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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
二章 ~仲間~
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十八話「無礼者の礼儀作法」


コレは良いマスカラだ、と誰かが言った。




恭一は、一人教室に残ってぼっと窓の外を眺めていた。


気がつくと結局は今日一日中そうして過ごしていた。それ以外の事をしたのは萌が昼食を食べようと言いに来てそれに返事をした事ぐらいだろう。

学校の先生にしても恭一のそういった態度は二年目にして既に決して珍しい事ではなくなっていた。だから誰もが完全に諦めた状態で無視していたので一切それを邪魔するものはいなかった。

元々この学校に来るという事は恭一自身にとってはまったく意味を成さないことだったのだ。来ているのは萌を不用意に不安にさせないためだけといっても過言ではない。


今日一日中考えていたのは昨日公園で会った神谷洸と名乗った男、その場に現れた名を知らぬ男、そして工場跡で遇った弧月真衣と名乗った少女の事だった。

考えてはいたが思い浮かんでくる事は何一つ無かった。この約十一年間にして初めての手がかりかもしれないものなのに、結局は何も出来ずに通り過ぎてしまった事がただ苛立たしかった。


もう一度会う事が出来るのなら、必ず・・・


居ないと分かってはいたが目の間を過ぎていったものを何もせずに見ていることなどできるはずもなく、恭一はもう一度あの工場跡へといくという結論に達した。

自分の力のなさを悔いながら、ずっと、窓の外へと視線を向け続けていた。

どこか遠くでさよならの挨拶が聞こえ空間内の人の気配がどんどんと減っていった。それを感じ、いざ帰ろうと恭一は立ち上がろうとした。鞄に手をかけたときに横方に一つの気配が止まるのを感じた。


「千里・・・恭一、今日これから時間はあるか?」


声が聞こえ、その方向を鋭く睨むとそこにいたのは凪だった。


「何だ」


「会わせたい人がいる」


その物言いに恭一は訝しがったが、そこで凪が更に言葉をつなげる。


「お前の質問に答えられるかもしれない」


最後に出た言葉に反応して、そこで初めて恭一は完全に凪の方へと視線を向けていた。


「何処だ」


「私が案内する。が、私は少しこれから用事があって少しばかり遅くなるから校門の前で待っていてくれ」


それだけ言って凪は一つ頷いて返事をした恭一を確認するとすぐさま振り返り自分の席へと向かっていった。しばらくその様子を見ていたが、どうやら帰り支度がまだだったようで机の中から教科書類を取り出して鞄へと詰めていた。


恭一はそれを見て先に校門の前まで行っていることにした。




「よっ」


「・・・・・・」


当然のように校門の前には和佐がいて、当然のように恭一に声をかけてきた。

恭一は何も答えずにただ和佐の事を睨み付けた。


黙ったまま互いに顔を合わせる。和佐はその場を動こうとしないし恭一もまた動こうとはしなかった。

互いにぴくりとも動かぬまましばらく見つめ合っていると凪が現れた。


「悪い、待たせた」


その声に恭一は一度凪の方を物言いそうな目で見たが、すぐに先ほどからしているのと同じ視線を和佐へと戻した。一方、和佐はそんな視線は気に留めていないように平然と立っていた。

恭一の視線の先で見詰め合っていた二人に気付いた凪がと短く言葉を入れる。


「ああ、上柳もついてきてもらう事になっている」


実直な理由を聞き、それだけで恭一はそれに興味を完全になくした。


「それで、俺らをどこに連れて行ってくれるんだ、凪ちゃん?」


「私が今厄介になっている家だ。二人ともついて来くればいい」


和佐に向かってそれだけ答えると凪は一人で歩き出した。後に恭一、和佐と続いていく。


ひたすら三人とも無言で歩いた。

もとより話す気などない恭一、先頭を黙々と歩いていく凪、そして最後に困ったような笑みを浮かべつつ最後尾についていく和佐。この面々では話せという方が無理があった。


三人が固まって歩いていて、なおかつ無言なのだからその集団は周囲から見ればかなり奇異なものだった。明らかに周りと違う雰囲気も纏っていた。

そして、その沈黙は目的地にたどり着くまで破られる事は決してなかった。






「ここで少し待っていてくれ。今連れてくる」


一軒の家に入って客間らしきところに招いてから凪はそういい残して姿を消した。後には和佐と恭一の二人が残される。


「敵地侵入、みたいな感じか?」


和佐が顔を合わせずに独り言のように呟いた。恭一はそれに答えない。和佐の方も答えは期待していないようだった。もしかすると本当に独り言だったのかもしれない。


「お前、凪ちゃんに何かしたのか?」


今度は確実に和佐が恭一に向かって聞いていた。


「・・・・渫槁には何もしていない」


「には?にはって事は他の誰かには何かしたって事か?」


目ざとく聞きとめた和佐がすぐさま恭一へと寄って聞き返す。

恭一はそれ以上何も言わずに、寄ってきた和佐に向かって牽制の意味合いで睨み付けた。


向けられた表情を見てとり、溜息をつくと和佐は答を諦めて顔を離し元の位置へと戻った。


「それにしても・・・」


「何かあるのか」


独り言のように漏らした和佐の声に恭一がすかさず反応を示した。少しだけ難しそうな表情をする和佐。


「いや、個人的な事なんだけどよ、ここの家って確か・・・」


和佐が何か言いかけたところで景気よく戸が開いた。和佐は言葉を止めて、恭一とそろってそちらに視線を移した。


「待たせた」


最初に現れたのは凪だった。一言だけ言うと室内に入ってくる。先ほどの制服姿から私服と思われる服装へと着替えていた。

そして次に現れたのは一人の老婆だった。こちらは初見だ。そしてその後からは見覚えのある二人組みが続いて入ってくると、戸は閉められた。


「おま・・・」


「鼎!」


後から入ってきた二人組みのうちの片方の少年が恭一と和佐の姿を見た瞬間何か言いかけたが、もう片方の少女が叱って黙らせる。それで少年――確か鼎と呼ばれていた――は少し顔をしかめたものの何もいわなくなった。

