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十一話 二度と飢えまいと奮闘し

 着地のために高度を下げると、地上の様子が明らかになってきた。


 ほう……。綺麗なもんだ。これがエメラルド色の海ってやつか。砂浜でバカンスでも出来そうだ。それにしても熱いな。ここは熱帯か? バナナ生えてるし。


 バナナか……。


 ラビは朝ごはんを食べていないんだよな。早く降りてバナナを食べさせあげよう。


「ご主人さま。あそこに崖があるのです!」


「おお。直ぐに砂浜に降りられるところにあるな。さっそく降りてみよう」


 とにかくバナナだ。崖に降り立つと、すぐに砂浜に向かった。


「海の臭いがするのです!」


「そうだなあ。なんで海ってこんな臭いがするんだろうな」


 しかし──。


 靴に砂が入ったら嫌だな。脱ぐか。靴はウエストポーチに突っ込んでおけばいいだろう。そう考えて素足で砂浜に一歩踏み出す。


 ザクッ。


 ジュワッ。


 そんな音が聞こえた気がした。


「うわっ、熱い! ラビ待って砂浜に入っちゃダメだ」


 焼けた砂が足の裏を攻めてきたのだ。


 俺は我慢できない事もない。だが、ラビはどうだろう。ラビもまた裸足だ。いや、考えるまでもない。俺はラビのご主人さまなのだ。


 すべき事は決まってる。


「ラビ、砂がとても熱くなってる。だから……」


「ご主人さま……? わっ、抱っこなのです!?」


「そうだ。お姫さま抱っこ。いや、奴隷さまだっこだよ」


 おんぶか抱っこで悩んだ。でもラビのお顔が見える方が安心するので、お姫さま抱っこにした。


「なんだかちょっと恥ずかしいのです……」


「おっと。じゃあ、おんぶにするか? なんならご主人さまが砂浜に伏せてラビの為の道になっても良い」


「ご、ご主人さまを踏み台になんて出来ないのです!? あ……。でも、ちょっとだけ楽しそうなのです……」


「ならばやって見せようじゃないか!」


 ラビを地面に下ろすと俺は砂浜に飛び込んだ。


「ふええええ!? ご主人さま!?」


「さあラビ。俺を足げにするんだ!」


「ご主人さま。やっぱりそんなこと、ラビには出来ないのです!」


「だがしかしラビ? ご主人さまは既に砂まみれ。このままなにも成さぬまま立ち上がってしまうのは、あまりに哀しく、そして、虚しくは無いだろうか!?」


「それは……。ご、ごもっともなのです!」


 そうだろう、そうだろう。


 俺はじわじわと砂に焼かれながらラビのおみ足の到着を待った。


 背に足が触れる。不安定な足場のせいでラビの体がぷるぷるしてるのが伝わってくる。


「乗ったのです!」


「じゃあ、発進するから、俺の翼にしっかり掴まっておくれ」


 背中と垂直に翼を立てるとラビの支えにした。


「うおおおおお……!」


 そして全力でほふく前進して砂浜を突き進む。


「な、なんなのです!? この動きはなんなのです!?」


「ほふく前進だ。敵から身を隠して突き進むのに大変優れている。将来役に立つかも知れないからしっかりと覚えておくと良い」


「全く隠れてないのです!」


 たしかによけいに目立つ気はする。砂浜との地形的相性か。


 そんなアホな事をしていると、ふと真剣な声色でラビが疑問を口にした。


「ご主人さまは、なんでこんな事をするのです? なんだかちょっと変なのです」


「それは……」


 普段はぽやぽやしてるのにこういう時は勘が良い。


 悲しませてしまったら、その分楽しませないと。こうでもしないと気が済まない。とは言えまい……。いや……。


 言うべきかな。


「ご主人さまはラビを悲しませてしまったろう? ならその分。いや、倍はラビを楽しませなくてはいけないと思ったんだ」


「なるほど! 悲しいを楽しいに変えるのです? それならラビも、もっと楽しむのです!」


「そうかそうか」


 言ってしまったらどうなるのかと心配したが、ラビはいつもより、少しだけスッキリした気分になったみたいだ。


