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三話 ワンコが現れ語りだすと

“仲間のところへは戻れない”


 その事実は死神のように、希望を奪い絶望をもってやって来る。仲間との再会は困難であるとは思っても、不可能だとは思わなかった。


 何だこの喪失感は。まるで、仲間が死んでしまったかのような気分だ。


「おーい!」


 それに申し訳ない。


 きっと仲間は今も俺を探していて、これからも俺を探すんだ。せめて“戻れない”たった一言伝えることが出来れば、こんなにも自責の念にかられることは無かったのに。


「ねえ、こっちの世界に戻ってきてよ」


 不安でもある。


 これから一人でどうやって生きていけば良いのさ。 地上は魔物がウヨウヨしているんだ。とても長生きできる気がしない。


「ボクの話を聞いてってば!」


 再び毛むくじゃらにみぞおちを頭でどつかれた。


「げふっ……。コレ、結構効くんだけど……」


「君は変に丈夫だからこれぐらいしないとダメじゃないか」


「ああ、【落下耐性】だな」


「らっかせい?」


 この世界にもあるのか落花生。


「食べ物じゃあないよ。俺は空から落ちても死なない様に出来ているから丈夫なんだ」


「へー。そうなんだ。それより、君が仲間と再会をする方法がないこともないんだ。それを伝えようと思ったんだけど」


「方法があるのか!? いや……。海を頑張って渡るのか? 森の上を飛んで迷子になる俺にそれはむずかしいぞ?」


 地図や方位磁石のない状態で海の上なんて飛べる気がしない。しかも、飛べるようになったばかりだ。海の上で途方に暮れるのが精々だ。


「違うよ。ちょっと突拍子もない方法だから話は長くなるけど……」


 そんな前置きをして、「オホンっ!」と咳払いすると毛むくじゃらは口を開いた。


「元々この空飛ぶ島は神さまが、地上を人が住める様に調整する間、一時的に人を乗せておく場所だった──」


 パタパタはゆっくりと、俺の前を行ったり来たりしながら語り始める。


 なんだか昔ばなしが始まってしまった。


 俺は途中何度か眠りかけたが、何とか最後まで頑張って耐えた。


 話を要約すると──。


 城なしは人々を驚異から隔離する避難所だった。でも、意思や感情を持ち合わせている。その為、人々に忘れ去られるとヘソを曲げてしまった。


 そこで、俺がここに住み、城なしと仲良くすれば仲間のところへ向かってくれるかも知れない。


 ──との事だ。


 えっ、俺ここに住むの?


