師匠
魔法は異世界生活の醍醐味だと個人的には思う。しかし私の周囲が騒がしかったせいか、今まで魔法には少ししか触れられなかった。
だが先日遂にきちんと学べる事になった。
始めは危険だからと父様に許されなかった。しかし、私が本を読みながら魔法を使い部屋を水浸しにさせた、とドミニクに聞いてから諦めたらしく先生を呼んでくれる事になった。
「おいお前、なんか考えながら魔法使ってるだろ。それ、今すぐやめろ」
それが、このディーゼ師匠だ。師匠はとにかく口が悪いし、面倒くさがりだ。
しかし、この世界に生まれ変わってから厄介だったり、情報伝達能力のない人と話していた私にとって、かなり癒しとなる人物だ。
「……弟子。ちゃんと聞いてるか?」
ぼさぼさの黒髪から鋭い赤目を覗かせ師匠が何か言っていたが、思考の海に沈んでいた私には全く届かなかった。
「き・い・て・ま・す? この馬鹿弟子!!」
「ひゃい! すびばせん!」
考え事していた私を師匠が叱り、頬を両側から引っ張った。
何かわからないが怒っていたのでとりあえず謝ったが、その場しのぎの返事を見抜かれたのか
「何に対してすみませんだって?」
「え、えーっとぉ………わ、わかりません」
「はぁ……変な考え事しながら魔法を使うなと言ったんだ。わかったな?」
師匠は呆れながら、私が答えられなかった問いに対する答えを教えてくれた。
「はい。すみません!」
「返事はいいんだけどなぁ」
「すみません…」
「公爵令嬢がそんなすぐに謝ったりしたらダメだぞー。上に立つものはもっとドッシリと構えとかないと」
よく忘れてしまいがちだが、この世界では私は結構偉いのだ。庶民感覚があまり抜けない。
「すみま……ありがとうございます!」
「いや、感謝の言葉を述べとけば良いわけでもないぞ」
「師匠! 難しいです!」
「お前ちょっと楽しくなってきただろ」
今に限らず、師匠の前では公爵令嬢としてではなく、前のような庶民の自分としていられるので楽しく過ごせる事が多い。師匠が平民だからかもしれない。
「そんな事ないですよ」
「満面の笑みでそう言われてもなぁ」
師匠は私の笑顔に肯定の意を感じ、少しだけ楽しそうに微笑んでそう言った。




