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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
二章 ~仲間~
32/51

二十五話「心有り、故に迷いあり」




「おい、恭一」


背後からの声、僅かな敵意に恭一は足を止めると振り返り見た。


「そっちに学校はないぞ」


恐らくは待伏せしていたであろう、そうでなければ死角に、それも気配を隠すようにしているはずがない。


「まあ、お前の考えが分からないでもないけどな」


嘆息交じりに両肩を落す和佐に一瞥をやるだけで、恭一は気にせずに再び足を進めた。後ろからは着いてくる気配がするが構うことはない。


「なぁ、恭一。久々にじいさんに会う気はないか?」


背後からの声にも応える事はせず


「千代ってばあさんの妙な金縛りと凪ちゃんの炎」


恭一は立ち止まっていた。それでも振り向く事はない。


「あの狸爺に昨日俺一人で聞きに行ったら門前払いにしやがって、でもお前がいれば多分話す気にもなるだろうし、何より現状じゃあんなもの遣われでもしたらお前にとっても不利になるだろ。なら仕組みと対抗策を知っておいても損はないんじゃないか? と思うんだよ、俺は。

だから、あの千代ってばあさんに再戦しに行くくらいなら俺のところに来い」


後ろからじっと見詰めてくる視線を感じる。

沈黙を保ちただ佇んでいた恭一が一体何を思っていたのか、何らかの反応を示すより先に届いた言葉にそれは永遠に閉ざされた。


「お兄ちゃん」


静かに小さく、だがはっきりと悲しげに、それは二人にとっては非常に聴きなれた声。

恭一は一度肩を震わせただけで振り返ることはせず、和佐は緩慢な動きで振り返った。


「も、萌ちゃん!?」


判っていた筈なのに、上げられた声は素っ頓狂な驚きに満ちている。

だが和佐のそんざいには興味ないように、もう一度声が上がる。


「お兄ちゃん」


二度目の、自分を呼ぶその呼称に恭一はようやく振り返った。


制服姿の萌に、互いの視線が重なった。その瞳に映っているのは切々とした痛みだけ。


「何処に行くの? 学校はこっちだよ?」


責めるではなく、それは乞う為の言葉、眼差し。


恭一は何をも応えない。今にも空気に溶け込むように消えてしまいそうな儚さを持つ少女を見続けるのみ。


「ほほほら萌ちゃん、これはちょっとした寄り道、そう寄り道なんだよ。ななあ、恭一?」


一人だけ酷く慌てておろおろとしている和佐の姿が、態度口調共に疑わしい事この上ないだけに余計に滑稽に映る。ただしこの場でその姿を見るものが居れば、の話だが。

萌の視線はずっと一人、恭一しか見てはいない。


「ね、お兄ちゃん。学校、いこ?」


ただそれだけ。

一歩も歩み寄る事なくその場から差し出された手は到底恭一には届かない。


儚く弱々しく、小刻みに震えているように見えるのは恐怖か、錯覚か。だがただ、もしこの手を取らなければどうなるか。


本当に霞のように消えてしまうかもしれないというくだらない思惑を振り払うことが出来ない。それどころか益々真実味を増して恭一の脳裏に纏わり付いてくる。


「っ」


湧き立つような衝動に、恭一は来た道を引き返し萌の方へと向かっていった。そしてすれ違い様に、その手を取って引っ張る。


「ぁ」


驚きと、それ以上の喜びか。


握り締めている限りその温もりは離れる事はなく衝動は霧散していき、恭一は振り返って萌の表情を見る事もなく手を繋いだまま進んでいった。

だからその時萌が浮かべていた表情を知る事はない。


「え、と」


後に残ったのは和佐一人。

黙々と歩いていく恭一となすがままに引っ張られていく萌の姿を、呆けたように見ていた和佐は二人の姿が見えなくなった頃にようやく残されたのが自分一人だという事に気付いた。


口元に浮かぶのは僅かな微笑。


「やってらんねえな、おい」


いかにも呆れましたというように短く嘆息し、行くも軽い足取りで和佐は二人の後を追っていった。





◆ ◇ ◇ ◇ ◇





終業を知らせる音を聞いて教卓の上の教師が合図を求めた。


「気をつけ、礼」


授業が終わる。

教師が教室を後にすると同時に賑わいが溢れた。

時は昼時。食堂に行くものが多く、生徒達の大半は慌しく教室を出て行きすぐに僅かな話し声だけが残る。


恭一は一人、何をするでもなく彼らの様子を見るでもなく自分の席に座っているだけだった。


「・・・・・・・」


不意に感じた視線に恭一はそちらを見た。


「っ!?」


視線が絡む寸前、弾けるようにそれは逸らされた。そして彼女は何事も無かったかのように手に持っていたパンを口に頬張った。

しばらくの間観察を続けたが特に何事も無かったので恭一は視線を元の位置へと戻した。


「・・・・・・・」


感じたそれに再び向け、また戻す。

朝から何度かあった事だったが恭一は実に厭きずに全く同じ事を繰り返していた。


認識としては精々視線を感じて振り向く程度、大した害意もなく興味を持たせるでもなかったので恭一にとっては然程労力にはなっていない。ただあくまで恭一にとってのみ。相手はどうか知らない。


