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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
三章 ~意味~
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四十話「呼応する罠」




「お兄ちゃん?」


様子を窺うような小さな声に意識が浮上し一気に覚醒へと向かう。


瞳を開き、すぐに目前に萌の姿を認めた。そして見下ろす卓の上には夕食が鎮座していた。

どうにもあの後――互いに無言で家に辿り着いて夕食を作り始めた萌に、常の姿をそうぞうしてそのまま半分ほど意識を閉ざしていたらしい。


「食べよ」


言葉に頷いて、箸を両手に取る。向かいの萌も同様の動きを見せる。


「「頂きます」」


二人の声は見事に重なり合い、それからいつものように恭一だけが料理へと箸を伸ばした。


初めは一番近くに会った南瓜の煮物。一欠片と餡を絡めて口に運び、数度の咀嚼の後に飲み込んだ。

次に焼き魚。何の魚なのか恭一には判らなかったが、どうでもいい事でもある。身を箸で切り取り口に含んだ。同様によく噛み締めてから喉へと通す。

残りも同様に、いつも通りに一通り食べてから一旦箸を置き、恭一はじっと見てきていた萌へと視線を上げた。


「美味しい」


無機質のようなそれだけを漏らし、食事を再開。萌も安堵するように吐息を小さく漏らしてからやっと食べ始めた。


「・・・・・」


ふと、何かに惹かれるように恭一は手を止めると顔を上げた。

そこには何も変わらない、もぐもぐと口を動かしている萌の姿があるだけ。


「どうしたの、お兄ちゃん?」


「いや、何でもない」


僅かに首を振って、箸を動かしなおす。


何も変わっていない。今日の無言の中の帰り道に感じた違和感も、今は何処にもないように思えた。演技などでもない。もしこれが演技だとすればそもそもの問題として今までの、


「・・・」


それは間違いようがなく。


思考と、僅かに呼吸も停止させながら恭一は手にしていたお椀と箸を卓の上へと戻した。そして睨むように視線をある方角へと向ける。


「お兄ちゃん?」


正面から届く声がそのまま頭の中を素通りしていく。


確かに感じた。確固たる敵意ある視線。それは夕方感じたものと同じもの。

まるで見せ付けるようにその視線は恭一から移り、傍の萌を視る。その事実が分かってしまう。否、そうあるように視線の主が恭一を視ている。


「?」


一人、だから萌は分かっていない。精々がいつもと違う恭一の様子に戸惑いを浮かべる程度。


「っ!!」


視線が萌を冒した。

視界が、より忌諱を浮かべる萌が黒へと染まっていく。更に黒を蝕むように燃えるような赤が全ての存在を・・・恭一の世界に在るものを穢していく。


「ぅ・・ぁ、」


自分の口から漏れるものなど、もうどうでもよく感じる。


世界が赤へと還っていく。


還る世界に恭一が覚えた感情は唯一のもの、だが絶対ではない。その憎しみがより赤く、ただ赤いだけに・・・・・――あの時のように染めていく。

他の誰でもなく自分自身の感情のまま。


――“本当に”?


喉の奥から湧き立つ。それが口から溢れれば間違いなく世界は本当に全てが赤に染まってしまう、その現実に僅かに残った恭一が恐怖を覚えたがそれもすぐに押し流され消えた。


流される。


汚される。


穢される。


無力無力無力無力。何も出来ない、まさしく無力。何も分かりもしない。


「・・・・・・・・・ぁ」


全てに染まった赤が産声を上げ、


――君、何やってんの?


赦されなかった。他の誰でもない、――自身に。


あの日かざされた傘に視界が明けたように、全てが白く晴れていた。驚くほど簡単に、とても当たり前である故に。

恭一にとって永遠と感じたそれは事実、一瞬だったらしい。


「ねぇ、どうかしたの、お兄ちゃ」


「誰、だ」


「ぇ?」


外界の事は届いていない。自分がいつの間にか立ち上がっていた事にも気付いていなかった。分かる事、それはただ。


視線を感じた。


実に嘗めた真似をしてくれた相手は今も続けて恭一を見ているようだった。多分に嘲りを含んだ、悪意敵意ある視線。それは殺意。


腕に感じた何かを反射的に振り払う。


「お兄ちゃん!!!!」


何か、盛大に物が割れたような音を聞いた気もしたが既に恭一の意識には届いていなかった。

居間を出て廊下を駆け、靴を履くのも半ばにドアを勢いよく解き放って身を抛り出す。


目前に認めた人影に問答無しに拳を放つ。


「っ!?」


その人影はあわや、と言うところでその拳を避けたのだがどうでもいい。そう、退かす事だけが目的。

誰だったのか、その事実を確認する事もなく恭一は更に路を駆けていった。


「おい恭ぃ・・!?」


背後から届く声は既に意味を成さない。


視られる事は別に深いなどではない、そのはず。だが今にすればただそれだけが異常なまでに癪に障った。その理由を恭一が知る事はない。


「・・・“認めない”」


呟き漏れた、その言葉の意味すら知らず考えず。そこには自覚もありはしなかった。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆





