四十七話 隙をつかれて誘拐された
翌朝。
「チュン、チチ、チュンチュン……」
「ご主人様! 産まれたのです!」
「んあー?」
産まれた? ラビは妊娠してたのか……。やっぱり、赤ちゃんにもウサギの耳が生えてるのかなあ。
「って、父親は誰だ! 絶対に──」
「だから、パパはご主人さまなのです!」
「ひよひよひよ……」
あ、ああ。またタマゴ温めてたんだっけか。いかんなあ。ラビが将来「お嫁に行くのです!」なんて言い出したら耐えられる気がしない。
「相変わらず不細工だなあ」
「ラビの子供に何て事言うのです!?」
「褒めてるんだよ。閉じたおめめが目付き悪い感じで不細工かわいい」
「そ、それは褒めてるのです?」
褒めてるさ。また温かくしといてあげないとね。君たちは大きくなったらどんな姿になるんだい?
「ひよひよひよ?」
そんな感動から始まった穏やかな朝も、時間が経つと行き交う人で騒がしくなる。
そして、エイラソーダさんがやってきて、それなりに忙しい一日が始まった。
今日はエイラソーダさんだけか。ツカイッパー君はまだお茶の種や苗を探しているのかな。無事だと良いんだが。
ふむ。聞いてみるか。
「エイラソーダ。ツカイッパーはまだ生きているのか?」
「こ、これは申し訳ない。あやつの不手際はやはり斬首にあたいすると。直ぐに見つけ出して首を──」
「待って、違うよ? ツカイッパーの身を案じてるんだよ!?」
いかん。発言には気を付けようと決めた矢先から人死にを出すところだった。おっかないなあ。ビックリしたらトイレ行きたくなってきた。
「ちょっと用を足してくる」
「では私もお供します」
「い、いや、いいよ。やだよ……」
流石にトイレまで一緒するのはご遠慮願いたい。トイレに行くぐらいなら、そこまでの心配は要らんと思う。
「ふぅ……。スッキリしたあ」
人が増えたのでトイレも増えた。絶え間なく人が往来しているのだ。一つしかなかったら大惨事だ。
けど、一度これだと決めたトイレ以外は使いたくないのよなあ。何で何だろうなあ。
用を済ませ、そんな事を考えながら、エイラソーダさんのところに向かっていると、ショールのようなものを掛けた女性がこちらに近付いてきた。
聖職者だよな。シスターかな? いや、シスターが何なのかは知らないけど、シスターな感じがする。
「これはこれは天使様。お目にかかれて光栄ですわ」
「そんな大層なものじゃあないよ。急いでるからすまんね」
いかんいかん。つい反応してしまったが、下手に人に出会うと相手の徳が高まって権力に影響が出てしまう。
宗教こわい。
「お待ち下さいませ! これも何かのご縁、焼き菓子をお一つ如何でしょうか?」
「お菓子か……」
何やら、手に収まりそうな小さなかごを勧められた。
城なしで再現不可能な物は口に入れたくないし、口にしたくないんだけど……。特にお菓子は中毒性が高いからどうしても求めてしまうからなあ。
でも、一つ位なら良いかな。昨日失敗した干し芋を皆に食べさせた負い目もあるし……。
「一つ貰おう。後で皆で食べるよ」
「あ、お待ちくださいまし。皆様の分もお持ちください。しかしながら天使様にはここで食べて頂き、感想を聞きたいのです」
「俺に? 悪いが専門じゃあないぞ?」
「ご謙遜を。天使様は菓子作りをたしなみ、産み出された菓子は芸術。無駄な材料は一切使わず素材を生かし──」
延々と褒めちぎられてしまった。
要約すると、塩で味付けた歯応えを楽しませる安価な焼き菓子を作ったので俺に食べて欲しいと。
「芋だけで菓子を作られたと聞きよいアイディアが頂けないかと」
「なるほど、貧困層にも菓子をか。参考になるかは分からんがそれなら食べてみよう」
恵まれない子供たちにも振る舞うんだそうだ。
子供たちの笑顔は見たいもんね。流石、聖職者だけあっていい人だな。こう言う事を出来る人は尊敬するわ。
ザクッ。
おお、いい歯応えだ。クッキーよりも固いが、煎餅よりずっと歯に優しい。
それでいて──。
「ん……。何だかぼーっとして……」
「申し訳ありません天使様。天使様にはご協力願いたいことがありまして」
「な、何を……?」
「誘拐させて頂きますわ」
えっ? 俺は……。 俺は騙されたのか……?
ぐう……。
俺はその場に崩れ落ち、意識を手放す。そして、目が覚たら、鉄格子の生えた部屋にいた。
ぬかった! 何てこったい! お菓子をくれるおじさんにはついて行っちゃいけませんと口酸っぱく何度も幼い頃教育されたじゃあないか。
でも、おじさんじゃなくてお姉さんだし、聖職者だったしなあ。
想定外だし仕方がない。
思い返せば怪しいところがあったような気もするが……。
しかし何事も経験だ。牢屋にぶちこまれるなんてのは中々機会があるもんじゃあない。将来城なしにも牢屋が必要になるかも知れん。
良く観察して見よう。
「んー。窓は無いな。まあ、窓から逃げるとか良くある話だしね。やや、ヒンヤリしているから地下なのかな?」
あっ、壺がある。本当にトイレは壺なんだな。使いたくないなあ。
「随分と余裕だな。紛い物にしてはキモがすわっているようだ」
「ぬ? 誰だ?」
「さあ? 今はまだ語るときではないな」
鉄格子の向こう側から男が声を掛けてきた。
ふーむ。ローブに包まれたおっさんという見た目から聖職者何だと思う。でもってゴテゴテした装飾で下品に着飾っているところを見るに地位の高い奴何だろう。
教祖さまとか司祭さまとかかな。
でもが顔がなあ。
「何でこんな悪どい顔をしているのに信者が付くんだ? 目を見れば中身が腐っているのは分かるだろうに」
「いい度胸だ。しかし、女に騙されてここに放り込まれたお前がそれを言うのか?」
「うぐっ……」
だって、知らない女性の瞳なんて見詰める勇気ないし……。むう、何とか言い返したいが言い返せん。
「まさか、お前はいつでもここはから抜け出せるとでも考えているのではあるまいな?」
「どうだろうな。どうせ大したことはされないし、出来ないだろうとは思ってるけど」
「やれやれ、これを見ても同じ事が言えるのか?」
悪どい顔したおっさんはそう言うと、したっぱっぽい男に合図した。
したっぱは、奥から鎖に繋がれた少女を連れてくる。
「あっ! ご主人さまなのです!」
「ラビ!」
くそう。首輪に繋がれた鎖を知らん男に握られた姿を見ると無性に腹が立つ。許せん。どうしてくれようか。
「ご主人様も奴隷っぽいのです」
手枷をされているからね。
ラビは相変わらず緊張感がない。
「ラビ。酷い事をされなかったかい?」
「酷い事? この人たちは、お菓子をくれた良い人たちなのです」
「ああ、うん……」
そうだね。俺もお菓子もらってここに閉じ込められたわ。ラビの事は言えないね。
さてはて、この状況どうしたもんかなあ。




