ギフトの名は罠 その2
「さすがは聖剣・・・」
足元には、魔物の死体。迷宮に入って最初に出会った魔物は、ゴブリンだった。
ゴブリンは、地上のいたるところに生息している。繁殖力が強く、特殊な固体もいて、国が滅んだ事もある。
今いる迷宮は、難易度の高い場所だと思うから、恐ろしい相手がいると思っていたけど、ゴブリンなら何とかなる。
入り口で拾った武器の中に、聖剣と呼ばれる武器があった。迷宮で死んだ人は、迷宮に吸収されて消えてしまう。その人の持ち物は、めぐりめぐって、宝箱に入ると言われている。不思議な事に、元のものよりも、性能が良くなることもあるらしい。
これを利用して、武器をわざと迷宮に置いた人もいるらしいけど、その場合劣化する。迷宮で、魔物を倒さないと駄目だと言うのが、粉の世界の常識だった。
僕が手に入れたのは、聖剣”断罪”。神聖騎士団の、エリートが使う量産型の聖剣。迷宮に吸収されないで、穴に落ちていたのは、少しおかしいけど、同じような武器が山のようにあったので、あの場所は特殊な場所だったのかもしれない。
断罪は、切れ味を強化して斬る事に特化した剣だった。
聖騎士になるための訓練で、毎日素振りをしていたから、少し大きいけど何とか使う事ができた。
罠を使わないでも、僕はゴブリンを倒す事ができる。
「この調子で、先に進もう」
迷宮は、一本道だ。迷う事もない。最初と同じように、ゴブリンが、さ迷っている。
「こんなに、簡単でいいのかな?」
迷宮をかなり進んだと思う。出てくるのは、ゴブリンだけ。毎回一匹だけでさ迷っている。
気づかれないように接近して、一撃で斬り捨てる。魔物は、死ぬと魔石を残して消える。
たまに、ドロップと呼ばれるアイテム残すけど、それはまだ無い。
魔石だけ、8個手元にある。順調だと思うけど、急に不安になった。だけど、理由がわからない。
「少し、休んだほうがいいのかな?」
話し相手がいないと言うのは、辛い事だと知った。誰もいない場所、不安な気持ち。正直に、怖いと言う感情が湧き上がる。
不気味な感情を抑えながら、迷宮を進む。
迷宮と言うのは、不思議な場所だった。
人を強くするための存在と、聖騎士団の人は言っていた。
悪魔の、産まれる場所だと、教会の神父さんは言っていた。
中は魔物で溢れ、危険な罠も多数存在する。少しのミスで、簡単に人は死ぬ。
その反面、魔物を倒せば魔石が手に入り、それを使えば人は強くなる。
不思議な道具が溢れていて、生きて帰ってきたものに、莫大な恩恵を与える場所。
それが、迷宮。
「これで、15個・・・」
迷宮は、変化していない。ただ、まっすぐ進んでいる。
この魔石というものは、食べると力になる不思議な存在だった。空腹も回復でき、迷宮に篭っていても生延びられると言う、不思議なものだった。
地上の魔物には無い、迷宮だけの特別なもの。魔道具の燃料にもなるので、半分だけ食べてみる事にした。
魔石を食べるのは、はじめてだから少し緊張する。
「甘い・・・のと辛いのがある?」
魔石は、それぞれ別の味がした。同じ魔物から取れる魔石の味は、同じと聞いている。
「もしかして、僕は勘違いをしていた?」
同じゴブリンだと思っていたのは、全部違う種類だったのかもしれない。鑑定と言う能力が世の中にあるみたいだけど、僕はそれを持っていない。スキルと呼ばれるものは、魔石を食べると得られる事があるらしい。
6個の魔石を食べたけど、スキルと言うのは得られていない。
「もしかして、道も違う?」
ここまでまっすぐ一本道だと思っていたけど、違うのかもしれない。
迷宮の中は、まやかしがあり、慎重に進まなければならないと、教えてもらったはずなのに僕はそれが出来ていなかった。
大きな間違いをしてしまった。
このミスは、致命的かもしれない。
迷宮で、位置を把握できない。
言葉に出来ない不安が、再び襲ってくる、
「はじめて入る迷宮で、場所がわからないなんて、当たり前だ・・・」
その分、危険が高くなる。迷宮探索は、情報が大切だ。色々な日が協力して、人が強くなるための方法を積み重ねている。
それを、色々と教わったはずだ。それを思い出さないといけない。
「簡単に勝てたから、調子に乗ってしまっただけだ・・・」
戦いは冷静に。神聖騎士団になるための訓練は、無駄じゃないはずだ。
初級魔法の、魔法の矢を放つ。
訓練すれば、誰でも簡単な魔法は使えるようになる。僕は魔力が多いほうなので、その方面でも期待されていた。
初級魔法は、色々と教わっていた。
魔法の矢はまっすぐ進み、20メートル先で地面に当たる。そう言う設定で、使ったので問題ない。
迷宮の壁から、1メートルはなれた場所で、まっすぐ使う。もし、迷宮が気づかれないようにカーブしていた場合、魔法はずれる筈だった。
確認すると、壁から1メートルの場所に跡がある。迷宮は、まっすぐ伸びている。
次に、魔物の確認。
同じような距離は進むと、ゴブリンがいる。
今までは、とにかく倒す事を考えていて、観察がおろそかだった。
気づかれない距離から、相手を確認する。最初のゴブリンと比べて、違いが無いか思い出す。
大きさは、変わらないと思う。
「何で気づかなかったんだろう?」
ただ、装備しているものが最初を違いすぎる。目の前のゴブリンは、そこそこ立派な剣を装備していた。
体も、革製と思われる鎧を装備している。最初のゴブリンは、ぼろきれだったと思う。
「でも、この程度なら!」
一気に接近して、真っ二つに斬り裂く。魔石を食べた影響で、身体能力が上がったので、問題なく倒す事が出来た。
魔石も、微妙に大きい気がする。
魔石が大きいと言う事は、その分強いと言う事。普通のゴブリンではなく、上位種だったのかもしれない。
このまま、まっすぐ進めば、次のゴブリンがいる。
その前に、迷宮の通路を確認する。
20メートル先に、魔法の矢を放つ。
確認すると、同じようにまっぐ通路が続いていた。
「あれ?」
そう言えば、先しか確認していない事を思い出す。後ろを振り返り、ゴブリンを倒した所まで戻ってみる。
「無い・・・」
通路を戻ってみると、魔法の跡が無い。ゴブリンを殺した場所も、分らなくなっている。
「何で?」
前に魔法の矢を放つ。そして後ろに矢を放つ。地面は、魔法の矢の跡が残る。
今使った分の、確認は出来る、でも、その前の跡が無い。
「何で!」
次のゴブリンを見つけて倒す。
前に矢を放って、確認する。そして後ろを振り返ると、さっきまであった、矢の跡が消えている。
「何で?」
この迷宮は、前にしか進めないのだろうか?
再び、言葉に出来ない不安が押し寄せてくる。
どうすればいい?
僕には、何が出来る?
僕に出来ること、使わなければ辿る結末。
「人を幸せにするために存在する力」
神様は、そう言っているらしい。
出来れば、使いたくなかった。
僕の道を変えてしまった存在。
「ギフト、展開。ラッピング開封」
初めてギフトを使う時、封印を開くと言う。色々な情報が、流れ込んでくる。
強制的に教えられた事が、一つになって広がっていく。
「幸せに、なれるかな・・・」
そのための力。
正しく使えるのか、確認しながら、僕は迷宮の奥へと向かうのだった。
集に1,2回の更新予定です。