 なんもかんも、口にしないのは良くないな。


「ご主人さまは、ラビが重そうなのです」


「そんな事ないぞ?」


「ラビは考えたのです。片足で立てば良いのです!」


 なんという迷案。片足で立とうが両足で立とうが重さは同じだ。


 気にしなくとも十分軽いんだけどな。もっと太らせて丸っこくしないと……。あっ、最悪だ。ぱんつに砂が入ってる……。


 そんな事をしながらもバナナの木にたどり着いた。


 バナナってヤツは一本の木に大量になるんだな。5本ぐらいの房が木になるのだと思っていた。シャンデリアやひっくり返したウェディングケーキみたいに輪になって積み上がっている。


 なんだか、見てるだけでも気分が良い。


 よし、それじゃあ、ラビのためにバナナを取ってきてあげよう。


 前生では木登りをするなんて考えられなかったことだ。落っこちたら怪我しそうで怖かったしな。だが今は違う。


 何故なら今の俺には【落下耐性】があるからだ。バナナの木から落ちた程度なら怪我なんてしない。恐怖なんてない。だから、ひょいひょい登ってバナナを取れた。


「そら、バナナだ。美味しいよ。食べてごらん?」


「はい! いただきますなのです! あーん……」


 嬉しそうにバナナを口に運ぶラビ。でもそれは、皮を剥いていない。


「あっ、待って。皮を剥いて食べるんだ。ほら、こうやって……」


「す、すごいのです! まるでこうやって食べられる様に出来ているみたいなのです!」


 ラビは、バナナの皮を剥く様子を予想外にも興奮しながら眺めて絶賛した。


 たしかにバナナの皮は不思議だな。俺にも、わざわざバナナが食べやすくあろうとしているように見える。


 しかし、失念していたな。バナナの皮を剥いて食べる。当たり前の事すぎた。始めて食べるのに美味しくなかったらガッカリだ。


「んんー。あ、ま、い、の、で、す!」


「そうかそうか。美味しいか。いっぱいお食べ」


「ご主人さまも食べるのです!」


「いや、俺は……」


 腹に生肉詰めたから、腹は減っていない。それでもここは食べるべきか。食べないと心配してしまうかも知れない。


「どれ、食べてみようか」


 房から一本むしり、皮を剥いてかじってみる。


 シャリ。


 おや? 歯応えがある。バナナって柔らかいものじゃなかったか? ふむ。ちょびっと緑色が残っているからか。完熟する前はこんな食感なんだな。


 それでも、クドくないギリギリのところまで甘い。バナナの香りも鼻をくすぐり楽しませてくれる。申し分ない旨さだ。


 バナナは良いな。なんもせずむしってかぶり付けるのは素晴らしい。城なしに植えるか。


 バナナなんぞ育てたことはない。でも環境ごと城なしに再現すればいけるだろう。後で小さめの株を持って帰ろう。


「お腹いっぱいになったのです!」


「うん。そうだな。それじゃあ、もうひもじい思いをしないように、毎日たくさん食べられるように、食料をたくさん集めよう」


「はいなのです! あっ、でも、ラビじゃバナナに手は届かないし、海でお魚とるのもむずかしいのです……」


「そんな事は無いよ。ほら、おいで」


 ラビを抱えると波打ち際に向かった。波が砂の熱をさらっていくのでここなら素足でも熱くない。そっとラビをおろす。


「良いかいラビ。海に浮いているあの緑のふよふよした葉っぱも食べられるし、砂を掘れば……」


 貝が出てくるのだ。


「これなら、ラビでも集められるのです!」


「そうだろう? 城なしの作った壺を置いていくから、たくさん集めておくれ」


「わかったのです!」


 さて、俺はバナナを運ぶとしますか。しかし、環境ごと再現するとなると道具が欲しい。アレを使ってしまうか。


 俺はウエストポーチから小箱を取り出す。そう。アイテムボックスだ。今度のは、ラビにあげた物の武器バージョン。鉄製の武器を作り出せる。


 えーっと、たしかカタログの後ろの方に……。


 パラパラとページをめくり、目的のものを探す。


 大剣、長剣、シミター、カタール……。斧、ハルバード、ランス、モリ……。ツルハシ、クワ、スコップ!


