ギフトの名は罠 その5
「この階は、狼か・・・」
新しい階層に進むと、景色が変わった。
迷宮の中なのに、森の中にいる。
「迷宮は、ギフトと同じで理不尽な存在だよ」
コハクが言うには、そう言うものとして、受け入れるしかないらしい。
「数が多いというのは、意外と面倒なんだな・・・」
いきなり襲ってきたので、罠の設置が間に合わなかった。これは、完全に油断していた。
「相手が弱くて、良かったね」
「その通りだ」
相手の数は多いけど、弱かった。
最初のゴブリンと、同じくらいの強さだろう。ただ、数が多い。50匹くらいの群れだと思う。
連携もしっかりしているので、中々隙が無い。
「素手で狼を倒せるほど、強くなっていたとは・・・」
魔石を食べる事で、能力は強化される。ゴブリンの魔石でも、密度が高いと引き上げられる能力値は高くなる。
「これで、終るかな?」
戦いながら、少しずつ後退を続けている。移動しながら、敵を正面に誘い込み、背後を木で守り一度に相手をする狼の数を減らす。
「罠発動!」
場所を考えながら構築した罠を、発動する。
木の間に、細い糸が生まれる。それに触れた狼は、その場所から切断される。こちらを取り囲んでいた狼が、あっという間に数を減らす。
「反省は?」
「今からします・・・」
散らばっている魔石を拾いながら、コハクに応える。今回は、狼の毛皮と言うドロップアイテムを1枚だけ拾う事ができた。
「あの狼が、最後のゴブリンと同じ強さだったら、間違いなく死んでいた」
「そうでしょうね。あそこまで強い敵が出るとは、思っていなかったな」
「ここ、初心者迷宮だよね?」
「そうよ。倒した敵の状況で、次の敵の強さが変わる。ダークが簡単に倒しかたら、どんどん敵が強くなった。もっとも、苦戦しても次の敵は弱くならないみたいだよ」
「引き際を、考える必要があるということか・・・」
「どうする?次の階は、今よりも確実に手ごわくなっているよ?」
「まだ、進むよ。今後は、油断しない」
そう、まだ死にたく無い。僕の知りたい答えがこの奥あるのなら、たどり着きたい。
何で、神様は僕に希望のギフトをくれなかったのか。そもそも、人を幸せにするギフトで、何故殺される子がいるのか?
そんな理不尽な子がいるのに、なぜ神様は助けてくれないのか?
それを知るためにも、まだ先の長いこの場所で、立ち止まるのは駄目なんだ。
もっと、色々と工夫をs無ければ行けない。
頭を使い、能力を熟知して、迷宮を進む必要がる。
「コハクは、僕に不足しているは、何だと思う?」
この人形は、知識のギフトを持つ存在が造った存在だ。色々と知っているかもしれない。
「多すぎて、数え切れないよ」
「まず、鍛えたほうが良い事は何だと思う?」
「発想かな?」
「発想?」
「正直、罠の設置が基本的過ぎて面白くない」
「・・・」
「心のどこかで、罠は卑怯者の使うものだって、まだ思っていない?」
その言葉は、図星だった。
心のどこかに、片隅と言うか真ん中で、そう言う気持ちが残っている。
「だから、きっと騎士にさせたかったのね?」
「させる?」
「貴方が騎士を目指せば、罠と言うものを忌避する。恐れたんじゃないのかな?」
「!!」
その言葉に、ようやく理解できた事がある。
何故、5歳の時に種でギフトが判明しているのに、僕に神聖騎士を目指せと言われたのか。
ギフトが適していないなら、別の道を勧めるべきだった。
でも、それをしなかったのは、罠の使い方を固定するためだ。
「罠って、もっと狡猾に運用すれば、もっと恐ろしい武器になると思うよ」
「そうだね、僕もそう思えてきたよ・・・」
この場所で、死ぬかと思った事も大きな出来事だ。
後し穴に落とされて、一度死に掛けたのに、まだ僕は甘かった。
出来る事を、もう一度見直そう。まだきっと、出来る事はたくさんある。
「数は同じか・・・」
次の階層に進む。
真っ先に気配を消して、状況を確認する。気配を消す技術は、騎士団の訓練でもしていたので、それなりに出来ると思う。でも相手は、索敵能力に優れた狼。
少し深めの落とし穴を作成して、その中にもぐりこむ。
特殊な落とし穴で、外から探知するのは困難なものとなっている。ちなみに、上に乗っても罠は作動しない。僕が隠れるためだけに造った罠だ。
この落とし穴は、天井に小さな穴があいている。底から、偵察用の蜘蛛を解き放った。
これは、監視の罠の発展系。蜘蛛の見た景色は、落とし穴の中に作った空間に映し出される。
10匹の蜘蛛が、狼の位置を割り出す。
「人形」
新しい罠を作動させる。狼の視線の先に、人形が出現する。人そっくりの人形は、狼を誘い出し、死地へと誘う。
「切断する糸!」
狼の進む先に、触れると切断される糸を張り巡らせる。
人形を追いかけていた狼は、あっけなくそれに触れて切断され、命を落とす。
後に残るのは、大量の魔石と、狼の毛皮だけ。毎回、1つだけ入手できた。
回想が進むにつれ、狼は強化される。
最高記録は、あっという間に通過した。
軍隊で攻めた連中は、調子に乗って狼を強くしすぎて、引き際を間違えたのだろう。
3階層にわたり、当時の遺品を手に入れる事ができた。底から、色々と推測できる。
最初に、1人脱落した。その人物が、補給を担当していたのだろう。マジックバックの大型のものが残っていた。
中には、色々と使えそうなものが残っていたのはラッキーだったと思う。
次の顔層で、ほとんどのメンバーが死亡したと思われる。生き残った一人が、なぜか撤退せずhに先に進み全滅した。
その結果、強化された狼が世界に解き放たれた。現在地上にいる魔狼と呼ばれているのは、この時の狼の子孫らしい。
その恐ろしい狼よりも、遙かに強力な狼が、次々と消えていく。
色々なパターンの罠を、繰り返し考えて実行していく。
基本的な事は、相手を誘い込む事。少しでも有利になるように工夫する。
それをひたすら考えて、実行する。
何度も繰り返し、200階層を突破した。
中ボスは、魔狼王二匹敵する強さだったと思う。
それが50匹。
人形でおびき寄せ、一網打尽にする。巨大魔石を大量に入手できた。
ここでも、手に入れた毛皮は一つだけ。僕はドロップに関しての運が悪いみたいだ。
中ボスを倒した報酬で、簡易魔道具製作ツールと言うのを手にいいれた。
これは素材を使う事で、色々な装備を造れる希少な道具だ。
熟練の職人が作るものには負けるけど、素材次第で色々と作れる便利な道具だ。初心者の迷宮だから、色々と役に立つものが手に入るのかもしれない。
ただ、まだ先は長い。
戻る必要は無いけど、次になにがあるのか解らない。
「先に進むの?」
「いけると思う?」
「難しいと思うよ」
「何故そう思う?」
「初心者を鍛えると言うなら、次は何だと思う?」
「次か・・・」
最初はゴブリン。戦闘の基礎だと思う。次は狼。数を相手にする練習になった。
「魔法かな?」
ここまで、魔法を使う敵はいなかった」
「私もそう思う」
魔法使いを相手にするなら、普通なら難しい。
「ギフトの理不尽さを、体験できるだろうな・・・」
先の事を考える。なんでもありのギフトの存在。
僕は、覚悟を決めて、次の階層へと進むのだった。
迷宮は、後2か3話で終る予定。
1週間に1か2回の更新予定です。