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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
三章 ~意味~
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三十七話「変わらない平常」







「――であるからして、ここのxにはこの公式を当てはめればこのように・・・」


教壇では男性教諭が授業をしていたが恭一の視線は前にさえ向いていない。真横を向いて窓の外の景色をぼうと眺めていた。


この日、恭一にしては珍しく一日中ずっと考え事をしていた。


「・・・・・・・」


思考の原因は一日中感じている何かに見られているような幻視感。だが見られていること自体は恭一にとっては何ら苦にはならなかった。むしろ何故見られるのか、と言う疑問の方が大きい。

心当たりは、と言うよりもそれが誰の視線かと言うのは何故か分かっていた。それが最も恭一の傍にいる彼女だからこそ見られても苦にならず、だから考えるのは別の事。


どうして誰に見られているのか分かるのか?


何故それがこの場にはいないはずの彼女のものなのか?


この二点。


何度か視線を探ってはみたが総じてその先にいたのは見知らぬ誰か。それも見ていたのは彼、彼女等ではなかったとすぐに直感してしまう。

だが手がかりが無い以上いくら考えたところで答が出る事はない。


「よし、今日はここまでだ」


男性教諭の声とほぼ同時に四時限の終わりを告げる音が響いた。

時間も時間なので、弁当組み以外の生徒達が我先にと教室を出て行く。弁当組みは弁当組みで友達同士が集まって各々の弁当箱を開き始めていた。


そんな周囲の様子を気にするでもなく恭一は更に思考を続けていた。答えの出るはずもない、思考を。


それから数分が過ぎた頃か、廊下が一気に賑わいを増した。教室に残っていた生徒達も皆が皆何かに魅かれるように教室から廊下へと出て賑わいへと加わっていく。


廊下の賑わいが最高潮になろうかと言う頃、教室内に残ったのは恭一と、凪の二人だけだった。

恭一は未だに思考の淵にいて、凪は原因が誰かを分かっているらしく複雑そうな表情を浮かべながら手のパンを咥えている。


所詮廊下の紛争は恭一にとっては蚊帳の外。だから気にもしないというのにむしろ廊下の賑わいは次第にこの教室に近づいてくるように騒がしく、いや実際に近づいてきていた。


ひょこ、と一人の女生徒が教室の入り口から顔を出す。


「えっと・・・あ、いました。お兄さーん」


聞きなれた少女の声。同時にあれだけ騒がしかった雑音が一斉に静まった。そして微かに伝わってくる、今朝から続いているものではない複数の敵意を孕んだ視線達。


「・・・・・」


だから恭一は声に、ではなくその視線たちに反応して、顔を窓から廊下側のドアへと向けた。


「お兄さん、今日は。今朝振りですね」


笑顔で小さく片手を振ってくる舞。正常な男子ならば見惚れるほどに愛らしい姿ではあったのだが、恭一の視線は尽くを無視してその後ろへと向かう。


「・・ぁ」


一瞬、視線が合った。

舞の後ろでドアから半分ほど顔を出し入れして教室内を覗こうと――あくまで覗こうとであり覗けてはいない――していたのは萌、そして今朝方から感じていた視線の主。


そのまま席を立って、弁当箱を片手に半分だけ顔を覗かせて固まった状態の萌へと向かって歩いていく。


舞の苦笑を受けながら恭一は教室を出て、舞と萌の方を向く事もせずにそのまま目的地へと足を進めた。

どうせ毎日の、言葉にされずとも分かる事。その通りに後ろからは萌と舞の付いて来る足音が微かに耳に届いた。


廊下には何故か全生徒かと思われるほどの人数が集まっていたのだが恭一が進む道は面白いように誰もが避けていく。邪魔をすればどうなるのかは全員が経験済み――つまり強制排除――なのだろうが、それでも不満を持つものは多い、と言うよりも大半らしく幾つもの羨望、畏怖、敵意が向けられてきてはいた。

ただ、それらはあくまで視線のみ。誰も行動までには移せていない。

ちなみに恭一がいる状態で後をつけようものなら同様の事に見舞われるのでそれ以上は誰一人としてついてこようとするものなどいなかった。だからしばらく歩く、目的地の場所に着く頃には恭一、萌と舞の三人だけになっていた。