「あ、いました。お兄さ〜ん」


唐突に、聞きなれた声に教室に残っていた殆どの生徒達の視線が集中した。だが普通なら再び散開する視線がそうならなかった。どころか残りの、更に廊下の生徒達の視線も集まっていく。


それは恭一にとって興味を引く事態ではない。


「お兄さ〜ん、もしかして聞こえてないですか?」


呼ぶ主に届いていないと思ったのか二度目の声は先ほどよりも少し大きかった。

だがそれも恭一にとっては興味を引くものではなく視線を向ける事もな


「なっ!?」


椅子のずれるような音。生徒達の視線が一時的にそちらへと移る。

音源が先ほどから注がれていた視線の主であった事も手伝い、そこで初めて恭一はそれらの事象に対して関心を持つに至った。


視線を向ける。


茫然とした様子で何かに驚いて立ち尽くしている凪がいた。向けられる視線はドア付近へと向かっている。

追って視線を向けるとそこには困ったような表情で舞が、すぐに恭一の視線に気付いて安心したように微笑んだ。


「お兄さん。やっと気付いてくれましたか」


別にその声に応えたわけではなく、舞に隠れるようにしていた見知った姿に恭一は立ち上がり向かっていた。


態々上級生の教室まで来た目的など一つしかない。


「どうした」


舞のすぐ傍、教室からは死角になるようなその場所に隠れるようにしていた萌へと声をかける。

瞬間、廊下から向けられる視線が微弱ながら敵意を帯びたような気がしたが一睨みするだけでそれら全ては霧散した。


一つ、二つ。

強張りながら瞬いて、次には一瞬でその緊張が解けた。


「ぁ、お兄ちゃん」


「そうだ。どうした」


当然の言葉に当然の言葉で答える。

普段の、少しだけ恥ずかしそうに俯きがちながらも決して視線だけは逸らされない。恭一のよく知る表情へと移り変わった。


「えっと。その、ね」


口ごもり、何度か開いて閉じる。


恭一はただ待った。

しばらくして、後手にまわしていたものが前へと差し出される。


「お弁当、届けに来たの」


明らかに少女趣味のピンクと水玉の花柄の布で包まれたそれ。多分、言葉通りに両手の上には弁当箱があった。蛇足だが勿論布は全面的に萌の趣味である。

それを見て恭一は弁当を持ってくるのを忘れたのを思い出した。朝、萌に見つからない早く出た為である。


「そうか。悪いな」


短く謝罪し、弁当箱を受け取る。


「ううん。全然、そんなの、悪くないよ」


「そうか」


「うん」


それきり萌が黙ったので恭一は教室の中に引き返そうとして、一歩踏み出したところで止まった。というよりも袖を引っ張られていた。

振り返り見るが、俯いたまま萌は視線を上げない。


「どうした」


「ぁの、ね、・・・・その」


黙って、要領の得られる応えは返ってこなかった。漏れ出るのは言葉の切れ端だけ。

何か言いたい事があるのにまだ決意が出来ていない、そんなよくある事に恭一も同じように言葉が出るのを待つ。


と、今度は萌とは逆の袖が引っ張られた。視線を向けると戸惑うような、僅かに怯えているような表情の舞。


「あの、お兄さん。先ほどから私の事を睨んでくるのですけど、あの先輩はどなたですか?」


舞が向けた視線を追うと、最早驚きではなくこちらを見ている凪がいた。いや、見ているというほどその視線は穏やかではなく、明らかに険しい様子で睨みつけている。

瞳の中には朝から感じるあやふやなものはもう無い。僅かな、だがはっきりとした敵意なるものが篭っていた。それも何故か向けられているのは舞で、おまけに恭一にも向いている。


