始まりの朝
休み明けの登校は、やっぱり面倒。まだ寝てたい。いや、ダメだ遅刻する。
そうぼんやりとした思考のまま瞳を開けた。
開けた……のだけれど、どういうことだろうか。
これは夢? 夢かどうかはさて置き、この台詞を言う時が来るとは驚いた。
私は、少し舞台の役者のように演技がかった口調で言った。
「知らない天井だ…」
言って満足したが、そうなのだ。知らない天井なのだ。
高貴な雰囲気を醸し出すガラスのシャンデリア、薄い黄色の花がデザインされている壁紙。ここはどこだろうか。
場所だけ不明ならまだ良かった、いや良くはない。良くはないが問題はこれだけではないのだ。
今の声は自分の声なのか? 頭の中に浮かべた台詞と今の聞こえた言葉は一致している。だが声は一致しない。いつもよりも大分女の子らしい声だ。自分は、もう少し声が低く女の子っぽくない声だったはずだ。
うーん、いまさら声変わりだろうか。それだと嬉しい。これ以上想像力を働かせることを脳が拒否している気がしたので、今はそういうことにさせて欲しい。
そうやって突如訪れた声変わりに思考を費やしてると少し遠くから扉の開く音が聞こえた。
「お嬢様、起きられたのですね。今、旦那様をお呼びしてきます」
スーツを着たセバスチャンと呼びたくなるようなお爺さまが声をかけてきた。
なんだがお嬢様って恥ずかしい。なんと返事をするか考えている間にいなくなっていた。旦那様とやらを呼びに行った様だ。
うーん、はて? お嬢様とは私のことだろうか?
ふと手のひらを太陽に、ではなく天井に向けた。いつもとは比べ物にならないほど小さい手、柔らかそうな指、すぐに折れそうな手首、透き通った白い肌。
……病気にでもなったのかもしれない。病気で痩せたのだきっとそうだ。家にこもりすぎて色もこんな白くなったのだ。いやぁこれは素晴らしいね、病気痩せだ!
かなり無理のある病気痩せという理由で現実逃避していると、ノックが聞こえた。
「シェリー、入るぞ」
扉から入ってきたのは、眉間にしわを寄せ鋭い視線でこちらを睨んでる男性だ。髪をオールバックにしていて、赤の宝石のような瞳がよく目立つ。カラコンですか? イカツイですね。
歩いて来る彼の容姿を分析していると、彼はベットの横まで歩いてきて椅子に座った。
「階段から落ちて頭を打ったと聞いた。周りをよく見ないからこのような事になる。打って2日も寝ていたのだから、その低俗な頭も良くなると私も助かるのだがな」
真横にいる男性は、呆れたような口調で階段から落ちた事を告げた。
えっと、この人は旦那様だっけ? 私がお嬢様ってことはお父さんか? 怪我した娘を心配したりしないのだろうか。お嬢様……おめぇさん強く生きろよ。
「……本当に打ったことで頭がどうにかなったのか?いつもは睨んだり、反論してくるのにな。やっと感情を内に秘めるの事を覚えたようだ。私の子供とは思えないくらい遅いな」
お嬢様は、いつも親に睨んだり反論していたようだ。こんな睨んでくる怖いお父さんによく反抗できると思う。
すでに強いお嬢様らしいので、先ほどの強く生きろというアドバイスはいらなかったかもしれない。
「父様、お仕事は大丈夫ですか?」
なんと話そうかと考えていると、ふといつもこの時間、父様は部屋に篭っているはずなのに平気なのかと思い尋ねてみた。
「あぁ、ちょうど一区切りついたところだ」
「そうですか、わざわざわたくしのためにありがとうございます」
「……そろそろ私は戻る。今日は1日休むように」
「わかりました」
もう用は無いとばかりにそそくさと、父様は帰って行った。
……おかしい。なぜ父様がこの時間は部屋に篭っているとわかったのだろうか。私は父様と初めて会ったはずなので、知らないはずだ。
いったい私はどうなっているのだ?
もうこれ以上考えたくなくなったので、寝たら夢から覚めると信じて、もう一度寝ることにした。




