表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
二章 ~仲間~
31/51

二十四話「今日日、徒然なる一日」

尽きた。




それは来訪を告げる呼び出しの音。


「・・・・・」


恭一は相手を迎えるべく玄関へと向かった。

ドアの前、来訪者が誰であるかは察しがついている。


開いた。


其処には竜虎がいた。一発触発竜虎相見ゆ、と言った感じである。

片や男、片や女。二人は互いに見詰め、もとい睨み合っていた。


一人、男は和佐。制服姿なので学校帰りだろう。女を睨んでいて恭一は眼中にない。

一人、女は舞。私服姿であるがこれは当然。彼女は本日自主休校によりずっとこの家にいて、今は夕食の買出しの帰りであった。こちらも同様、男を睨んでいて恭一に気付く様子はない。


概視感があるのは気のせいではない。


どちらにせよ、恭一には関係のない事だった。


「何の用だ」


二人が同時に恭一へと気付き向き直る。

互いに牽制し合いながら、同時に微笑んだ。


「萌ちゃん、大丈夫でしたか?」


「よ、萌ちゃんの見舞いに来たぜ」


言葉も全く同時。それから互いに顔を見合わせ、睨み合い、最後に顔を背けた。


恭一はいつもと同じ二人を最後まで見る事もなく、早々に内へと引き戻るとその足で階段を登り、二階へと上がった。

開け放しにした玄関から二人が上がってくる音がしたが、どうでもいい。ちなみにどちらが先に入るかを競っていたなど尚の事恭一にはどうでもいい事である。


一つの部屋の前で足を止めて、叩く事数度。


「・・・・・」


返事はない。この部屋の主は先ほど恭一が見守る中眠ってしまったのである意味当然の事。

構わず恭一はドアを開いて部屋の中へと入った。


「お邪魔します」


「それじゃ俺もお邪魔」


「あ、和は駄目。女の子の部屋に許可なく入るなんて礼儀がないのね、この愚図男」


などという会話が後ろで聞こえたが無視。


結局。


「それじゃ、後は私とお兄さんに任せて、和は・・・・そうね、ここで一人寂しく朽ちていればいいわ」


その言葉を最後に舞だけが部屋の中に入ってきた。


恭一は部屋の隅のベッドへと真っ直ぐ向かい、傍で腰を下ろして萌の寝顔を覗き込んだ。


「とっても、幸せそうな寝顔です」


横から静かに割り込んできた舞が萌の頬に手を添える。

そっと撫でて、その手は離れたが萌はただ胸を規則正しく上下させて穏やかに眠っているだけだった。


舞が身を引いて、恭一は萌のおでこと自分のものを重ねて比べてみた。


「熱は、下がったな」


ほんの少し、安堵するような表情を浮かべた事に本人が気付いたかどうか。傍でそれを見た舞は何も言わない。


最大の用事が済んだので恭一は立ち上がって出て行こうと足を向けて、


「お兄さん」


背後からの声に振り返り、見た。


「買って来た食べ物は階段の脇に置いておきました。それで、私はまだ萌ちゃんの傍にいたいと思いますけど、いいですか?」


恭一は何も言わずに部屋を後にする。それが何よりの返事。


部屋から出るとすぐそこの壁に和佐が寄りかかり、いた。実に詰まらなそうに、奇妙な表情を浮かべている。


「萌ちゃん、どうなんだ?」


「熱は下がった」


用事はそれだけと、通り過ぎようとしてそれを和佐が遮ってきた。

恭一はその障害物を見る。


「何だ」


