第7話 ブック
声が頭の中に響いたと同時に、目の前まで迫ってた刃が止まった。
いや、刃だけじゃない。俺以外のすべてが動きを止めている。
「何これ?」
「少しだけ時間をとめたの」
「っ!あれ、この声神様?っていつの間に!?」
すぐ後ろから声が聞こえたかと思えば1週間ぶりの神様だ。
「どうしてここに?」
「せっかく友達が作ったこの国のために君を送ったのに、こんなに早く死んで、しかもこの国がなくなるなんてと思ってきてあげたの。本当ならこっちに干渉はしてはいけないのだけれどもね。今回だけ特別」
「つまり助けにきてくれたんですね!このオーガたちを何とかしてくれるんですね!」
「だから私はこっちに干渉してはいけないと言っているでしょう」
「じゃあ何しに来たの?」
「君、私が言ったこと忘れているでしょう?」
言ったこと?何か言われたっけ?
「ほら忘れてる。君がここに来る直前に言ったでしょう?もし困ったことがあればある言葉を言いなさいって」
言葉?言われたような言われてないような・・うん、全然覚えてない。
「はあ、大丈夫かな。じゃあもう一度教えてあげる。今度はちゃんと覚えておくのだよ?」
「はーい」
「まず片手を前にだして」
片手を前にだして・・。
「こう言うの。“ブック”と」
「ブック?」
とつぶやいた瞬間、目の前が光った。
光の中から何かが浮かび上がってくる。
これは、本?分厚い本?
「何これ?」
「君が知りたいこと、やりたいこと、それを教えてくれるもの。現実のものにしてくれるもの。簡単にいうと攻略本みたいなものよ」
「攻略本?それってゲームとかの?」
「そう。例えばそうね、そこの瀕死の彼」
指さした先には血だらけで倒れてるブラッドさん。
「瀕死・・ってことはまだ生きてるの!?」
「あと少しすれば死んでしまうけれども。助けたいでしょう?」
「もちろん!!どうすればいいの!?」
「そのどうすればいいのかっていうのを、その本に聞けばいい。思うだけでもいいけれど」
本に聞く?思うだけでもいい?
じゃあえっと、ブラッドさんを助ける方法を教えてください!
おお!本が光りだした!そして文字が浮かび上がってくる。
《治癒》
「治癒?」
本に出てきた文字をつぶやいた途端ブラッドさんの身体が光りだした。
俺何かしちゃったの!?
と焦ったけれど、光が治まった後にはあんなに血だらけだったブラッドさんが無傷の状態で横になってた。
「ど、どいういこと!?」
「これはこの世界での回復魔法」
「回復魔法?俺魔法使えたの?俺すげえ!」
「その本を通して魔法が出たのよ。だからその本がない状態だと君は魔法使えないの」
なんだ俺が魔法使えるようになったわけじゃないのか。
でもこの本があれば魔法が使えるってことは結局俺は魔法使いになれたのと同じなのでは?やっぱ俺すげえ!
「今みたいに、君が彼を助けたいがどうすればいいかと聞けば、その本はその方法を示した」
「攻略本っていうよりスマホみたいだね」
「スマホより優秀よ。今現在最善の方法を示してくれるもの」
なんと便利な本なんだ。
これさえあればなんでもできるんじゃね?
「ちなみに実際に存在する物(者)は出せないから注意するのよ」
というと、食べ物とか生き物とかそういったのを出すことはできないってことか。
「他にもいろいろとルールはあるけれど、それはおいおい自分で試してみてね」
「うん、教えに来てくれてありがとう」
「あのままだと見てられなかったしね。せっかくこんな便利な力も与えて、前世の年齢姿のまま転生させるっていうオプションまでつけたのにあそこで終わったら意味ないもの。さて、そろそろ時間を元にもどすのよ。頑張ってね」
「おっけー任せて!」
神様ほんとありがとう!
こんな便利な力があったんならもっと早く言ってほしかったけど(まあ最初に言ってたんだけどね)
神様が光って消えたと思ったら時間が動き出した。
オーガが振り下ろしてた刃は俺がいなくなったから地面に刺さり、そこにいたはずの俺がいないからオーガも獣人の皆も驚いている。
「なんだあ?ガキ、お前なんでそっちにいる?」
「いろいろあったんだよ」
そのいろいろのおかげで俺はこの状況を打破する力を得たんだぜ。
ふっふっふ、なんて笑ってたら胡散臭そうな目で見てくるオーガたち。
ならば見せてあげようじゃないか!