「今日は晴れていて気分がいいですねー」


空を見上げた舞が背を伸ばしながら不意にそんな事を言う。


場所は屋上。恭一が微かに顔を上げると舞の言ったとおり空は見事に澄んだ青色をしていた。

普通なら誰かが舞の言葉に賛同するのだろうが、生憎とどちらも言葉を返すような事はしなかった。お陰で舞の表情が少しだけ寂しそうに翳る。


恭一は迷わずフェンス際まで進むと振り返り、寄りかからないように腰を下ろした。その後にとてて、と駆けて来た萌が恭一の隣に座ろうと、


「あ、萌ちゃん。ちょっと待って」


慌てて駆け寄ってきた舞がハンカチを取り出して恭一の隣の地面へと置く。


「さ、どうぞ?」


「あ、ありがとう、舞ちゃん・・・」


「いいえ」


萌がハンカチの上にお尻を落として、それを見てから舞はもう一つの(、、、、、)ハンカチを萌の隣へと置いてから座った。


二人のやり取りを全く気にする事無く、包みを解いた恭一はその中にあった二つの箱を両方とも開けた。

一方はご飯のみ。もう一方はおかずのみ。

ちなみにどちらがどっちかは箱の柄で分かるようになっていて、銀一色がご飯、空色のプラスチック容器がおかず、と言った具合である。


隣から強い眼差しを――いつも通りに――感じながら、恭一が先ず箸を伸ばしたのはおかずの方。中には今朝出ていた鶏団子(?)や一口コロッケ、隅にあるサラダにアスパラガスや定番のタコさんウインナーと色彩も豊かなものが一杯に詰められていた。


流石弁当暦十年弱といったところか、どれも美味しそうではあった。


二人は、舞も含めてどちらもまだ広げた弁当には手をつけようとしていない。これが習慣であると言うように、それとも舞は単に一人では食べ辛いだけか。

萌と一緒に食事を取るときは誰もが萌に遠慮するのか、これは別段珍しくもない光景。


恭一は一口サイズのコロッケを更に小さく刻むとその欠片を口に含んで何十度とよく噛み締め、それから飲み込んだ。

同様に他のおかずも少量ずつ、萌の視線を一心に受けながら一通り食べていく。ちなみに舞は舞で隣の萌を何故か心無し幸せそうな表情で見蕩れていたりする。

おかずを一通り食べ終えてから、最後にご飯を口に含んだ。これもよく噛んで、飲み込む。


「はい、お兄ちゃん。お茶」


ご飯を飲み込むのと同時に阿吽の呼吸のように隣からコップが差し出される。中には少し湯気の立つ持参したであろうお茶。


「ああ」


受け取って、舌で軽く舐めて丁度よい熱さを確かめてから一気に喉に流し込む。

焼けるような喉越しを数秒感じ、それから空になったコップを萌へと返した。


笑顔でコップを受け取った萌は、けれどやはり少しだけ自信なく不安そうな瞳をいつも通りに恭一へと向けてきた。


「どう・・・かな、お兄ちゃん?」


「美味しい」


これもいつも通り、恭一が素直に答えると不安そうに曇っていた萌の表情が一瞬の内に晴れ渡った。

それを機に舞が自分の弁当箱を開く。


「じゃ、食べましょうか、萌ちゃん」


「あ、うん。・・・・・・・・ごめんね、舞ちゃん。待ってもらっちゃって」


申し訳なさそうにする萌だが返ってくるのは笑顔だけ。


「いいえ、私が勝手に待っているだけで萌ちゃんが気にする事じゃないわ。それでも萌ちゃんが気になるならちょっとだけお弁当を交換、ね?」


「ぁ、うん。・・・そうだね」


舞の笑顔に、応えるように萌も笑顔を浮かべる。


萌は空のコップにもう一度お茶を注ぎ、他にも二つ。それぞれを恭一、舞へと渡してからようやく、自分の弁当箱を開いて箸を手に取った。

恭一も倣うように両手を重ね合わせて、萌の声と重なり合う。


「「いただきます」」


「はい、頂きましょう」


この挨拶が三人にとって、本当の意味での昼食の始まりの合図だった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