「今のって恭一、だよな・・?」


いつもどおり夜の散歩の恭一を待っていた和佐だが突然の強襲と驚きで姿を認める事も出来ないまま過ぎ去った人影に半ば呆然と立ち尽くしていた。


「っ、そうだ・・!!」


だが数秒と待たず、ある事を思い出して急ぎドアが開け放しの家へと駆け入る。が、それはただ数歩進んだだけで止まった。


立ち尽くす以外の術を知らない。


「・・・・・・・・」


それは、それだけはあってはならない光景だった。

鎮まり返った家内。物音一つなく、それは死んでいる家の静寂に他ならない。


からからと。


からからと。


からからと喉が渇く。それでも耐え切れず、言葉を吐き出す。


「萌、ちゃん・・?」


それは人の名前だった。少なくとも多分、少し前までは。


一つ、目の前に佇んでいた其れが、恐らくは声に反応して顔を向けた。

口元が無骨な形を作った。あれが笑みなどと悪い冗談にもならない。


「何、お兄ちゃん?」


「っ!!!」


悪夢なんてものは夢の中だけで十分。

耐え切れず和佐は駆け寄っていた。人であったはずの少女の下へと駆け寄りその両肩を攫み、揺さ振る。


「違うだろ、萌ちゃん!!」


其れは僅かに首を傾げて、いやそれすら揺さ振られた故の錯覚でしかないのかもしれない。何も応える事など持ちはしない。


「萌ちゃん・・・・頼むから、頼むから答えてくれよっ!! 一言で良い、それが誰を憎む言葉でも・・俺を嫌いになったって構わない。だから俺を見て、ちゃんと見て答えてくれ、答えろよ、萌!!!」


それでも反応はない・・いや、僅かに顔を上げて反応を見せた。尤もそれが和佐の叫びに因ってだとすれば、だが。事実は誰も知りはしない。


「・・・・・・?」


「も・・」


「“あぁ”」


漏れ出たのは吐息か、言葉か。

どちらにしろ、和佐は息を呑んで動きを止めた。そして目の前のそれに恐怖した。


「和ちゃん?」


止めろ、とは言えない。言葉を出すだけの気力はない。


「わたし、何かいけない事しちゃったみたい。だってお兄ちゃんが、またお兄ちゃんに・・・」


ぽろぽろと。


いつの間にか無機質なはずのそれの瞳から液体が零れ落ち、流れ出していた。

雫が零れるたびに世界は色を成し、それだけ目の前のそれの存在がかすんでいくように。


「せっか、く・・・好きな、物って一生・・懸命、えら・・・りょう、作、のに」


「・・・・・めろ」


「ね? わた、し・・お兄ちゃんはどうしたの?」


「・・・・めろよっ」


「わたし、またお兄ちゃんに捨てら」


その刹那、多分、和佐の中で何かが切れた。


「それ以上は止めろよおいっ!!!」


「っ!!」


目の前でそれの体が目に見えて震えた。まるで人が怯えている仕草に似ている。滑稽だった。


「それ以上は止めろ。あいつが・・・恭一が萌ちゃんを放って何処かに行くはずないだろっ。あいつは今も昔も萌ちゃんの、家族の事を一番大切に想ってる奴で、だから違うだろ、それはっ!!」


理由は色々とある。例えば今にも消えそうだったとか、守ってやりたかったとか、愛しかったとか、その姿をこれ以上見たくなかったとか、他にも色々と。


和佐は其れを――萌と言われていた少女を抱き締めた。


「どうしてだろうね、・・・なだけなのに」


途切れた言葉は多分、和佐の脳内で削除された。もしくは届いた言葉自体が幻想、聞き間違いだったのかも知れない。


「あ、は・・・・っ」


視界の端で、口元が不恰好に釣りあがるのが見えた。


強く、血が滲みそんな細事も気にならず拳を握り締めて、和佐は手をそれの後ろへと回した。これ以上、それこそ本当に笑い出してしまえばもう元には戻れないだろうから。それだけは許せない。