「さっき撤退しなかったことを後悔するがいい!まずは治癒!」
ケガをした獣人さんたちがみるみる回復していく。
一体何事だとオーガも治された獣人さんも驚いている。
「あなた魔法つかえたんですか!?」
「ついさっきね、土壇場の奇跡ってやつ?」
「魔法が使えるなんて厄介だが、お前さえ殺りゃあこっちの勝ちだ!行け!」
う、うわあ!オーガたちが俺めがけて一斉に走ってくる!!
えっと、どうしよう・・!
《壁》
「また文字がでた!えっと、壁!!」
俺の前に光の壁が現れた!これはバリアか!
オーガ達が壁を殴ったり武器をたたきつけたりしてるけど全然割れない。
相手からの攻撃は防げてるけどこのまま防御だけじゃ状況はかわんないな。
さて、どうするか・・なんて考えてたら後ろから誰か服引っ張ってる?
誰だろと思ってたらエイダだった。
必死そうな目で服引っ張ってる、何事?
「どうしたのエイダ」
「兄様を、兄様をお救い下さい!」
ブラッドさんならさっき瀕死の状態だったのを回復させたはず・・あ、あそこに置いてきぼりだった。
オーガ達は俺を仕留めるために必死でブラッドさんには目もくれないけど、いつブラッドさんのところ行くかわからないしね。
でもあそこまで行くの危険だよね、どうしよう?
《転移》
「なるほど!転移」
ブラッドさんが一瞬で消えて気が付けばエイダの隣に来てた。
「兄様!兄様しっかりしてください!」
ゆさゆさゆさゆさ、そんな揺らさないほうがいいんじゃ・・。
なんて思ってたらその揺れで気が付いたのかブラッドさん目開けた。
「・・エイダ?我は、死んだのではないのか?」
「生きております!彼が兄様のケガを治してくれたのです!」
「彼・・?」
目があっちゃった。とりあえず笑っておこう。
あ、変な者見る目で見られちゃった。
「嘘をつくな、援軍でも来てくれたのか?」
「うそではありません、彼は魔法が使えたようなのです」
「魔法?こんな人の子が?」
使えるようになったのはついさっきですけどね。
それもこの本がなければ使えませんけどね。
「傷が癒えている、これもお前が?」
「はい、生きててよかったです」
瀕死だったけど、生きててよかったよ。
死んだ人をよみがえらせることができるかは知らないけど。
「そうか・・すまない、助けてもらったようだな」
あの俺に対して冷えた目しか向けてこなかったブラッドさんが、すまない、だと?
雨でも降るのか!?
「我らも傷を癒していただきました!」
「これでまた戦えます!」
さっき傷治した獣人さんたちがブラッドさんの元に集まっていく。
って、また戦いに行く気ですかこの人たち!
「我も回復した、さっきは深手を負わされたが今度はそうはいかぬ。行くぞ!」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!また戦いにいくんですか!?」
「そうだ、このままオーガを放っておくわけにいかぬ」
確かに今は壁でしきって攻撃が来ないようにしてるけど、防御だけじゃ埒あかないしな。
でもまた行ったところで戦力が違う。
あっちが10ならこっちは5だ。
そんなんじゃまた傷を負わされて終わりだろ!
「お前は民を守っていてほしい」
「それはもちろん守りますけど!」
ああ行ってしまう!
オーガ達も迎え撃つ気らしくて武器構えだしちゃったし!
こんなときどうすれば!?
《獣人に向け補助魔法(体力強化、攻撃強化、スピード強化)》
「補助、魔法?ってなんだかわかんないけど、とにかく補助魔法!!」
呪文唱えた途端ブラッドさん率いる獣人さんたちの身体が光った。
「力が・・!」
「これも魔法なのか?」
「・・感謝する。皆、散れ!」
ブラッドさんの一声で獣人さんがすごい速さで走っていく。
散り散りになりオーガの中に突っ込んでいった。
「何度来ても同じよ!」
向かってきた獣人さんたちに武器が振り落とされる。
ハラハラしてみてたんだけど、なんか一瞬のうちに獣人さんが移動してオーガの後ろに回り込んで長くなった爪でひっかいた!
次々と倒れてくオーガ達。獣人さんたち強い強い!
あっという間にたくさんいたオーガ達が少なくなっていく。
「くそお、撤退だ!!」
部が悪いと思ったのか残ったオーガ達が逃げていく。
勝った、勝ったんだ!
あんな怖い鬼に勝ったんだ!
「よかったあ!」
こうして、あわや全滅か思われたオーガによる襲撃事件は終わったのだ。