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二十一話 お魚の為に小池も作った

 その巨体は、あらゆる生物を凌駕しうる。地上に下りることが叶うなら、それらの頂点に立つのも容易いことだろう。


 だが、瞳からは、そんな野心は伺えず、枝を指で摘まむ様子は、白狼、大狼の形容を冠するその姿には相応しくない。


 腰を降ろしながら前足をのばし、枝を立て、枝を結び、枝を掛ける。


 そんなワンコが一匹。

 

「よーし。ねえ、ツバサ。テントはこんな感じでいいのかな?」


「ああ、助かるよ。回を増すごとに手慣れてきたな。こんなボトルシップ作るような真似を良くできるもんだ」


 体が新居に収まらんから、前足だけ突っ込んで作業するしか無いと言うのに。


「へへー。もっと褒めて褒めて!」


「パタパタ偉いのです!」


「よーしよーし。良いこじゃあ。良いこじゃあ」


 シノがパタパタの喉を雑になで回す。


 ネコがイヌ褒めてあやすとは、なんとも不思議な光景だ。それはさておき俺たちが、なにをしているのかと言うと──。


 吹けば飛びそうな木の枝の家から、しっかりした石造りの家に成り代わったのはありがたいことだ。しかし、屋根がない。


 そこで、取り合えず新居の中に以前の住居を皆で立て直していたのだ。いやまあ、皆でとは言え、ほとんどパタパタがやったのだが。


 ハウスインハウス。なにやら、本末転倒な感じがしないこともない。しかし、屋根がなければみんな揃って干物になってしまうから仕方がない。


 次は屋根を優先で頼むぞ城なし。


「床がゴツゴツしてないので気持ちが良いのです!」


「葉っぱの床は体が痒くなるしのう」


「また、明日も石を拾ってこよう」


 野菜も欲しいところだ。日出国は、日本に酷似しているので、育てたことがある野菜も見つかりそうなものだが、なかなかそう都合良くはいかない。


「キラキラした石も……。探すのです……」


「ラビはもうおねむか。それじゃあ、今日はもう寝るとしよう」


 今日もあっという間に一日が過ぎた。城なしから飛び立ち、地上から必要な物を集めて暮らす質素な暮らしだが充実しているのだろう。


 俺にはこう言うのが性にあってるのかも知れないな。

 