つい先ほど帰りの連絡事項も終わり、教室内の生徒はもう疎らになっていた。部活に向かうもの、家路につくもの、理由は人それぞれである。


教室内の人口密度が減っていく中で恭一はやはりいつもと変わらず、席に座ったまま窓の外の人波を見るでもなくただ眺めるように視線を向けていた。

いつもなら人がいなくなる、と言うよりも迎えが来るまでぼっとし続けるのだが、今日は違っていた。と言うよりも周りが違わせた。


「千里」


掛かる声に恭一は視線を窓からその相手へと向けた。


帰り支度を終えたらしい凪が鞄片手に恭一の前で立ち止まる。自然と見下ろすような視線になったのだがこれは恭一が座っているから、仕方ない。


「今日の鍛練、お前はどう・・・」


言いかけた言葉がそこでやってきた人の雑音によって掻き消される。

人ももう疎らだと言うのに一体何処にこれだけの人数がいたのか、と言うほどの人影がいつの間にか廊下へと押し寄せてきていた。


凪が不思議そうに廊下へと視線を向け、同時に見知った顔がドアから教室内を覗いてきた。


「あ、お兄さん。やっぱりまだ此処に・・・って、これはちょっとマズ・・?」


舞が戸惑いの表情を浮かべるのも一瞬、その後ろから窺うように顔を覗かせた萌に困ったと言うように眉をハの字に下げていた。

覗いた萌の視線は一瞬で教室内の恭一へと定まり、当然すぐ傍にいた凪の姿も視界に映ったのだろう。おどおどしていた萌の表情が一瞬だけ、引き攣るように強張った。


一方で、凪はと言うと向けられる視線に明らかな戸惑いを浮かべていた。何分他人に睨まれる、と言う事に慣れていないからか理由が解らないからか。

ちなみに、当の本人はすぐ傍で感じた鋭い視線にようやく萌達へと視線を向けた所。


ここでいつもなら恭一が萌へと歩み寄っていく、のだが今日は違っていた。珍しい事に無言のまま萌が単身で恭一へと歩み寄ってくる。

そして、


「お兄ちゃんっ!!」


体当たりせんばかりに眼前まで迫ってきたかと思えば怒鳴り声に近い音量で恭一の事を呼んだ。


流石にいつもと違う萌の様子を感じたのか恭一は間を一拍置いて・・・いや、間を一拍置いただけで後は普段通りに萌の事を淡々と見返しながらの一言。


「何だ」


「ぁ、ぇ・・と、その・・・」


先ほどまでとは打って変わって、急に戸惑い出す萌。


後から苦笑のようなものを浮かべた舞がやってきて、落ち着かせるように片手を肩にぽんと乗せる。それで落ち着いたようで、やっと普段どおりに戻った萌が上目遣いで乞うように言葉を綴る。


「・・・・・一緒に、帰ろう?」


恭一はその言葉を言われるまでもなく、机の横にある鞄を手にとって立ち上がった。そして萌の頭に軽く手を乗せて、腕に抱きついてきたのをそのままに家へ戻るために取り敢えず教室から出る。


「あ、千・・里・・・・・」


だが教室から出る寸前、背後からの声に先ほど凪が何かを言いかけていたのを思い出し立ち止まる。

振り返り見ると、何故か微妙に表情を引き攣らせながら首を横に振った。


「いや・・・なんでもない。ああ、用事はない。気に、しないでくれ」


それだけを言葉に、それ以上は見るのも辛いかのように視線が横へと逸らされる。

初めて見るような凪の態度ではあったが、急かすように控えめに組んだ腕を引っ張ってくる萌の事もあり恭一はそれ以上を気にする事を止めた。

そして廊下に出たのだが、何故か出たところで急かしていたはずの萌が急に立ち止まった。恭一が視線を向けようとする前に、萌が後ろへと振り返り声を出していた。


「渫槁先輩」


「・・・・・・なんだ?」


凪の言葉が震えているように聞こえるのは気の所為か。真意は判らない。


「昨日は兄が大変お世話になった様で、ありがとうございます。以後は(、、、)気をつけてください。では・・・さようならっ!!」


最後に大きく頭を下げると、萌はもうこの場にいる事はない、いたくないというように駆け出した。当然腕を抱かれた恭一も付いていくわけで、半ば引き摺られるようにして恭一は小走りで走り出した。


