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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
一章 ~始まり~
9/51

七話「誰そ彼を知る」

やっと復旧終り〜!




ゆっくり、ゆっくりと足を進める。本人に自覚はなかったがそれはまるで焦らしているかのようでもあった。


心が湧き立つのが分かる。感情が沈殿していくのを感じる。

血が沸騰しているように全身が熱を帯びて、呼吸が荒くなっていく。

違う、と感じていても納得しているのでは決してない。


いつからかは憶えていない。だが少なくともあの人が居た頃に其れを見た記憶は恭一には無かった。何にせよ、大した意味のある事ではない。


分かるのは其れが奴と同じと感じる事。

感じるのは其れが違っているという事。

訴えるのは其れ等を赦すことはない事。


だが理由など如何でもいい事。

狩の気配が濃厚に漂い始め、恭一は其れ等が見えた所で足を止めて遠目に広がるものを眺めた。


生き物とは思えない不気味な叫び声。黒く生き物の形を取ってはいるが、液体とも個体とも取れずにただ(うごめ)いているだけの多数の其れ等。明らかに現存する生き物ではありえない、生理的におぞましいと感じさせるもの。

そして、其れに対峙する三つの影。当然先ほどの三人だ。


隣に来た和佐が口笛を鳴らす。


「これはまた・・・一段と盛大だな」


だが恭一はそんな事聞いて、聞こえてはいない。

一時は止めた足を再び進める。その足取りに、そして瞳には迷いも嫌悪も、憎悪すらない。視線はただ其れ等、それよりも遥かに先の一点のみを見詰め続けた。

和佐は何も言わずに、恭一から一定距離を開きながら後を付いてくる。

蠢くものと戦っているらしい三人は恭一たちの事に気づいた様子はない。


と、一番近くにいた其れ等の内の一つが恭一を獲物と定め襲い掛かってきた。

其れは比較的形を保っており、見様によっては人の形を成していると言えた。

全身は勿論黒。節くれ立った酷く無骨な筋肉の身体に二周りほど大きな身の丈、棍棒のようなものを手にし、頭と思われる部分には大きな角が二つほど伸びていた。

鬼、と呼ばれる生物を基板にしたようなその形。


棍棒が恭一に向かって振り下ろされる。


ふ、と顔を上げて其れを見返して、恭一は上げた腕を軽く横に振るった。それだけで其れが振り下ろした棍棒が逸れた。

棍棒に添えた手で力の方向を自分から流した。言葉で表すとそれだけなのだが生身のみで行えたのは通常なら奇跡に近い。だがそれを恭一は淡々と、後ろの和佐も出来るのが前提のように動じはなかった。


一歩踏み込み、肉薄した其れに対して恭一は無造作に手を伸ばした。


腹部と捉えられる辺りを握り締める。だがたったそれだけで其れの動きを止められるわけでもなく、其れは棍棒を持っていなかったもう片方の腕らしきものを恭一へと伸ばした。

其れの手らしきものは恭一の頭部を包み込んでも有り余るほどに大きい。

それが恭一へと迫り触れる刹那。


「Geajuuuuuuuuuu!!!!!!!」


断末魔の叫びとも、生物の出せる声とも取れない音が其れから鳴り響いた。

握っただけだった恭一の手が明らかに其れの内部へとのめり込んでいた。


苦悶の音を上げながらも手らしきものが恭一の頭を遂に掴む。

ぎりぎりと握りつぶすように力が加わっていく。頭蓋骨が軋む音を聞きながら、それでも圧力をまるで感じていないかのように恭一の顔色に苦痛はない。


淡々と顔を上げた恭一、其れの頭らしきものにあった目らしきもの、それと視線が重なったと思われる瞬間、


――握り潰した。


音は途切れて其れから力が抜けたように恭一へと倒れこんでいく。だがそれは恭一に触れる事無く、そのまま透過して地面へと倒れこんだ。

全身が砕け出し崩壊を始めた其れはやがては綺麗な粉の様なものになり、風に流されながら溶け込むように空気の中へと消えていった。


跡には何も残らない。


其れ等の中にいる僅か彼方で、先ほどの絶叫で恭一たちの事に気づいたらしく三人がそれぞれに二人の方を向く。それも一時、余裕がないのかすぐに視線は其れ等に戻っていった。