 よし、これだ。


 アイテムボックスに手を当てて念じる。


 スコップ欲しい!


 ザクッ。


 するとどこからかスコップが現れ砂に刺さる。なんで武器のカタログにスコップがあるのだろう。


 なんて、多少の引っ掛かりを覚えたが、前生で人類はスコップ振り回して戦争していたと聞いたことがある。


 だから、きっとこれは武器なのだ。


 さて、バナナを城なしに持って帰るのは良いが、どこまで環境を再現すれば良いんだ?


 根っこごとほじくり返すつもりだが……。そのあとはどうすればいいんだろう。砂浜や海水も必要なんだろうか。


 それならいっそ、城なしに海を作ってしまおうか。


 海で取れた食料放り込んでおける。魚を増やせるかもしれない。なんたる名案。まずは海水から……。いや、海底の砂から集めよう。


 しかし、そうなると問題が出てくる。城なしに海には何度も往復しなくてはならん。


 そして──。


「うーん。ウエストポーチに詰めるだけ詰めたはいいが、ラビを砂浜に残していくのは不安だな」


 毎回連れていくのも手間だ。なによりラビは既にびしょびしょに濡れている。こんな状態で空飛んだら冷凍ウサギの完成だ。


 乾くまで待たないといけない。


 どうしたものか。


「ラビは一人でも大丈夫なのです。ラビのお耳はよーく聞こえるのです。魔物や悪い人が来たらちゃんと隠れるのです」


 ラビはお耳と胸を反らせて「ラビは優秀なのです!」と言わんばかりに振る舞って見せる。


 なるほど。非力なのに野生じみた過去を臭わせていたのは、長いお耳がそれを可能にしていたからなのか。


 だが、おドジには実績がある。不安しかない。


『心配し過ぎだと思うよ? ラビは君が連れてくるまでずっと地上にいたんだよね? 過保護すぎるんじゃない?』


 ぬぬぬ。パタパタの言葉が蘇ってきよる。過保護が過ぎるか? そんなつもり無いのだけど……。


「ご主人さま。ラビをもっと信用して欲しいのです」


「信用ってのは、行動と結果の裏付けがあって生まれるもので、言葉だけじゃあダメなんだ」


「んー。んー。む、ず、か、し、い、のです……。あっ! でもでも、それじゃあ、ラビが一人でも大丈夫と見せるにはどうしたら良いのです?」


 むっ? それも、そうか……。へりくつな気もしないでもないが、まあ、良い。ここはラビの気持ちを汲んでみよう。


「わかった。ラビを信じてみるよ」


「はいなのです!」


 なんでか、おでこにまで砂を付けたラビの笑顔を受けて、城なしへと向かった。俺が城なしに戻れば、パタパタがしっぽを振って出迎える。


 もう当たり前の光景だな。こう言うのの積み重ねが日常ってヤツなんだろう。


「おかえりツバサ! あの子は置いてきたんだね」


「ああ、心配だから直ぐに砂浜に戻るけどね。パタパタは地上が見えるだろう? ラビを見ていてくれないか? 何かあったら教えておくれ」


「あっ、うん。見守るのは得意だから任せて! 何千年でも何万年でも見ていられるよ」


「そんなに放置したらラビが砂浜の一部になってしまうわ。!」


 ラビは任せて俺は城なしに海を作るとする。


 城なしに穴を開けて砂をぶちまけたいが……。城なしにスコップは通らんよな。掘る振りでもしたら意図を理解してくれるか?