「お前もそろそろ休んだらどうだ?」


尋ねているもののそれは有無を言わせないような口調だった。

だが変わらない。


「必要ない」


切り捨てた。


「おまっ・・!!」


叫びかけた声が、恭一が出てきたドアを見て小声になる。


「どうせお前の事だ。昨日から何も食べてないし寝てもいないだろ?」


答えはない。だがそれは真実で、どちらもそれを分かっている。


「そもそもなぁ、お前の方が熱高」


「萌が」


遮るような恭一の言葉に、和佐の言葉が止まる。


「萌が熱を出した責任がある。だから治るまで休まない」


「お前、なぁ」


盛大にため息が漏れ、明らかに全身が脱力する。


「お前がそうやって倒れでもした方が萌ちゃんは余計に心配する、って事を分かってんのか?」


恭一はやはり何も応えはしない。

見る和佐の視線が僅かに鋭くなった。


「忠告じゃなく、命令として言ってやる。お前、今すぐ寝ろ」


僅かに眉を顰めるが和佐は一向に構う様子はない。


「断るならお前の好きな実力行使で寝かせるぞ。尤も、今のお前じゃ俺の敵にもならねえけどな」


預けていた背が壁から離れて、僅かに和佐の半身が引ける。その瞳が恭一を貫いて。

考えた結果答は出た。


「萌が起きるまで、だ」


唇を綻ばせて、和佐が再び壁へと背を預ける。


「そりゃ当然だ。萌ちゃんが起きたときにお前が顔見せないと心配するからな。だからそのときになりゃ俺が遠慮無しに叩き起こしてやるよ」


和佐の不敵な言葉に応える事無く、方向転換をして萌の部屋二つ隣にある自分の部屋へと向かった。


部屋に入り、ドアを閉める。


「・・・・・・」


一気に力が抜けた。

気力で押さえ込んできたものが溢れ出すように、息は切れて手は震える。


恭一は重い足で這うようにしてベッドへと向かい、そのまま倒れこんだ。

ベッドの柔らかさが投げ出された身体を優しく受け止める。

倒れこんだ恭一はまるで死んだかのように、ぴくりとも動く事無くそのまま意識を閉ざしていた。





◆ ◇ ◇ ◇ ◇





誰かが近づいてくる気配に恭一は目を開いた。

壁に掛けてある時計を見るといつのまにか短針は数字三つほど進んでいた。代わりに全身の寒気や気だるさは若干ながら引いている。


部屋の向こう側、気配が止まった。


「何だ」


扉越しの主がドアを開けるより先に、声をかける。


「お、恭一。起きたのか」


予想通りの人物だった。少し前に聞いた声質よりも僅かに明るく聞こえる。


「何だ、と言った」


「んな事、決まってるだろ。萌ちゃんが起きたから来たんだ。ついでに夕食・・・を舞の奴が作った。腹減ってるだろ?」


何も応えずに恭一は部屋から出た。ドアの目の前にいた和佐を素通りして一階、そのまま居間へと向かう。和佐も平然と後に続いてきていた。

途中、漂ってきた香りに恭一は初めて思いの他にお腹が空いている事に気付いた。思い起こせば昨日の昼から一日以上何も口にしていない。


居間に着くと萌と舞の二人が既に食事の並べられた卓に着いて待っていた。


「お、おはようお兄ちゃん」


「今日は、お兄さん」


「おはよう」


二人の声に、というよりも萌の声だけに応えて恭一はいつもの席へと座った。後に入ってきた和佐も空いている席――とは言っても残り一つしかないが――に座った。当然のように和佐に声をかけるものは誰もいなかった。


