第4話 知らなきゃ何も始まらない
町のはずれにある誰も住んでないボロ屋、そこが俺の今のところの拠点だ。
隙間風とかめちゃくちゃ入るけど家を用意してくれただけでもありがたい。
「入りますよ。ご飯持ってきたので食べてください」
「うん、ありがとう」
それにこの1週間はご飯もいただけるらしい、感謝感謝。
あ、この子、俺が王様になるチャンスをくれたこの子の名前はエイダっていうんだって。
歳は生前の俺と同じくらい。
こんな得体のしれない俺の世話をしてくれるんだから面倒見がいいんだろうな。
ちなみに、もう一人の王様立候補者の男の人の妹さんなんだって。
そのお兄さんはというとブラッドさんというらしい。
よく大事な妹さんを俺に近づかせたなあと思ったら、俺みたいなひ弱な人間の子供なら女のエイダでも余裕で一ひねりらしいよ。
さすが獣人、それに対して俺は否定できないけど。
「ねえエイダ、もしよければなんだけどこの町を案内してほしいんだ」
「私がですか?」
「ダメ、かな?ダメだよね・・」
「まあ、少しだけならいいですけど」
「ほんと!ありがとう!」
「あなたの監視を兄様より任されていますから。あなたのためじゃないですよ」
「うんうん、それでもいいよ!」
本人は嫌々だろうけど俺はありがたく、エイダに案内されながら町の中を歩き回ってみる。
町の人からの反応は、まあ予想通り腫物扱いだよね。
遠目でこっちを見ては目をそらすって感じ、仕方ないか。
「ここの家屋は全部木でできてるんだね」
「昔は藁や草を使ったものが主流だったそうです。でも、前国王様がこの町に来てくれたおかげで、こんな立派な家が建つようになったと。それだけじゃなく、井戸を掘り水を手軽に確保できるようにしたり、食べ物の調理方法まで教えていただいたんだとか。この町の発展は、あの方なしにはありえませんでした」
すっごい目がきらきらしてる。
前の国王様のことほんとに誇りに思ってるんだな。
エイダだけじゃなく、この町の人たち全員がそう思ってることだろう。
そりゃ、立派な国王様の後を継ぐのがこんな子供なら不安になるに違いない。
「ここは獣人の人たち以外はいないの?」
「基本的に他の種族の者は立ち入りを禁じています。我々は身体能力こそ高いですが、他の種族と比べて圧倒的に劣るものがあります」
「劣るもの?」
「魔法が使えないのです。だから他の種族の者が大群で攻めてきた場合、私たちに勝ち目はないのです。だから前国王様は多種族の長に掛け合い不可侵条約を結ばれた。さらに、自らの力をもってこの町周囲に防御壁を張り、争いから私たちを守ってくださったのです」
なるほどね。
獣人がいるぐらいだから魔法もありですか。
それに前の王様も魔法が使えて町の外にバリアはって敵の侵入を防いでいたと。
俗にいう鎖国状態なわけだ。
町を一回りしてきたけど、村っていうほど小さくはないがこじんまりとした町だと思う。
町の中に畑とかもあって、肉類は狩りで得る、まさに自給自足。
電気もガスもなくて、明かりも料理も火を使っているらしい。
うん、一昔前の生活って感じ。
「最後に、ここが前国王様の住居です。崩御なされた国王様が、まだ中にいらっしゃいます」
「え!?まだここにいるの!?」
「次の王が決まるまでは燃やさないでくれと、そうあの方が・・」
ここにまだ前国王がいるのか。
自分の治めてきた国を継ぎ人が決まるまで、ここにいたいってことなのかな。
王様、ほんとにこの国が好きだったんだ。
「ねえ、前の王様にあってもいい?」
「そこに近づいてはならぬ!!」
うわっ、びっくりした!
後ろから殺気混じりの怒号、この声はもう一人の立候補者の、
「なぜこの者をここに近づけた、エイダ」
「申し訳ありません、兄様」
やっぱりブラッドさんか、相当怒ってらっしゃる。
「すいません、俺が町を案内してくれってお願いしたんです」
「町を見るのは許す。だが、ここに近づくのだけは許さぬ。あのお方に何かしでかすかもしれんからな」
「そんなことはしませんけど、でも、そういうことなら近づきません」
大切な人に危ない人間を近づかせたくないってのはわかるし。
無理に押し入ってさらに警戒されても困るしね。
「でも今少しだけ、ここから拝むことは許してください」
死んでしまった王様、同じ人間だったという王様。
あなたの友達っていう神様に頼まれてここまで来ました。
今のままだと、あなたの後を継げるかはわかりませんが精一杯頑張ります。
ここで見ていてください。
「・・よし!エイダ、ここまで案内してくれてありがとうな!あとは俺一人で大丈夫だからさ」
「・・そうですか、わかりました」
「ブラッドさん、俺負けませんから!」
前の王様に負けないぐらい、立派な王様になってやるんだから。
そのためにはまず、ブラッドさんに勝たなくちゃ。
「せいぜい頑張るんだな」
ブラッドさんは余裕そうだけど、負けてたまるか!