第8話 当選
オーガの襲撃による全滅の危機からは脱したものの、こちらにまったく被害がなかったわけではなかった。
町のいたるところは破壊されてるし、最初オーガ達から俺達を守ろうと戦ってくれた獣人さんの何人かは命を落としてしまった。
ブックで死んでしまった人たちを助けることができるかを聞いたけれど、結果は否、だった。
死んでしまったらもう戻ってはこられない。
どんなに人間以外の種族が存在して、魔法が使えるような世界だったとしても、これだけは前の世界と同じことなんだ。
大事な家族が、恋人が、親友が、亡くなってもう会えないのだと涙する皆を見て思った。
もう皆がこんな風に悲しい思いをしないように、皆を守れるようになりたいって。
それだけの力が今の俺にはあるんだって。
「皆聞いてほしい」
皆の視線が集まる。
この人たちに今の俺の思いを伝えるんだ。
「俺はまだ皆のことをよく知らないし、1週間しか関わりを持ってない。でも、今回こんなことがあって俺思ったんだ。皆に悲しんでほしくないって、皆のことを守りたいって」
こんな子供が何を言ってるんだって思うかもしれないけど、それが今の俺の素直な気持ちなんだ。
俺はもう部外者でいたくない。
「俺に皆を守らせてほしい」
俺の言葉でしんと静まり返る。
皆がどう思っているかはわからないけど、俺は伝えたいことは伝えた。
「人の子よ」
皆を代表するようにブラッドさんが前に出る。
皆を守ろうと命懸けで戦ってくれた人。
「改めて名を聞こう、人の子よ」
「大和 太一です」
「ヤマト、タイチ・・タイチが名だな。ではタイチよ」
名前を言われ、俺の前までやってくるブラッドさん。
目の前に立たれるとその大きさが伝わってくる。
「我の名はブラッド。ブラッド・オルグレン。代々王に仕え、その御身をお守りしてきたオルグレン家が嫡子。この度の戦、貴殿の助力がなければここの者たちは皆命を落としていただろう。まずは礼を言おう」
ブラッドさんが俺なんかに頭を下げた!?
「我は王となり皆を守ると誓った。しかし我一人の力では皆を守ることはできぬ。貴殿がここにいる者達を守りたいと願う気持ちは我も同じ。ならば・・」
見上げていたはずの顔が下に来た。
え、俺ブラッドさんに跪かれてる!?
「貴殿には守る力がある。貴殿が王となりこの国を守ると誓うならば、我は貴殿の側近となり共に守ろう」
つまり、俺に王様になる覚悟があるのならこの国のために一緒に頑張ってくれると、そういうことですね?
それはなんて心強い!
「俺、この国のために頑張ります!前の王様がこの国に平和をもたらしたように、この国のためにやれることをやります!そのためにブラッドさん、ご協力お願いします!」
「もちろんだ、我らが王よ」
気が付けばブラッドさんだけじゃなく、他の獣人さんも俺に対して跪いてくれていた。
この瞬間俺はこの国の王として認められたんだ。
「俺はまだまだ王様としての力量はないし、皆の力を借りると思う。その時は、よろしくお願いします!」
俺に対して拍手と歓声が沸く。
この世界に来て初めて受け入れられた。
前世で委員長に決まった時に受けた拍手と同じような気持ちよさだ。
俺はこの国の王様になれた、そう実感した。