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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
一章 ~始まり~
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三話「不運な転校生?」


以下同文。




恭一は改めて周囲を見渡してみた。


誰もいない教室。

何の変化もない、授業中であるはずの教室内である。移動教室であるとか体育の授業であると言う事はありえない。第一本日入学式があったばかりで授業は始まってもいない、本来ならホームルームの時間であった。

授業があるにせよないにせよ、興味のない恭一は(ぼぅ)と窓の外に見える雲を見続けていた、かれこれ一時間ほど。


それにしても、と思う。

入学式とはあれほど邪魔なものだったのかと僅かに眉をひそめた。

一体何の儀式なのかは知らないが新入生が怒涛(どとう)の勢いで恭一に向かって走り寄ってくるのだ。「お義兄(にい)さんと呼んでもいいですか?」に始まり「よろしくお願いします、私の名前は〜」だの「死ねや、コラッ」などと奴らの感情は全く一致していなかった。ドサクサにまぎれてか現二、三年生も入り混じっていた気もする。ちなみに向かってきた全員が今は例外なく保健室行き、もとい明らかに定員漏れだったので仲良く体育館で眠っている。

更に言えばその前の段階でも激しかった。新入生挨拶までは一部の一年生席を除いては清とした空気の中で偉いらしい人たちの価値のない挨拶が行われていたのだが新入生挨拶が始まった途端にそれが崩れたのだ。体育館全体で「うおぉぉぉー」の雄叫びや「あぁ」と言う何処か惚けた呟き声多数、「け、結婚してくれっ!!」ととち狂う輩まで現れていた。折角萌が新入生代表としての挨拶だったらしいのだがその所為で中断。

その時の萌の泣き出しそうな顔を思い出して、訳もなく一瞬息が詰まった。


恭一が軽い息苦しさを覚えた頃、教室のドアが開いた。


入ってきた男は恭一にも見覚えがあった。この学園の教師、更にはこの教室の担任であるはずの男。しかし、今は酷く慌てている様子だった。落ち着きもなくきょろきょろと辺りを見回している。だが教室に生徒がいないことが原因ではなさそうだった。と言うよりもそのことには全くの興味が示されていない。


視線を窓の外へと戻しかけて、男の後に続いてきた相手に恭一は僅かに目を細めた。

従うように入ってきた二人目は初見の女のはずだった。肩よりも少し長いほどの緑髪りょくはつにきつい印象が表立つ意志の篭った鋭い瞳、身体が固くならない程度に伸ばされた背、すらっとした物腰に動作にも隙がない。だがその服装は間違いようもなく萌と同じ、この学園の制服であった。


女も吸い寄せられるように恭一を見つめてくる。


椅子に座ったまま、身動ぎ程度に思える動きで恭一の身体が僅かに動く。

いつでも動けるようにと椅子を僅かに引いた動きにその女は反応を示した。僅かに、警戒するように女の手が今はない何かを求めるように自らの腰元を彷徨さまよう。その動きを見て恭一は少しだけ腰を浮かせた。


「あー彼女は本日転入してきた娘だ、よろしくやってくれ。それから後は自習だからな」


場の空気を全くといいほど読めていないらしい担任教師は早口でそれだけを言うとさっさと教室を出て行ってしまう。


「え、ちょっと先生!?」


慌てて声をかけた転校生だが教師は見向きもしない。それも足音からして廊下も駆け足、と言うよりも全速力で去っていったようだった。普段は校則に煩い人物なのだが、余程急いでいたらしい。

後には恭一と転校生、それと黒板に書かれた彼女の名前だけが残る。


『渫槁 凪』


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


二人ともじっと見つめあったまま微動にもしない。

先に折れたのは転校生の方だった。恭一からは視線を逸らさずに教壇へと歩いていく。


「はじ・・・、?」


初めて気づいたように、転校生は人一人居ない教室内を戸惑ったように見回し出した。

やがてどうしようもないと思ったのかそのまま真っ直ぐにただ一人いた男子生徒、恭一の事を見つめて、口を開いた。


「・・・・・初めまして、渫槁凪(さらしまなぎ)・・です」


そしてまた先ほどと同じ状況に戻った。転校生、凪はじっと見つめたまま動かず、恭一も見つめたまま視線を逸らさない。互いが互いの緊張状態。

また耐え切れなくなったのか先に口を開いたのは凪の方。


「何か用・・ですか?」


戸惑うような言葉とは裏腹に真っ直ぐに見つめてくる凪の問いに恭一は何も応えず視線も逸らさない。


答えがないと分かったのか凪は真っ直ぐと恭一の方へと向かってきた。無言のまま警戒したように向かってくるその動きはやはり隙が見当たらない。もっとも、隙がないだけで作れないわけではなかったが。