 さて、これから、皆でオヤスミするわけだが、ここでひとつ願望を叶えたいと思う。


「俺がこっちの端で、シノが真ん中。ラビが反対側の端っこで寝ておくれ」


「わかったのです!」


「そっちだと、頭が北を向くのじゃ。逆に寝転がった方がよいのう」


 北枕か。縁起が悪いとかそんな感じだったか? 知らん。知らんが、指摘されると気になるな。素直に北に足向けて横になるか。


 そして、俺とラビでシノを挟むようにして川の字に寝る。


「いったい何が始まるのです?」


「いや、こうやって並んで寝るのが夢だったんだ」


「主さまは変り者じゃのう」


 そうかも知れない。しかし、たかが並んで寝るだけとは言うなかれ。


 俺はこれをやってみたかった。家族で川の字になって寝る。ママンはいないが、娘の様な二人との川の字でも良いだろう。


 満足だ。きっと良い夢が見られる。


 ところが──。


「ご主人さまが遠いのです」


「寝るときはネコの姿の方が楽にゃのじゃ」


 ラビは俺にくっ付きたがって、シノは俺に乗っかりたがって、結局いつも通り団子になってしまった。


 まあ、いいかな。これはこれで悪くないし。好かれている証だろう。


 ラビとシノが寝るまでそっと頭をナデてやった。



 翌日。



「チュン、チュン。チチチ……」


 すっかり、上手に鳴けるようになったすずめの声で目覚めた。


 朝か。まだ薄暗いけど、今日は早く出たいな。石を早めに集めて、探索を……。


 ぐぅ……。


「ご主人さま、朝なのです!」


 おっといかん寝てしまっていた。何だかまただらだらとした朝になってしまう気がしてならない。しかたない、裏技を使おうか。


 俺は息を止めた。


 こうすることで体を緊張させ、一気に頭を覚醒させるのだ。


「ぷっはー! はあ、はあ、はあ……」


「な、何をしてるのです!? あっ、でも今日は目ざめが良いのです」


「やらなきゃならない事があるから気合いを入れたんだ」


 今日もシノは腹の上か。寝返りとか結構危ないと思うんだけど、忍者だから大丈夫なのか? まあ、このままじゃ危ないからどけさせてもらおう。


 俺は腹の上に寝ているシノを持上げ、壺にしまい、猫鍋ならぬ猫壺にすると支度を始めた。


 そして、朝食を終えたら直ぐに空の上に揚がる。


「あー。陸の向こうに海が見えるのです……」


「なんじゃ、がっかりそうな声を出して? ラビは海が嫌いかのう? 海は良いものじゃぞ?」


「シノ。城なしは移動しているだろう? 明日にはもう日出国から出てしまう。そうなるとしばらくは、海上が続くから地上に降りれなくなるんだ」


「あっ。ぬかっておった。そりゃ、そうじゃな。しかしずっと海だと暇になるのう」


 まあ、やることはあるのでどーにもならんぐらい暇になると言うことは無いけどな。


 さて、今日は、あの滝辺りに降りようか。


 あんまりでっかくて、チョロチョロと水が流れる程度だから、滝っぽく見えないな。


 と、上からだとそんな印象をうけたのだが、降りてみれば、結構な勢いで水が流れ、しっかりと滝の体をなしていた。


「水が澄んでいるのです」


「おおっ、魚がおるのじゃ。わぁは魚を捕ろうかのう」


「そうかそうか。たくさん捕ってくるとありがたいな」


「任されたのじゃ」


 バナナばかりだったし、魚を持って返るのも良いだろう。


 ラビは猫だから魚を捕るのが上手そうだ。いや、猫って魚を捕るもんだっけか? 盗るならわかるが……。


 まあいいや、任せてしまおう。


「俺は石を集めるから、ラビも自由に過ごすと良いよ」


「ラビはご主人さまのお手伝いをするのです」


「ひとりで大丈夫だから、好きなことに時間を使うと良い。お手伝いばかりじゃ疲れてしまうよ?」


「うーん。それなら綺麗な石を探したいのです」


 ラビは綺麗な石探しか。昨日の石広いで趣味に目覚めたのかな。それぞれ自由に楽しむといいさ。


 バシャバシャと川に入って魚と格闘するシノ。しゃがみこんで、石とにらめっこするラビ。そんな二人を横目に俺は石を端からウエストポーチに突っ込むと城なしに持ち帰る。


 今日もまた、二人を地上に残して、一人地上と城なしとを往復することになったが、特に問題は起きなかった。


 そして、三度目の往復を終えたところで食事をせがまれる。


「主さま。そろそろ、お昼にするのじゃ。魚もたくさん捕れたでのう」


「そうだな。もう、そんな時間か」


