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三十話 食べた後はお片付けした

 パタパタのところから戻ると、囲炉裏の片隅でラビとシノが、朝からだらしない格好でゴロゴロとしていた。


 ラビは大の字になって畳に転がり、シノは座ったまま両手を背に回し、床に手を付けて天井を見上げている。


 ちょっと量が多かったかも知れないな。


 しかし、ラビのご主人さまはお腹いっぱいに食べさせてくれる人。ラビがここに来てから初めて満足に食べさせてあげられた気がする。


『奴隷になればお腹いっぱい食べられて、綺麗な服を着て、いっぱい気持ち良いことしてもらえるって聞いたのです!』


 だったかな。毎日なでて、お腹も膨らませた。残るは綺麗な服か……。最後の一つはまだまだ時間が掛かりそうだ。


「ご、ご主人さま戻っていたのです!?」


「あっ、いいよいいよ。少しお腹を休ませてあげるといい」


 俺に気付き、姿勢を正そうとするので止めた。


 無防備なのは安心の裏返しだ。距離を近くに感じられるから悪い気はしない。俺も横になると少し休んだ。


 腹が休んだところで後片付けを始める事にする。


 衛生面が気になるので放置はしたくない。衛生状態が悪くなれば病気になる。病院なんて無いので病気は魔物より厄介だ。


「ラビ、シノ。使い終わった食器を洗いにいこう」


「わかったのです! おシノちゃんが作ってくれたウサギさんのお椀をピカピカにするのです!」


「そ、そんな掲げて嬉しそうな顔をされるとちょっと恥ずかしいのじゃ」


 おや。シノは恥ずかしがりながらも、自作の椀を喜んで貰えて嬉しいのかにやけとる。


「ほれ灰も持ってきたのじゃ」


「ああ、忘れてたありがとう。しかし、シノが灰を使った油よごれの落とし方を教えてくれて助かったよ」


「わぁが来るまでどうしていたのじゃ……」


 バナナと肉の串焼き程度だから問題がなかった。バナナまみれになった壺がちと厄介だったが、塩を使っていたし。


 というか……。


「まともに食器が出来たの今日だしな」


「それもそうじゃな。しかし、主さまの知識は偏りがあるのう。こんなん誰でも知っとるのじゃ」


「ラビも知らなかったのです」


 灰を水に溶かして石鹸がわりにするなんて聞いたことなかったわ。そう言えば、石鹸が動物の脂肪と灰で作れるんだっけか。


 しかし、それ以上は知らん。


 それでもなかなか油は落ちず、結構な時間が掛かる。


 ぷーん。ぷっ、ぷーん。


「むっ、ハエが鬱陶しいのう」


「お耳が落ち着かないのです」


「げっ! ハエが出てきたか……」


 ハエは害虫ではないが、衛生面に問題がある合図だ。


「そろそろゴミ問題を考えないといけないんだよなあ」


「埋めればよかろう」


「埋めるのです!」


 そらな。埋める土があればな。壺栽培や栗林、竹林何かに土を使うからそんな余裕はない。


「わざわざ、ゴミ埋めるのに土を用意するのはアホらしい」


「林に埋めればよかろう」


「それは大変よろしくない」


 生ゴミを埋めても直ぐには土に還らない。しかも最悪ヘドロになって木に悪影響を及ぼす。ヘドロになると一般ゴミから産業廃棄物に変わる。


 あれは処分に困るのだ。


 俺は以前、庭の雑草や育てた野菜の食べられない部分を処理するのにコンポストを作ったことがある。古い油と米ぬか、あと処理するゴミと水。


 これでやっていたんだが……。


 たっぷり、水を混ぜ混んだせいでハエがわいてヘドロが出来て始末が大変だった。


 どぶ臭いし。


 城なしは岩の塊だから水分の逃げ場がない。だから、ヘドロになるなる可能性は高い。


 どぶ臭い城なしなんて嫌だ。 


 しかしそうだな。コンポストを作るのは良さそうだ。一度酷い目にあってからは、もう失敗しない程度には仕組みを学んだ。

 

「まあ、水撒きが先だな。洗い物も終わったし水を撒きに行こう」


「このお水撒くのです?」


「うん? 食器をじゃぶじゃぶ洗った水か……」


 うーん。これを撒くのは、ハエの存在を確認してしまったから抵抗があるな。

 