机一つを挟んだ位置で凪の足が止まる。それから少し言いよどむように、口を動かした。


「先ほども言いましたが初めまして。それと、あなたの名前を伺ってもいいですか?」


「千里恭一だ」


「・・・それでは千里・・・さん、少し聞きますが?」


「何だ」


「この教室の生徒は一体何処に行ったんですか? それともあなた一人で全員だとでも?」


「他にもいる。何処に行ったのかは知らない」


「・・・そうですか」


全くの茶番(・・)。互いが自分を守り相手の隙を探っているのが分かっている状況で会話などに何の意味があるといえようか。


「ではもう一つ聞きますが・・・」


凪が恭一に背中を見せる事無く僅かずつ間合いを開ける。


「千里・・・・・さん、さっきから私に用事がある・・・ありますか?」


「ない」


「ならどうして私の事をじっと見ている・・のですか?」


無言のまま恭一が席を立つ。そして凪はまた少し後ろへと下がった。

逃げ腰の姿にとりあえず今は敵意がない事が分かった恭一はようやく凪から視線を外してその足でドアへと向かった。


「・・・何処へ?」


振り向く事もせずドアに手を伸ばして、


目前でドアが勢いよく開いた。

そこに現れた人影に半分反射的に恭一は拳を振り上げる。


「っ!?」


何かに当たる、否、握られて拳と共に動きを止められていた。


「あぶっ、危ねえな・・・・」


その声に恭一は初めて相手が誰なのかを認識する。

改めて、もう片手で殴り掛かるとその相手、和佐は握っていた手を開放して後ろへと下がった。その為途中で止めた拳は空振りに終わる。


「しっかし、やっぱりのうのうと教室にいたんだな、お前」


呆れたようにしながらも絶妙な間合いを取っている和佐の姿に恭一は不快そうに眉を寄せる。ちなみに和佐の教室はここではない。


「何の用だ」


恭一の口から漏れた声は何処までも冷たかった。更には言外に『目障りだ』・・・とまでは流石に言わずも『一組のお前が何故三組にいる』と含ませていた。


「つれないな、折角の自習だって言うから態々誘いに来てやったって言うのに」


表情は笑み、そこで肩越しに凪の姿を見つけたらしく和佐が少しだけ不思議そうな表情を浮かべた。


「まさか恭一以外に残っている奴がいるとは思わなかったな・・・・・誰だ、彼女?」


「転校生だ」


「へぇ、転校生・・ね。道理で美人なのに見覚えがないわけだ・・・・・・って、何処に行く恭一!?」


歩き出そうとしていた恭一は立ち止まると振り返って和佐を見返した。それだけで思い当たる節があったようで和佐が納得したように頷く。


「あー、いつものところか・・・・・って、だからちょっと待て!!」


再び歩き出し掛けた恭一だったが再度呼び止められて、非常に不快そうに足を止めて和佐に振り向いた。


「さっきから・・・・何の用だ」


恭一は言葉に殺意までも含めていたが、一方で和佐はその質問にとびっきりの悪戯をたくらむ子供のように、何かを含んだ笑みを浮かべた。


「いや、さ。三年ぶりの通過儀礼を一緒に見に行こうかな、と思ってな」


「一人で行け」


即答した恭一に僅かに和佐が肩を落す。


「相変わらず、つれないな・・・・・まあある程度想像は付いたが」


「・・・あの」


「ん?」


和佐が振り向いて、いつの間にかすぐ後ろに凪が移動してきていた。その姿に恭一は僅かに警戒を強めたが和佐は反対に笑顔になる。


「なんだい、その、えっと・・・・・」


「渫槁凪です」


「ああ、凪ちゃん、ね」


その瞬間凪の眉がぴくりと動く。それに伴って恭一も僅かに身じろぎをしたのだがそれだけだ。和佐は全く気にしていない。


「俺は上柳和佐。で、聞いたかどうか分からねえが一応こいつ、恭一の親友をやっているつもりだ。よろしく」


「あ、ああ・・・」


手を差し出した和佐に凪もおずおずとした感じに手を差し出し、握手の後に二三度振ってから互いに離された。


「で凪ちゃん、自己紹介も終わったところで俺に何か用?」


「あぁ・・いや、はい。上柳・・・さんは教室に誰もいない理由を知っているのですか?」


「あ・・・・・・・・ああ、なるほど。凪ちゃん、君入学式に出てないだろ?」


