表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/31

勘違いのドキドキ

 


 私は心地の良い風に当たりながら、屋敷の庭でお茶をしていた。平和な日々だな…。

 けれど、私はこれが今だけの平和だと知っている。そう思うととても気が重い。それに彼が来てからそこそこ日が経っているからか、危機感が薄れている気がする。

 もういっそ、来るなら早く来て欲しい。ずっとこんな不安を抱えて生活したくない。





 それにしても彼の演技力には本当に驚く。

 初めの数日は、後回しというかそれどころではなかったので、冷静に観察し始めてから気付いた。

 本来のギルバートは、今のように爽やかで話やすい執事ではなく、言葉数が少なく無表情な少年なのだ。

 前世の知識で人前に出る時は演技をすると知っていたし、その時の変化も分かる。だけれど知っているのと見るのでは別だ。

 本来のギルバートを見ていないので、違いはなんとも言えないけれど、少なくとも今の姿に違和感は全くない。初めからこの性格のギルバートがいたと錯覚してしまうほど動きが洗練されている。


 どこでこんな演技を学ぶのだろうか。独学? いやでも独学でここまでの完成度になる?

 純粋に彼の事が知りたくなった私は、怪しまれない程度に雑談することにした。



「その敬語はマリアンナさんに教えてもらったの?」


「どうしてそう思うんですか?」


 まさかどうしてと、聞かれるとは思わなかった。単なる好奇心なんだけど、そうは言うのはやめて無難な回答をしておこう。


「敬語は似合わないなと思って」


「確かに以前の私は敬語なんて縁のない生活をしていましたね」


「あーなるほどそれでか!」


 言い終えてから、自分の声が思ったより棒読みに聞こえて焦った。これだと聞いたくせに、関心が無いように聞こえてしまう。


「お嬢様は嘘がへたくそですね」


 私の予感は的中し、彼はそう受け取ったように見えた。

 でも待って、相槌が下手なだけで嘘はついてないよね? いや結果的に嘘になってるの?


「嘘なんかついてないよ?」


「演技の達人を前にそんなこと言っていいんですか?バレバレですよ」


 え、バレバレ⁈ そんなまさか!

 そう思い彼の表情を見るが、冗談でも当てずっぽうでも無さそうだ。


「ギルバートって演技の達人なの!? びっくりー!」


 嫌な予感がし、どうにか誤魔化そうと発言したが、今度こそどう言っても逃れられない嘘だとわかる言い方になってしまった。


「……敬語は似合わないなんて事、本当は思ってませんよね? お嬢様」


 もう私の演技力には言及せず、彼はそう言った。

 確かにさっき咄嗟に浮かんだ理由を述べた。さらに敬語は先程思ったように、洗練されていて逆に似合っていると感じた。

 でも私、そんな嘘ついた顔してた?


「お嬢様の顔はとても分かりやすいですよ」


 心に浮かべた疑問に答える形で、彼はそう教えてくれた。

 私が、ギルバートの心を読んでるかのようなタイミングの発言と観察力に恐怖を抱き始めたその時、その恐怖が一周回って驚きに変わる発言を彼がした。



「お嬢様は分かっているはずです。私の執事の姿は全て演技だということに」


 時が止まった。たとえ私がどう思っているのが顔から分かったとしても、そんな事まで分かるわけないと思った。

 聞き間違いだと思い、彼の言葉を何度か反芻したが、今の言葉が現実だと確かめるということしかできなかった。


 彼が演技の達人と名乗るほど、自分の演技の演技力に自信があるなら、そんな可能性考えもしない。

 そして私とは出会ったばかりだ。そんな私が彼の事を知ってるなんておかしい事だと思わないのだろうか。

 どんな観察力と柔軟な思考をしたらその答えが出るの? 私の考える事どこまで気づいているの?



「あぁ、それとついでに言うとこの前の演技も分かりやすかったですよ」


 私が声を出さずにいるその時も、彼はいつもの人当たりの良い笑顔を浮かべながら言う。

 この前の嘘といえば、眼帯の件だろうか。体は碌に動かないくせに、思考は冴え渡るのがとても不思議だった。


「お嬢様は一体私を通して誰を見ているのですかね?」


 ギルバートは、更に笑顔を深め尋ねてくる。もうどんな気持ちも湧かなかった。彼に何もかも見透かされているのかもしれないと思うと、考えるだけ無駄なような気がしてくるのだ。


「からかいすぎましたね。そろそろ屋敷に戻りましょうか」


 今日1番見惚れるような笑顔をして、彼はティーセットを片付け始めた。私はその表情にどきりとした。それは決して恋なんて甘いものではなく、触れれば命を奪われるような危ないものだった。

 もしかしたから、私の一目惚れは恐怖によるものだったのかもしれないという考えに至った時、もうすでに彼の姿は屋敷の中に消えて見えなくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