「今日は舞ちゃんすぺしゃる〜、ですよ。いつもの五割程増し、私が精一杯腕を振いましたからね」


舞がにっこりと微笑む。余程の自信作らしい。そして料理は病気上がりに合わせたのかどれもじっくりと熱を通した消化に良さそうなものばかりだった。

だが恭一は対して料理に関心を持つでもなく萌を、その顔色を改めて見て殆ど無意識に軽く息を吐いていた。


「お兄ちゃん、その・・・」


「何だ」


「ごめんね」


俯いて、表情は見えないものの声色が悲しそうだった事だけは恭一にも何となくだが判った。だが言葉が指すのが何かは分からない。


「何の事だ」


「わたし、熱がある時に変なこと言っちゃった・・・よね?」


思い起こして、心当たりは無い。

ただ、何がそれを動かしたのか。


「大丈夫だ。それと、悪い」


「ぁ」


腰を少し浮かせて、恭一は手を伸ばして萌の頭をそっと撫でていた。


今にも泣き出しそうな、潤んだ瞳がしたから見上げてくる。


「ぅ・・・ううん、ううんそんな事ない。わたしが、わたしが・・・」


「あー、そのね。少し、いい?」


気まずそうに入ったその声に、萌を見ていた恭一が、俯いていた萌も気まずそうにしていた和佐も彼女を見た。


「私の作ったものだから冷めても美味しいのは当然だけど、温かい方がより美味しいですから先ずは食事にしましょう。ね、萌ちゃん? お兄さん?」


二人に向けたその笑顔が一時的ではあるが場の雰囲気を弾けさせる。

萌は少しだけ呆けたように舞を見てからぎこちないが笑みを作り、恭一は僅かに萌が落ち着いた様子を見て撫でるのを止めると再び椅子へと腰を下ろした。


「そう、だよね。舞ちゃんが折角作ってくれたものだもんね」


「ええ、その通り。私が腕を揮ったんだから暗いのはもうなし、ね?」


片目を一度閉じて見せて。


「何にせよ、だ。さっさと食べようぜ?」


最後に和佐の一言で、食事は始まった。


「いただきます」


「うん、いただきます」


萌が作ったのでない為か萌と恭一がほぼ同時に箸を取って、萌が一口食べたのを見届けてから舞も料理に手を出した。

ただ食器の擦れる音の中、一人和佐だけが未だに沈黙を守っていた。親の敵でも見るような視線で自分の目前にある皿を睨みつけている。

それに、萌が気付いて手を止めた。


「どうしたの、和ちゃん? おなか空いてない、とか?」


一瞥をやったものの、和佐は珍しく萌に対して何も応えなかった。ただもう一度皿の上にある料理を睨みつけて、舞を同じ視線で見た。


「おい、舞」


「何よ?」


「俺のだけに毒を入れた、なんて事ないよ・・・・なぁ?」


言いながら、自分の言葉が真実に見え出したのか和佐の視線に混じった疑惑が一層強くなっていった。

手を止めた舞の口から呆れたようにため息が一つ零れる。


「一応、“まだ”入れてないわ。けどもしお望みなら和のにだけ入れてあげてもいいわよ。当然、即効性じゃなくて長時間に渡り対象を苦しめ続けて最後に死に至る、みたいなやつ。もちろん特注品よ」


「ってかお前、そんな物持ってるのかよ」


「さあ、どう取るかは和の勝手よ」


輝かんばかりの満面の笑み。

多大に頬を引き攣らせながら和佐は今一度目前の料理へと視線を落として、力なく首を横に振った。


「遠慮するわ」


「そう、それは残念ね」


その言葉は心底残念そうだった。


偶然に、恭一はそれを見る。舞が机の下で隠すようにしながら僅かに上げていた手を再び下ろしたのを。ただ恭一はその行為に対して興味を持たなかった。ただそれだけである。


そんな事もあり、夕食は実につつがなく進んでいった。

だが口数がそれ以降、殆ど無かった。もとより口数の少ない恭一は言うまでも無く、萌が黙々と食べているので話しかけるわけにもいかず舞と和佐の二人は黙るばかり。ちなみに和佐と舞が話す事は論外である。


