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四十四話 変なやつらがやってきて

 翌日。


「チチチチチ……」


「ご主人さま起きるのです! 朝なのです!」


「んあー……」


 朝か……。まだ起きたくないなあ。まだ寝ていたいなあ。起きなくてもいいんじゃないか? そうだ今日はお休みにしよう。


「ラビ。今日はおやすみにしよう。朝はバナナでも食べてて……」


「おやすみなのです? でも、もうバナナ無いのです」


「あー……」


 そう言えばそうだった。バナナの木が実るのはまだまだずっと先だ。だらだら手抜きをするにはバナナ良いんだけどなあ。


「じゃあ、お芋を掘って食べてね」


「わかったのです。ラビがご主人さまの分も掘って蒸かして来るのです」


「うんうん。ありがとう。ラビは良い子だねえ……」


 さつま芋は、掘って直ぐに食べるよりも天日干しした方が美味しくなるんだけどね。めんどくさい。眠い……。


 ……。


 あっ! ラビ一人で芋を掘らせに行かせたら、城なしから落っこちるんじゃないか? 壺を落っことす程のどじっぷりだし。


 それだけじゃない。


 さつま芋も蒸すときに火傷するかもしれない。お手てに水ぶくれが出来てしまったら見ていられない。


 二度寝なんてしている場合じゃあないわ!


「待ってくれラビ! やっぱり、俺もついていく!」


 ちょっと過保護な気はしないでもない。しかし、ラビだ。過保護ぐらいでちょうど良い。


 ともあれ眠気は吹き飛んだので、ラビとお芋掘りして蒸かして食べた。


「ふふっ。やっぱり、さつま芋は美味しいのです」


「そうだなあ。でも毎日だと変化が欲しくなると思うんだよなあ」


「焼き芋にするのです?」


「あはは。蒸かし芋と焼き芋じゃあ大した変化にならないよ」


 焼き芋の香ばしい感じは好きだけどね。


 とは言え、今あるもので作れる物はあまりない。芋ヨウカンと干し芋位だ。どっちもお菓子だから主食にはならんなあ。


 でもないのか?


 干し芋は保存を効かせるために生まれていそうだし、昔の人は干し芋主食にしていたかも知れん。うーん。この考えは苦しいか。


 もともとさつま芋は長期保存が可能だわ。


「まあ、干し芋あたり仕込んでみようかな」


「美味しいのです?」


「甘くて歯応えもあって俺は好きかな」


 うむ。何だか食べたくなってきたぞ。でも、今日はいいや。お休みの気分だし。


 そんな訳で、昼ぐらいまでだらだらして過ごしていたのだが。


「主さま! 曲者なのじゃあ!」


「な、何だ? また女の子か?」


「えっ? い、いや、物々しい格好をした一団がこちらに向かっているのじゃ。その数30!」


 30!? 曲者って事は人間だよな。って事は城なしの下にある街からやって来たのか。


「武装しているのか?」


「甲冑を着ているのう。攻めてくるのかもしれぬ」


「斥候も放たずにいきなりか?」


 ツバーシャを討伐しに来たのかな? 森へ突っ込んだ時に目撃されてそうだしな。雲が空にずっと止まってて飛竜が飛んでりゃそりゃ見に来るよな。


 でも、どうやって飛んで来たんだろう。


「私に任せなさい。まとめて消し炭にするわ……」


「待って、頼もしいけど最終手段だからね? まずは話し合おう」


「あっ、もうすぐそこまで来ているのです!」


「ルガアアアアア!」


 変身しちゃったし……。飛竜になっておくだけだよね? 絶対火を吹かないでよね。不安だ。ツバーシャの前に位置どって置こう。


 そして、謎の一団はプロペラ付きの自転車から降りると俺たちの前に現れた。


 いや、おかしいだろ!


 何で甲冑着て自転車こいで空飛んで来るんだ。もっと軽装で良いじゃないか。と言うか自転車なんてある事にも驚きだわ。


 転生者か? 転生者が普及させたのか?


