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十三話 しばらくの間のんびりと

 最初に訪れた時は何もなく、岩が空を飛んでいるだけだった城なし。そこに川が流れ海ができ、バナナの子株が並ぶ。


 そしてなにより今はラビがいる。


『城なしで暮らして仲よくなって欲しい』


 なんて、パタパタに言われたときはどうなる事かと思ったが、なんとかなりそうな気さえする。


 だから、今日もラビを小脇に、城なしから飛び立ち新しい発見を求めゆく。


「やっぱり海かー」


「また海がやって来たのです」


 しかし、雲の下には海が広がっていた。これでは探索はおやすみ。ザンネン城なしにトンボ帰りするしかない。


 そう、いつもなら。


 だが今日は違う。


「よし、それじゃあ、予定どおりお空の上でおやつを作るとするか。直接壺に触ると手がくっついたり、火傷してしまうから気を付けてね」


「いっぱい気を付けるのです! でもこれで美味しいおやつなんて本当に出来るのです?」


 ラビは首を捻りお耳を揺らしながら、不思議そうに布越しに抱えた壺の中を覗く。中身はバナナジュースだ。


「もちろん出来るさ。何が出来るかは、出来てからのお楽しみだよ」


 と言うか、言っても想像出来ないと思うのだ。何故なら俺とラビが挑戦しているのは、空の上の極寒を利用した氷菓作り。


 きっと見たことも聞いたことも無いハズだから。


「木の棒でよーくまぜまぜするんだよ?」


「まぜませまぜまぜまぜ……。あっ、なんか粘っこくなってきたのです!」


「おー。もうすぐ出来るなあ。あと少し固くなったら完成だよ」


 うーん。空を飛んでいると、ラビの背中から抱きつくような形になるから顔が見えないんだよな。壺の中身を見詰める表情は、きっと驚きとワクワクでいっぱいのハズ。


 なのにそれを拝めないのはもったいない。


「ぬぬぬ……! 棒が回せなくなってきたのです!」


 バキッ!


