第1話 こうして俺は転生した
あったかいなあ。
さっきまで死ぬほど冷たかったのが嘘みたいだ。
まあ死んだんだけども・・・いや、待てよ?
もしかして奇跡が起こって命が助かって病院のベッドにいるのでは?
だからこんなにあったかいのでは?
俺は助かったんだー!
・・・と、思っていた時もありましたよ。
目を開けた先が一面の花畑で目の前にでっかい神殿がなければね。
仮に助かったとしても重症の身体をどことも知らない花畑の中に放り出すわけもなく、つまりは俺は死んでいわゆる天国という場所にいるのだと思うしかないでしょう。
はあ、やっぱり死んだのか・・・気分が沈むわあ。
あの運転手ほんと許さないぞ・・・不幸にみまわれろ!
まあ、歩行者側が赤信号だったんだから飛び出した俺の自業自得なんだけど、恨まなきゃやってられねーよ。
「はあ・・・」
「そんなにため息をつかないでおくれよ」
「ため息もでるよそりゃ・・・誰?」
普通に返しちゃったけど誰だ?
俺と同じ死んだ人間か?と思いきやおやおや?
「あれ、きみどこかで会ったことあったっけ?」
「うん、さっきね」
「さっき・・・あ!!」
このおかっぱ頭で目がくりっくりな女の子は、忘れもしない俺が死ぬ原因になった女の子ではないか!
「君さっきの!え、君もここにいるってことは君も死んじゃったの!?せっかく俺が死んでまで助けてあげたのに!?そんなあ!これじゃ死に損じゃないか!」
「ちょっとちょっと、さらに落ち込まないでおくれよ。私は死んではいないんだからさ」
「じゃあなんでここにいるのさ。ここは天国なんでしょ?」
「まああながち間違いではないね。人間が天国といっている場所で合っていると思うよ。君は死んでここに来たけれども、私はもとからここの住人なんだから死んではいないのさ」
頭にハテナがいっぱいだ。
ここの住人とはいったい?
「私は、人間でいうところの神様だよ。でも地球の神様ではないけれどもね」
神様ってあの偉い神様?それでもって地球の神様ではない?
さらに頭にハテナがいっぱいだ。
「実はね、私は別の世界の神様なのよ。訳あって地球に遠征に来ていたんだけれども、申し訳ないことに君を死なせてしまったようだね」
「訳あって?」
「まあ話すと長いのだけれどもね。でも君が死んでくれたおかげで、私の用事は果たされるかもしれないのよ」
俺が死んでくれたおかげでってなんか嫌だなあ。
「単刀直入に言うと、君に王様になってほしいのよ」
「・・・王様?」
神様が言うには、神様が治める別の世界にあるひとつの国の王様が死んだらしい。
その王様と友達だった神様は王様の願いである国の平和のために次の王様に相応しい人を探してたんだとか。
でも自分の世界の住人の中には相応しいと思える者がおらず、遥々別の世界にわたってまで次の王様候補を探してたんだそうだ。
地球もそのひとつで、そろそろ次の世界に探しに行こうかとしていた時にあの交通事故だ。
俺は死んで、別世界の人間死なせちゃったと焦った神様は、地球の神様と交渉して俺の輪廻転生のサイクルを一時的にストップさせているらしい。
それでいまここに至るわけだが。
「こっちの神に交渉に行くついでにね、君の人生も見させてもらったのよ。そしたらあの子にそっくり。あの子の後を継ぐには君しかないと思ってね」
「後を継ぐって俺が王様になるってことでしょ?いや無理です困ります!俺王様なんて器じゃないですから!一般的な高校3年生男児ですよ!」
「君には他にはないものがあるのよ」
他にないもの?
俺がもってる特別なもの・・成績はまあ上の下ぐらいだったし、運動もそこそこできてたほうだけども。
「12年間も学級委員長をやっていたという変態じみた実績よ」
それかーい!
まあ周りの奴らにもおかしいおかしい言われてたけども!
