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十五話 持ち帰りアイスで懐柔し

 シノとの話合いの為、いつかの様に城なし作の壺をイスとテーブルにし、輪になって座る形にした。上座がどっちか。なんてのはわからん。ここは屋外だ。


 それでも、なんとか、知恵をふるい、先に好きなところに座ってもらって誤魔化した。


 はて、今度はアイスを出すのだが、右から出すんだったか、左から出すんだったか……。やれやれ、なんだか高級旅館の配膳役を任された気分だ。


「なんだかご主人さま落ち着かないのです?」


「ん? あー。まあな」


「む? わぁに何か粗相があったかのう?」


「めっ、滅相もござらん!」


 ぬう、やらかした。ござらんってなんだよ……。


 この子、なにやら見えないピシッとオーラ見たいのが出てて、ちゃんとしないとって気持ちになる。だから、プレッシャーがすごい。


 背筋をまっすぐ伸ばして、壺の上に正座してるし。まあ、右側に立つと利き手を塞ぐ形になるから多分左側から出せばいいのだろう。


 刀を抜くときは右手だったしな。


「ふむ? これは、おからかのう?」


 どことなく猫の様な瞳で、まじまじと出されたものを見つめながら問いかけてきた。


「いや、アイスだ。冷たくて美味しいぞ」


「あいす? 冷たい? ふむ。初めて聞く食べ物なのじゃ」


「そうかあ?」


 転生者は俺だけじゃないし、アイスくらいなら、広まっていそうなもんだが。


 おっと、俺が席に着くまではアイスを口に出来んか。生まれも育ちも良さそうだ。衣服は露出が激しいのに不思議と下品には見えないんだよな。


 まあ、さっさと配って席に着くとしますか。


 しかし、俺が席についても食べようとはせず、皆が食べ初めてようやくスプーンに手を伸ばした。


 だが、一口食べればあら不思議。ピシッとオーラがどこぞに吹き飛ぶ。


「こっ、これは何なのじゃ!? 口のなかでとろけては広がり、舌に濃厚な甘みを残しては消えていく。こんな食べ物食べたことないのじゃ!」


「そうかそうか。それは良かった」


 三つ編みにした髪を揺らしてはしゃぐ様を見る限りでは、もう、自殺とかは考えてはなさそうだ。


「さて、そろそろ、挨拶ぐらいはしておこうか。俺たちは──」


 先に俺たちについて話すことにした。城なし、パタパタ、ラビ。そして、俺自身のこと。


「ほう、世界の食べ物を集めて育てたり、生き物を育てたりしているのか。何とも面白そうな道楽じゃのう」


「さつま芋とトマトとバナナと海なのです!」


「まだ、俺たちの旅は始まったばかりだから、大したものは無いけどね。って、一番の目的は仲間との再会だぞ」


 とは言え、ラビに色々食べさせたいから、大いに越したことはない。まだまだ少なすぎるのだ。もっと色んなモノを植えたいな。


「この国からも何か持っていくのかのう?」


「そのつもりだけど何が良いだろう? あ、この国は、日本と言う国だったりするか?」


「んー。米かのう。ちと、ここでは、栽培が難しそうじゃがな。しかし、日本とは面白い呼び名じゃな。日の本で日本か。あながち間違いではないのう。ここは日出国ヒイズルクニというのじゃ」


 日出国って日本じゃないか。米が後押しして尚更日本だ。しかし、やはり米かあ。田んぼとか分からんし、育て方も分からんなあ。


「それにしても、あいすは甘くて美味しいのう」


「それは良かったんだが、もう自殺は良いのか?」


「い、いや。違うのじゃ。わぁだって死にたくは無かったんじゃが、捕まったら酷っどいことされそうじゃったから、やむを得ず、飛び降りたのじゃ」


 じゃあ、もう心配しなくて良さそうかな。


「まあ、何があったかはこれ以上聞かないさ。名前ぐらいは聞いておきたいけどね」


「ぬっ。わぁとしたことが、名乗るのを忘れておったか。わぁはシノじゃ。皆はおシノと呼んでおったのじゃ」


「そうか。シノか」


 名前を聞いてみたは良いけれど、考えてみれば直ぐにお別れになるかもしれないんだよな。状況が状況だから城なしに連れてしまったが──。


 よし、意思の確認はしておこうか。


「なあ、シノ。今なら地上に戻ることが出来る。戻りたいなら送り届けるがどうする? もちろんここにいたいと言うなら歓迎するぞ」


 既に隣の県……。いや、日出国では藩か? 知らんわ。とにかく、結構な距離は離れてしまっているとは思うので、正直帰すのはめんどくさい。


 だが、シノが望むなら帰してあげたい。


「わぁにはもう帰る場所など……」


 シノはそう言って、ふっと眉根を下げて哀しげな表情をしてみせるが、それも一瞬の事。


「そうじゃのう。ここに居れば毎日あいすが食べられそうなのじゃ」


 直ぐに表情を戻しておどけて見せた。


「そうか。それじゃあ、今日から家族として──」


「うむ。この拾って貰った命のご恩。あるじさまに懸命に仕えて尽くすことで返そう」


「いや、家族とか、娘みたいな感じで……」


「どうか、よろしく頼む」


 そう言ってシノは壺から降りて正座すると、城なしに両手をつけて丁寧に深々と頭を下げた。


 あっれー? アットホームな感じの温かい関係を築き上げたいのに、家臣が出来てしまいそうだぞ? ラビの奴隷といい、俺の明日はどっちに向かってるんだ?