残った舞が楽しそうに笑みを浮かべて、その笑顔を未だ戸惑っている凪へと向ける。


「渫槁先輩、でしたか? 月のない日・・・・・そうですね、次の新月辺りですか、の夜道には極力気をつけた方が賢明ですよ。ふふふ・・・」


薄い笑みを浮かべながら舞はそう本気とも冗談ともつかぬ口調で言い残し、それから少し慌てた様子で萌の後を追っていった。


教室に残った一人、凪は未だ戸惑いを浮かべ続ける。





◆ ◆ ◇ ◇ ◇





靴を履き替える時に離れた以外、恭一の腕にはずっと不機嫌そうな萌が抱きついてきていた。ただほんの、ほんのちょっとだけ眉尻が下がっていたり頬を赤く染めていたり、口元が綻んでその隙間からは鼻歌が漏れているなどと言うおまけはあったが。

恭一にとってこんな萌の態度は初めてのものだった。いつもなら人目を気にして精々が寄り添う、までだったのだが今は――勘違いでなければ――まるで見せ付けるように腕に抱きついてきている。

幾つもの視線が二人へと集中されているのを感じる。


――以上が現在の恭一の状況なのだが、ただ当の本人としては寄り添われるのも抱き疲れるのも歩く事に対する弊害においては大差なく、全く持って気にしてはいなかった。


哀れなのは二人の少し後に続く舞だろうか。哀愁を漂わせて二人を蚊帳の外から眺めている、といった感じ。ただ誰にも気にしてもらえないが。


そんな感じの、結局はいつもと変わらないような三人が校門へと向かう途中、最初に気付いたのは萌だった。それから恭一、舞と続く。


校門付近で待っていたらしい和佐が駆け寄ってきた。その際に萌の抱きつく力が少しだけ増したように感じたのは気のせいか、多分違う。


「よう、恭一。それと萌ちゃ、ん・・も・・・?」


「・・・・・」


朗らかな笑みを浮かべた和佐の動きが頬の筋肉一つから停止する。

何故か視線をふと逸らして、それから仕切りなおすように恭一を見た。萌ではなくあくまで恭一を、それも極力萌を視界に入れないように。


「そ、それはそうと恭一、お前今日はどうす・・・」


「和ちゃん?」


再び和佐の動きが停止する。それからまるでオイル切れの機械のように角張ったぎこちない動きで萌へと首を捻らせた。


「は、はぃ・・・・・ナンデショウカ、モエチャン?」


それに萌は普段と変わらない笑顔を浮かべて、


「また明日、ね。それとも和ちゃんも一緒に帰る?」


口調から何から普段と何も変わるものはなかった。ただ、それはあくまで和佐の異様なまでに怯えているような仕草を気にしなければ、ではあったが。


和佐は浮気が露見した夫のように――意外と的を射ている喩えかもしれない――必要以上に大きく首を振って否定を顕示した。


「いやいやいや・・・あ、うん。遠慮、しとくよ。今日はちょっと用事が・・・いや違、何でもないんだ、うん。じゃ、じゃあ萌ちゃん、また後で・・・」


そして逃げるように――別に逃げる、と断定しても差し支えないが――和佐は校門の外ではなく校舎へと向かって、たぶん全速力で、駆けていった。


「ふっ、憐れな和君・・・」


背後からそんな声が耳に届いたが、気にしない事にする。どうせいつもの事だろう。


「どうしたんだろうね、和ちゃん。ね、お兄ちゃん?」


不思議そうに、本当にただ不思議そうに恭一を見上げてくる。だが萌に分からない事を恭一が分かるはずもなく、答えは決まっている。


「知らない」


「ま、いっか。どうせいつもの事だよね」


すぐに気にしない事にしたようで萌はそのまま恭一の腕を抱いて歩いていく。当然、抱きつかれた恭一も続いた。

だが校門を出てすぐ、何故か萌が急に立ち止まった。それに恭一と舞も立ち止まらざるを得ない。


何か言いたそうに恭一を見上げては視線を逸らそうとする事、幾度か。

おずおずとだがようやく萌が口を開いた。


「あのね、お兄ちゃん?」


何故か、その時の萌の姿が淋しげな、どこか切羽詰ったようなもののように感じられた。胸を掻き毟るような想いが一瞬浮上するが、そんなものは思い違い。


何にせよ恭一が応えられる言葉はただの一つしか与えられてはいないのだから。

結局、いつもと同じ言葉を返す。


「何だ」


すると勘違いだったのか、切羽詰った感はまるで無くなった。今はただ、恥ずかしそうに俯く萌が其処に在るだけ。


