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四十五話 城なしで貿易が始まると

 しかし、きつい。座るのもしんどい。このままだと、話しも録に耳に入ってこない。


 そんな俺をツバーシャが鼻先でつつく。


「グルルル……」


「ん? ツバーシャ何をくわえているんだい?」


 何だろうこの布。あっ、これツバーシャに作ってあげた袋か。これを被れって言いたいんだな? 確かにこれがあれば立ち直れるかも。


 おお。被ったら少し落ち着いた。袋かぶれば楽になるとよく解ったな。俺が同類だと気付いたのか?


 でも女騎士様が俺を見てちょっと困惑してる。


「では、話を聞こう。しかし、忘れるでないぞ? わぁが話を代りに聞いてはいるが、主さまの耳にも届いておる」


「ああ、気を付ける。では、早速話を進めさせてもらう。我々がここへやって来たのは脅威に対する調査とその……。言いにくいのだが……」


「構わぬ。可能であれば討伐といったところだな?」


「そ、その通りだ。もちろん、天使様がおられると分かった以上、討伐などは考えから消した」


 シノの声色が渋くて緊張感ある。女騎士。偉そうださんだっけか? いや、エイラソーダさんか。凄い迫力のある人なのにシノに押されてる。


 しかし、あれだな。やっぱり、干し芋は作って置くべきだった。せっかくのお客さんなのにお茶請けがない。


 あっ、お茶もないわ。


「ならばどうする? 調査が終わったのであれば早々に立ち去るがいいだろう」


「そうだな。そうすべきだろう。しかし、このまま帰ってありのままに報告して信じて貰えるだろうか?」


「ほう……。主さまに天上人であると言う証を差し出せとのたまうか」


 おや。シノの雰囲気に鋭さが増したぞ? ふむ。天上人である証しか。難しいな。シノはいったいどうやって、これを乗りきるつもりなんだろう。


「主さま……」


 ん? なんでこっち見るの? あっ、もしかして今ピンチ? 任せっぱなしだったし、ここはカッコをつけたいところだ。


 しかし、何か出せと言われてもなあ。芋でも出すか? 流石にそれはないか。


 いや……。


 良い案なんじゃないかなこれ。飢えに強いし多くの人びとを救えそうだし、神々しい気がしないでもない。ダメなら他を考えれば良いだろう。


 そんな、訳でさつま芋の植わった壺を持ってきた。


「これ何てどうだろう? 俺の自慢の一品何だが」


「こっ、これは素晴らしい! 今だ私はこれ程のモノに出会った事がない。これに比べたらあらゆる芸術の何と芸の無いことか! これこそ天上人でなくては届かぬ領域!」


「そ、それほどか? 芋は俺たちも食べるから大量に持っていかれると困るが──」


「大量に等とは申し上げませぬ。それにその壺だけあれば芋はなくとも十二分に納得させられます」


 えっ、芋はなくともって、壺だけ持って行くの? スープだけ食べて皿だけ渡すみたいで何かやだなあ。


 ……。


 いや、そうじゃない。 壺か! 壺の方に興味があったんかい!


「ああ、うん。壺なんかで納得できるなら好きなだけ持って行けばいいよ」


「天使様のご慈悲に感謝いたします」


 俺としては、さつま芋が壺に負けたのは腑に落ちないが、それで話はまとまって、イギリシャ王国騎士団様ご一行は、壺しょって自転車こいで帰っていった。


「変な人たちだったな……」


「あのピカピカしたお洋服カッコ良かったです! ラビも着て見たいのです」


「ラビよ。あれは恐ろしく重いからのう。潰れてぺたんこになってしまうのじゃ」


「ひええええ!?」


 甲冑着たラビか。 かわいいかもしれん。ちょっと見てみたいな。


「しかし、助かったよシノ。シノはあんな事も出来るんだな」


「最後に詰まってしまったからまだまだなのじゃ、主さまには遠く及ばないのう」


「おシノちゃん凄く偉そうだったのです!」


「いや、それ誉め言葉になってないよ!?」


 忍者って言うと手裏剣投げたり分身するイメージが強いけれど、こうやって相手を欺いたりするのが本来の忍者なのかもな。


「もう、穴に帰りたい……」


「ああ、うん。ツバーシャも辛かっただろう。ゆっくりお休み」


「そうするわ。ふふっ……」


 あっ、笑った。ツバーシャの笑うところは始めて見た。でも、その笑顔には「私には分かるわ。あんたもこっち側だったのね……」って、安心感が見え隠れしている気がする。


 その通り何だけどな!


 あっ、袋被せてあげないとね。俺も自分用に作ろうかな。またあんな場面に陥るかもしれないし。


 でも、急ぐ必要はないか、そうそう直ぐには必要にならないだろう。


 そう思ったのだが。


「天使様! 今や王宮では空前の壺ブーム。もっと沢山譲っては頂けぬだろうか?」


 三日も過ぎない内に騎士団ご一行様はやってきた。


 あんなもんが流行るんかい!


 別にいいけどさ。


 なんやかんやで、取引が始まり、壺需要は王宮から貴族の間にまで広がったそうだ。


 そこまでいくと、壺貿易言っても良い規模にまで発展して、エイラソーダさんとは更に何度か顔を合わせることになった。


「しかし、本当にこんなものが対価で良いのでしょうか? 卑しくもこの壺を巡って大量の金銀が飛び交っているのですが……」


「俺たちに金も銀も必要ない。今一番欲しいのはこの石ころなのさ」


「いかに我々が俗にまみれているのか、身につまされる思いです」


 そんな大層なもんじゃないんだけどなあ。壺を作るのは城なしだし、城なしが欲しいのは石ころだ。


 この話がまとまると嬉々として城なしは壺を作り出した。


 お城欲しくてずっと観てたもんね。待望のお城もそう遠くない内にたつんじゃあないかなあ。


 って、あれ? もしかして城なし言葉通じてる? そうでなければ壺をぽこじゃが作らないよね?


「良かったな城なし、俺が持ってくるより、ずっとたくさん早く集まるぞ?」


 でも城なしはいくら呼び掛けても答えてはくれない。


 パタパタに視線を送ってみる。


「んー? ツバサ。城なしの言葉はボクにしか聞こえないよ」


「そうなのか。それで何か聞こえたか?」


「うーん。何だかすごくはしゃいでる?」


 どうやらこの状況は良い方向に向かっているようだ。


 これなら、パタパタの言葉が城なしに届く日も近いだろう。

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