「ぬ? だめかのう。仕方がない。ならば、そこな兎と同じ奴隷でも……」


「そ、それはもっとダメなのです……。奴隷はそんなに簡単になれるモノじゃないのです……」


「なっ、なんじゃと?」


 そして始まるラビによる謎の奴隷談義。


 まあ……。いいか。押し付ける様なもんでもない。色々な事情もあるだろうし、シノの好きにさせてあげよう。


「わかったシノ。今日から俺はシノの主さまだ」


「あい任されたのじゃ。しかし……。良いのかのう? よそ者のわぁをそんなにほいほい信用してもらっても……」


「構わないよ。例え、シノが、悪魔や、魔王、魔物や妖怪でもね」


 なんたって、女の子だしな。女の子に悪など無い。安心しておくれ。


「よ、妖怪でも……。妖怪でもじゃと!?」


 ところが適当にぶっこいた言葉に、たいそう驚かれてしまった。


 うん? オーバーに言い過ぎたか? 本当になんだって構わないが……。いや、そもそも妖怪がいるのかこの世界に?


 シノは巫女っぽいしなあ。いるのかなあ。


 と言うか、悪魔だ妖怪などと、女の子にかける言葉じゃないか。


「すまん。俺の言葉に嘘はないんだが、例えが失礼だったかも知れん」


「あ、いや、その……。何でもないのじゃ! それより、あまり、他の者には歓迎されていないようじゃが大丈夫かのう?」


「うん?」


 言われてラビを見やれば、この世の終わりとでも言わんばかりに悲壮な顔をし、パタパタを見やれば、何やら鼻にシワを寄せてクンカクンカと臭いを嗅いでいる。


 いったいこれはどうしたことだ。


 かたっぽずつ聞いてみよう。


「ラビ。なんだってそんな悲しい顔をしているんだ? シノをここに置くのは嫌か?」


「嫌じゃ……。ないのです。でも、ご主人さまは、ラビのご主人さまではなく、おシノちゃんの主さまになってしまったのです……」


「あー……」


 なるほど。そう言う捉え方をしてしまったのか。俺がラビのご主人さまでは無くなってしまたったと。ふむ。ならば……。


「そうだラビ。ラビのご主人さまは主さまになった」


「ご、ご主人さま!? ラビはいらない子なのです!?」


「まあ待て。この話はそこで終らない。そして俺はご主人さまをやめたわけではない。これは兼任だ! とても光栄なことだぞ」


「け、ケンニン!? コウエイ!?」


 よしよし、良い感じに食いついてきたぞ。


「そう。兼任。ご主人さまでありながら、

主さま。つまり、より凄いご主人様にグレードアップしたのだ!」


「ぐれーとだっぐ! わっ、わかったのです! つまりご主人さまは、とてもすごいご主人さまになったのです!」


「そうだそうだ。そんな感じだ」


 グレードアップが良きアヒルなどと言う、謎の変貌を遂げているのには触れずにおこう。


 さて、次だ。


「で、パタパタは何をそんなに熱心に嗅いでいるんだ?」


「んんー……。えーっとね、なんかこの子臭うんだ。人類の臭いとはとても思えない感じのやつ?」


「おっ、お前女の子になんて事言うの!?」


 俺にはそんなおぞましい臭いは感じられない。


 やれやれ、せっかく良い感じに話がまとまって、これから仲よくやっていけそうだっていうのに。まったく……。


 また切りかかられるぞ。


「なに、わぁは気にせぬ。初めから、皆と仲よくやっていけるとは思っていないのじゃ」


 しかし、シノは顔色ひとつ変えずに平然として言った。


 怒ってないのかな?