「わわわわっ! ごめんなさい。棒が折れてしまったのです……」


「ああ、いいよいいよ。別に大したモノじゃ無い。それで完成だよ。城なしに戻って暖かいところで食べよう」


「わかったのです! でも、この棒……」


 まだ気にしているのか。周りの皮を削っただけの棒なんだが。


「この棒捨てちゃうのです?」


 あ、違う。折れた棒に付いたアイスが狙いか。しょうがないなあ。


「舐めていいよ。でも、くわえたまま着地すると危ないから直ぐにポイしてね」


「えへへっ。やったのです! ん……。んんー? 舌でとろけて、甘いのがじゅわって広がるのです」


「そうかそうか。それは良かった」


 始めてのアイスはお気に召したようだ。なごりおしそうにいつまでも棒をしゃぶっているラビが、つまみ食いを始める前に城なしに戻ろう。


「ご主人さま! 城なしに着いたのです! さあ、アイスを!」


「おおう。着地と同時にそれか。でも、まだ食べちゃダメだよ」


「えええええっ!?」


 なんて声だしよる。別にいぢわるするわけじゃないんだかな。つまみ食いで一番美味しいと思えるファーストインパクトは終えてしまった。


 このまま出してもつまみ食いの魅力には叶わない。


 ならば、ひと手間加えるべし。


「えーっと、これをこうしてっと……」


 刻んだバナナを混ぜ、バナナの葉に盛り付ければクリーム色のアイスに緑が映える。


「もう食べて良いのです……?」


「もうちょっと。これから仕上げに取り掛かる」


 薄くスライスさせ干したバナナを砕き、上からまぶす。ミントの葉やシナモンスティックが欲しくなるが今はこれが精いっぱい。


 でも、色んな味と食感が楽しめてきっと喜んでもらえるハズだ。


「ご主人さまあ?」


 おうおう。ラビは辛抱たまらんか。甘っころい声を出しおってからに。


 だが、俺はアレンジを加えたアイスをウエストポーチに入れる。


「なっ、何故アイスをしまってしまうのです!?」


「いや、折角だから、がんばって作った砂浜で食べようかと……。あっ、コラコラ足にしがみついたら歩きにくいよ」


「ラビはもう、ココで食べても良いと思うのです!」


 そんなにアイスが良いか。でもまだまだお預け。雰囲気も大事にしたい。


 途中でパタパタも誘い、そのまま足に張り付いたラビを引きずって砂浜に向かう。


 ふむ。周りに植えたバナナの子株は元気だな。葉が青々としてしっかり根づいてる。


「ご主人ざまあ……」


「はいはい。今、出すから自分の足で立っておくれ」


「ツバサ。いったい何をすればこんなになるの? この子にお酒飲ませた?」


 溶けたアイスみたいにまとわり付くラビを見て、パタパタが不思議そうに首を捻る。


「酒なんて持ってないし、持ってても絶対に飲ませないよ」


 発育に影響があるし、急性中毒が怖い。最悪殺してしまう。


「パタパタ。ラビを狂わせているのはこのお菓子だよ。しかし、砂の上に直接座ったらお尻が砂だらけになってしまうな。イスとテーブルを用意しよう」


「あああ……。またアイスが遠のいたのです!」


「ほらほら、すぐに終わるから哀しげな顔をしないでおくれ」


 砂の上に壺をひっくり返して並べ、イスとテーブルに見立てた。落ち着かないラビを座らせ、アイスとスプーンを置いてやる。


「きっと、まだなにか待ったが入るのです……」


「あらら、スネてしまったか。もう、食べていいんだよ?」


「本当に本当なのです……?」


 いかんいかん。なんだかラビは変な感じに疑り深くなってしまった。俺が一口食べれば安心するかな。


 アイスを載せたスプーンを自分の口元に運ぶ。ラビの大きくてまん丸な瞳がそれを追いかける。


 パクりっ。


 おっ、これは……。


「旨いっ! ラビが丁寧にまぜまぜしてくれたから粘っこくもふわっふわだ。舌の上でそれが優しく溶けて、口いっぱいに甘さが広がっていく!」


 そんな俺の言葉を聞いたラビはお耳をピンっと伸ばし、目を輝かせた。


「更に、干しバナナのくにくにした歯応えも楽しくていい味を出している。極めつけはゴロゴロのぶつ切りバナナで満足感もいっぱいだ!」


 どうだ? 食べたくなっただろう?