「我々はイギリシャ王国騎士団だ。話が通じるなら話をしたい!」


 代表っぽい、いかにも女騎士といった感じの人だな。綺麗な人だけど威圧感があって苦手だ。


「ルガアアアアア!」


「ちょっ、吠えないで。話し合うからね。お願いだから我慢しておくれ」


 知らないひといっぱい来たから消してしまいたいんだろうな。分からんでもないが、実行に移しちゃダメだ。


 ああ、騎士団の人たち剣を抜いて構えだしたし。


「えへへ。見て見て城なし。人がいっぱいだよ。こんなにたくさん人が来たのは久しぶりだね」


「パタパタはこの非常時に何をのんきな事を言っているんだ。ん? まさか城なしと言葉を交わせるようになったのか!?」


「ううん。城なしは返事をしてくれないね……」


 そう言ってふっと。小さくため息を吐くパタパタはどこか寂しそうだった。


「そうか……。城なしに早くパタパタの言葉が届くといいな」


「うん……」


「あ、主さま。今はそれどころじゃないのじゃ」


 そうだった。目の前に整列する騎士団様ご一行をどうにかしなくては。


 しかし、どうしよう。何か偉い人っぽいけど、ここはヘコヘコしちゃ行けない場面の気がする。ふんぞりがえって俺も偉そうな雰囲気を出すべきか。


 とにかく前に出て話をしなくては……。


 俺は背筋を伸ばし胸を張って、女騎士と対峙した。


「あー。おほん。俺がここの代表だ。一体何のようがあってここに来た?」


「我等の街の上空に突如この様なモノが浮び、飛竜まで飛び交い何事かと調べに……。ん? せ、背に翼? 貴方はもしや神の使いなのか?」


「あ、いや……」


 天使か何かだと勘違いしているのか? 急に下手に出始めたぞ? ここは勘違いに乗っかって騙してしまった方が良いのだろうか?


 ふむ、「俺は天使さまだだぞー」とでもいってみるか?


 いや、やめよう。正直が一番だ。


「あー。俺たちは……。俺、俺たちは……」


 俺が口を開けば、しんと静かな場に俺の声だけが響く。そして、俺に刺さる30の視線。


 うっ……。30人もの人が俺に注目している。見られてる……。やめろ……。見ないでくれ……。


「むっ? どうなされた? 顔色が優れない様だが」


「俺……。うぐっ、キモチワルイ……」


 くそっ、大事な場面なのに持病が出た。めまいがする。立っていられない!


 ドサッ。


「ご主人さま!」


「主さま!」


「なっ、どうなされたのだ!? 天使様!」


 ダメなのだ。人の多いところはダメなのだ。大量の視線が俺に集まると立っていられなくなる。座るのすらしんどい。


「シノ……。ちょっと耳を貸しておくれ」


「肩ではなく耳を貸すのかの」


「いや、肩を借りても無理だ。それで、俺さ。人の視線を集めると目の前がぐるぐるしてダメなんだ」


 転生してもこれは克服できなかった。だから今まで人里には近付かない様にしていたのだが、向こうからやって来てしまった。


「なるほど。分かったのじゃ、わぁが主さまに代わって、この場を収めて見せる」


 話が早くて助かる。忍者だし、俺よりこう言うのは得意だろう。


「天使様は大丈夫なのか?」


「控えぬか無礼ものども! このお方は天上のお方ぞ! お前たちの汚れに触れて主さまは体調を崩された!」


「なっ、なんと!? それは……」


 えっ? 思ってたのと違うぞ? シノは相手の勘違いに漬け込む方向で行くのか……。


 しかし汚れに触れてなんて言ったら可愛そうじゃないか?  俺を天使と勘違いすると言うことは宗教家だろう。


 それなりに自分の行いには自信があっただろうに。


「申し訳ない。私以外は下がるよう命じよう。ツカイッパー!」


「はっ! エイラソーダ様の命である。後退だ!」


 後退を男が指示すると、甲冑を着た人たちは寸分狂わぬ動きで回れ右して後退した。


 おおっ。カッコいいな。痺れるわあ。俺もあんな感じに振る舞えたら良かったんだがな。


「これで構わぬだろうか?」


「良いだろう。しかし、主さまが回復するにはまだ時間が掛かるゆえ、わぁが主さまに代わり話を聞き受けるが構わぬな?」


「ああ。私はそれで構わない」


 対峙する忍者と女騎士。シノは巫女の格好をしているから巫女と女騎士のが正しいか。


 ともあれ、こうして忍者であるシノの大芝居は始まった。

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