「入学式? ・・・・はぁ、まあ確かに」


「なら説明するよりも実際見に行った方が分かりやすいよ。今から俺らも行くとこだから、気になるのなら付いてくればいい」


「一人で行け」


いつの間にか『俺ら』になっていたのに口を挟んだ恭一だったが和佐は全く気にした様子はなく、振り向いて恭一に笑顔を向けて見せた。


「別にちょっとくらいいいだろ。どうせ暇なんだしさ」


恭一は近寄ってくる和佐を威嚇するように睨みつける。すると急に真剣な表情をした和佐が真っ直ぐに見返してきた。


「お前、萌ちゃんがどうなってもいいのか?」


改めて、恭一は完全に和佐に向き直ると一気にその間を詰めた。

和佐の襟元を捻り上げてもう片手は相手の首に掛ける。既に二人の顔は触れ合いそうなほど近づいていた。


「どういう事だ」


「なぁに、行けば分かるさ」


襟元を攫み上げた手をやんわりと押されるが素直に離す恭一でもない。和佐は諦めたようにため息を一つついて、


「来いよ。まぁ、お前も直接見れば思い出すだろう?」


「!!」


一瞬、昇ってきた和佐の手に恭一が掴んでいた襟元を手放して後ろへと跳んだ。


開放されて満足したように、制服の乱れを軽く整えると和佐は歩き出した。


「ま、慌てるようなものじゃないから安心はしてなって。もしもの時も・・・・・・・・・・・・・・・・非常に不本意だが舞がずっと傍にいているだろうからな」


すれ違いざまに恭一の肩を軽く叩いていく。その後を凪が恭一の事を避けるように一定距離をとりながら追って行った。


「お〜い、恭一。どうせ来るんだろ。早く来いよ」


後ろからの和佐の声。恭一はそこでようやく、二人の方を振り返るとその後を追って歩き出した。

和佐の足は階段を下りて一年の教室の方へと向かっていた。だが階段を下りてすぐの場所、まるで全校生徒が一ヶ所に集中しているかのような人口密度があってそこで三人の足は止む無く止まる。


「凄い人の数だ・・・・・と思います。まるで全校生徒がいるよう・・・・です」


教室に恭一以外がいないと知ったときよりも唖然とした様子の凪に和佐は苦笑気味に頷いてみせる。


「いや、そのとおりだと思うよ、凪ちゃん」


「は?」


「だから、多分ここに全校生徒がいるんじゃねえの、って事。来てない奴は体育館でお昼寝かこいつくらいのもんだよ」


と言って恭一を指差す。

出された指をへし折ろうと恭一が手を伸ばすがそれは直前で引っ込められた。


「さ、じゃあ行くか」


「いや、行くと言ってもこれでは・・・・」


「心配しなくても大丈夫だって、凪ちゃん。それともこれだけの元がなんなのか、気にならない?」


「それは・・・・確かに。これだけの事があるなんてそうある事じゃない・・・ですから。何としても真相を確かめる必要がある・・・・・と思います」


「だろ?」


何故かさも可笑しそうに耐え切れないとばかりに笑い声を漏らす和佐に凪が困惑の表情を向ける。だが和佐は何も言わずに、それが凪の関心を更に高めているようでもあった。


「と、言うわけで行ってみようか」


「で、でもこれだけ人の壁があるならどうやって・・・」


何処か血走った目をしながら我先にと先に進もうとしている人の壁を前に和佐は進む気漫々、凪はやや躊躇(ためら)いがち。そして恭一は、


「な、何ぶっ!?」


「えなびっ!?」


「おい、押すばっ!!」


「・・うぐっ」


「げぼっ・・」


先にある障害物を物理的に排除しながら黙々と進んでいた。


「な、行けるだろ?」


「・・・・そのようだな」


さっさと恭一が進んだ痕跡、死屍累々《ししるいるい》の道程を嬉々として進んでいく和佐の背中を見ながら、何処か疲れたように凪は肩を落としていた。


やがては人の壁の方も後方の事態に気づいたのか、血走っていた目は幾分なりを潜めてまるで肉食動物に怯える草食動物のように縮こまって今度は我先にと、進む恭一に対して道を空け出した。事態を把握していない者もついついつられて道を空けていく。

まるで王の道を恭一は進んでいった。ちゃっかりとその後ろには和佐と凪の姿もある。和佐は慣れたように周りの人垣に手を振るなどしていたのだが凪の方は顔を真っ赤にして俯きながら後を進んでいた。