「ラビも食べるのです!」


 よしよし。スネちゃった気分は何処かにいったみたいだ。たんとお食べ。


 解き放たれたラビは力強くスプーンを握り、がっしがっしとアイスを口に放り込む。


「あっ、ラビ……」


 待ってと言おうとするも、これ以上待たせたらと思う気持ちがそれを止めてしまった。幸せそうにアイスをほお張っていたラビの顔色が変わる。


「んんー!? あ、頭がキンキンするのです!?」


「アイスは急いでたくさん食べるとそうなっちゃうんだ。ほら、ぬるっこいバナナジュースを用意しておいたから、これをお飲み」


 眉間にシワを寄せてぷるぷるしているラビの首の後ろに手をあてがって暖めてやる。


 最初にアイスを食べるときはキンキンさせるわな。


「んく……。ぷはーっ。アイスは難しいのです!」


 ラビはビシッとこいつが悪いと言わんばかりにアイスを指さし苦情を訴える。


「いやいや。ゆっくり、ちょっとずつ食べれば大丈夫だから」


 アイスに罪はない。


 そんなやり取りを見ていたパタパタが目をほそめ口元を緩めた。


「ふふっ。なんだか、おかしな食べ物だね」


「ん? パタパタも見ていないで食べなよ」


「うん。食べてみるよ」


 そういって、ベロりと舌でアイスを舐め上げる。


「んー……? とっても冷たいバナナジュース?」


「いや、アイスなんだが……。うーん。パタパタは顔がデカイから、すぐに溶けちゃってアイスを楽しめないか」


「えー。そこはせめて舌が大きいからっていってよ」


 次からパタパタには、バナナジュースを凍らせて人の頭ぐらいの大きさにした氷玉を用意してやろう。


「んふー。ごちそうさまなのです」


「うん。おそまつさまでした。今日はラビが手伝ってくれたおかげで上手くいったよ」


「ラビはまぜまぜしただけなのです。んっ。ご主人さま……」


 ラビが甘い香りをまとった息を吐きながらじゃれついてくる。


「しょうがないなあ。そりゃ、ナデナデじゃあ」


「んふぅ。甘いモノのあとのナデナデはカクベツなのです!」


 なんだそりゃ。でも、すりすりと顔を押しあて、幸せそうに甘えてくるラビを見ているとなんでも良くなる。


 俺はしこたまラビの頭をナデてやった。


 おやつを楽しみ一休みすると、やる気がみなぎってきたので、貯まっていたやらなければならない事を端から片付けることにした。


 何からはじめようか。土いじりを始めると汚れるからまずは塩からかな。


 幸せそうに惚けてるラビと昼寝をし始めたパタパタを残し、俺は砂浜を後にした。そして、かまどにたどり着くと、黙々と海水を壺に注いで火にかける。


 沸くのを待っている間は暇だな。そう言えばヒヨコはそろそろエサを食べられる様になっただろうか?


 気になったので、すく脇にある巣を覗いてみる。


「ひよひよひよひよ」


 この茶色いヒヨコに似たのをどこかで見た気がする。はて、どこだったか……。


「ひよひよひよひよ」


 おうおう。ちっちゃいカラダで大口開いとる。これならエサを食べてくれるだろう。


 ラビの集めた虫がみっちり詰まったおぞましき壺から、白くてぶっといカブトムシの幼虫に似たのを一匹取り出すと、刻んでヒヨコの前につきだしてやった。


「ひよひよひよひよ」


「食べないのです……」


「うおっ、ラビも来てたのか」


 背後から突然声をかけてくるからビックリした。


 しかし、どうしたものか。エサを食べてくれないと困る。ヒヨコの親鳥はどうやってエサをやっていたっけか。


 確か……。ツバメなんかは、えぐるようにエサをヒヨコの口に突っ込んでいたよな。


 あいにく俺には、翼があってもくちばしはない。まあ、仮にくちばしがあっても、虫の断片をくわえたかないわ。


 そんなわけで、細い枝の先端をナイフで削りさじ状にして、これを使うことにした。


 耳かきみたいだ。あ、耳かき欲しいな。取り合えずこれでエサを放り込んでやろう。


 そっとヒヨコの体を押さえつけて、口にさじを突っ込む。


 さあ、どうだ?


