次はもう少し上級の奴を単体で用意いたしましょう」
返り血に塗れつつ丁寧な言葉使いは怖い?知らん、そんなことは私の管轄外だ。
問題があるとしたら余所者を入れた公王陛下だろ。
失踪します