視線に気付いたのか凪の視線が今度は明らかに恭一を射抜いた。当然、今の凪の視線を向けられて逸らす恭一ではない。

睨み合いが成立する。緊迫した雰囲気が二人の間に、そして教室内に漂い始め


「お昼、をね」


呆気なく恭一は萌へと向き直った。

丁度視線を上げた萌と視線が重なる。


「お昼ご飯、一緒に食べ・・・よう?」


瞳の中に映るのは不安げな萌の姿。


「だめ、かな?」


答えは初めから決まっている。

恭一はいつもと同じように、萌を安心させるよう、頭の上にそっと手を乗せた。


「大丈夫だ」


ただの一声。


緊張と不安が萌のうちから一瞬の内に霧散して、頬は緩んで微笑みを形作った。


「うん。ありがとう、お兄ちゃん」


そう言ってから、弾くように顔を上げると萌は一歩だけ後ろへと引いた。お陰で頭の上にあった手が滑り落ちる。


「でもこういうの、ちょっと、恥ずかしいね」


両頬を赤らませて萌は俯いた。だがその視線は少しだけ名残惜しそうに落ちた手を追っていた。

だから恭一はもう一度その手をどうするかと、気付いて淡々と視線を向けた。


「普通の兄妹はそんな事しないぞ」


「っ!!」


声に反応して萌がびくりと震えて、顔を向ける。

廊下に佇んでいた和佐は僅かに目を細めて何故か不機嫌そう、すぐに笑顔になった。


「お昼、一緒しないか?」


身体は恭一に、顔は萌に。実にわざとらしかった。

睨みつけている恭一の視線は全く気にしないのか、だが当の本人は向けられた視線に少し困ったように、答を伺うように恭一を見た。


「わたしは別にいい、けど」


詰まった言葉と問う視線に恭一は口を開い


「和は要らない」


酷く冷めた、凍えるような、そして本当に聞き取れるかどうかも怪しいほどの微かな声だった。

和佐と萌は聞こえた様子は無い。そぐ傍にいた恭一だけが偶々聞こえたのか。

声を出したと思われる彼女、を見ると極上の微笑が返ってきた。


「私は全然気にしませんよ。お兄さんさえよければ一緒に食べましょう」


「・・・・・・・・」


気にしない事にした。元より大した興味を抱くでもない。


萌へと向き直って答を出す。


「問題はない」


「よーし。それじゃ、決まった所で早速行こうぜ」


すぐさま、時間が勿体無いとばかりに先陣を切って和佐は歩き出した。ほんのついでに、萌の手を取ろうとして。


「?」


和佐が伸ばした手が萌の手を掴む寸前、萌の姿が消えた。少なくとも和佐にはそう見えただろう。

恭一にとって事態ははっきりと見えていた。舞が実に見事に萌の身を攫って、更に『この娘は渡しません』とばかりに和佐から隠すようにして抱き締めたのだ。萌はと言うと多少驚いた様子だが素直に舞の胸の内に収まっていた。


舞の存在に気付いた和佐が睨み、舞は余裕の表情で見下すようにして和佐を見る。抱き締められた萌は困惑しながら恭一を見て、恭一は一人何処吹く風とばかりに何も応えない。

いや、何より先ほどから続いている背後からの視線が気になっていた。


「・・・お兄ちゃん?」


恭一の様子に気付いたのか萌が、続いて舞と和佐も同じように恭一へと視線が向いた。


三つの視線を受けて恭一は軽く首を横に振ると何も応えずに歩き出した。


「ぁ!」


背後から切なそうな声が聞こえた。すぐに後ろについてきた萌から考えると精々抱いていた体を振り払われた、というところだろう。


後に残されたのは和佐と舞。今度は逆に和佐が舞を見下すようにしてみていた。


「ご愁傷・さ・ま」


明らかに嫌味で、一瞥の後に和佐も恭一たちの後に続く。


「萌ちゃぁ〜ん」


情けないような声をあげ、舞も三人・・と言うよりも萌を追っていきかけて、止まった。そして先ほどからずっと自分を睨んでいた相手に一礼をしてから、今度こそ萌を追う。


「萌ちゃん、私を置いていかないで〜」


礼をされた相手、凪は四人が去って再びざわめきを取り戻し始めた教室内で一人立ち尽くしていた。誰もいない後を訝しがるように、悩むように見詰めている。


「どうして」


一言の呟きだけが小さく口内で響いていた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





見上げる空は僅かに雲がかかってはいるが気にならないほどの晴天。

青空の下、恭一たちは中庭の一角にあるベンチに陣取って食事を取っていた。左から順に恭一、萌、舞、和佐である。

微妙な位置関係に周囲の空気は明らかにおかしかった。その所為で近づいて来る者も見ようとする者もいない。ただ雰囲気に気付いてない人、約一名。


「結局何だったのかな?」


喉を小さく鳴らして口の中に含んだものを飲み込み、舞は不思議そうに首を傾げた。

隣に座った和佐は実に不機嫌そうにそれを見る。


「何だった、って何の事だ?」


「私がお兄さんの教室に行ったときに知らない先輩に睨まれたのよ」


「へぇ〜」


深刻そうな舞に対して和佐は実に愉快そうで明らかに楽しんでいた。

じろっと舞が隣を睨みつける。


「何よ、その嫌らしい笑み・・・・はっ、まさか今更ながら私の魅力に気がついたのね。でも駄目よ、和なんて私の方から願い下げだから、というより萌ちゃんに近づくな邪魔虫」