「待て待て。俺にはそんな悠長な事をしている時間は無いぞ?」


「じゃあ、他に方法があるの?」


「うぐっ」


 少し挑戦的に、そしてやはりイヤらしく聞き返してくる。


 ぬう。他に方法何て思い付かない。仕方がない。コイツの提案に乗る他に道は無さそうだ。


「わかった。ここで暮らす」


「えっ? いいの!?」


「ああ、とは言え、本当にここで暮らすだけで打ち解けられるのか?」


「うーん。自信はないかな?」


「よし、俺やっぱり地上にもどるわ」


「えっ、待って! きっと、きっと大丈夫だから!」


 なんて冗談もほどほどに城なしで暮らす運びになった。


「これから長いこと一緒に暮らすんだ。名前ぐらいは教えてくれよ。俺はツバサだ」


「やったあ! あっ、名乗ってくれて嬉しいんだけどボク名前ないんだ……」


 毛むくじゃらは尻尾をぶんぶん振りだしたと思ったら直ぐに萎れた。


「なんだ。気にするな。ワンコって呼ぶからいいよ」


「えーっと、あのさ。君の言う城なしってこの島の名前だよね?」


 チラチラとこっち見てあからさまな催促。名前が欲しいのか。でも、そんなんされたら、少しからかいたくなる。


「じゃあ、エロ犬なんてどうだ?」


「すっごく嫌だよ!?」


「じゃあ、イヤらしいワンで」


「それ名前なの!?」


 半べそになってしまった。犬でも半べそになるんだな。これ以上からかうのは可哀想だ。真面目に名前を付けてやろう。


 はて、コイツはオスメスどっちなんだろうか? どれ調べてみるか。足がじゃまだな。持ち上げてっと。


「お前おっもいな! 足あげさせるのにものっそい力いるわ。どれ、生えてるかな?」


「なっ、なんてことしてるのさ!? ハレンチ過ぎるよ!」


「えっ、その、オスかな、メスかなって……」


「そんなの非常識にも程があるよね? それともボクの知らない間に人類は互いに股を開きあうことで性別を確認する文化でも出来たの?」


 そんな文化は嫌だ。


「でも、お前人類じゃないし……」


「バカー!」


 パーン!


 肉球による平手打ちが俺の頬に炸裂する。


 なんて器用な真似をするんだ。それに肉球があたったのに首がもげるんじゃないかってぐらいの威力があるんだけど……。


「言葉を話して、感情を持つボクをみてその辺のワンコと同じ扱いをするっておかしいよね?」


「でもお前誇りなきオオカミでワンコなんだろう?」


「誇りはなくても羞恥心はあるからね!? そもそも言葉が通じるんだから聞いてくれれば答えたよ」


 ごもっとも。つい、犬扱いしてしまった。


「それに性別なんてなんに使うのさ? ボクに性別なんてないよ?」


 性別がないのに羞恥心はあるのか。それも変な気がするけど、更に説教されそうな気しかしないから黙っておこう。


「オスならオスっぽい名前。メスならメスっぽい名前を付けるよ。性別がないとなると……」


「そうだね。人間はそうだったね。じゃあ、メスっぽい名前だと君にイヤらしい目で見られそうだしオスっぽい名前でお願い」


 コイツは……。


 ひとつひとつ確実に応酬していくタイプか。しかしどうするかな。名付けのセンスなんてない。神話のワンコから名前を拾ってくるか。


「スコルなんてどうだ? どこぞな神話に出てくるオオカミの名前なんだが」


「神話? んー。ボク神さま嫌い。ボクを忘れたから。城なしみたいに雑な感じでいいよ?」


「雑な感じって……。じゃあ、そうだなあ」


 犬、オオカミ、白い、毛むくじゃら。うーん。イマイチ連想できない。


「マダー?」


 悩む俺をよそに尻尾を振って催促してくる。


 あっ、尻尾!


「じゃあ、お前の名前はパタパタだ!」


「んー? なにか由来とかあるの?」


「俺のいた国にあるハタキと呼ばれる掃除道具に尻尾が似てる。そんで、その道具を振るうときにパタパタするって言うんだ」


「それでパタパタ?」


「うむ。更にお前には誇りがないらしいからな。ハタキはホコリをキレイに払う道具だしぴったりだ」


「ふーん?」


 気に入ったのか気に入らないのかイマイチ分からん返事だ。どっちなんだい。ああ、尻尾をさっそくパタパタ振ってるわ。気に入ったんだな。


 コイツわかりやすいぞ。


「この名前でいいのか?」


「うん。そんなヘンテコな名前なら、君の寿命の数万倍生きても忘れない気がするもん」


「えっ? そんな余命残ってんの!?」


 もしかして、初期の頃に生まれたから作りが甘いのか? コイツ調整から漏れてない? なんだか悪い予感がするんだが、一緒に暮らして大丈夫か?


 いや……。


「じゃあ、これからヨロシクね。ツバサ!」


「ああ、ヨロシクな。イヤらしいワン!」


「ちょっと!? ここは真面目に名前を呼ぶところだよ!?」


 照れくさくてそんな事出来るか。それにお前も満更じゃあ無いんだろう? 尻尾を振っちゃってるじゃないか。


 コイツは嘘がつけないな。


 これなら、本当に信用しても大丈夫だろう。もっとも仲間に再開できるかまではわからないが……。


 それに再会出来たとしても時間が掛かりそうだ。少しでも早く城と仲良くなるために努力しなければ。


 なにをどうやって努力すればいいのかまったくわからんがな!


 そんなわけで俺とパタパタ。そして、城なしとの奇妙な生活が始まった。

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