ツンデレのデレ
前世覚醒そして瞳の色変わったよ事件から数日が経った。
まだ皆、私の態度と瞳の色に戸惑っているようだ。怪しまれなくなっただけマシだと思いたい。
使用人達との関係は恐らく時間の問題だろう。
しかし、父様とは関係が以前とまったく変わっていない。というか話しかけるのが怖すぎて何も進んでいない。
いつも怖い顔をしているので話しかけるのが憚られる。酷い言葉と同じで顔もデフォルトだろうか。
前のシェリーと父様は、表面上は、お互い無関心を貫いていた。しかし、どんなに表面で無関心でも中身は4歳なので凄く甘えたかったのだ。そういう記憶がある。
前世の私は、親に甘えたいとは思ったことがないので、彼女の感情は理解しにくい。
無関心を貫いてはだめだろうか。だが先日、彼女の意思を継ぐと決めた。直接言ってはないが、決めたからには投げ出すのはやめることにする。
有言実行するためにも、作戦を立てることにした。まずは気合いを入れるために名前を考えよう。うーん、父様といえば怖い、イカツイ、話しかけにくい、ツンデレ…そうだツンデレだ!
ツンデレ父様をデレさせよう作戦とかはどうだろうか。もう面倒になってきたのでこれにしよう。
次は目標だ。目標は父様と普通の親子らしい会話をすることだ。酷い言葉のない会話だ。
最後に内容だ、ツンデレのデレとはいつ発生するものなのだろうか。距離を縮めればいいのかな? 距離を縮めるにはどうすれば? 話しかければいいのか? いや、話しかけても罵倒されるがオチだ。
うーん、混乱してきて冷静な判断ができない気がしたので、ドミニクに聞こう。
「ドミニク、父様と仲良くなるには、どうしたらいいかわかる?」
「凄く急ですね。お嬢様は、旦那様と仲良くなりたいのですか?」
「うん、たった1人の家族だもん」
「そうですか。……旦那様は気難しい方なので、どのようにお嬢様を思っているか私にはわかりかねますが、こちらから気持ちを伝えたらどうでしょう」
ドミニクに聞けば彼は苦笑いしてこう答えた。
いい感じに誤魔化されたけどつまりこれは、いつも酷いこと言うあの人はよくわかんないし、あんたよく罵倒されてるから嫌われてるかもなーはははって事かな?
それはさておき、こちらから気持ちを伝えるか。
子供らしく「父様大好き(はぁと)」とでも言えばいいのだろうか。本当の気持ちを伝えるのならば、「あなたの事苦手です。もう少し優しくしてください」だがそれは関係が悪化しそうなのでやめておこう。
子供らしくないし可愛くない。優しい嘘も時には必要だよね、うんうん。
「ありがとう。ドミニク」
私はドミニクに感謝を述べ、さっそく父様の部屋へと向かった。
「父様。シェリーです。今よろしいでしょうか」
「入れ」
「失礼します」
どうしよう、善は急げと思いやってきたが、父様の声を聞いたら恥ずかしくなってきた。しかし外見は4歳だ。負けてはならない。恥ずかしくなんてないのだ。
父様は部屋に入った私を一瞥したが、すぐに目の前の書類に目を落とした。何も悪いことはしてないが凄く怖い。やめたくなってきた。
「何か用か」
用件を聞かれたが私はめげない、頑張ろう。
今私は4歳の可愛らしい少女だ。目の前にはいつも笑顔の大好きなお父さんがいる。お父さんは家族と遊ぶ時間をたくさん作ってくれる。ここはアメリカなので抱きしめることなどよくある……という設定でいこう。ここまできたらやりきるしかない。
「わたくしはお父様の事がだーーい好きです!」
自分の中の最高の笑顔を浮かべて、可愛らしく愛を告げ父様に飛び込んで抱きしめた。顔は抱きしめてて向こうから見えないので演技は終了だ。
恥ずかしかったぁぁ。いや、いまも恥ずかしいがやりきった!名演技だった!お疲れ自分を褒めてあげよう。
「……」
そうやって己を褒め称えたが、困った。父様からの応答がない。怒られるのだろうか、ここまで頑張って怒られたくはない。演技再開だ。
「父様は、いつもわたくしに酷いことを言います……。わたくしの事が嫌いなんですか?」
顔を上げ、咄嗟に思いついた台詞を、できる限り泣きそうな顔で言った。
しかし何故こんなことしてるのかわからなくなってきた。もう優しい嘘というレベルではない。私は、ここに父様と仲良くなりにではなく、羞恥心に耐える修行をしにきたのかもしれない。帰りたい。
「な……泣かないでくれ。まったくそんなことはないこともない。とにかく落ち着いてくれ」
そう父様の慌てた声が頭の上から降り注いできた。正直、今の私よりもお父様のほうが泣きそうだし、慌ててますよと伝えたい。
「わかりました。それで父様はどうなんですか?」
「ど…どうとは?」
「落ち着いてらっしゃいますか?」
「あ、あぁ落ち着いているとも。まったく問題はない」
父様を見てみると目がすごく泳いであわあわとしていた。珍しい父様だ。これはちょっと可愛い気がしてきた。
「父様は、わたくしが嫌いですか?好きですか?」
父様の珍しい動揺を逃すまいと、シェリーの小悪魔的イタズラ心が湧いてきたようだ。断じて私ではないと思いたい。
しかしこの質問は…さっきのように思いつきで発言したのが悪く出た。この質問はまずい、YESかNOしかない。まだ答えを聞くのは怖いが、出した言葉は撤回できない。
……いや、羞恥心で気づかなかったがよく考えれば、さっきも似たような質問だった。もうどうにでもなればいいと思う。
「私はき……き…」
「…き?」
「……嫌いではない」
もう思考を放棄して答えを聞いたが、嫌われてはなかったようで安心した。
これは本当にツンデレなのかもしれない。ツンデレならば貴重なデレは逃したくない。強気でいこう。
「良かったです。でも好きでもないんですね?」
「そ…んなことはない」
「本当?」
「…あぁ」
「ありがとう。父様」
「あぁ」
「では、わたくしは部屋に戻りますね」
「あぁ」
父様は、この質疑応答で「あぁ」としか返せなくなるほど燃え尽きているように見えたので私は部屋に帰ることにした。
言葉に出てはいないが、私の心もかなり燃え尽ているように感じた。やりすぎた、恥ずかしかった。
しかし、父様は本当のツンデレで、好意を伝えてきたり、泣いている人に弱いことが判明したのは、かなりの収穫だ。これからは仲良くできそうな気がした。
小悪魔心に目覚めた私は、これからはツンデレ父様と仲良くでき、からかうことが出来ると内心でほくそ笑んだ。