「これを黙って見ちゃ、男が(すた)るよな」


恭一からして右手にいた和佐も呑気なものだった。


向かってくる其れの一つを手にしていた小太刀で胴体から半分に両断する。

上半身と下半身に分かれた其れはそれでも動いていたがそこから更に六分割にされると恭一のもの同様に粉になって溶け込むように消えていった。


殺傷物を持っているだけ和佐の方が効率は良く、自分から其れ等へと向かい次々と斬り伏せていく。ちなみに和佐が両手にしている小太刀二本は和佐が常に仕込んでいる物らしい。

そんな和佐を気にするでもなく、先を見据えた恭一はいつも通りに感慨のない表情でその狩場へと足を進めた。


「誰でも良い。ミズキを知っているか・・・」


答えはなく、其れ等のほぼ半数が新たな獲物の出現に恭一と和佐へと殺到しだした。




◆ ◆ ◇ ◇ ◇




数十分後、あれだけ在った何かの姿は一つもなくなっていた。


今日の狩りも終わり鎮まりかえった公園で、五つの影が互いに肩を並べ合っていた。


「何をしに来た?」


「よお、凪ちゃん・・・って、そういえば何だか学校の時と雰囲気変わっていない?」


「・・・これが地だ」


「成る程、学校じゃ猫被ってたわけだ。ま、まだ一日目だったからなぁ」


凪の眉がピクリと動くが和佐はそれに気づかず、というか気づいていても無視しているのか相変わらずの呑気な笑みを湛えたまま変わらない。


「それで、上柳。一体何をしに来た?」


「何って、決まってるだろ。お手伝いだよ、お手伝い」


「ふんっ、どうだか」


機嫌が悪いのを全く隠そうとせず、苛立った口調で凪の隣にいた少年が聞こえる程度の小声でぼやく。


「何だ、ガキ。いいたい事があるならこの恰好良いお兄さんが聞いてやるぞ?」


「冗談で言ってるの。三枚目、の間違いだろ? それに、どうせ手下の様子見にでも来たんだろうけど、残念だったね。役に立たない雑魚ばっかりで!」


「鼎!!」


嗜めるような少女の声に憤りを見せていた少年は一度肩を震わせて、途端に大人しくなった。まだ何か言いたそうではあるが、口ごもりながらも明確に言葉を発する様子は無い。


「えっと・・・・・、済みません。その、助けて貰って・・・・・弟、が失礼で・・・・・あ、ありがとうございます」


人が良いのか警戒の様子がまるでない。逆にこちらが悪く思うほどに深く頭を下げられて、今度は和佐が戸惑いを見せた。ただ恭一は相変わらず無表情のままそこにいるだけである。


「いや、そこまでされると流石に悪」


「どうでもいい」


独り言、のようなものだったがその一言にその場全員の視線が集まった。


「あのモノを知っているのか」


「ぇ、モノ・・・って、あの」


困惑しながら先ほど其れ等がいた場所をちらりと見る。当然其処に何かが在った痕跡一切が残っていない。


「その・・・どうして、ですか?」


ある意味当然の質問。だがその答えを恭一は、


「お前には関係ない」


拒絶を以って返した。

少女はその言葉に気を悪くするでもなく、まるで真意を探るように恭一の事をじっと見詰めてくる。だがそれも僅か、結局何も語らずに目を伏せた。


代わるように凪が一歩前に出る。


「素性も分からない、信用も出来ない相手に話すことなど何もない。まして知りたい理由も言わないとなれば尚更だ」


「そう・・・か」


否定は肯定(・・・・・)。知っている事。

だからその言葉に、恭一は口元を僅かに歪めて、笑った。瞬間和佐の表情が強張る。

その二人の意味を三人は知らない。


「知らないならそれだけ。だが気がないだけなら・・・・」


言葉を切って相手を見る。その顔は相変わらず笑っていたが瞳だけが色を失う。

変化に気付いたのは一人、予め知っていたのもまた一人、計二人。ただし咄嗟に行動できたのは、


「聞き出すまで」


呟き。


地面を蹴る、そうするのがまるで当たり前のように。そして警戒していたのが偽りであるかのように誰もがその行為を当然の事として捉えた。

結果、それは反応ではなく予測でなくてはならなかった。


標的にされた凪は一拍の後に気付き後方へ跳ぶが遅すぎる。


一歩。

それだけで間合いは必殺の距離となった。


「っ!?」


敵を捉えかけた腕が横から割って入った誰かに掴まれる。

恭一は掴まれた腕を逆に招き入れると、それに向けて蹴りを放った。だが手応えがなく空振る。掴まれた腕もいつの間にか離されていた。


凪は既に射程外。少年はただ驚きに固まっていて、少女は何故だか空中に向けて半端に手を伸ばした状態で固まっていた。


「邪魔をするか」


「まあ、そう睨むなって」


睨まれて、というわけではなさそうだが俗に言う『参った』の恰好をしている和佐は実に情けなく映る。特に恭一の動きに反応できた唯一の人物という事を考えると尚の事である。