舞は自分の身体を庇うように抱き、和佐は何を言うでもなくただ侮蔑の入り混じった視線を送った。


「誰に魅力がある、だか。むしろそれは俺の台詞だ、この雌狐」


「それは褒め言葉ね」


「勝手に言ってろ・・・・・・で、一体何処のどいつの恨みを買ったんだ?」


「誰、って」


言いかけて、眉を寄せてから舞は自らの左手、明らかに空気が違う方へと視線を移した。





「お兄ちゃん、これ好きだよね。はい」


自分の弁当の中から唐揚げを箸で攫み、萌は満面の笑みでそれを恭一へと差し出した。ちなみに弁当は萌が作ったものなので中身はどちらも同じ。そうする必要性は全くない。

そんな妹に対して恭一は自らの弁当箱に視線を落として、中にあった唐揚げを少しだけ箸で突付いた。


独り言のように、呟きを漏らす。


「自分で食べられる」


「そう」


途端に萌は消沈した。

だがすぐに顔を上げて少し寂しそうに、結局挟んでいた唐揚げを隣の弁当箱へと移した。


「でもこれ、好きだよね。はい、お兄ちゃん」


「ありがとう」


突付いていた唐揚げを口に入れ、恭一はもう一つも同じようにして口に含んだ。隣の萌はそれを見ていかにも幸せそうに顔に綻びを見せていた。





「「・・・・・・・はぁ」」


一瞬の内に異空間に心奪われて、散々問答を繰り返した挙句に二人は同時にため息を漏らしていた。


「あれに入れると思う?」


「無理」


「なら名前も知らない先輩を相手に私がどうしろって言うのよ」


「根性だ、悟りを啓け」


「・・・・・・・・」


ため息を一つついて、一度瞳を閉じると舞は決意するようにかっと目を開いた。

恐る恐る、隣を見る。


「あの、お兄さん? ちょっと、いいですか?」


呼ばれて、恭一は視線を横に向けた。続いて萌も舞を見る。

ちなみに声をかけた時ちょこっと萌に睨まれたのに舞が視線を逸らして見なかった事にしていたのを恭一も気づかなかった事にした。


「教室で私を睨んでいた人って誰だったのですか?」


「渫槁だ」


その声に反応を示したのは舞よりも和佐の方だった。


「凪ちゃん、だって?」


聞き取って、萌が不思議そうに和佐を見る。


「何、和ちゃんの知り合いの人?」


「いや、俺のって言うか。なぁ、恭一?」


困惑の視線を受けて恭一は応える事はせずに、手元の弁当を黙々と食べた。


「お兄、ちゃん?」


先ほどまでと僅かに違う声色に恭一は食事の手を止めた。ただ視線は向けない。


「ただのクラスメート。萌が心配する事じゃない」


「ぁ」


言葉を詰まらせて、萌は何を思ったのか視線を散々彷徨わせる。


「うん、分かったよ」


結局、最後には恭一を見て頷きを見せた。


不意に、思い出すものがあって恭一は萌を見て、更にその向こうの舞へと視線をやる。

気付いた舞が不思議そうに、人懐こい笑みを浮かべて見せた。


「何ですか、お兄さん?」


「お前は誰だ」


「は?」


言葉の意味が解らずか、舞が笑顔のまま固まった。

ただしばらく、睨むといっても過言でない恭一の視線に冗談の類でないと悟ったのか舞の表情が僅かに強張る。


向けられるものに舞が答えるより先に不穏なものを感じ取ったのか。


「――何、言ってるの?」


鋭い言葉が向けられたのは恭一に対してだった。


「お兄ちゃん、舞ちゃんの事忘れたの? わたしの友達、如姿舞ちゃんだよ」


「っ」


向けられた瞳。それを見て胸に鈍い痛みを感じて恭一は思わず手を当てていた。

胸に空いた穴が、内部に在るもの全てが流れ出ていってしまうような感覚。もしくは全くの逆、胸の内部に何かが詰まっていく感覚。


“気圧されて”、恭一は視線を逸らしていた。


「何でもない。それと、分かっている」


「そう」


萌はそれ以上何も言わずに同じように視線を逸らすと俯いた。そこに先ほどまでのほのぼのとした空気はない。

恭一と萌の二人は視線を合わせる事無く黙々と食事を続けて、残された二人はどう思ったのか。


「あー・・・で、さ。お前結局凪ちゃんに何したんだよ?」


場をとりなすように、その声は努めて明るかった。

