五十一話 いつもの日常へと戻った
翌日。
ひよひよひよ。
そんなひよこの鳴き声を引き連れて。
「ご主人さま起きるのです!」
ラビがいつものように俺を起こしに来た。
「んあー。今日はお昼まで寝ていたい……」
何だか疲れた。
「でも、もうお昼なのです」
「なんと!?」
すでに昼だったとは。そんなに寝ていたのか。それは不味い。早くエイラソーダさんたちに顔を出さないと……。
あれ?
「やけに静かじゃないか?」
「そうなのです。今日は誰もいないのです。おやすみなのです?」
「そんな話は聞いていないな」
うーん。
シノは俺が起きなければずっと猫の姿で腹に乗って寝ているしなあ。
ツバーシャ何て声を掛けなきゃ出てこない。
事情を聞いても分からないだろうな。
朝御飯……。
いや、もう昼ごはんだけど、その前に確認してこよう。
「ラビ。ちょっとお空飛んで様子見てこようか」
「分かったのです!」
そんなわけで二人で地上の様子を見るために空を飛んだ。
しかし、そこにイギリシャ王国の姿はなかった。
「海なのです!」
「ああ、移動してしまったのか……」
いつか、こうなるとは分かっていたが、いざ離れて見ると寂しさがこみ上げてくる。
昨日、突然いなくなるかも知れない何て考えたが、昨日の今日でそれが現実になるなんて……。
「ご主人さま?」
「ん? ああ、帰ろうか。また皆が心配してしまう」
「何だか元気が無いのです」
おっといかん。
いつまでも感傷に浸っている訳にはいかないな。
ラビに気を使わせちゃあダメだ。
城なしに戻り、皆で昼ごはんを食べ終えると、久しぶりの自由を満喫する為にだらだらしていた。
「しかし、何か忘れている気がするんだよなあ」
「忘れてしまうなら、大した事無いのよ……」
「いや、そうかも知れないが、それを言ったらラビはどうなるんだ? しょっちゅう大事な事を忘れているぞ?」
「何てこと言うのです!?」
「ラビはおつむが緩いからのう」
「おシノちゃんまで!?」
まあ、ラビだからと言ってしまったらそれまでだわな。
ん?
ラビが忘れる?
ああ、そうか!
「クルミ埋めたの忘れてた!」
「あー! ご主人さまラビをバカにしたに忘れていたのです!」
「いや、あなたも忘れてたいたじゃない……」
ラビがリスみたいに頬を膨らませてしまった。
そう言えばリスもクルミ埋めたの忘れるんだっけか。
クルミが多分電波か何かだして忘れろー忘れろーって暗示をかけているんだろうなあ。
ともあれ、思い出したので皆で掘り起こす事にした。
「真っ黒なのじゃ」
「腐ってるんじゃ無いかしら……」
「中の種は大丈夫なのです!」
クルミの処理はラビがこ慣れているみたいなので俺は見ていよう。
にまにましながらシノとツバーシャに教えている姿は堪らんな。
先輩風吹かせることが出来て嬉しいんだろうなあ。
とてもかわいい。
「こうやって、手で剥いてこっちの壺に入れておくのです」
「なるほどのう。とても簡単じゃな」
「でも、お手てがまっくろになるのです!」
「爪に挟まるわね。これ洗えば落ちるのかしら……」
「落ちないよ。しばらくは手がまっくろだ。手袋何て無いからなあ」
ツバーシャは手が汚れるのを気にしている割りには黙々と剥くんだな。
ん? おかしいぞ? ツバーシャが俺の手を握らず作業に加わっているじゃないか! 引きこもり脱出に一歩前進している。
でも、何か言うとやめちゃいそうだから黙っとこ。
「後は洗って干しておけば食べられる様になるのです!」
「直ぐには食べられぬのか。残念じゃのう」
「ふふっ、火を吹けば一瞬ね……」
「だ、ダメなのです。ツバーシャちゃんが火を吹いたら何も残らないのです!」
思ったよりみんな仲良くやっているみたいだな。
いいなあ。
こう言うのを楽しみにしてたんだよ。
もっときゃっはうふふとするが良い。
「全部剥き終わったわね……」
「それじゃあ、この壺をもって──」
「あっ、ラビがつまずいたのじゃ」
ぬあ、油断してた!
間に合わん!
ガッシャーン。
「ひええええ……」
あー。
良い雰囲気だったんだけどなあ。
まあ、これも含めてラビらしくて良いか。
「大丈夫だよラビ。後は俺がやっておく。手を切るから触っちゃあダメだ」
「申し訳ないのです……」
「そう、落ち込むな。壺は放って置けば城なしが回収してまた壺にしてくれるから。ほら、ナデナデだ」
「でもラビが……。むふぅ……」
何だか久しぶりにナデナデした気がする。
忙しかったしなあ。
しばらくは気持ち多目にナデナデしてあげよう。
さて、後片付けを終わらせますか。
散らばったクルミを集めた後は俺が全部引き継いだ。
流石になんもせんのは気が引けるしな。
よし、洗い終わったし、後は干しておけば良い。
城なしには雨が降らないから直ぐ乾燥するだろう。
「ふあぁあ……。昼まで寝ていたのにまだ眠い。もう一寝入りしようかな」
「ラビもお昼寝するのです」
「それは良いのう。わぁもお昼寝するのじゃ」
「こ、これは私も一緒にお昼寝した方がいいのかしらね……」
今日のツバーシャは本当に積極的だな。
嬉しい限りだ。
「ほいじゃ、皆でお昼寝しますか……」
ああ。
目をつむっただけでまどろっこくて眠りに落ちそうだ。
疲れていたんだろうな。
イギリシャ王国では色々あったし。
ツカイッパー君は元気かな。
次に会うときまで首が繋がっているか心配だ……。