「おシノちゃん、本当に魚を捕るのが上手なのです!」 


 どれどれ。ほほう、これはこれは。たくさん壺に魚が入っているが、何て名前なのかまでは分からんなあ。


「シノ、この魚はなんと言う名前なんだ?」


「ヤマメなのじゃ。焼いて食うと旨いんじゃぞ」


 これがヤマメか。アユ、イワナ、ニジマスと一緒に名前だけは知っているが、見分けがつかないシリーズの一員だ。


「じゃあ、焼いて食べようか、ラビとシノは焚き火の準備を頼むぞ」


 二人に火の支度を任せ、俺は下ごしらえに取り掛かる。


 俺は元ニートだ。魚ぐらい捌ける。とはいえ、生きた魚を捌くのは初めてだ。


 えーと、先ずは絞めなきゃならんから、エラにナイフを入れて……。


 びちびちびち。


 ええい。活きが良くてやりずらいな。一思いにやってしまおう。


「せいっ!」


 びくんっ……。


 後はわただして処理を終えたところで塩をふり、焚き火のまわりに並べてみんなで囲むだけ。それだけだが、俺はこれをやってみたかった。


 川魚を調理するならこうだろう。


「良いニオイがしてきたのです」


「やはり、魚は良いのう。魚は焼き魚に限るのじゃ」


「ああ、きっと旨いぞ」


 くるくると回しながら、しっかりと火を通す。脂がしみだし、ポタリポタリと火中に落ちる度にかおりが沸き立つ。


 ふむ。表面が焦げ目が出来て、パリパリになってきた。


 もうそろそろ良いかな。


「もう食べて大丈夫だよ。でも、火傷には気を付けてね」


 手にとって渡すなんてのは野暮ってもの。焚き火に刺したのを直接取るのが良いのだ。


「あふいのれす。でも、美味しいのです」


「ラビよ。ふーふーして、食べるのじゃ」


「うん、旨い」


 脂はあまり乗っていないが、身は引き締まっていて臭みがなく、旨味は濃い。これは、絶品。是非とも城なしで養殖したい。

 

 そんなわけで、食事を終えると城なしに戻り、池を作ることに決めた。のだが、ラビから待ったが入る。


「あの、ご主人さま、これをあげるのです!」


「おおっ。これは綺麗な紫水晶じゃないか。天辺の紫から根本へ向かって白に変わるグラデーションがいい」


「ラビよ。良いのか? その石はお主のお気に入りじゃろう?」


 おや? 良いのか貰っちゃって?


「良いのです! ご主人さまの為に探していたし、おシノちゃんの様にお魚捕ったりできなし……」


「そうかラビ。ありがとう大切にするよ」


 なるほど、これは受け取って良いやつだ。


 なんかしなきゃって、気にしてしまったか。なーんもせんでも愛でてあげるんだがなあ。そもそも、奴隷=お姫さまのはずなのだが……。


 シノが加わった事で、心で揺れる何かがあるのかな?


「それじゃあ、俺はまた城なしに戻るとするよ」


「あまり無理しちゃダメなのです」


「なあに心配はいらないよ。元々ご主人さまは、怠け者なんだ」


 それこそ、十年単位で怠けるほどだ。ちょこっと気を緩めるだけで、おっさんになるまで怠けかねない。


 まあ、それはそれとして、楽しい食事とラビのサプライズを受け取った俺はひとり城なしに戻った。


「今度はツバサ何するの?」


 戻れば、パタパタが出迎える。


「ん。池を作ろうと思ってな」


「川も海もあるのに?」


「海は海水だし、川は魚がトイレに流れちゃうだろ」


 似たようなものに見えるし、スペースの無駄かと思われたかな。 魚を水源に直接放り込むなんて選択肢もあるけど、水が汚れそうなんだよな。


 綺麗な川に住んでいるとはいえ気になる。


「パタパタは反対か?」


「ううん。城なしも色々なモノがあった方が喜ぶと思うし、良いと思うよ。ただ何が違うのかなって気になっただけ」


「そうか。なら、作らせてもらうぞ」


 魔法で穴を開けるが許せ城なし。

 

「【放て】」


 海を作った時と同じ要領で城なしに穴を開け、川底から拾ってきた石や藻を敷いた。今度もまたサイズ調整は城なしがやってくれるだろう。


 本当は川が良いのだけど。城なしに川の魚と海の魚の違いは分からんだろう。海に繋がれても困るし、川をトイレに繋げられても困る。


 取りあえず、これで様子を見よう。果たして魚は増えてくれるだろうか。


 うまく魚が増えるようにお祈りして、俺は再び地上を目指した。

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