障害もなくなり楽に進めるようになった事で程なくして目的地に辿り着く。


「あ、お兄さーん、こっちですよ、こっちこっち」


その声に一時だけ視線が恭一に集中するが首を一振りして見回すだけで誰ともなく視線を横に逸らしていた。

改めて恭一は視線を戻して、視線が重なった。


「・・・・・・・お兄ちゃん」


今にも泣き出しそうだったが誰かに何かをされた様子も見られないその姿を見て、恭一は自らも知らぬうちに僅かな安堵を吐き出していた。


恭一は人が割れる中を進んでその教室の入り口までたどり着く。

手を伸ばしかける直前、向こうからドアが開いた。ドアを開けたらしい舞がちょっとだけ驚いたような表情を浮かべる。後ろには萌の姿もあった。


その瞬間、沸き立っていた周囲が波をうったように静まり返った。時折感嘆のため息が聞こえてきたりもするが理由は定かでない。


萌の瞳は僅かに潤んでいた。昔から否応にでも人が寄ってきていた所為で余り他人なれしなくなってしまった萌だ。これだけの人の中にいればそれはもう恐怖だろう。

何も言わないまま恭一へと縋りつくように身を寄せる。

突然周囲が沸き立ったように騒然となった。その伝播は止まるところを知らず輪を広げていく。


そんな中。


「こんにちは、お兄さん。今朝ぶりですね」


まるで周りの雑音を気にしていないとばかりに舞が笑顔を見せた。恭一は萌を抱き寄せてゆっくりと頭を撫でながら僅かだけ視線を送って応える。


「萌ちゃん、大丈夫だった?」


「お兄さんが来てくれてよかったです。これで萌ちゃんも安心できる・・・ね、萌ちゃん?」


「ぇ・・・・・ぁ、わわっ」


余程切羽詰っていたのか、舞の声に周りの人たちを気にしだしたらしく萌が顔を真っ赤にさせて恭一から離れる。とは言っても身体をほんの少し離すだけで片手はしっかりと恭一の服を掴んでいたりするが。


「・・・無視かよ、おい」


何故だか和佐ががくりと肩を落していたりするが誰も気にしていない。


「萌」


目尻を拭いつつ、萌が顔を上げる。


「大丈夫か」


「・・・・うん、大丈夫・・だよ。舞ちゃんもいてくれるしまだ大丈夫。うん、大丈夫」


最初自信なさ気に、だが最後には微かな笑顔を浮かべて萌は頷いてみせる。恭一はもう一度萌の頭の上に手を乗せて、


「そうか」


まるで安堵しているように溜めていた息をゆっくりと吐いた。


表情を隠すように俯いて、萌は頭の上に乗った恭一の手を取って重ね合わせた。

それだけでろうの仮面が溶け落ちるように、それは控えめだが今までの表情が本当のものでないと誰もがわかるほどに心底嬉しそうに、笑っていた。


「うん、そうだよ」


ほぅ・・とまわりから感嘆(かんたん)のため息が幾重も漏れる。中にはそのまま昏倒する者まで現れ出す勢いだ。


変わって辺りもざわめきを取り戻した。「あいつ誰だ?」や「彼女の何なんだ?」「確か二年の・・・」などの詮索が始まったらしいのだが本人達は全く気にしていない。


「おーい、萌ちゃん・・・そろそろ俺がいる事にも気づいてくれると嬉かったりするんだけどな・・・」


その声に萌は夢から現実に戻ったように一時瞬きをして、改めて声の主へと顔を向けた。


「・・・・ぇ、あ、うん。ちゃんと和ちゃんがいた事も・・・分かってるよ」


と、言いつつも申し訳なさそうに視線を逸らす。

どうやら嘘はつけないらしい。


「萌ちゃん、和相手に無理しなくってもいいのよ。素直に『ごめんね、存在が薄すぎて気づかなかったよ』って言ってあげなさい」


「ま、舞ちゃん・・・・・・・・そ、そんな事ないからね、和ちゃんっ」


後ろからの囁き声に再び笑顔を浮かべて和佐に向きなおる萌。だがその慌てた態度が何よりも真実を物語っていた。それを分かっているらしく和佐は僅かに引き攣った笑みを浮かべながらも何も言わない。


