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最後の我儘


私が記憶の整理をして、これからの生活に思いを馳せていると、前世覚醒時に見たセバスチャン改め執事のドミニクが部屋に入ってきた。


「お嬢様。お昼をお持ちしました」


ドミニクが持ってきたトレーには、野菜がたくさん入ったスープとパンが乗っている。病人食っぽいな。


「ありがとう」


お礼を言うと目をこれでもかと大きくして驚かれた。確かに以前のシェリーはお礼を言うような子ではなかったが、ここまで驚かれると傷つくからやめて欲しい。


「……何かあったらお呼びください」


不審者でも見たかのように、怪しげな顔で用件を告げて、部屋を出て行った。



ドミニクの驚き怪しげな顔をしたのを見て、私が感謝の気持ちを伝えても、何か企んでるのではと疑われてしまい受け取ってもらえない思った。

受け取ることを強要するわけではないが、疑われるのは寂しいと思う。


せっかく前世を思い出したのだ。使用人達とも信頼しあえる間柄になりたい。

いや、今に始まったことではない。ずっとシェリーも望んでいた事だ。シェリーの人格奪っちゃった疑惑があるし、意思を継ぐと決めたので、彼女の願いはできるだけ叶えようと思う。

まぁ私の為にもなるからという打算的な考えだけどね。


方法としては、彼女の行いを謝ろうと思う。使用人の立場的には、命令をできるだけ答える必要があるので、理不尽な要求は凄く不愉快だっただろう。

実際彼女の記憶から思い出される彼らはとても苦い顔をしていた。





そうと決まればさっそくドミニクに皆を呼んでもらおう。


「ドミニクー! ちょっといい?」


「どうかなさりましたか? お嬢様」


凄く嫌そうな顔をされた。お嬢様に呼び止められる=面倒な仕事が増えるということなのだろう。

私が今まで迷惑を掛けて申し訳ない。今すぐ謝りたくなった。


「この屋敷にいる使用人をできるだけ呼んでくれる?仕事をしている人は除いていいよ」


「仕事をしている以外の方ですか…?」


初めて聞いた単語を確認するかのように聞いてきた。意外だったのだろうか。

使用人全員呼び出すのは今までと同じで理不尽な要求になってしまうので却下だ。


「うん、仕事の邪魔はできないからね」


「……わかりました。呼んできます」


呼んでもらっている間に、言うべきことや、気持ちをまとめておこう。






「お嬢様、今手が空いているの者を呼んできました」


言うことを纏めて待っていると、ドミニクと共に何人かの使用人が部屋に入ってきた。皆、怪しげな顔を隠そうともしていない。子供だからわからないと思っているのか、気づいて欲しくてやっているのかはわからない。

これから怪しむ顔をしている相手に気持ちを伝えると思うと緊張してきた。でも何を伝えるかは決めた。大丈夫だ。


不安を抱えながらも頭を下げ、まずは謝罪の言葉を一言告げた。


「今まで……ごめんなさい」


声が震えた気がした。前世も今世もここまで真剣に謝った事はなかった気がする。


「わたくしは、今まで自分を見て欲しいからワガママを言っていました。始めは皆も、聞いてくれました。でも、皆嫌な顔をするようになりました。わたくしはどうすればいいかわからなくなりました。わたくしは皆に謝りたいのです。皆と仲良くしたかったのです。許してください」


これは以前シェリーの気持ちだ。彼女の言葉をそのまま引き出したからか、単調な発言になってしまった。

……彼女は、好きと言う感情を伝えるのが下手くそなただの少女だった。客観的に見える今はそう思う。


「すぐに許せとは言いません。わたくしが貴方達にした事は忘れませんし、貴方達も忘れなくていい。ですが、今はほんの少しだけ、生きる為に力を貸してください。こんなわたくしですがこれからもよろしくお願いいたします。」


これは私の言葉で、彼女と私の意思だ。今すぐは無理でも、いつか仲良くなりたいと思う。

これがシェリーの最後の理不尽な我儘になるだろう。そうなることを願いたい。



この言葉を嘘にしない為、彼らと向き合う為に、顔を上げて使用人達の顔を見た。

戸惑いの表情を驚いたものに変えた。凄いものを見た顔をしている。気を張っていたからかその表情が何だか面白く見えたので少し笑った。



「お嬢様……どうなさったんですか?」


「えっと、今まで悪かったなと思い謝罪を……」


「いえ、そういうことではなく…」


ドミニクがなんとも言えない顔で話しかけてきた。謝罪の理由ではないのなら、一体私に何を聞いているのだろうか。

もしかして、流石に人が変わりすぎておかしいと思われたのだろうか。それは困る。やはりすぐに行動しすぎたのだろうか。とにかく、私は改心しただけだと伝えれば平気だろうか。



「誰かお嬢様に鏡を! 手鏡持ってる人は⁈」


「手鏡はない! 部屋の鏡を使え!」


「お嬢様は、もうどうにかなってしまわれた……」


「だ……旦那様に知らせてきます!」


現状打開の方法を考えていると、急に騒がしくなった。鏡? 私は酷い顔でもしてるのだろうか?


「お嬢様、とにかく鏡をご覧ください」


ドミニクに促されドレッサーの前に座った。鏡には、綺麗な黒髪を肩まで伸ばしたつり目の私がいた。前世覚醒から初めて顔を見たが、この顔は将来美人になるだろうと思う。


そんなことを、どこか他人事ように考えていたがふと違和感を覚えた。どこかがいつもと違う

…そうだ、瞳の色が違う。


鏡には、お父様と同じく赤の瞳の私が写るはずだった。しかし目の前にいるのは青い瞳をした私だったのだ。


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