「萌ちゃん、悪い」


手刀を首筋に叩き込んだ。


「あは、はぁっ・・・」


糸切れた人形のように萌の体が弛緩して、それを和佐はそのまま抱き上げた。


腕に抱いたひとを見下ろす瞳に有るのは怒りか、悲しみか。


抱き上げたまま階段を上り二階へと、そのまま萌の部屋のベッドへと萌をそっと下ろした。

普段なら見回すだろう部屋の景色も目に入らないように和佐は布団を萌の身体へとかけるとそのまま部屋を後に、静かにドアを閉めた。


「・・・・・・・」


ため息が漏れる。

安堵か、遣る瀬無さか、どちらにしても気の緩みでだけはない。


一階に下り、この際居間にあった惨状は目を瞑るとして、和佐は迷う事無く電話を手に取った。目的の番号は丁度受話器の傍の紙切れにあったのでそれを打ち込んでいく。


受話器を耳に当て待つ事、まるで待ち構えていたのではないかと疑いたくなるような速度で相手は出た。


『眠れないの、萌ちゃ・・・』


「俺だ」


蜂蜜よりも甘ったるいような声を遮った瞬間、明らかに電話越しの雰囲気が変わった。が、相手がどう出ようが今の和佐に気にするだけの余裕はない。


『何? どうして萌ちゃ・・』


「今すぐ来い。恭一が萌ちゃんを置いていった」


説明も弁解もなしに相手を遮っての言葉。だが電話越しに息を呑む気配、それだけで事が足りたのは十二分に感じられた。


「後を・・・萌ちゃんを頼む」


『ちょ、待ちなさい。あんたはどうするつも・・』


電話を切る。一秒すら勿体無い。


この事に限りだが信用に足る相手に伝えるべき事は伝えた。


瞳を閉じて、余計な気を抜くべく息を大きく一つつく。

現状を頭の中で整理。とはいっても整理するほどの量もない。問題だってどうすれば解決するかなど分かりきっている。


恭一を連れ戻す。


今はそれだけ。相手の言い分など知った事ではない。弁解であれ何であれ後で吐くほどさせれば事足りる。


「・・しっ!!」


瞳を開けると同時、和佐は一気に駆けだした。

玄関を駆け下りて、急いではいるものの一応ドアは閉めておく。それから道路に出て記憶と相手の行動原理を頭の中で展開。向かうであろう方角、場所、目的地を浮かべる。


昔馴染みだ、手に取るとまでは行かずともそれなりに分かる自信はある。ただ、今回に限り何故か和佐はそう感じられなかった。


「恭一、お前、自分のした事分かってんのか・・?」


殺意にも似た怒気。


和佐はいつもの散歩へ向かう道へと、奇しくも恭一が向かった方角とは正反対の道へと向かって駆け出していった。







七宝殿~居間で興っている事?~



始終は「請おうとするのかな?」




萌:おに、おに……


真衣:はい、萌さん今回はお休みですよ~、はい、帰って、帰って…


萌:う、う、うぅぅ…



………


真衣:ふぅ、いきましたか、それでは改めて、今回はわたしが進めさせてもらいますね~


真衣:と、いうわけで今回のお客さんでーす、どうぞ~


鼎:だからって何で僕なんだよ、この時は僕だって結構あぶ…


真衣:はいはい、話はそこまで、それは次回分ですから、今言っちゃ駄目ですよ


鼎:……ふん、まあいいよ


真衣:と、言う訳で早速今回の話の解説をしていくとしましょうか、ではどうぞ鼎くん


鼎:どうぞ…って早速職務怠慢だね、あんた…


真衣:いや、だって、そもそもわたしはどうしてここにいるんでしょうね?


鼎:それこそ…そんな事僕の知ったことじゃないよ


真衣:……全く無駄に生意気なガキですね


鼎:今、何か言った?


真衣:はい、素直で結構ですね


鼎:………


真衣:なんですか、その疑いの眼差しは…?


鼎:ま、別にいいよ


真衣:はぁ…ま、というわけで、本当に早く説明をしてしまいましょう、はい、鼎くん


鼎:はぁ、もう何も言わないけど…


真衣:その方がいいですね


鼎:今回の話、だった? これは、また例のごとく暴走して周囲に迷惑かけているだけだろ


真衣:それを言ってしまっては……他に言うべき事が見つかりませんね


鼎:…それ以外何言えって言うんだよ


真衣:しかし…今回のは萌さん初めに少し幸せがあって、一転して不幸になっていますね


鼎:確かに…って、そういえばどうしてあんな時間に上柳の奴が居たんだよ?


真衣:ああ、それですか、それはですね、丁度散歩の時間だったってだけですよ


鼎:ご都合…


真衣:あぅ、それは言わないでくださいよ、作者さんだって一応がんばって…


鼎:本当に?


真衣:あぅ、それは………多分、思います


鼎:はぁ…もういい、本編じゃ僕だって大変な事になっているんだし、暇じゃないんだよ


真衣:はい、それもそうですね、ではもう終わりということで…いっせーの、で


真&鼎:四十一話で会おうね~……ふぅ、気疲れが…って、ん?(互いに顔を合わせる)


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