分かっているのか、恐らくそれを分かっていつつも舞は和佐に冷たい一瞥をくれただけ。


「さあ?」


「さあって、お前なぁ」


呆れたような物言いに今度は鋭く睨みつける。


「心当たりどころか渫槁先輩? とはあれで二度目よ。分かる訳ないじゃない」


言葉の内に、和佐が眉を寄せる。


「二度目?」


「そうよ」


「一度目っていつだ?」


「何言ってるの? 一度目は入学式の後、あの時和だって先輩の傍にいたでしょ?」


呆れた、と言うようにため息が漏れる。

思い出しているのか和佐はしばらく首を捻って、


「ぁ、そういえば凪ちゃんもいたな」


「でしょ?」


「でも、あの中でよく見つけられたな、お前」


「・・・偶々よ」


零し、何故か舞は顔を背けた。


恭一と萌は気まずいような雰囲気。舞も顔を背けて、一人残る和佐も黙らざるを得ない。

当然のように途切れた会話に場に重い沈黙が訪れた。全員がただ黙々と箸を動かして昼食を取る以外ない。


「お兄ちゃん?」


上がった声に、舞と和佐の二人が顔を上げてそちらを見る。そして同時に驚きを浮かべた。

二人に構う事はなく、恭一は差し出したそれをされたのと同じように萌の弁当へと入れた。


「食べろ」


もう一つ同じもの、卵巻きを萌の弁当箱へと移し入れると再び正面を向いて、同じように黙々と食べ始めた。

じっと見詰めてくる視線が横にあるが、恭一が気にする事はなかった。


「うん!」


突然明るい声が届いて、いつのまにか場の空気は元に戻っていた。

それから明るい雰囲気の中で、午後の授業が始まるまでゆったりとした昼食は過ぎていった。









七宝殿〜居間で興っている事?〜


二重に護摩付く「処有り、けれど迷いなし」



真衣 早速ですが、乗っ取りです


真衣 というよりも萌さんが前回でちょっと壊れてしまったようなのでその間の代理です


真衣 ま、そう言う事で今回のお客様は舞さんです


舞 ………どうして


真衣 ? どうかしましたか?


舞 折角の久々なのにどうして萌ちゃんがいない最中に私が出る必要があるのよ!?


真衣 どうしても、と言われましても……今回の話で一番関係ある人という事なので…


舞 まあ…一万歩ほど譲って確かに今回は私が話の中心っぽいわね


真衣 はいはい、では早速話の解説で〜す


舞 ちょっと待ちなさい!


真衣 ? 何ですか?


舞 そもそも、元はといえば貴女が元凶であって私は何も関係ないじゃない


真衣 ……美人は辛いですね〜


舞 確かに…じゃなくて、


真衣 まあまあ、愚痴は舞台裏で聞きますから今は話の解説をしましょうよ


舞 …………舞台裏ってどこの事よ、全く


真衣 さて、取り直しまして、舞さんも納得してくれたようなので、解説に入ります


舞 してない


真衣 さて、今回の話ですが…? はい、説明どうぞ、舞さん


舞 自分でしなさいよ、まったくもう仕方ないわね


真衣 だって〜


舞 そうね、今回の話は…薄倖の美少女が怖い御姉様に目をつけられるって所、ね


真衣 一体誰が薄幸の美少……


舞 あらかじめ言っておくけど貴女と私の容姿が瓜二つだって事、忘れないでよ


真衣 ………


舞 …


真衣 そうですね、今回は薄幸の美少女が恐い姉さまに目をつけられる話です!


舞 そうそう、人間素直が一番ってね、何処かの誰かみたいにならないようにね


真衣 何処かの誰かって誰ですか?


舞 もっちろん、萌ちゃんの側をうろつこうとしている小さい頃からの馴染みのクズよ


真衣 ………最初の一文字、間違ってますね、−3ってところですか


舞 それじゃ、そろそろ私萌ちゃんのところに向かいたいんだけど?


真衣 ああ、はい、今回ももう終わりなので最後に挨拶だけしておしまいです


舞 そう、それじゃ即終わらせるわよ、サン、ハイ!!


舞&真 また二十六話で遭いましょう(あうあうあう…)



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