 スコップで地面をつついてみる。


 カン、カン、カン……。


 反応は無い。


 ダメか。ならば魔法だな。しばらく魔法が使えなくなるのは不安だが、これで大穴開けるしかないか。


「【放て】」


 最大出力で放たれた魔法は城なしに大穴を開ける。


 俺が一人浸かるのに良さそうな風呂桶みたいだ。これじゃあ、とても砂浜と呼べはしない。でも、城なしならこれで理解してくれるハズ。


 まずはキレイに破片を穴から取り除く。海水浴とかするかも知れない。そんな時、破片で怪我をしない為の処置だ。


 そしたら、砂を注いで砂浜に戻る。今度は海水ウエストポーチに入れてきて穴に注ぐ。そして、ラビの集めた貝や海草をいれると……。


 ゴゴゴゴゴ……。


 よし。思っていた通り、穴が広がった。


「ツバサ何しているの? この水溜まりはなあに?」


「これは海だ。いっそ城なしに作ってしまおうかと考えたんだ」


「海? へー。ボクたちは見ることしか出来ない。だから、海を作ってくれようと思ったんだね! ツバサ。ボクは嬉しいよ。城なしもきっと喜んでいるハズだよ!」


「あ、ああ……」


 どうしよう。ただの食料貯蔵庫だなんて言えない。


 ともあれ、穴が広がったので更に往復をくり返す。三度も往復するとだいぶ広くなった。


 それでも俺は満足しない。半端な大きさじゃあ大して食料溜め込めないからだ。二度飢えぬ程度にする必要がある。


 だから、更に往復始めようとしたのだが──。


「ツバサ、ツバサ! ラビがうねうねした変なヤツに……」


「なんだ? 魔物か!? ああ、やっぱり一人にしたのは不味かったか!」


「あ、違っ、待ってツバサ!」


 ラビに危機が迫っているようだ。待ってなどいられるか!


 パタパタの制止を振り切ると急いで砂浜に戻った。


「ラビ!」


「あっ、ご主人さま。丁度良いところに来たのです」


 砂浜にたどり着くと、ラビが、とてとてとやって来た。


 ん? 魔物に襲われてなんていないじゃないか。パタパタのヤツ、焦らせおって……。


「何かあったのかい?」


「ご主人さま。ラビはすごいの見つけたのです!」


「すごいの? どれ、見せてごらん」


 ラビは後ろ手になにか隠して嬉しそうにもったいぶってみせる。

 

 キレイな貝でも見付けたのかな? 女の子ってそう言うの好きそうだしね。いや、女の子に限ったことじゃあないか。


 俺も前生は子供の頃にキレイな貝を探したわ。


 そんな懐かしき日の思い出が脳裏を掠める。


 ラビはよほど夢中になって食料を集めたのか、茶色いあんよが、砂みれで灰色になっている。そんなラビは、どこかイタズラに俺を驚かせようとするような、そんな笑みを浮かべて手を差し出した。


「へへっ、はいなのです!」


 ブルンブルン、びったんびったん……!


「うおおおっ!? なんだこのうねうねしたのは!」


 黒くてイモムシみたいでちょっとグロい。容赦なく掴むものだからものすごく苦しそうだ。なんてものを掴んどる。


「なんだか美味しい予感がするのです!」


 美味しい?