攻撃の意志はないと言う姿のまま恭一に近づいていく。


一尺程度、手を伸ばせば互いに届く辺りでその歩みは止まった。というか止められた。

問答無用で、恭一は間合いに入るなり迷わず拳を放っていた。だがそれも当たる直前、和佐が瞬時に下ろした手によって遮られた。


「おい、物騒じゃね」


二撃目を放つ。

言葉の途中と言う事もあってか、今度は鈍く確かな手応えが拳に伝わる。が、刹那の差を置いてその手は掴まれてしまったので完全かといえば、そうではない。


「痛え、な・・・おい」


拳を引こうにもつかまれていて出来ない。もう片手も振り上げる前に腕を押さえられる。


今度は脚か、と恭一が考えたところで和佐が表情を歪めながら詰め寄ってきた。


「俺は、そんな、焦るな・・・って言ってんだよ」


恭一だけに聞こえるほどの小声。


応えはない。ただ真っ直ぐ射抜いてくる瞳があるだけ。

和佐はそれ以上を諦めたのか恭一から視線を逸らして、ぼけっとした様子で見ていた三人へと顔を向ける。

にっこりと、微妙に額に汗を滲ませながら引き攣った笑みを浮かべてみせた。


「凪ちゃんさ、その話は後ほどって事にしない? ほら、今日は、もう、遅いし、さ」


「はっ、馬鹿じゃないの。今時十時が遅いなんて・・・・・・凪さん?」


片手で少年の言を制して、凪はじっと和佐の様子を見詰める。少年はまだ何か言いたそうだったが隣の凪の様子を見て、次いで黙ったまま和佐を睨んだ。


「今日の用事は済んだ。それだけだ」


凪が身を翻す。


「ふ、ふん。今日は見逃してやるさ」


続いてやや戸惑いつつも少年が、少女も恭一と和佐に一礼をしてから二人の後へと駆けていった。


三人の注意が離れるなり、和佐は直ちに恭一に向き直った。そのまま三人の姿が完全に見えなくなるまで睨み合う。勿論恭一の両手は固定したまま。


喧騒けんそうが引き夜特有の静寂な空気が戻ってくる。ようやく、拘束が解かれた。


「もう少し、な・・・・手加減、ってもの考えろ、このヤロ」


振り上げられた和佐の拳を、恭一は避けようとはしない。必要ない。

軽く触れる程度に胸部を撫でていき、そのまま全体重が恭一の身体に掛かった。

苦悶の表情のままぐったりとした和佐を見下ろして、気付くと口から小さな息が一つ漏れていた。


熱は冷めずとも、そう急く事もない。


恭一が身を返すと和佐の身体はそのまま地面に倒れこんだ。それを当然の如く無視して足を一歩進め掛け、ふと出掛けに聞いた言葉が頭に浮かんだ。


空を見上げると、あの時と同じような空色だった。微かな水滴が頬をぬらす。


焦る事はないと言う。


「ふざ、けるな・・・」


あの時の幻聴が未だ耳の内にこびり付いて離れない。


「ミズ、キ・・・」


虚空へと向けて、何かを振り払うかのように拳を一振りする。


当然空を切る。


身を翻して、恭一は三人とは反対側へと歩き出した。

二歩進んで、思い出したように引き返すと和佐の足を片手で攫んで引き摺りながら、今度こそ立ち止まる事無く公園を去った。





◆ ◆ ◆ ◇ ◇





「凪さん、どうしてあそこで引く必要があったんだよ?」


「無駄な戦いはしない方がいい」


咎めるような口調に凪は振り返らずにきっぱりと言い放つ。だが少年は納得いかないようで更に不満気になった。


「何だよ、それ。僕が負けるとでも言うの!!」


その様子をちらりと振り返りって一つ、ため息を漏らす。


「そこまでは言わない・・・・・が、まだ敵だと決まったわけじゃない。それに」


「それに?」


「姉の恩人でもあるそうじゃないか」


からかうような口調で、それからその後ろにいる少女を見る。つられて少年も後ろを振り返った。

公園を出てから一言も発さずに、俯きながら二人に付いてくる少女。心配なのかそれを見て二人の表情はやや曇った。


「だけど・・・・だけどおかしいよ、僕はあんなやつ等知らない。つまりあいつ等は蓮華じゃないんだ。なのに・・っ!!」


「ああ、確かに気になる所もある。千里もそうだが、特に上柳。あれは間違いなく(らん)だ」


「ラン?」


