第7話:実技
準備運動を一通り終えると、実技の相手をする教師が体育館に入ってきた。
女性だが身長は高く、カワイイというよりカッコイイといった言葉が似合いそうな雰囲気だ。
「戦士と魔闘士は集まれ、魔術師は第2体育館へ移動だ」
教師がそう言うと、ここにいる生徒の約8割が移動してしまった。
いくら何でも比率がおかしくないか?
「おかしくないさ、これが現実だよ」
周りを見て唖然としている俺に隣の女子生徒が話しかけてきた。
なんか見たことある気がするが、同じクラスのやつの名前もまだわかんないしな…。
「どういう意味だ、田中?」
「ごめん、僕は田中山なんだ」
なんかすまん、✕じゃなくて△っぽいのが特に。
「何も、命の危険を犯してまで魔獣と近接戦をしなくても、遠距離から安全に強力な魔術を当てさえすれば魔獣は倒せる」
「だから、必然的に高リスクな戦士や魔闘士よりも、低リスクな魔術師が年々多くなっていくんだ」
ボーイッシュな女教師が説明を加える。
「まぁ雑談はこれくらいにして、実技を始めるぞ〜、最初は…、綾辻。お前からだな〜」
「俺から!?ってか相手は…」
「私だ、武器は訓練用の耐魔ゴム製のがあるから好きなの使いな」
「いや、でも…」
「好きなやつは私より強いやつ、嫌いなやつは女だからって手加減するやつだ」
「……手加減いらないってことでいいんですよね?」
なら心置き無くやらせてもらおう。
耐魔ゴム弾の拳銃と同じく耐魔ゴムナイフを手に取る。
女教師は耐魔ゴムナイフを2本持つ。
「私は神無、勝てたら結婚してやるよ!!」
一方的にプロポーズしてきて試合開始。
「私は戦士だから遠距離を恐れなくていいぞ!」
自分の戦型まで教えるのか、舐められたもんだな。
「ご丁寧にどうも!」
俺はゴム弾を1発発砲。
続けて詠唱。
「開け赤き門よ」
少し小ぶりな略式詠唱の炎弾だが、奇襲には充分だ。
神無先生は、ゴム弾をナイフで弾き、
「我は黄の眷属なり、雷を纏いし鋼の鎧なり!」
右腕に黄色の紋章、そこを起点とし黄色いひびが腕全体に広がる。
そのまま右腕で炎弾を薙ぎ払う。
あれは!!
雷属性の体術の特性『硬化』。
魔術にも耐える防御力を得る。
でも、その代わりに…、
(動きが遅くなる!)
「開け赤き門よ、我が放つは飛び火の嵐。『火炎嵐』!!」
3重の円に2つの文字列、Ⅱ型紋章の範囲術式。
1回り大きな赤い紋章から無数の小さな炎弾が飛んでいく。
「術式解除」
神無先生がそう叫ぶと右腕の紋章が消え、ひびも無くなる。
「我は緑の眷属なり、我は吹き抜ける疾風なり」
両腕に緑の紋章、そして緑色に腕が発光する。
「はぁぁぁぁぁッ!!!!」
飛んでくる無数の炎弾をすべてナイフで真っ二つに斬りまくる。
今度は風属性の体術かよ!
特性は見ての通り『速度上昇』。
炎弾をすべて耐魔ゴムのナイフで斬った神無先生がこっちを睨む。
その剣幕に反応して半ば本能的に拳銃で狙うが、投擲されたナイフで弾かれる。
俺が怯んだ隙に先生は俺の背後に回り込み、ナイフを首元に当てる。
「首元がお留守だぞ?」
「先生は足元がお留守ですね」
足元に赤いⅠ型紋章。
(火柱罠)
設置型の簡易術式。
一定時間経てば、紋章から炎の柱が飛び出す。
逃がさないように先生のジャージの袖を掴む。
「あの世で結婚式っていうのも案外いいかも知れませんね」
「ッチ…!!」
おぉ、マジ焦りじゃん。
首元のナイフを地面の紋章に突き刺す。
耐魔ゴムのナイフで紋章は消滅。
「我は赤の眷属なり、力を欲する軍神なり!!」
火属性の体術『筋力強化』の渾身の蹴りを喰らわす。
…筈だったんだが、片足を上げた瞬間に軸足を掬われて盛大にこけちまった。
「あとちょっとだったけど、爪が甘かったな」
なんか軽くあしらわれた感が半端ないな。
最初から攻められてたら手も足も出なかったろうし、強いな〜女なのに。
その後は、他の生徒も先生に挑んでは負け、挑んでは負けといった感じで結局神無先生は無敗で終わった。
あの人が強すぎて自信なくしたからみんな魔術師いったんじゃないか説が俺の中で浮上しつつあるよ。
「いや〜、やっぱ神無先生強かったな〜」
「惜しかったぞ、田中山。お前すごい身のこなしだったけどなんか武術を習ってたりするのか?」
「習ってないけど、お兄ちゃんが戦士だったから、立ち回りとか教えて貰ったんだ〜」
女の子の割にはよく頑張ってたよ。
「そういえば、あの子は実技やってないけどいいのか?」
そう言って銀髪の女子生徒を見る。
あ、目が合った。
なんかすごい目つきで睨まれてるんだが!?
「あぁ、神楽坂さんね…。彼女は、この中で唯一神無先生に勝った実力者なんだよ!!」
「マジか!?スゲェな!!」
「でも、あまりにレベルが高くてお互いに怪我しちゃったからそれ以来やってないんだ」
レベル高すぎだろう。
「それとね、彼女も六柱将の1人なんだよ!」
六柱将、この学校のトップ6か…。
その六柱将の1人に睨まれ続け、ビクビクしながらその日の日課が全て終了した。