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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
二章 ~仲間~
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二十話『未来と過去の亡霊たち』

シスコン



「・・・・早くしろ」


恭一は既に手ぶらのままで試合場の中に入って待っていた。

その声を聞いて佐久弥は並んでいた槍の中の一本をとると慌てて試合場へとかけていく。


「・・・あの?」


そして中心線へと立つと伺うような視線で恭一を見上げて声を上げた。


「恭一さん、武器は何か・・・」


しかし恐る恐る出したその声にいくら待っても答えは本人から返ってこなかった。恭一は会いも変わらず自然体のままで佇んでいる。

結局代わりにとばかりに和佐が答えた。


「そいつは何も要らないよ、徒手だから」


それを聞いて佐久弥は完全ではないものの納得したようにして開始線へと並んだ。


「二人とも・・・いいかい」


千代の声に二人は互いに構えを取って肯定を伝える。


「始め!」


千代の開始の合図と共に先ず恭一が佐久弥との間を一気に詰めていた。佐久弥が驚きに固まった間の一瞬に射程の距離が長いはずの槍の間合いを通り越して先に自分の間合いへと入る。


即、拳撃を放った。


佐久弥は少し焦りながらも一撃目を槍で受け止めた。しかしすぐさま二・三撃目と続けて放つ。

右、左、下、そしてまた左と蹴りを混ぜて続く連撃を佐久弥は何とか槍の柄の部分で受け止め続けていた。しかし、それでもこの間合いでは佐久弥の分が悪いのに変わりはなく次第に恭一が押していく。

次第に佐久弥が端の方へと追い込まれていっていた。


恭一の攻撃は休まない。

道場の端の方で追い込まれて逃げ場も無くもう中ってしまうというところで、佐久弥が初めて攻撃を放った。その苦し紛れのような一撃は当然のごとく恭一に棍の部分を掴まれて防がれる形となる。

そのまま棍を引き寄せ相手を引き寄せようとする。


「っ!!」


しかし恭一が棍を掴んだ瞬間、佐久弥が気合の入った声を上げた。同時に佐久弥の持っていた槍の周りに一瞬光が舞い火花が散った。それに恭一の手が弾かれ、棍から手が離れる。

小さかったもののその衝撃が恭一の体全体に響いていた。

脳裏にフラッシュバックするひとつの影。声を震わせる自分。


――・・・・・・・・ふふふ


死に化粧をした一人のひと。頭が、混乱する。


――あははははは


同じ様な事が、いつかあったような気がした。


温かかったあの時。


(どう・・・・)


「旋推!!」


そして佐久弥がそれをチャンスとばかりに続けて身体全体を回転させ横薙ぎの衝きを放つ。

それに恭一は何の反応も示さなかった。むしろそれは目に入っていないようであった。ただ弾かれた棍へと虚ろな視線を追っていた。


「どうしたの?」


声が漏れた。


「・・・・・ぇ?」


「恭一!」


和佐が恭一のその様子に驚きの声を上げ、思わず立ち上がる。しかし和佐がどうする時間もなく事は進んでいった。

途中槍の動きが鈍ったがそれでも止まる事はなくその一撃は当然のごとく結局避ける事のなかった恭一のわき腹へと綺麗に入った。それは思いのほか破壊力を持っていたのか恭一を独楽の様に四分の一回転ほどさせて中央あたりまで吹き飛ばしていた。


「きょ、恭一さん!!!」


そこまで綺麗に中るとは佐久弥も思っていなかったのか、手にした槍を投げ捨てて慌てて吹き飛んだ恭一の下へと駆け寄っていった。

和佐はその場に立って驚愕の表情で恭一の方を見て動けないでいた。千代や凪、鼎もまさかあそこまで綺麗にきまるものがあるとは思っていなかったのだろう、三人も驚いて少し焦ったような表情を浮かべていた。

しかしその心配とは別に、佐久弥が完全に駆け寄る前に恭一は起き上がっていた。しかしその表情は何か抜け落ちたようで、未だに映る双方の瞳には色は無く焦点も合っていなかった。