 パクり。


「食べてくれたのです! ご主人さま。ラビもヒヨコにエサをあげたいのです!」


「ああ、やっておあげ。ただし、そーっとやさしくだぞ?」


 乱暴にしないか少し心配だったけれど、ママになりきって上手くやってくれた。


 これなら大丈夫かな……。ん? なんだこれは。羽の付け根のところが膨らんできたぞ。


「ラビ。一旦エサをやるのを止めるんだ。やり過ぎると多分ヒヨコが破裂する。ほら、ココが膨らんでるだろう? あっ、触るんじゃあないぞ」


「はー。これは何なのです?」


「良くわからないが、頬ぶくろみたいなモノじゃないかな。ここが膨らんだらエサをやるのを止めて、しぼんでたらエサをやる事にしよう」


 親鳥もそうやってヒヨコの腹具合を把握しているのかも知れないな。


「んー。もうちょっとだけあげても平気な気がするのです!」


「いやいや、破裂するギリギリのラインを見極める必要なんてないからね。ほら、どうせまた後でエサをあげられるから。それより、他を手伝っておくれ」


「んんー……。わかったのです」


 なにやらラビは物足りなそうだがヒヨコはお腹いっぱいだ。


 このまま、ラビをココに残したら、「ヒヨコがパーンってなっちゃったのです……」などと言うことになりそうな気がする。


 そんな悲しすぎる大惨事はごめんなので、ラビをヒヨコから引き剥がしてかまどに戻った。


 ちょうど良い時間に戻れたな。海水が沸騰して白く濁っている。いい感じだ。


 別の壺を用意し、布でこしながらそれに沸騰した海水を移し更に火にかける。


「ラビ、壺のなかを覗いていてごらん。おもしろいものが見られるよ」


「ご主人さま。お湯がぼこぼこしているだけで、何も起きないなのです」


「もうちょっと。もうちょっとだから……」


「あっ! 何か白くてじゅくじゅくしたのが出てきたのです!」


「これがお塩だよ。しょっぱい調味料になるんだ」


 よしよし。お目めをまんまるにして驚いてもらえたぞ。こういう初めては楽しかろう。


 完全に水気を飛ばす前にもう一度布でこして塩とにがりに別ける。にがりは豆腐の材料になるが豆腐の作り方までは知らん。


 そもそも大豆がない。手に入ったら試行錯誤してみるのも良いかも知れない。


 後は塩を葉っぱにのせて、天日干しにして置けば良い。城なしは雲の上にいるから雨は降らないので、こういうときはありがたい。


「塩はこれで良いとして、次はいい加減芋とトマトの苗を植えないとな」


「ラビもがんばって畑を耕すのです!」


「ところがどっこい。ご主人さまは畑を耕さない。畑もクールに決めるんだ」


 なあに。土にただ植えるだけならはしゃいだりしないさ。苗は壺に植えるのだ。


「ラビ。危ないから少し離れていてくれ」


「いったい何を始めるのです?」


「壺の底に穴を空けて畑を作るのさ」


 ラビが収まりそうな大きさの壺をひっくり返して狙いを定める。絵が彫られているやつだと、城なしが可愛そうだから無地の壺だ。


「【放て】【放て】【放て】……」


 魔力を抑え、収束させた魔法は壺を貫き、小さな穴をぽつぽつと空けていく。そして、2個ほど穴だらけにしたところで魔力が尽きた。


 こりゃ大変だ。毎日魔法を魔力を使いきるまで使うのは辛い。まあ、なんに使うのかわかれば城なしが同じように穴の空いた壺を作ってくれそうな気はする。


「ここからは、ラビにも手伝ってもらおうかな。俺が壺にスコップで土を入れるから、そしたら、苗を植えてほしい」


「わかったのです!」


「よいしょっと。土はこんなもんかな」


 植物ってのはかなり深く根を張るものだ。だから壺にギリギリまで土を入れた。そして、苗を植えるための穴を土に空ける。


「いいかいラビ。こうやって、さつま芋のツルを輪になるようにして植えるんだ。さあ、やってごらん」


 普通は、ツルを垂直にして埋めるか、水平にして埋める。でも、壺という限られたスペースに埋めるのでこれで良い。


「葉っぱも埋めちゃうのです?」


「うん。葉っぱの付け根のところから根っこが生えてきて、それがは膨らんで芋になるんだよ」


「はー。さつま芋は不思議なのです!」


 案外、詳しく見てみれば、植物ってのは不思議がたくさんあるモノだ。


 よし、ちゃんと植え付けできたな。今日から毎日少しずつこれを増やしていく。どうせ、城なしに季節なんて無いんだ。収穫時期がズレてちょうど良い。


 いっぺんに大量にできたら処分に困る。


「はい、次はトマトだ。芽だけを引っこ抜いてしまうと弱ってしまうから、まわりの土ごと移してあげておくれ」


「はいなのです。一本で良いのです?」


「んー。三本植えて一番元気なやつを残そう。今、穴を三つに増やすね」


 近すぎると、根が絡まって間引く時に一緒に引っこ抜けたり、根に傷かできそるので十分に距離を取って穴を増やした。


「出来たのです!」


「よしよし、上出来だよ。しかし、やらなきゃなあとは思ってもなかなか手につかなかったけど、腰を上げたらあっという間に終わってしまったなあ」


「おひまなら、ラビとゲームしてあそんで欲しいのです!」


「それも良いかもな。しばらくはのんびりとすごそうか」


 仲間との再会。そして、その為に城なしと仲良くなるという目標はあるけれど、急いでばかりでも仕方がない。


 海を抜けるまでは、ラビと遊びながら、のんびりとすごそう。


 はてさて、海を抜けたら今度はなにがまっているのかな。

一章城なしまとめ

 施設

 ・かまど

 ・葉っぱハウス

 ・トイレ


 家畜

 ・茶色いヒヨコ


 海産物

 ・タコ

 ・ナマコ

 ・カニ

 ・ワカメ、昆布

 ・その他未確認のモノが多少


 畑

 ・さつま芋の壺畑

 ・トマトの壺畑


 果樹

 ・バナナ


 その他

 ・水源

 ・川:トイレ直行

 ・海


 女の子

 ・ラビ


 パタパタによる城なしとの最終仲良し評価


「どうだろ。“なんか飛んでる! なんだこれ? 近づいて見てみようかな”ぐらいじゃない?」


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