第8話:敵襲
全く、えらい転校生が来たもんだ。
策略、戦闘センス、紋章術の腕。
どれも他の生徒より頭ひとつ飛び出てる。
これで一般校から来たって言うんだ、笑わせるなっつーの。
放課後の教官室。
今は私以外誰もいない。
手に取って見ているのは彼の、綾辻 翼の履歴書。
これといって不自然な所はない。
むしろ不自然なまでの自然さだ。
普通科のとこじゃ、術式までは習っても戦闘訓練なんてまずやらない。
本業じゃないからだ。
あくまで護衛術どまり、そんな考えのはずだ。
でも…、
あの動きは、一朝一夕で身につくもんじゃなかった。
あきらかに慣れている。
魔術、体術を扱うこと。
拳銃の扱いもこなれていた。
そして、炎柱罠…。
あんな使い方をしたら間違いなく自分もただでは済まない。
あいつから逃げる気配は感じられなかった。
あの年で命すら惜しくないなんて…。
一体何者なんだ?
あいつの過去に何が?
「こそこそしてない出てこい」
気づかないと思ったのか?
扉の前に、明らかな敵意が2つ。
「流石ですね」
扉を開けて現れたのは、若い男。
メガネを掛けた男と大柄なマッチョの2人。
それぞれハンドガンを1丁ずつ携えてやがる。
「手を頭の後ろに組んでください」
一応従っとくか、詠唱させてくれるような雰囲気でもないし。
「本校には、生徒以外の人物は厳則入っちゃ行けないんだが、お前らの目的はなんだよ?」
「あなたの質問に答える気は無い」
右脚に痛みが走るのと同時に銃声がなった。
撃たれた。
そう感じた瞬間には、髪を留めていたピンをマッチョ男の銃を持つ手に投擲していた。
ピンが男の手に刺さり、銃が手から滑り落ちる。
負傷してない左脚で地を蹴り、マッチョとの差を一瞬で詰める。
メガネの第2射が左脚も撃ち抜く。
倒れ込む寸前に両手を地面につけ、前方へのエネルギーを生かして一回転の踵落としをマッチョの顔面に決める。
まず1人、このマッチョはもう戦闘不能だ。
マッチョが落とした銃でメガネの銃を狙う。
が、狙いを定めようとした瞬間に相手の銃で破壊される。
「お前、銃の腕チート級だろ」
「否定はしませんが、あなたの身のこなしも充分チート級ですけどね」
私に銃を向けたまま、扉を睨む。
「銃声を聞きつけて来ちまったみたいだが、あいつは一筋縄じゃいかないぜ」
「苺ちゃん!!大丈夫!!」
「下の名で呼ぶなぁーー!!」
入ってきたのは、神楽坂 琴音。
この高校の最高戦力、六柱将の1人。
入ってすぐに状況理解して居合を構えるとは頼もしいねーまったく。
「琴音、君が来るのは予想通りだ」
「だれ、何故私の名前を知ってる?」
「もうすぐここに翼も来る。そしたら君たちをここから救い出す」
「意味がわからない、翼は私が守る」
「君が2回も殺したのにか?」
!?
2回も殺した?
綾辻の過去に神楽坂とこいつは関係してるのか?
青年がメガネを外して、琴音を見据える。
「琴音、僕だよ。京だよ」
その名に心当たりがあるらしく、驚きの感情が琴音の表情から見て取れる。
「我は赤の眷属なり、力を欲する軍神なり」
扉の前から聞こえるのは火の体術の詠唱。
扉が開き、その奥から花瓶を持った翼が現れる。
花瓶は鈍器にも使われる。
それを通常の何倍もの力で投げるのだ。
雷の体術でも使ってない限り耐えられないだろうし、避けるのも不可能。
殺った!
一瞬で神無 苺はその判断をくだした。
だが、京と名乗った男はその上をいく。
投げられるはずだったその花瓶を撃ち抜いた。
扉を開けてから投げるまで一切無駄な動作はなかった。
だがこの男は、まるで投げられることがわかってて、投げられる前に対処した。
そんなさも当然のように処理した。
体術や魔術の気配も全く感じない。
素の状態で対処したのだ。