「そ、そういえば和ちゃんたちは何しに来たの?」


あからさまな話題転換だったが和佐は引き攣った表情を引っ込めるとすかさずそれに乗った。


「ほら、萌ちゃん人ごみって苦手だろ。だから大丈夫かなって心配になって。な、恭一」


「・・ほんと?」


見上げるのは和佐ではなく恭一。

ずっと萌の事を見ていた恭一は僅かな間を置いて、首を縦に振った。


「・・・ああ」


「そっか」


ほっと息を吐いた萌の顔が目に見えて綻ぶ。それに伴い何故だか周囲から無数のため息が漏れていた。


「でも大丈夫そうだよな」


「うんっ、わたしは大丈夫だよ」


変哲のない笑顔を浮かべて見せた萌の事を見て和佐も安心したように僅かに肩を落した。


「そうみたいだな」


「当然、私がついているのよ。万が一にも京が一でも大丈夫じゃないなんてありえないわ」


「お前が憑いてるから違う意味で俺は心配しているんだがね」


「あら、それって一体何の下での心配?」


「・・・少なくとも今お前が思い浮かべているような内容でないことだけは確かだ」


幾分か居心地が悪そうに舞から視線を逸らす和佐。舞は初めから和佐など視界に入れていない。


と、


「お兄ちゃん?」


たった一言が二人の視線を一箇所へ逸らす。


恭一は言葉で応える代わりに萌へと目を向ける。視線が重なって僅かに、握られた手の力が強まった。何か言いたそうに萌の口が開きかけ、結局何も言わないままに閉じられる。そして握られた手の力が急に緩んだ。

名残惜しむように指一本ずつ、だが確実に互いに握られた手が離れていく。


「うん、そうだった・・よね。ごめんね、わたしばっかり」


完全に別たれる。


「ありがとう」


周囲から音に聞こえるほどの吐息が漏れる。


「・・・如何もない」


最後にもう一度だけ萌の頭に手を乗せて、恭一は身を翻すとそれだけで見事なまでに割れた人垣の中央を歩いてその場から離れていった。


「萌ちゃん、戻りましょう」


舞に促されて萌と二人、教室の中へと戻っていく。和佐は幾分か居心地が悪そうに頭を掻いて、結局恭一の後を追った。


「・・・ふむ」


空洞に広がっていた人垣が再び教室の窓に張り付く形で戻っていくその端で、結局最後まで場の流れについていけなかった転校生の少女が一人中央に眉を寄せながら難しい表情で腕を組んでいた。








七宝殿〜居間で興っている事?〜


三和「不安な天候性?」


和佐 『今日は作者急病のため、私こと和佐が代わりにお送りします』だってさ


萌 前回のあれ、回復しなかったんだね。大きな岩だったし、棘とかもあったよ…


和佐 萌ちゃん、それは言わない約束だろ


萌 あっ、そうだったね。ごめん、和ちゃん(シュン)


和佐 (かっ、可愛い)いいよ、別に…さっ、さて三話の紹介です。今回は凪が出て来ます


萌 あれ? そういえば凪さんとずいぶん仲良さそうだったね、和ちゃん


和佐 う〜ん、そうかな? でも設定じゃあよく喧嘩するって書いてあるぜ


萌 じゃあ、これから嫌われてくんだね


和佐 そんなはっきり……それにちょっと違う。嫌われるんじゃなくて気が合わないの


萌 ふ〜ん(少しつまらなそう)


和佐 あれ、萌ちゃん、もしかしてやきもち妬いてくれた?(笑顔)


萌 やきもち? 誰が? もしかして和ちゃんに? あはっ、面白くないよ、それ(天使の笑顔)


和佐 ……


萌 …


和佐 ………


萌 ? あれ、どうしたの、和ちゃん? 急に黙って。それにそんな暗い顔して


和佐 いや、なんでもないよ………うん


萌 そう? ならいいけど


和佐 ぐすん


萌 それよりも、どうして入学式が中止になったり教室に人が少なかったりするのかな?


和佐 それは…そうだ! それの答って確か作者にもらった資料の中にあったような……



ごそごそ、ごそごそ


和佐 あった


萌 で? ねえ、何だったの?この前の作者さん教えてくれなかったし…


和佐 えっと『やがて解るさ、大人になればな。フフフ』ってなんだ、こりゃ


萌 ぅぅ、この前と一緒の答だよ、それ


和佐 うん? もう一枚あるぞ、しかも萌ちゃん宛だ、これ


萌 え、本当? 読んで、読んで


和佐 ああ、では、『PS.事件の張本人が何言ってるか、自分の胸に聞いてみろ。ぷぷーだ』


萌 ……


和佐 …


萌 ぅぅ、くすん


和佐 …なんかどんどん性格壊れてってるな、あの作者、少しは同情…しなくていいか


萌 ぅぅ、くすん


和佐 萌ちゃん、再起不能っと。あっ、では、あれば四話で会いましょう



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