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七話 奴隷をお持ちかえりして

公の場では読みにくい話です

「バカー!」


 パーン!


 城なしに戻るとパタパタが勢いよくこちらに駆けてきて、盛大な肉球による平手打ちで出迎えてくれた。


「なにをする? 痛いじゃないか……」


「なにをする? じゃないよ! 女の子に首輪なんて、君はなにを考えてるのさ!」


「ああ、いや、これは──」


 どうやら俺が女の子を拐ってきたものだと勘違いしたらしい。そのまま俺を押し倒し、マウントとってポコスカ叩くものだから、説得するのに苦労した。


 そりゃ、ラビを見たらそうなるわな。俺だってそうする。


 なんとか、理解してもらうと、パタパタは申し訳なさそうに頭を下げて上目使いに俺を見た。


「ツバサ。疑ってごめんよ」


「いや、良いよ。でも、離れていても俺が見えてたんじゃあないのか?」


「ツバサがおもむろに服を脱ぎ出したから、途中で見るのをやめたんだ」


 なるほど。分別のあるワンコだ。川で水浴びしたところから見てなかったのか。


 そんなこんなで場がおさまると、パタパタがラビに挨拶をする。


「やあ、ボクはパタパタ。人畜無害なワンコだよ。ヨロシクね?」


 尻尾を振ってる。人間大好きだもんな。


「ひええええ! おっきなオオカミなのです!?」


 対してラビは怯えてしまっている。


 ああ、ラビのお耳がしなしなと萎れてる。一口で食べられちゃいそうだもんな。そりゃあ、怖いだろう。


 ラビはすがり付く様に助けを求めてきた。


「ご、ご、ご主人さま!?」


「大丈夫だよラビ。見た目はでっかいオオカミだけど、中身は人間大好き人畜無害なワンコだから」


「人間を食べるのが大好きなのです!?」


 ダメだ。パニックになって聞いちゃくれない。


「そんなに怯えられるとボク傷ついちゃうよ……」


 ふむ。これから一緒に暮らすことになるんだ。このままではよろしくないな。よし、パタパタに助け船を出してやるか。


「パタパタ。芸をして無害さをアピールするんだ!」


「えっ、ちょっと! なんて無茶ぶりするのさ? 腹おどりでもしろって言うの?」


 誰もワンコにそこまで求めないわ。と言うかこの世界にも腹おどりあるのか。知りたかなかった。


「お手とか伏せだよ。どこの世界に腹おどりをするワンコがいるんだ」


「あっ、そんなので良かったんだ。それなら簡単だしすぐ出来そうだね」


「じゃあ行くぞ? お手!」


「ワン!」


 ズシッ。


 おっも! 普通のワンコのつもりで油断していたわ。支えきれん、早く次へいこう。


「お、お座り!」


「ワンワン!」


 これは普通だな。次なんだったけか。えーっと……。


「ちんちん?」


「わ……。えっ? ちんちんってどうやるの?」


「ん? そりゃあ……」


 あれ? どうやるんだっけか? まあ、適当で良いだろう。


「こう、大股おっぴろげて上体を反らし、ブリッジをすれば良いんだ!」


「えっ、ナニソレ!? えっ、地上のワンコはボクの知らないは間にそんなハレンチな芸をするようになったの? 恥ずかしくて出来ないよそんなの!」


「いや、でも、ほらっ」


 俺は目でラビの方へと視線を促した。


 相変わらず震えるラビ。よほど怖いのか、涙目になってしまってる。


「うっ、わかったよ! ボク頑張る!」


「よし、なら行くぞ! ちんちん!」


「うわああああん! どうだあ!」


 パタパタは半ばヤケクソ気味に俺の考えたちんちんをしてみせる。


 これだけ頑張ったんだ。ラビも打ち解けてくれるだろう。


「ラビ。パタパタは怖くないだろう?」


「ごっ、ご主人さま!」


 む、まだ震えてる。


「まだ怖いか? 仕方がない。馴れるまで少し距離をおこうか」


「違うのです! それはもう、どうでも良いのです」


「ど、どうでも……。ボク勇気を振り絞ったんだよ?」


「なら、どうして震えているんだい?」


「ラビは、ラビは、ラビはおしっこしたいのです!」


「あっ!」


 完全に忘れていた。


 相当危険な状態なのか、眉の尻根をさげて、結んで伸ばしたお口もぷるぷるしてる。


 いかん。もう一刻の猶予もない!


「すまんなラビ。城なしにはトイレがないんだ」


「トイレとは何なのです? その辺でするから大丈夫なのです」


 くりくりした可愛い瞳でなんて凶悪なことを……。


 しかし、変だな。この世界には言語の壁がない。だから、便所だろうと、化粧室だろうと、うぉっしゅれっとちぇあ?


 ぬう、横文字は苦手だ。


 とにかく、同じ意味を持つ言葉として通じるハズなんだ。なのにトイレという言葉が通じない。これはどういう事なんだ?