立ち上がった恭一を見て佐久弥、千代、凪、そして鼎の四人はそれを確認してひとまずほっと肩の力を抜いた。駆け寄る佐久弥の足が少しだけ緩まる。

しかし和佐だけは先ほどまでの心配とは微妙に違うものの緊張の表情に変わりはなかった。


「恭一さん・・・・大丈夫ですか?」


心配そうにして佐久弥が恭一の元へと歩み寄っていく。


「まさかあそこまで綺麗にあた・・・」


「・・・・さん、・・・ん・・・・ちゃん、ぉ・・・ぃ・・・ん・・・・」


「恭一・・・さん?」


しかし何の反応も示さずただ先ほどからずっと何かを見ている恭一をさすがに変に思ってきたのか恭一の少し前で止まった。そして近くまで来たことで恭一が何かを呟いている事にも気がつく。


「・・・・・ゃん?」


ようやく視線を上げたが恭一の瞳の焦点はまだあっていない。そしてその瞳で佐久弥のいる方角を向いて何かを呟いた。

恭一の瞳の中の焦点が一気に合わさった。


「今すぐ恭一から離れろ!!」


それとほぼ同時に和佐が叫び声を上げる。そして切羽詰った表情で二人の下へと駆け寄ろうとする。


「え?」


叫び声に佐久弥は思わず和佐の方へ視線を向けていた。

それが決定的だった。


「逃げろぉぉ!!!」


「姉さん!?」


「「佐久弥!!」」


上から順に和佐、鼎、凪と千代となる。それぞれに叫んでいだ。言葉はそれぞれ違っていたが意味はどれもさほど違いはなかった。すなわち、『危ない』と。


聞こえた言葉にではなく、身体に感じた危険に佐久弥は恭一へと視線を戻した。

恭一は突然佐久弥のすぐ近くにいた。そして視線を戻した佐久弥に既に拳を放っていた。突然の事ではあったが佐久弥は驚きながらも半ば反射的に何とか顔だけを後ろに引いた。しかしそれを見計らったかのように恭一が更に一歩踏み出して体重が後ろに乗った佐久弥の足をはらう。佐久弥は当然それにバランスを崩しその場に倒れた。


倒れこんだ佐久弥に馬乗りに恭一が覆いかぶさる。そしてそのまま佐久弥へと向かって拳を振り上げた。

恭一の視線は、しっかりと佐久弥の事を捉えていた。


「くそっ」


和佐が走りながら背中へと手を運ぶ。凪も同じようにして腰から短剣を抜き取っていた。千代も立ち上がってその懐へと手を入れていた。

しかしどれも遅かった。明らかに恭一の一撃が佐久弥に入る方が早い。


狙いは顔面。遠目から見ただけでも確実に容赦のない一撃だった。あの表情を浮かべているものが手加減などできるはずも無い。



そして、恭一がそれを振り下ろす。

それは見ている者にとっては絶望的な間合いだった。


「怖・・・い?」


ドンというすごい音がして完全にその拳は振り下ろされていた。


「佐久弥ちゃん!」


「姉さん!」


「「佐久弥!」」


それぞれが駆け寄ろうとした。しかしその後に微かに聞こえてきた声に四人ともその足を止める。


「どうしたんですか?」


静かに、微かに佐久弥の声が上がった。組み拉がれた状態で、しかし無事でいた。

恭一の拳はその顔の横、その床へと打ち込まれていた。その床は割れている。もしそれがあのまま佐久弥の顔面に入っていたなら下手すると頭蓋骨陥没もありえたかもしれない、それほどの割れ方であった。

それでも当の本人はそんな事は目に入っていなかった。


いつの間にか上げられた佐久弥の手が恭一の頬へと添えられる。

そして再び言葉が繰り返った。


「どうしたんですか?」


聞いていた他の、千代たちにはその言葉の意味が分からなかった。

恭一も何も答えない。その代わりに暖かいものが恭一の頬を伝って佐久弥の顔へと流れ落ちた。自分の頬を流れ落ちるその水滴を気にもせず、そして視線を逸らさず佐久弥は恭一の目へと視線を合わせ続けた。


