第5話 選挙
時間がたつのは早いものだ。
気が付けばあっという間に約束の日になってしまった。
この一週間俺が何をしていたかというと、それは町民とのコミュニケーションだ。
俺が王様になるには選挙で勝たねばならない。
しかし町民から不信感しか抱かれていない俺が選挙で勝つのは難しい。
そこで!あからさまに警戒心をあらわにする皆さんに少しでも打ち解けてもらおうと、片っ端から話しかけてた、のだが・・。
結果は・・うん・・。
会話を交わすどころか目も合わせてもらえませんでした。
1週間もおはようからおやすみまで声かけまくったのにだよ!?
ここの獣人さんどんだけ警戒心強いの!?
プラス思考で有名な俺もさすがにへこんだよね。
絶望に近い状況のままこの日に来てしまいましたが・・ほんとどうしようか。
一応俺なりに口約を考えてはみたけど、勝てる確率は限りなく0に近い。
「18年間生きてきて、俺は初めて委員長を逃すのか・・」
いや、委員長じゃないんだけどさ。
それに1回死んでるんだけどさ。
そしてこんなこと考えてる場合じゃないんだけどさ。
「ごめんよ神様、俺は王様に慣れないかもしれない」
「何を言ってるの?」
あからさまに変人を見るような目で見ないでくださいエイダさん。
「あなたの言っていた選、挙?というものを行いますよ」
「うん今行きます」
ついにこの時が来てしまったあ。
ブラッドさんが町の人たち集めて会場はセッティング完了。
「兄様が最初にお話しをしてくれます。そしたら次はあなたなのですから準備しててくださいね」
エイダもずらっと並んだ町民のところに行っちゃった。
で、前に立つのは俺とブラッドさん。
皆の視線を集めるのは好きだったんだけど、この状況だと今まで感じたことがないプレッシャーだ。
「降りるなら今だぞ」
「王様をってことだったら、俺はおりませんよ」
「このような場など無意味だろう。貴様の負けは決まってるというのに」
「まだ選挙は終わってないんで。最後まで結果はわかりませんよ」
とはいっても、ほんとどうしよう。
せめて弱気を見せないようにはしてるけど。
「では私から行く。そこで見ていろ」
ブラッドさん、もう自分が勝者だといわんばかりに堂々とした態度で前に出てった。
そして沸く歓声。
そして空気になる俺。
ブラッド様、ブラッド様と声をあげる民達を手で制するだけで静かにさせちゃった。
なんとカッコいい姿、まさに理想の王様って感じ。
「聞け同胞たちよ!我らの主、我らの国王たるあのお方が崩御された後、統べる者がおらず皆がどれほど不安を覚えていたことか。しかし、もう安心するがよい!今日より我が皆の代表となろう!あのお方が作ってくださったこの国を、あのお方が愛してくれたこの国の民を、我が命を懸けて守ると誓おう!」
『うおおおおお!!!』
『ブラッド様万歳!!ブラッド様万歳!!』
うわあ、最初以上の歓声。
そして完全に空気になった俺。
え、この次に俺が行くの?ほんとに?まじかー。
「次は貴様の番だ」
「わかってるよ」
さて行ってきますか。
こんなにアンフェアな選挙は初めてだけど。
でも今までだってやってきたことだ。
いつも通り、やればいい。
「よし!」
俺が前に出ても当たり前だけど歓声はなし。
結果は決まってるも同然。
だけど、何もやらずに終わるよりは何かしら抵抗して終わったほうがいい。
それでもだめだったら、許してよね神様。
「ごほん、えー、この度この国の王様に立候補させていただきました大和太一です!俺はこの国を・・」
「大変です!!」
ちょっと!今話してる途中でしょうが!
「どうした」
「オーガの集団がここへ向かってきております!!」
「オーガだと!?」
なんだなんだ?なんかざわざわしてきたけど。
「王の守護はどうした!」
「それが、オーガにより破壊され、綻びより次々と領地内へと・・」
「今まで一度も破られたことがないのにか!?いったいなぜ・・まさか、王が崩御されたことで守護の力が弱まった・・?」
さっきからオーガとか王の守護とか、俺にはよくわかんないけどとにかくやばいってことはわかった。
町の人たちが尋常じゃないほどに怯えてるのがその証拠だ。
「王の守護がなくなったんじゃこの国は終わりだ!!」
「オーガになんて勝てるはずがない!!」
「皆落ち着け!!戦える者はここへ!女と子供と老いた者達を優先し避難させよ!」
ブラッドさんの一声で皆が動き出してる。
若い男の獣人さんたちを中心にこの場に残り、避難のために他の獣人さんたちは逃げていく。
「何ぼーっとしてるんですか!あなたも逃げますよ!」
「え?」
「え、じゃないです!逃げないと死にますよ!」
死ぬ!?
いったい何がどうなってるんだ!?
なんかわからないけど逃げなきゃいけないらしい。
「エイダ、そっちは頼む」
「兄様、お気をつけて」
ブラッドさんが獣人さんたちを率いてどこかに向かっていく。
「皆どこに行ってるの」
「オーガと戦いにいくのです。前王様がはってくださった結界の力が弱まってしまったようです。オーガはそこをついて・・オーガとの戦力は互角、しかし集団で襲ってきたとなると・・」
「じゃあやばいじゃん!」
「大変だから逃げるのです!あなたも行きますよ!」
「俺達もやばいけどブラッドさんたちもやばいってことでしょ!?」
「私たちが行ったところで戦力にはなりません!できるのは、兄様たちの邪魔にならぬよう逃げるだけです!」
確かに、行ったところで平和な国で育った俺に戦う術はない。
逃げるしかない。
力のない俺にはそれしかできない。