 まさか、トイレを知らないのか? いったいどんな生活をしていたんだ。


「女の子がその辺にぶちまけちゃダメだ」


「でもでも、もう漏れてしまうのです」


 お股を押さえて内股でもじもじしてるということは、もういつ決壊してもおかしくないのだろう。はやく、たちしょんを教えてあげなくては。


「ラビ、立ったまま城なしの外に向かって、乙女の聖水を解き放つんだ」


「ふええええ!? ご主人さまそれは無理なのです。女の子の体は──」


 俺は乙女の体について詳しくラビに説明してもらった。


 たちしょんには不向きに出来ているそうな。そんなの知らなかった。ならばどうしたものか……。


「ねえねえ、この子苦しそうだよ?」


 尚も、もがき続けるラビを見てパタパタが心配そうな顔をして、俺に「はやくどうにかしてあげて」と催促してくる。


「それはわかってるんだが……。ん?」


 なんだ? パタパタを見ていたら、この状況を打開するヒントが見えた気がするぞ?


 さっきの芸。お手、お座り、そして……。そうだ! ちんちんだ!


「ラビ。俺は名案を思い付いた。ブリッジして城なしの外に飛ばすんだ!」


「ご主人さま。ぶ、ブリッジって何なのです? ナニをどうするのです? 嫌な予感しかしないのです!」


「さっき、パタパタがやってた芸だよ。うーん。見てなかったのか。俺がやって見せるからよく見ているんだぞ? ブリッジと言うのはこうするんだ!」


 俺は足を大きく広げ、腰を背に向かって曲げ、手を地について腰を高く突き上げた。


「これがブリッジだ! これなら水平に乙女の聖水を発射でき、女の子でも城なしの外にぶちまけられるハズだ!」


「無理無理無理なのです!? 恥ずかしくてそんなこと出来ないのです!」


「無理と言うのはやってみてからでも遅くはない。さあ、ぱんつを下ろすんだ!」


「ばんつなんて履いていないのです……」


 履いてないだと? どうなっているんだこの世界は。だが、都合が良い。ならば、このまま解き放つのみ。


「さあ、勇気を出して頑張るんだ。ほら、チョロチョロー」


「ふえぇ」


 その時──。


 城なしが揺れた。


 ゴゴゴゴゴゴ……!


「な、なんだ? 地震か? ラビ。しっかり踏ん張るんだ!」


「ぶぶぶ、ブリッジしながら踏ん張るなんて出来ないのです。で、出ちゃうのです! あああ、揺らしちゃダメなのですー!」


 城なしは尚も揺れ続け、地表に一本地割れが走ったかと思うと、次には綺麗に整形された溝になった。更にそこに水が流れると、城なしのふちにはトイレが出来上がっていた。


「これは……。いったいなにが起こったんだ?」


「凄いよツバサ! 君が女の子になにをさせたいのか理解して、城なしがトイレを作りだしたんだ。城なしは間違いなく君に惹かれているよ!」


「城なしはそんな事が出来るんだな。でも“君は間違いなく城なしに引かれているよ”の間違いじゃないのか?」


 城なしの地震で冷静さを取り戻してみれば、少々間違った方向に努力していた気がしないでもない。


 しかし、このトイレは凄いな。洋式便座でしかも水洗ときたもんだ。異世界で洋式トイレが使えるなんて最高だ。


 なんでか、屋根はないし壁も半端にしかないが。


 ともあれ、これでラビのピンチを救える!