「何が、怖いのですか?」


「いか・・・・ないで・・・」


恭一がまるで子供のような情けない小声で呟く。


「え?」


「いか・・・いで・・・・・・ちゃ・・・」


「何が・・・・・」


佐久弥はよく分からないといった表情をする。それでも恭一は何も変わらない。


「い・・・だ・・・・・よ」


その呟きを最後に恭一は瞳を閉じると全身の力を失った。そしてその身体は重力のままに佐久弥の上へと落ちていき重なった。


「きょ、恭一さん!?」


慌てと焦りで声をかけた佐久弥だったが恭一はすでにもう意識がない様で返事を返さないどころかピクリとも反応する兆しが見えなかった。明らかに全身から力が抜けていた。


「姉さん!」


「佐久弥!」


「佐久弥ちゃん、大丈夫か!」


それぞれに佐久弥と恭一の下へと駆け寄ってくる。千代もほっとした表情でしかしどこか複雑な表情で、それでももう腰を下ろしていた。

何の反応も示さない恭一に、佐久弥は少し迷ってから自分の両手を背中へと回すとそっとその両腕をそのまま恭一の身体へと添える様にして下ろした。


「大丈夫、ですよ」


駆け寄ってくる皆には聞こえないほどの小声で呟いて少し腕の力を強める。


「きっと・・・・・・・・誰も一人に、しませんから」


そう、誰にも、すぐ間近にいなければ聞こえないであろう本当に小さな声ですぐそばにある恭一の耳元へと呟いたのだった。





七宝殿〜居間で興っている事?〜



苦渋の「未来とか、この亡霊達」



萌 はい、今回のお客様は……何と、佐久弥さんです!


佐久弥 はい、どうも、こんにちは


萌 今回の話はお兄ちゃんと佐久弥さんが主だね


佐久弥 主だなんて……それに恭一さんだって…


萌 むっ、そう言えば佐久弥さん?


佐久弥 はい?


萌 どうしてお兄ちゃんの事は名前に"さん"づけで呼んでいるのかな?


佐久弥 それは……名前を聞いた時に苗字を聞けなかったからだけで特別な意味は別に……


萌 ふぅん…ま、それはそれとして、やっぱりどうしてそんなにお兄ちゃんと話せてるの?


佐久弥 え?


萌 説明には人見知りが激しい(特に異性)って書いてあるのに!!


佐久弥 それは…


萌 それに私と話している今だって、実はこれずっと電話だよっ、直接じゃないんだよ!?


佐久弥 そう言われても……


萌 も、何?


佐久弥 私にも解らないんですけど自然に言葉が出ているんです…不思議ですよね


萌 自然に…


佐久弥 はい、そうなんです


萌 ……ん、なんとなく…解る…と思う、その感じ…………きっとわたしと同じ感じかも


佐久弥 え、今最後の方はなんて…済みません、聞こえなかったので…?


萌 ううん、なんでもない、気にしないで


佐久弥 ? そう言われるのでしたら


萌 うん、それで、今回の話……


佐久弥 恭一さん、大丈夫でしょうか?


萌 ぁ、そう…だね、それは………心配だよ


佐久弥 萌さん?


萌 もしまたあの時と同じにお兄ちゃんが戻っちゃったら…


佐久弥 どうしたんですか、萌さん?


萌 嫌だ、嫌だよ、そんなの


佐久弥 萌さん!?


萌 あの時はまだ気づいてない振りしてたから耐えられたの、今は耐えられないよ!!


佐久弥 萌さん!! ……行ってしまいました



………


佐久弥 あれ…もしかしてわたしがこのまま終わらせるのかな?


佐久弥 そうみたい……それでは皆さん、二十一話でまた会いましょうね



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