 なぜこれを見てそう思った。食えるのかなこれ。いやしかし、どこかで見たような……。


 海、砂浜、うねうね、美味しい。


「あっ! 多分これナマコだ!」


「知っているのです?」


「いや、生で見たことはないんだが……。ともかくこれは確かに食べられる」


 食べ方も味も知らない。なによりも食べたくない。それでも、まあ、あった方がいいか。


 そんな事もあったりしながら日は暮れる。さすがに夜までラビを砂浜に置いていくのはよろしくないので、城なしに連れて帰った。


「ご主人さま。もう夜なのです。残りは明日にするのです」


「それはダメだ。寝たらまた海に出てしまうかも知れない。でも、城なしは俺が地上にいる間は移動しない。だから今日は寝ない」


「えええっ? 寝ないと死んじゃうのです!」


 一度徹夜したぐらいじゃ死なない。


 俺は元ニートだ。ニートには徹夜に対する耐性がある。不規則な生活を繰り返し、気がついたら三日間寝ていなかったなんてざらだ。


 まったく問題がない。


「良いかいラビ。人にはどうしても頑張らないといけない時があるんだ。俺は今がその時なんだと思う」


「頑張らないといけない時なのです?」


「そうだ。顔も知らない誰かの為に努力するなんて死んでもイヤだけど、これはラビと俺の為なんだ。だから……」


「む、ムムム。また、丸め込もうとしてるのです? ご主人さまが寝ないならラビも寝ないのです!」


「うーん。それは困るなあ。明日も食料集めを手伝って欲しいんだ。俺一人じゃマンパワーが足りないからね。でもラビは寝ないと辛いだろう?」


 この星も地球と同じように南極や北極があるのかも知れない。いや、これだけ地球と似ている星なんだ。きっとあるだろう。


 もし、城なしがその上空を通る進路を取ったら?


 今度は6日ぐらいじゃあ済まない。だから、ありったけ食料を集める必要がある。そんな訳で根気強く徹夜の必要性を説明し納得してもらった。


「わかったのです。でもご主人さま。絶対に無理しちゃダメなのです」


「ああ、モチロン!」


 全力で無理をするに決まってる。今無理をせずにいつすると言うのか。


 そんな決意を胸に俺は夜空に飛び立った。



 それから日が登り、また沈み……。3日が経った。



 そして、とうとう城なしに海が出来上がった。面積は実に城なしの3分の1にも及ぶ。水深は最大で俺を縦に三人分。


 見た目は砂漠にあるオアシスといったところだ。


 海水をどぼどぼ流し込んだものだから水が濁っているが、そのうちそれも落ちついて透き通った海になると思われる。


 中には昆布やワカメや貝、そして、ラビが握りしめていたナマコを放した。


 他にもウエストポーチを丸ごと海に突っ込んだため、海水と一緒に入ったタコや魚、小さな蟹もいる。なんの魚かはわからん。


 そんな海の周りにバナナの子株を30本は植えた。いつしか良い雰囲気をかもし出してくれるだろう。


「ご主人さますごいのです! すごいのです!」


「うん。本当にすごよ。城なしに海ができる日が来るなんて夢にも思わなかったよ」


「あっはっはっはっ! マイホームに海があるヤツなんてそうはおらんだろう? どんなもんだい。俺だって……」


 ドサッ……。


「ご、ご主人さま!? しっかりするのです! 倒れたらラビじゃ運べないのです!」


「大丈夫。ボクが運ぶよ。ツバサ。ゆっくり休んでね。お疲れさま……」


 3日ぐらいなら、寝なくても大丈夫なんて言うのは、家でなにもせず、ごろごろしていたから可能だったのだ。


 砂浜と城なしとを往復しての徹夜は決して大丈夫では無かったのだ。体が3日分の睡眠を寄越せといわんばかりにやって来て、そのまま俺は深い眠りについた。

 

 後日。


「うおおおお! 全身ものすごくヒリヒリする!」


「ご主人さまのお肌が赤いのです」


「ツバサはお日さまにたくさん当たったからね。日焼けしたんだよ」


「服が! 服が触れてもヒリヒリする」


 たまらず上着を投げ捨てた。


 うわあ、上半身真っ赤だ。服を着てても日焼けするのかよ。


「ラビ、ラビはなんともないのか?」


「ラビは日焼けしないのです」


「なにそれズルい!」


 最初から日に焼けた様な肌の色だからか? まあ、薬なんてないし、日焼けするのが俺だけで良かったと思うことにするか。


「しょうがないなあ。ツバつけとけば治るよね?」


 ニヤニヤしながらパタパタが顔を近づけてきた。


「おい? まさか、やめろ、よせ、やめてくれ!」


 悪党の無様な最後の様なセリフを吐いてしまった。今、パタパタに舐められたら悶絶する。無様だろうがなんだろうが構わない。


 俺はパタパタに背を向ると逃げ出した。


 しかし、間に合わず──。


 ぬらーん。


 背中に生暖かいなんとも言えない感触が走る。後からやってくる強いヒリヒリ感。


「ギヤアアアア!?」


 空高く雲の上。


 俺の叫びが響き渡った。

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