「いや、でも……」


「駄犬のしつけにも心得があるので、わぁに任せてほしい」


 あっ、やっぱり怒ってらっしゃる。パタパタの過失10割りだと思うので好きなだけしつけてくれ。


 俺は知らん。


「わー。しつけって何するの? なんだか楽しそうだね」


「動じないなお前……」


「んー?」


 いや、首をかしげられても……。まあ、うまくやってくれそうか。


 そんなこんなで、城なしに新たな住人として、シノが加わった。


 ラビと同様にたくさん愛でてあげよう。


 まだ日が落ちるには時間があるな。体も休まったし、もう一度地上に降りてみるのも良いだろう。


「さて、俺はもう一度探索しに地上に向かおうと思うがどうする?」


「ラビは一緒についてくのです!」


「ああ、一緒に行こう。もう、だいぶ移動したと思うけど、シノはここに残るかい?」


 残ってパタパタをしつけるのも良いだろう。


「いや、わぁも行くぞ。主さまが行くのに、わぁが行かない訳にはいかんしのう」


「別に無理しなくて良いんだぞ?」


「ご主人さま。ラビとおシノちゃんが一緒だと抱えるのも大変なのです」


 そうなんだよなあ、二人を毎回抱えて空を飛ぶのはしんどいんだよなあ。かといって、一人ずつ運ぶのも手間だしな。


 どうしたものか。


「ん? わぁは空を飛べるぞ?」


「えっ?」


 シノはさも当たり前のように言ってのけた。 


 なに? 巫女って空飛べるモノなの? ホウキのかわりに、ハタキに跨がって飛ぶとか? 理不尽な飛ばれ方されたら、俺の立場がないんだが。


「まあ、見ておれ……。忍法【大凧の術】!」


「ちょっ、忍法って……。シノは巫女じゃないのかよ!?」


「巫女は仮初めの姿なのじゃ。忍びだと分かるような格好を忍びがするわけなかろう」


 全くもってその通りなんだが、釈然としない。


 まあ、この飛び方は納得出来るか。してやったりと嬉しそうに両手でお大凧掲げおってからに。その大凧を使って、凧上げの要領で飛ぶんだろう。


「忍者だったとはなあ」


「ん? 巫女の色気に騙されたかのう? スケベな輩はこういうのに弱いのじゃ」


「いや、女の子がそんな格好をしちゃダメだから……。コラコラ、チラチラ裾めくってイタズラに男を煽るんじゃあない」


 というか、忍者なんてやらせちゃダメだろう。暗殺とかするんでしょ? そんなのはダメ。ダメなのだ。何とかしないと。


「おシノちゃん、その四角いのでどうやって飛ぶのです?」


「こうやって、この大凧に張り付いて飛ぶのじゃ」


 シノはラビに手にもった凧を自分の背に当てて見せた。


 これを俺の腹に大凧を縄で結んで飛ぶらしい。シノが、自信満々だったので試してみる事にした。


 早速、空の上へ。


「主さまは凄いのう! 主さまと一緒ならどこまでも高く飛べそうなのじゃ!」


「そんなんで、飛べるシノが凄いわ」


「んー。ラビには見えないのです!」


 しかし、コレ飛んでるというか、牽引しているというか、不思議体験すぎる。


 【風見鶏】を使っているので、俺にはシノの様子が見える。縄にぶつかる風を辿って見るのだ。


「俺は高いところから、飛び降りないと飛び上がれないから、あの山の崖の上におりるぞ!」


「承知したのじゃ!」


「お耳がびりびりするのです」


 空を飛んでいると声が流れてしまうので、どうしても大声になってしまう。ラビは俺が背中から抱えているので、 耳に響いてしまうみたいだ。


 次からは、シノとジェスチャーでやり取り出来るように打ち合わせておくかな。


「よし、着地できた。シノは大丈夫かな?」


「おシノちゃん、くるくる回って着地を決めたのです!」


「どうじゃ? 忍術は便利じゃろ」


 確かにな。まさか、こんなんで忍者が空飛んでいたとは驚きだわ。


「さて、主さま。話によれば、あそこで暮らす限り、金はもう必要なくなりそうじゃ」


「ああ、俺は人里に降りられないからな」


「では、パーっと使い果たしてくるのでここで待っていて欲しいのじゃ」


 なるほど。城なしには何もないからな。これからの生活に必要な物を買い漁って来るんだろう。


「わかった。それは構わない。けど大丈夫なのか? 追われているんじゃないのか?」


「なあに、変身するから大丈夫なのじゃ。そりゃっ!」


 ボンッ!


「ち、宙返りしたらシノちゃんの服装が変わったのです!」


 そうか、忍者だもんな。変装は朝飯前か。でも、骨格レベルで変われるモノなのか? まるで原型留めていない村娘に化けたんだが。


「それじゃ、主さま。行ってきます。お土産期待しておいて下さいね!」


「口調だけでなく、声色まで変えられるのか。これが本物忍者……」


「行ってらっしゃいなのです!」


 シノは元気に手をブンブン振るうと、とんでもない早さで山を下っていった。


 ありゃ、性格も変わっとるな。忍者には驚かされてばかりだ。しかし、そうなると何故追われる身になったのかが分からない。


 いくらでも、誤魔化せそうなもんだが。


「ご主人さま? ぼーっとしてるのです」


「ん? ああ、考え事をしていたんだ。シノは不思議なやつだなってな」


「はい、おシノちゃんは不思議な子なのです」


 まあ、いいか。戻ってくるまでに目ぼしい物がないか見て回ろう。しかし、日本て何があったけか。日本の様な場所だし、自生する植物も同じようなモノだと思うが……。


 しばらくそうやって、思い更けるが、米以外の日本の特産品が何だったかイマイチ思い出せなかった。

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