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出会う

いつもありがとうございます。

今回は前の話より、ちょっと時が飛んでます。

 

 彼を初めて見るわけではない。だけれど目と目と合わせて挨拶をすると彼と初めて出会った気がした。

 言い難い感情に突き動かされて彼の姿を見る。彼の髪は何色にも染まることのない黒色だ。右の瞳は燃えるような赤。しかし左目は眼帯で隠されてその色を窺うことができない。


 あぁなるほど、こういうものを一目惚れと言うのか。そうやって冷静に分析したが、その言葉を飲み込むと途端に彼を見ることが恥ずかしくなってしまった。



「姉さん」


 私の恥ずかしい気持ちは義弟の小さな声によって消された。


「あ、えっとなんだっけ」


「……彼への挨拶に返さないと話が進まないんだけど」


 そうだった。周りを見回すと皆の視線が私に向けられていることに気づいた。先ほどとは違う恥ずかしさが出てきたが、できるだけごまかして発言する。


「はじめまして。今日からあなたの主になるシェリーです。よろしくギルバート」


「はい。改めてよろしくお願いいたしますお嬢様」


 その日はとりあえず挨拶をして解散した。





 そもそも何故ギルバートが私の執事としてうちに来たのか、説明すると長く……と言いたいところだがそうでもない。

 私の専属執事のドミニクが随分歳をとったのを父様が見兼ねて、暇を出したのだ。ギルバートは彼の後任ということである。私もドミニクが仕事をしづらそうにしているところを何度か見たので、もうゆっくりと老後を過ごすべきだと思って快く送りだした。

 だがドミニクは私たちの言葉に納得できなかったようで、休暇を要求してきた。その後、珍しく父様がドミニクに押されていたのが印象的だったなぁ。結局彼は長期休暇を出したのち、庭師として戻るという話になった。


 こうやって布団でゴロゴロしながら考え事すると、気持ちが落ち着いてくる。私は昔からこうやって何事にも縛られずダラダラしているのが好きだった。だから平凡に過ごし生涯を終えたんだろうなぁ。

それに比べて今世はなんと忙しいことか。学校入学まであと一年でゲームの始まりまでは二年。まだまだゆっくり生活できると思ってたんだけどな…。



「おーい。ねえさーん」


「えっアルトくんいつから部屋にいたの?!」


「一分くらいかな? あ、ちなみにちゃんとノックはしたから」


 あまりにダラダラしすぎて気づかなかったようだ。自分の集中力が変な場面で発揮されて微妙な気持ちになった。

それにしても、相変わらずアルトくんは私への対応が雑だ。


「珍しいねアルトくんから来るの。どうしたの?」


「え、とぼけるつもり? それとも気づいてない?」


 アルトくんはどうやら用事があってここに訪れたようだが、胸に手を当てても全く心当たりがない。

そうやって悶々と考えていると、いつものようにため息をつかれた。


「なんであんなにギルバートの姿に驚いて、じっと見つめていたのかな?」


 そうか、それがあった。確かにあんなに動揺して気づかれない訳がない、困ったなぁ。前世の好きだったキャラに会えて驚いたのち、恋してしまったんです! などと聞いたら気が狂ったかと思われる台詞は言えない、というか言いたくない。

そう、彼はシーラブで隠しキャラとされていた攻略対象でさらに私が1番好きだったキャラクターだ。


「なんでもない……はダメですか」


「無理があるってわかっているのになんで聞くのかなぁ」


 対処方法を頭の中で検索していると、とあるものにぶち当たった。それはディーゼ師匠から教えられた技だ。師匠から言われた「いつか使うときがくる」という言葉には半信半疑だったのだが、実際きたので驚きだ。

今度師匠に何かお礼しようっと。そう決意し私は早速技を繰り出した。今回はしっかり練習した後なので問題ない。


「えっと、それはお姉さんの秘密だからだめかな。 ごめんねアルくん」


 この技は技と言いながら、とてもシンプルなものだ。師匠曰く「自分と相手の呼び方を変えて大人ぶれ。後は普段の差とその顔がなんとかしてくれる」らしい。今回はその教えに、ちょっとした好奇心で首を傾げる動作を追加した。

 正直自分の顔は美人のほうに入ると思っているので、少しは効果があると思う。


 悪女への第一歩に喜んでいいのか複雑な気持ちを抱えながらも、効果はいかほどかとアルトくんの顔を見ると固まっていた。目の前で手を振ると彼は、はっとして恐る恐る声をかけてきた。


「その技はまさかあの詐欺剣士から教わったの?」


「詐欺剣士がディーゼ師匠の事を指すのならそうだよ」


「姉さん…その技は危険だ。使っちゃだめだ」


 アルトくんは珍しく焦った様子で私の両肩を掴み真剣な表情で言った。


「ふふ。アルくんは心配性だね?」


 その真剣な顔が珍しかったのでからかうことにした。再びお姉さんぶって接すると、目の前の彼は顔を真っ赤にして「ねえさんのばかーー!」と言って走り去っていった。こうかはばつぐんだ。


 その弟の姿がとても可愛かったので、毎日今のように接しようかなと思ったけど師匠は乱用するなと言っていたのでやめることにした。


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