「えっと・・・・ね。お兄ちゃんはパフェって好き、かな?」


「好きじゃない。けど嫌いでもない」


「そ、そうだよね・・・」


要領を得ない言葉だがどうせいつもの事。恭一はただ萌の本当の言葉が出るのを待つだけ。


決心、未だしきれないように萌が口を開く。


「あの、ね・・・」


そこでまた口を噤んで視線を彷徨わせた。


そんなに言い難い事なのか、と。


「あ、そう言えばなのですけどね、お兄さん」


たった今思いついたかのように、舞が突然声を上げた。普段はこう言った萌が何かを言おうとしているときには口を挟まない舞にしては珍しい。

自然と二人の視線が舞へと向かった。


それを受けて、舞が改めて微笑みを浮かべる。


「私、素敵なお店を知っているんですよ。よかったらでいいのですが、今から三人で行きませんか?」


「ぁ・・」


恭一にしてはどちらでもよく、同意を求めるように萌を見ると丁度視線が重なった。が、何故か少しだけ気まずそうに視線を逸らす。


「ね、萌ちゃん」


「う、うん。そうだね。わたしは・・・うん。お兄ちゃんは、今からその・・・どう、かな?」


舞の呼びかけに後押しされるように出たその同意に、恭一は微笑んでいた舞へと視線を移し、それからもう一度萌へと戻した。


何処か不安そうな瞳が見上げてきている。


迷う事無く、恭一は頷いた。


「ああ、行くか」


瞬間に萌の表情が花咲くように綻び明るみを増す。


「じゃ、早く行こう、お兄ちゃん。こっちだよ」


一秒でも早くとばかりに抱きついた腕を懸命に引っ張る。その様子は、恐らく誰がこの話を提案したのか、代案したのか(、、、、、、)と言う事を忘れているだろうはしゃぎようだった。

恭一も逆らう事無く引かれるままに、だが普段どおりの歩みで萌へとついていく。


「萌ちゃん、楽しそう・・・」


背後から届いた声に、ふと後ろを振り向く。

視線が合うと舞はバツが悪そうに苦笑を浮かべて、小さく首を横に振った。それを受けて恭一は再び萌へと視線を戻す。


「? 何、お兄ちゃん?」


「何でもない」


別に初めてでもないのにどうしてか、恭一は今日初めて萌が笑ったように感じた。だから、と言うわけでもないがほんの少しだけ、恭一は歩く速度を上げた。








七宝殿~居間で興っている事?~



惨状に花は「変わらず咲くか?」




洸「て、ここで突然ですが今回の萌さんの行動の感想を皆さんに言ってもらいます」


真衣「萌さんですね~」


凪「こ、怖かった…」


鼎「……ブラコン」


佐久弥「え、えっと…(ノーコメント)」


経「まだまだ、若いな」


和佐「いつかはあの嫉妬を俺の為に…」



ドカッ!!


舞「萌ちゃんサイコーよ~~」


和佐「ま、舞てめ…」



ガスッ!!


和佐「……」


洸「最後のは気にしないことにしまして、どれも平凡ですね……ねえ、萌さん?」


萌「え?」


洸「ですから、もっと印象深い感想を、って、ねぇ?」


萌「い、いきなりそう言われても……」


洸「仕方ありませんね、では僕がオチを言うとしますか」


萌「別に言わなくてもいいと思うんだけど…?」


洸「………萌さん!!」


萌「は、はい?」


洸「恭一さんとお幸せに」


萌「え、え、え……………え~~!!!」


舞「…」


洸「…えっと、なんてことはありませんから、軽い冗談です、はい」


萌「えっと、わたしと、お兄ちゃんが……幸せに♡」


洸「あ~、萌さん、聞いていますか? 聞いていませんね?あの~」


舞「…」


萌「うぅ~…ど、どうしよう…♡♡」


洸「えっと、お願いですから聞いてくれませんか、萌さん、そろそろ僕にも身の危険が…」


萌「う~ん、ね、ね、ね、舞ちゃん、どどど、わたし、なんて答えよう…?」


舞「え、萌ちゃん? そうね、萌ちゃんなら何を言ったって大丈夫よ」


萌「そ、そうかな…?」


洸「ナイスです、萌さん、それでは僕は今のうちに……」


舞「あ、でもお兄さんより先に私で予行練習でもしない、萌ちゃん?」


洸「で、ではまた三十八話で……ととっ、やばいやばい…」




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