一話 土方の拳OP「岡山を取り戻せ!!」
書きたくなったから書いただけ。
いつまで続くかは知らん!
それは武器と言うより獲物と言う方が正しい。
使い手に食らいつこうと飛び出した四肢の獣が、迎撃の"鋸"で頑丈な毛皮を諸共に肉を裂かれ悲鳴を上げる。
着地の姿勢をなんとか正した獣は、しかし二の次の変形した"鉈"で頭蓋を断ち割られ、自ら流した血の海に沈む。
素早く獣を殺傷した男は全身を革の上着とズボンに厚手の革で作られたグローブ、帽子にコートと徹底して露出が少ない恰好だ。
大陸西部でよくいる冒険者などとは違い、金属製の防護を目的とした装備が見られない。
男が周囲を見渡しながら獲物を変形させてまた"鋸"に戻しつつ、左手に握った銃(中折れ式の水平二連散弾銃だ)を視線と並行させる。
終わらぬ警戒に焦れたのか、狼を凶悪にした姿の魔獣が周囲の茂みから飛び出して来た。合計三体。
飛び出した獣に対して男は素早く銃を二発発砲。
正面と左から飛び出して来た獣が散弾の雨を受けて怯む。
そうして残った一匹へと素早く踏み込んだ男は、獣の喉元へと"鋸"を振った。
勢いよく振られたギザギザの刃と獣の速度が噛み合い、見事に喉元が大きくえぐられ大量に出血する。
男は出血を浴び、素早く銃の再装填を行いながら怯んだ獣達へと反転し、獲物を変形させて"鉈"に変えながら振り下ろした。
再び命中し獣の頭蓋を断ち割る"鉈"。
振り終わりで動きが止まったかと思いきや、今度はまた"鋸"へと変形しながら真横へと振る。
怯みから回復した最後の一頭が血走った眼球に狂気を宿し飛び掛かって来たのだ。恐らく狙いは一撃で命を奪える男の首。
しかしその凶暴な一撃は"鋸"が喰いとめて、銃が頭蓋を撃ち抜く事で止められる。
周囲に倒れ伏すのは無数の魔獣達の死骸。この国では珍しい光景ではない。
大陸中央部に位置する男が所属する国家の名前はルクセンドルフ。
常に未開拓の森林と山岳から襲い来る多種多様な魔獣達に襲われ続ける滅亡寸前の国家なのだ。
男は周囲に魔獣の気配が無い事を確認すると、歩いてその場を立ち去る。
魔獣を始末し帰る先はドライブルク。首都から僅か100kmしか離れていない最前線の街だ。
___
世界は産業革命の時期を迎え、大陸西部では多くの国家が広まる自由主義運動や共産革命、共和制を求める運動でてんやわんやしていた。
そんな大陸の流行とは打って変わって、大陸中央部に位置する国家の多くはそんな物とは無縁である。
何と言っても目の前に自分達を平然と殺しうる凶悪な魔獣達が常日頃襲ってくるのだ。
王族から奴隷に至るまで全ての人類は中央部においては一致団結していないと死ぬ。その考えを共有している。
彼らは産業革命の恩恵を最大限に利用しつつも、如何に魔獣に相対するかにその全てを注ぎ込んでいた。
そして遂には魔術の近代化とでも言うべきブレイクスルーへと至ったのだ。
それが強化兵。魔術を代理演算させる術式を肉体に書き込ませ、人類を遥かに超えるスペックを叩き出す夢のような力である。
知覚力・頭脳・運動性・反射性・筋力・持久力・耐久力・再生力。全てが高まり、魔獣達へ対抗できるようになった。
しかし、強化兵の力をもってしても中央国家連盟達は魔獣と互角止まりだった。
魔獣達は竜種から幻想種に至るまで上限をみればキリが無かったのである。
人類が更なる高みに至るまで、中央の苦闘は続くだろう。
___
ドライブルグの外観はコンクリート壁と城門すぐにある狩人ギルドが特徴的だ。
西方地域では街の入り口近くは大抵冒険者ギルドなどだが、中央地域では狩人ギルドになっている。
冒険者と狩人の違いは大雑把にすると何でも屋か魔獣狩り専門かの違いだろう。
中央地域では狩人の質と量がすなわち生存に直結しているからだ。
そんなドライブルグの門を今通ろうとしている私は24歳、学生です。(大嘘)
しょーもない事でも考えないとやってられない職業狩人でしたー。わーパチパチ。
門衛といつもの様に許可証を確認して通行すると、ドライブルグ内部に入る。
そして一番最初にやる事は門の裏にある専用の水場で全身にこびりついた返り血を落とす事だよ。
糞ですか。お排泄物でございますわよ。糞だった。
これをやらないとギルドの建物に返り血が染みついてお金取られるんだわ。
だから明日を夢見る若者よ、決して狩人なんて目指すなよ。
血糊を落とし終えたらやっとギルドへGO。
既に血が染みついて黒く滲んでいる扉を開けたら、夕刻だからか結構人は集まっていた。
大体の人間は私と同じ強化兵の狩人で、夕飯を食べに来ているのだろう。
ギルド内の内装は結構お金が掛かっていて、電灯で照らされているおかげか明るく調度品の品も良い。
少しでも国家の危機の最前線に立っている狩人たちに報いたいという国からの褒賞らしい。
まずはギルド内を歩いて報告窓口へと赴く。
窓口で書類を貰ったらそれを書き込むために適当な椅子に座る。
受付で借りた万年筆を使い報告書をぱぱっと書いていく。
書く内容は大雑把で構わない。強化兵は国の紐付きだ、しょうもない嘘なんてついたら地獄の狩りマラソンを強制させられる。
高級なふかふか椅子に座りながら足組なんてしちゃって雰囲気出しながら書類を書く。
上等な質の布と革の服装と相まって非常に見てくれだけは良い感じだ。
実態は反吐が出る獣どもと殺し合う人外なんだから酷いもんだ。
で、書き終わった書類は報告窓口でギルド職員に手渡す。
彼ら彼女らは普通の人間だ。それでも人間やめた私達に笑顔で対応してくれるんだからありがたいよね。
「特筆するべき事は無かった」
前世でもそうだったけど、職業上の事はきちんと喋れても、私的な事になると途端に喋れないって感じあるくない?
私はそうだったし、今もそうだよ。
「はい、承りました。・・・内容も問題有りません。お疲れ様です、報酬は口座入金でよろしいですか?」
「それで頼む」
今日喋った言葉はたった三行だわ。
朝の受注の時一行と今の二行で終わり。
やだ・・・私の人間性限界過ぎない!?限界だったわ。
あとは精々食事を頼むときと会計の時の二行ってところか。
生まれ変わっても人生灰色過ぎるんだが。
出会いをクレメンス・・・彩をクレメンス・・・。