「やめておこうか。川に流してしまおう。二人ともいつもの場所に水を撒いておくれ」


「任せるのじゃ」


「たっぷりお水をあげてくるのです!」


 楽しそうに毎日水を撒いてくれるから助かる。ラビとシノは競うように駆けていった。


 俺も水を撒きに行きますか。


 ふむ。米は大分延びてきたな。後一週間もすれば田んぼに植えている長さになりそうだ。そしたら、水を入れてみよう。


 しかし、雑草みたいだ。まあ、イネ科だし、こんなもんか。稲科にも雑草は存在する。ススキや猫じゃらしがそうだ。


 雑草とは言え日本の文化を強力に支えていたりしたんだっけかな。かやぶき屋根のかやぶきってススキの事だし。


「チュンチュン……」


 すずめか。コイツらは米を食うのかな。なるべく虫食って欲しい。ちょっとぐらいなら食ってもいいけどさ。


「主さま……」


「ん? もう、水撒き終ったのかい?」


「違うのじゃ。竹が全然生えてこないのじゃ」


 なんだ失敗か? 竹で失敗とかよほどのことがない限りないんだがな。恐らく根を伸ばしているところなんだろう。


「大丈夫だよ。あいつらの本体地下だし」


「そ、そうかのう?」


「乾燥させないように良く水を撒いておいで」


 忘れた頃には生えて来るだろう。竹はいい思い出がないので嫌いだ。庭で無尽蔵に広がるあいつら根絶させるの苦労したからな。


 そのせいで扱いが雑になるのは許して欲しい。


 子供のころやったタケノコ掘りは楽しかったんだけどな。でっかいのが良いもんだと思ってやたら固いのもって帰ってガッカリしたのはよい思い出だ。


 ふむ。タケノコ掘りか、是非やりたいな。 ラビやシノとタケノコ掘りたい。何だか竹が猛烈に気になってきたぞ。


 少し竹に優しくしてやろう。


 次は大豆だ。こっちも豆を頭に被った双葉からだいぶ成長した。しかし、土がやたら乾燥してしまうのはこまりものだ。


 城なしは日差しがきついからなあ。


 干し草でも根元に敷いてやろうか。今日も午後から地上に降りるから、草も集めてこよう。


 そして、さつま芋が凄まじい。つるが壺から溢れ出て滝になっている。たくさん芋が出来そうだ。


 ん? この壺良くみると割れている。昨日の見落としがあったか。新しい壺に変えてやろう。


「ご主人さま終わったのです!」


「そうかそうか。偉いぞラビ。くり林は順調だったか?」


「みんな元気だったのです。ご主人さまは何しているのです? あっ、ミミズがいるのです」


 ほう、ミミズか。こいつは使えるかもしれないな。生ゴミを土に還すのに一役かって貰おうか。


「ご主人さま?」


「ああ、すまん。考えごとしていた。まだ、割れた壺が残っていたから移し変えていたんだ」


「ラビも手伝うのです!」


 ラビの申し出を受け、割れた壺の交換と水やりを手伝ってもらったので仕事が早めに終った。


「さて、コンポストを作りますか」


「コンポストとは何なのです?」


「生ゴミを肥料に変える道具だよ」


 壺に穴を開けるだけだけどな。


「ツバサ。そんな事しなくても、ゴミなら川に流して大丈夫だよ?」


「えっ? やだよ。空飛んでゴミ振り撒く城なしなんて最悪じゃないか」


「城なしが処分してくれるよ。トイレだってあるんだ。そのまま流すわけないじゃないか」


 なんと。城なしにはそんな機能があったのか。言われてみればそうだよな。人が生活すれば、ゴミの問題は必ず出てくる。前世でもはるか昔のゴミが出てきた位だ。貝塚とかね。


 それほどまでに人について回る問題なのだ。城なしがゴミ処理機能を備えていても不思議じゃあない。


「まあでも、コンポストは作るけどね」


「えっ? どうして? ツバサは城なしが信用出来ないの?」


「そう言う訳じゃないさ。言ったろう? 肥料に変えるって」


 流石に、生ゴミ肥料に変えても、全ての作物の栄養は補えないが無いよりは良い。


「それじゃあ、ちゃちゃっと作ってしまいますか」


 人差し指が入る程度の穴を開けるには……。こんぐらい魔力込めれば良いか。


 俺は壺の側面下部を狙い、魔法を放つ。


「【放て】」


 よし、穴が開いた。この穴から抜けた水分は液体肥料になる。薄めて撒くのだ。だが臭うので今は木片突っ込んで栓をしておく。


「この中にゴミを入れるのです?」


「うん。土を一緒に入れるけどね」


「結局埋めるのかのう。何が違うのじゃ?」


「変わらんよ。土の中で起こっていることをここでやるんだ」


 うーん。原理は同じで微生物に食わせて土に還すんだが……。微生物の説明なんてどうしたもんか。微生物何て知らんだろうし。


 てきとうで良いか。


「おまじないみたいなもんかな。こうしてひと手間加えることで、植物に害が及ばなくなるんだ」


「ほう。そういうモノかのう」


「早速ゴミを埋めるのです!」


「あっ、乾燥させてからね!」


 ヘドロはトラウマだ。水分にだけは気を付けねばならない。


「今は土とこいつらを入れておこう」


「ミミズを入れるのです?」


「ああ。こいつらを入れると早く土に還るんだ」


 ミミズの糞は良い肥料になるしな。


 取り合えず生ゴミの処理については目処がたった。さつま芋が収穫できると凄まじい量のゴミが出るのだが。


 それはその時考えれば良いことだ。

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