「無能な人間がトップに立てばその組織は崩壊する。けど、君がトップだったその組織は、まとまりのあるいい組織になったと君の人生を見ていて思ったのよ」
「まあ確かに、体育祭で優勝したり合唱コンクールで優勝したりしたことが多かったけど、それが王様と関係あるの?」
「大ありなのよ。あの子も私の世界に来る前は上に立つ人間だった。どうして人の上に立つ立場になるのか聞いたらこう言ったわ。“カッコいいからだ”とね」
カッコいいから・・・俺と全く同じ理由じゃないか。
「そんなあの子が王様になってからあの国は豊かになったのよ。争いもなく平和な国にね。あの子は口だけじゃなく、国王としてなくてはならないものを持っていた。それが、君も持っている《リーダーシップ》というもの」
リーダーシップかあ。
俺にあるのかそんなものが。
「自分にそんなものがあるのか疑ってるのね。でもあるのよ、君には。私が言うんだから間違いない」
「・・・でも、それがあるにしたって俺に王様は無理だよ」
王様ってあれだろ?
何千何万の国民と国を治めるんだろ?
俺には無理無理。
「死ぬ間際、君はこう思ってたでしょ?学級委員長として高校3年生をやり遂げてない、ほかの奴に委員長の座を渡すなんて嫌だってね。その未練を晴らさせてあげる」
そういうと、神様は何もない空虚に手をかざした。
すると徐々に光の輪ができ始め、中に何かが映し出される。
森に囲まれた中にある町、か?
「君にこの国をあげる。そして、国民という名の生徒達を、国王という名の学級委員長である君がまとめ、国という名の良い学級にしてほしい」
「俺が、この国で学級委員長に・・・?」
「私は君を選んだ。君にしかできない。あの子の意志を継いでほしいのよ」
国王、と言われるとなんか気が重くて俺には無理だと思った。
でも、学級委員長なんて言われたら・・・。
「こんなでかいクラスの委員長なんて・・・俺以外ができるわけないよな」
今までは多くても数十人のクラスの委員長だったが、何千何万というクラスの委員長だろ?
それって、なんか、すごい、
「こんなでかい国の委員長なんて、俺カッコいい!」
カッコいいだろ!
知ってる、俺って単純な男だよ。
学級委員長になれるって言われただけでこれだからな。
でもカッコいいものはカッコいいんだ。
そう思うんだから仕方ない。
「神様の国、俺がちゃんとまとめてやるよ!学級委員長としてな!」
「そう言ってくれると思ったのよ」
今まで無表情に近かった女の子に少し笑顔、うん可愛い。
「本当だったら君は地球で生まれ変わる予定だったのだけれど、ここの神様に私の方から話を通しておいてあげる」
え、そんな簡単にすむの?
「ここの神様には少し顔が効いてね。安心して私の世界に行ってもらえるのよ」
あ、そうですか。
「さて、そうと決まればここから行って。あの国に行けるから」
「え、そんないきなり?」
「そういきなり。ダメ?」
「ダメじゃないけど・・ま、いっか!行くよ行きますよ!」
ここにいてもどうにもならないしね。
国が映る光の輪に手をかけて足を踏み入れる。
これからどうなるかわからないけど、委員長を続けられるとワクワクしている俺には期待の方が強い。
「あの子が平和な国を作ったように、君がどんな国をつくっていくのかを見届けさせてもらう」
「任せとけ!とびきりいい国を作ってやるよ!」
勢いよく光の中に身を投じた。
目の前がまぶしくて何も見えない。
「あ、ひとつ言い忘れてた。今回は私のせいで君の地球での人生を奪っちゃったから、君にはいいものをあげる。困った時はこう言いなさい。“ ” とね」
なんか後ろから神様の声が聞こえたような気が・・。
まあいいや!そんなことより今は目の前のことだ!
待ってろよ、俺の国!!
こうして、俺は新たな人生の幕を開けたのだった。