姉と弟
では早速、計画を練ろう。
まずはどうやって絶え間なく話しかけるということだ。方針は決まっても、具体的な内容が思い浮かばない。ほとんど会話という会話をしていないので、アルトくんが何が好きかわからないのだ。
「自分の話をしておけばいいのかな? でも聞いてる側からしたら、そんなのどうでもいいよ!ってなるしな」
私は部屋で1人ごちた。案は浮かぶが、仲良くなるという点でダメなものしか思い浮かばない。
「でも、ドミニクには考える暇もないくらいって言われたからそれでもいいのかな?」
考えをまとめるために再度声に出して、呟いた。そうだ、そもそも好感度云々は後でいい。話しかけまくって緊張を解くのが目的なのだ。
「そして、油断した時にアタック」
相手を油断させてから攻撃するのは、戦闘の基本だと私は考えている。
「よし! 自分語りで油断させてアタック大作戦だ!」
私は、前回は面倒だった作戦名をノリノリでつけて、大々的に叫び拳を突き上げた。
「やってきました。こちらはアルトくんのお宅でございます」
直前で緊張しないように、少しふざけながら部屋の前へとやってきた。
深呼吸を1つして、軽く三回ノックする。
「私です、シェリー。入っていい?」
「………はぁ、どうぞ入って入ってー」
凄く雑だ。私に対する対応が雑すぎはしないだろうか。
「失礼しまーす…」
なんとなく落ち込んで気分を下げながら入室すると、アルトくんは前回と同じくベッドに……ではなく、机に向かって勉強をしていた。
「偉いね、勉強してるんだ」
とりあえずウォーミングアップから始めよう。私は学べる子なのだ、入った途端に作戦実行して精神的にやられたのは教訓として生きている。
「なんでそんな姉ぶってるの? 勉強するくらい普通でしょ」
こっちはまだ準備運動で体を温めている最中なのに、彼は最初から全力できた。
くじけないぞ…! 例え彼がこちらを全く見てなくても、その顔を覗いて見たら無表情でも、褒めたのを受け流されていてもくじけないぞ…!!
「実際姉だし、勉強しているのは普通じゃないよ」
少し声に力を入れて反論した。それを聞いたアルトくんは眉を顰めながら
「勉強している僕は異常者だと?」
と言った。不味い、言葉の選び方を間違えた。
「え、待って、そうじゃない違う! えっと、私は部屋にいるのに勉強するのは嫌だし面倒なので、勉強していることは凄いんだよ!って言いたかった……んです」
「わかった、わかったからそんな泣きそうな顔しないで」
「うん」
言われてから気づいたが、私は泣く寸前だった。子供だから以前より涙腺が緩くなっているのかもしれない。
その後少し気まずくなったのか沈黙が続いた。普段なら会話が途切れたら、アルトくんが私を追い出すという流れだったのだが、今日は違うようだ。
「…もう来ないかと思ってたんだ」
「え?」
沈黙からの打開策を考えていると、彼から予想外の発言が聞こえた。幻聴かなと思い、疑問の声が意図せず出てきた。
「だから! もう、会いにきてくれないかと思っていたんだよ!」
すると、先ほどより大きな声ではっきりと彼は言った。言葉を飲み込めなくて、確認の為に彼の顔を見ようとしたが、逸らされてしまった。
「……」
「……」
再び沈黙。しかし、先程より周りの気温が上がったような気がする。
「ありがとう」
私が1番最初に口から出たのは、お礼の言葉だった。上手くいえないが彼に伝えたいと思った。
「………何が?」
「よく考えれば、アルトくんは最初から私の事姉って言ってくれてたのに気づかなくてごめんね」
質問には答えずに、思い浮かんだ言葉を続けて言った。
「その…これからも、こんな姉ですがよろしく」
締めくくりに片手を彼の前に差し出した。
「まぁよろしくしてあげるよ、姉さん」
彼は、困惑と呆れと嬉しさが混ざっているような微妙な顔をしながらも私の手をしっかりと握り返した。