「簡単に言えばかなりの使い手という事だ。問題はどこでそれを知ったのか、だが・・・」


「僕等は知らないよ」


「分かってる。・・・・・と、すれば素性を知る必要があるな」


一人で黙考に入った凪を見て、少年は今一度後ろを見た。

相変わらず俯いたまま付いてくる少女の姿がいつもより小さく見えて、少年は僅かに歯を強く噛んだ。


「どうしたんだよ、姉さん?」


応えはない。

いつもならどんな時でも返ってくる応答が、ない。


「姉さん?」


今度は同時に目の前で手を振る。


が、反応はない。


「姉さん」


今度は肩を揺さ振って、ようやく反応が返ってきた。


「かな、え?」


「どうしたんだよ、姉さん。さっきから姉さんらしくないよ?」


少年の言葉に、少女は更に目を伏せて俯いた。


「・・・・・・・った」


「ぇ?」


「何、も・・・・・ぇなかったの」


力なく左右に振られた首がまた垂れた。心なし以前よりも頼りなく見える。


「どうした?」


二人の様子に気付いたのか少し戻ってきた凪に対して、少年は肩を空かせてみせる事しかできない。


「何が、あった?」


凪の問いにも少女は俯いたまま。それでもポツリと漏らした。


「何も・・・・・見えなかった。映ってなかったんです」


「何が・・・?」


「・・・寒いです」


両肩を抱いて更に少女が縮こまる。


「どうして、ですか・・・・?」


誰に対して呟いたものか。


少なくとも少女のその問いに対して、残る二人は言うべき答えを持ってはいなかった。ただ少女を心配そうに見る事しか出来ない。

そのまま、三人は家に着くまで一言も発することはなかった。







七宝殿〜居間で興っている事?〜


七和「誰ぞカレーの汁」


萌 今回はお兄ちゃんの一人舞台だね!


舞 そうね!!


和佐 いきなりそんなネタではじめんな! 俺だって魅せ場あったんだぞ


萌 お兄ちゃんスゴイ!


舞 萌ちゃんも負けてないわ!!


和佐 あんなもんすごくねえ! 被害にあったの結局俺だけじゃねえかよ


萌 あ、和ちゃん、お兄ちゃんのフォローありがとうね!


和佐 いやー、それほどでもないって(照れ)


舞 ……単純


和佐 黙れ、後輩


舞 あら、これはまた…女の子には優しい和佐先輩のお言葉とは思えませんね


和佐 お前に遣うのは重いおもいやりだけだ


萌 ねえ、さっきから二人で何こそこそ話してるの? もしかしてわたしにだけ言えない事?


舞&和 そんことないわ(よ)


萌 じゃあ、何話してたの?


舞 えっと……(汗)和、どうぞ


和佐 えっ(汗)………! そうそう、早く今回の話の説明をしなくっちゃなぁ〜


萌 え? でも…


舞 そうね、萌ちゃん。早くしないと時間がなくなるわ


萌 え………うん、そう…だね……(何かはぐらかされた?)


舞 和! ほら、早くしなさい、今回和以外、私たちは出てないんだから


和佐 あ、ああ、そうだな、今回の話は……はあ、たく


萌 どうしたの、和ちゃん?


和佐 いや、あいつって言葉からして喧嘩調だから、あいつといると疲れるんだよな結構


萌 お兄ちゃん言葉数少ないから……だからぶっきらぼうな言い方になっちゃうんだよ


舞&和 (絶対に口も悪いと思う……萌ちゃんの前じゃ口が裂けても言えないけど)


萌 和ちゃん、もしかして………お兄ちゃんといるのメイワク? わたしが頼んだから?


和佐 そっ、そんなことないよ、萌ちゃん、確かに疲れるけどそれなりに楽しいから


舞 和、声がドモってる


和佐 うっさい


萌 と、言う訳で作者さんから短くすると『動き出す時、二度目偶然の邂逅』だそうです


舞&和 (そんなものあったのか!)


萌 何だか二人とも喧嘩しちゃいそうだから…その前に今日は早く終わっちゃうね


舞&和 (そんなことしてない!)


萌 じゃあね〜、また八話でね………あれ、二人とも何で泣いてるの?



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