最初に箸を置いたのは恭一だった。


「ご馳走様でした」


両手を合わせて、少し頭を下げる。


「あ、お粗末さまです」


舞の言葉に一瞥だけやって、席から立ち上がるとそのまま出口へと向かう。

閉まっていたドアを開いて居間を出


「ぁ」


椅子と床の擦れる音。そして掻き消されるように漏れた声。恭一は足を止めると振り向いてその声へと視線を向けていた。


「お兄ちゃん」


視線の先にあったのは萌。恭一は何を言うでなく、ただその姿を見つめる。


「あの、ね」


視線は逸らされそうで、それだけは絶対にない。恭一はただいつもどおりに次の、出るべく言葉を待つだけ。


「その・・・ね」


何度も口を開いては、言葉に成らずに閉じられる。

吐き出すべき答が見つからないのか、それとも訴えるべき感情を怖れているのか。はっきり言える一つの事は、いつもの萌とはどこか違うという事。


恭一は踵を返すと萌の元まで戻っていき、目の前で立ち止まった。

何処か怖がるように萌が身を引きかけるより先に、恭一は伸ばした片手をその頭へと乗せていた。


「んっ」


ゆっくりと髪を梳かすように、優しく壊れ物を触るように、撫でた。


「此処に居る」


言葉に、互いに視線を逸らしていないにも関わらず初めて互いの視線が重なり合う。本当の意味で、相手を見た。

乗せた手を頬へと移して同じように撫でる。


「“今、此処に居る”」


「ぁ」


漏れ出た声と共に萌の両膝が折れた。

温もりは頬を離れて身体は下の椅子へと倒れこみ、俯いて隠れたその両頬から涙が伝うと流れ出た。その意味は果たして何か。


「あは」


泣き声か、笑い声か。


「あははははは。うん、そうだよね。お兄ちゃんは今わたしの傍に居てくれる。そうなんだよね?」


どちらもが正しくどちらもが間違っている。

笑いながら、泣きながら、それでもやはり微笑を絶やさずに萌はその視線を再び恭一へと向けた。


恭一は応える。いつもどおり、無表情に。無感情に。力強いわけでなく弱いわけでもない。


「ああ、そうだ」


宙に彷徨っていた温もりに萌は自分の両手を重ね合わせた。


「お兄ちゃん。わたしもいるよ。此処にずっと、居るよ」


何も応えず、一度だけ添えられた両手を握り締めてから恭一は手を引いた。


今初めて気付いたように、萌は自分の前に並べてあった料理に箸を伸ばして、一口食べた。

数度噛んで、喉に通す。


「うん、舞ちゃんが作ってくれた料理、美味しいね。えへへ、どうしてかな、今までよく分からなかったよ」


自然に、笑みが浮かぶ。


萌が浮かべた表情を見て、恭一は改めて身を返すと改めて居間を去るべく出口へと向かった。


「ぁ・・お兄、ちゃん?」


その声は先のものとは含むものがまるで正反対。だが恭一は変わらず立ち止まり、もう一度萌へと振り返った。


「何だ、萌」


視線が彷徨った。恭一は変わらず、次の言葉を待つ。


「その、ね」


「ああ」


「もう一度だけ、撫でてくれる?」


頬を染めて萌はこれ以上言う事は出来ないように俯いた。


何も言わず、ただ要望に応えるため恭一は萌へと近づいて同じように手を頭の上へと乗せた。


期待に満ちた眼差しが上目遣いで見詰めてくる。


撫でた。


「えへ、えへへ」


僅かに口元が緩み、気付いたが恭一は気にしなかった。自然にそうなるならばなればいい。そう感じるから。


「「・・・・・・・・・はぁ」」


二人、無駄に緊張して脱力していた和佐と舞は互いに気付かぬうちに同じような視線で萌を眺めて口元を緩め、同時にため息をついていた。





七宝殿〜居間で興っている事?〜


二重に読んだ「京の徒然なる日記」




萌 ………


真衣 萌さん?


萌 ……ぽっ


真衣 萌さん?


萌 恥ずかしい、よ


真衣 …ああ、前回、それに今回とある意味で萌さんの大活躍でしたからね


萌 大活躍、は嬉しいんだけど…こういうのを人に見られるのってやっぱり恥ずかしいよ


真衣 でも、取り敢えずはよかったですね、恭一さんが無事で


萌 ……………うん


真衣 ああ、もう、本当に可愛いですねぇ〜〜(抱きつき!!)


萌 あ、真衣さん……ちょっと、いきなり何を


真衣 と、まあ冗談はさて置きとして………萌さん、取敢えずお帰りなさい


萌 あ、はい、ただいまです、それと皆も心配かけて(?)ごめんね


真衣 それでは、気を取り直して今回の話の説明に行きましょうか


萌 うん、そうだね


真衣 では………


萌 …はい、今回はお兄ちゃんとわたしのらぶらぶなお話です♪♪♪


真衣 ……(開き直り過ぎって言うもの考えものですね)


萌 わたしが風邪を引いちゃって、お兄ちゃんが付きっ切りで看病してくれてそれから…


真衣 ………まあ、和佐さんや舞さんもいるんですけどね


萌 お兄ちゃんとわたしの絆を再確認しあうの


真衣 一応、間違ってはいないですね


萌 (ぽっ)


真衣 いや、そこで頬を染めて黙らないで下さいよ萌さん、絶対に誰か勘違いしますって


萌 ………ぽっ


真衣 いや、だからそこで茹蛸みたいになられてもわたしが困ってしまうわけで……


萌 …………ぁう



ふら〜〜―――…ばたんっ


真衣 ………あの〜、萌…さ〜ん? 聞こえ、ますか?


萌 ………


真衣 あー、これはもう駄目って感じですね


真衣 と、言うことなので進行役もいなくなったので今回はこれでお開きですか


真衣 それではまた次回、二十五話が在れば、逢えることでしょう、去らば!……です


萌 (ぽ〜〜〜)……いやんいやん、恥かしいよぅ〜〜


………呆れろ



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