「ラビ。トイレが出来たぞ。これで──」


 あっ……。手遅れだった。城なしに小さな虹が架かっている。


「あ、あ、あ、やっちゃったのです……」


 俺はこのたちしょんに“天空式大開脚ブリッジたちしょん”と名付けた。この光景は未来永劫忘れる事は無さそうだ。


「ううっ。ラビはもうお嫁に行けないのです」


 確かに、天空式大開脚ブリッジたちしょんするお嫁さんはちょっと嫌かも知れない。


 さあ、それはそれで置いておくとして、早速トマトとさつま芋の畑を作ろう。とはいえ、まだ土が足りなすぎるから苗作りといった方が正しいな。


 まずはトマトからいくか。


 俺はウエストポーチからトマトを取り出すと、ナイフでみじん切りにした。


「ちょっ、ちょっとツバサ。この子にそんなゴミみたいなもの食べさせるつもりなの!? それだいぶ痛んでるから危ないよ?」


「まさか。この実の種を使う。城なしに畑を作ろうと思うんだ。食料を自給出来た方が良いだろう?」


「畑……。ツバサ! ツバサは本当にここに暮らしてくれるんだね!」


「えっ? うわっ……」


 パタパタがガバッと抱きついてきた。抱きつくというか、完全に押し倒す形になってる。ラビに同じ様にしないか不安だ。


「コラコラ落ち着いておくれ。なんだってそんなに嬉しそうなんだ?」


「だって、作物は直ぐには育たないし、ずっと住むつもりがないなら、地上からすぐ食べられる物を取ってくるよね?」


「そりゃ、そうだが……」


 うーん。畑という形あるものが、ここで暮らすということに真実味をもたせたのか。なんだかんだでまだ不安だったんだな。


 わしわしと構ってやりたいところだが後回しだ。


 作業を続けよう。


「次はどうするのです?」


「うん。こうやって土の上にみじん切りにしたトマトをのせてまんべんなく混ぜるんだ。そしたら薄く広げて軽く土を掛ければ、はい完成」


「こんなので実が増えるのです? なにも起こらないのです……」


「いや、土からトマトが沸いて来るわけじゃ無いからね? ここから芽が出て木になり、実が出来るんだ。それまで、結構時間がかかる」


「はー。そうなのです?」


 むう。通じて無さそうだ。まあ、直ぐに芽が生えてくるだろうから、そしたらなんとなく分かるだろう。


「トマトはこれでいいから、次はさつま芋に取り掛かろう」


「お芋も刻んで植えるのです?」


「いや、そう言う増やしかたもあるけど、ツルから増やすよ」


 芋は腹に納めたい。それにツルがあるならツルから育てる方が簡単に増やせる。


 俺は手に入れたさつま芋のツルをナイフで腕の長さに切り揃えた。


「とても、こんなので増えるとは思えないのです」


「大丈夫。さつま芋は無敵なんだ」


 前世でなんでか家庭菜園というと、トマトやマメが初心者に勧められている事が多かったが、さつま芋ほど簡単な作物はない。


「肥料が他の作物に比べて少なくて済むし、何より繁殖力が凄い。土にツルが触れているだけで根っこがでて、芋になるんだ」


「はー。そうなのですか。じゃあ、土にのせて置けばたくさんお芋が出来てたくさん食べられるのです」


「ツルが土に触れっぱなしだとお芋があんまり大きくならないけどね」


 芋にする部分を決めてやる必要がある。この点城なしは便利だ。何たって土すらないんだから。それにここなら天気も季節も関係無さそうだしな。


 間違いなく増えまくる。


 前世の日本には冬があったから、一年で枯れてしまったが、もとは多年草。年中収穫できるようになるはずだ。


「じゃあ、このツルはどうすればいいのです?」


「土に適当に刺して置くのさ」


「あれ? 土に触れているとお芋がうまく出来ないのではないのです?」


「うん。でもこれは苗にするから良いんだ」


 こちらも、ウエストポーチから土だして、プスプス刺して置けば、ハイおしまい。


 トマトもさつま芋も水を撒く必要がある。だがジョウロ等という便利アイテムはない。だから、適当な布を湿らせて絞る事で水を撒いた。


「君は面白い事をするんだね。かつてここに住んでたひとたちは、刻んだ実を植えたり、こんな紐みたいなので畑作ってなかったよ」


「そうか? まあ、これで上手くいくかはまだ分からんけどな。さあ、これで終わりだ。根っこが生えるまでは、さすがにこまめに水をやらないと干からびるから、明日から水やりを手伝っておくれよ」


「ラビが面倒をみるのです!」


「よしよし、ラビは良い子だな」


 畑については目処がたった。しかし、もう一つやっておきたい事がある。どうせここで暮らすのであれば鳥も育てて見ようかと思う。


 そう、馬車で見付けた小さなタマゴだ。全部で4個ある。


「そのタマゴどうするのです? 割ってすするにしては小さすぎるのです」


「た、食べないよ? 温めてふ化させるんだ」


「ふふっ。ボクは嬉しいよツバサ。君は、城なしに鳥を放してあげようって考えてくれたんだね。さすがだよ。人だけじゃなく、鳥もいた方が暮らしが映えるし、雰囲気も良くなるよね。ありがとう!」


 いや何にも考えずに持って帰ってきたんだが……。黙っておくか。城なしで暮らせば仲良くなれるとかよくわからなくて難しい話だと思ったが、こういうので良いのか。


「よし、それじゃあラビにがんばってママになってもらおう。タマゴをこの布で巻き付けてやる!」


「ママ? ラビがママ!? へへっ。ラビがんばってママになるのです! あっ、ひゃん、冷たいっ」


 おや、ママになれて嬉しいみたいだ。母性本能を刺激されたんだろうか。


 ともあれ、これで解決とはいかんな。寝るときもこのままだと大惨事だ。朝起きてつぶれてたら泣いてしまう。


 夜は焼いた石を布にくるんで湯たんぽがわりに温めよう。


「おっと、忘れるところだった。ほら、ラビはこれが欲しかったんだろう?」


「あ! お芋のお花なのです!」


「頭にさしてあげよう。さつま芋の花はなかなか咲かないんだよ」


「ご主人さまありがとうなのです!」


 ラビの髪は落ち着いたバニラ色だから青い花が良く映える。女の子には花を。


 喜んでもらえて良かった。

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