そして恭一と和佐の正面に老婆と凪、そしてその斜め後方に鼎と、少女――佐久弥が控えるような位置に腰を下ろした。


「こちらがその二人です」


老婆に向かって畏まった風に凪が恭一と和佐の方を示した。


「そうか・・・」


老婆は短くそう言うと恭一と和佐の顔を交互に、じっくりと見やった。


「誰だ」


じっと見られて、敵意を隠そうともせずに無造作に恭一が声を上げた。もっとも恭一は初対面の相手に対しては大方同じ程度なのだが・・・・。それを知る者はこの場には和佐以外いないしその和佐自身が取り繕う気配は無かった。


「そうだな・・・こちらが話していた人で水月千代、この家の当主だ」


凪がそう言ってその老人の方を示した。


「で、そっちの二人は?」


和佐が横に控える二人を指して言う。初対面ではないにしろ何者なのかは全く知らない。


「わしの孫じゃよ。それぞれ佐久弥と鼎じゃ」


言って、応えるように佐久弥がその場で軽く頭を下げた。一方鼎の方はふてくしたように顔を逸らしていた。


「ふぅん・・・佐久弥ちゃん、ね」


呟きつつ和佐が佐久弥の方を見た。すると佐久弥は恥しいのか、その視線に顔を俯かせた。その様子を見て逆に鼎が和佐に対して顔を向ける。


「お前らに気安く呼ばれるいわれはないんだよ」


聞こえはしたが子供の戯言と軽く流して無視する和佐。


「これが上柳の孫の跡継ぎか」


どことなく――一方的に、気まずくなった雰囲気のところでいきなりの老婆――千代がそんな事を口にした。


「・・・・・資質は有りそうだがまだ全然、鍛練が足りぬようだな」


「じいさんを知っているのか?」


「知らぬとは言わぬ」


そう言うとどうしてか嫌そうに顔を歪めた。


「・・・そんな事は如何でもいい」


突然の恭一のその呟きにその場に居た全員が反射的に恭一の方を向き直る。いつの間にか恭一は立ち上がり、上から見下ろすように千代の事を睨み付けていた。

その姿がこれ以上は我慢できないと、語っていた。


「ミズキという男の事、知っているのか・・・」


今にも掴みかかるかのような勢いで恭一が言葉を発する。


「それを知ってどうすると?」


「殺す」


千代の言葉に迷わずそう答える恭一。その一言に千代と和佐以外の三人が驚愕の表情を表したが誰も何も言うことは無かった。


「上柳のは如何か?」


不意に恭一から視線を外すと、千代は促すように和佐にも聞いた。


「多分・・・・・止めない」


少しだけ辛そうに俯きながら答えた和佐に千代は一度納得したように頷いた。


「そんなことより・・・」


「その男」


恭一が更に言い出そうとしたところで恭一に向き直って千代が話し出したのでそのまま黙る。


「ミズキという男の事は知らんが・・・神蕪伎(かんなぎ)の家の事についてはよう知っておる」


「「なっ・・・!!」」


千代の口から出てきた『神蕪伎(かんなぎ)』という言葉に反応して恭一と和佐がほぼ同時に声にならない声を上げた、がそれだけだった。いや、正確には声を上げて掴みかかろう、立ち上がろうとしたがそれは叶わなかったというべきか。


「それに知らぬまでもその男の事も大体の見当はつく。・・・何かな、怖い顔をして?」


言いたい事をいったのかそこまでいってから千代はややわざとらしく自分を睨んでいた恭一と和佐へと話をふった。


「・・・・・何をした」


「さて、のぉ」


まさに一発触発、されどもう動いていてもおかしくない恭一未だに動かず。一方の和佐も微動だにしていなかった。

それに凪は何事も無かったような顔をしていて、佐久弥は心配そうなおろおろ顔、鼎はザマアミロといった顔をしていた。


「わしももう歳での、誰かに突然襲い掛かってこられると骨の一本や二本では済まんかも知れぬ・・・・」


そこまで言ってから千代は歯を食いしばりながらその場を動かない恭一と動こうとしているのかはよく分からないがとりあえずは同じように動いていない和佐の方を交互に見た。

双方とも動ける気配は無かった。


「上柳の、・・・・経の老いぼれから何か教わっておらぬのか?」


「少なくとも、こんな妖術じみたものは教わってないな」


「妖術、の・・・・・・あながち間違いでものうて」


恭一のように抵抗しているのかどうかは分からないが、表面上何事もないように振舞いながら和佐が答える。そしてそれに少し考えて答える千代。


「それよりも・・・佐久弥」


「は、はい。なんでしょうお婆様」


不安そうな眼差しで恭一と和佐の二人の事を見ていて、急に振り向いて千代に声をかけられた佐久弥は答えつつ、慌てたように背を伸ばした。


「今日は孫の世話になった者と会うからとどんな輩か楽しみにしておったが・・・・・こんな腑抜けとは・・・。これでは例えミズキとやらに会えたとしても無駄に命を落とすだけじゃの。そんな輩に助けられるとは・・・」


溜息を一つつき、口を開けかけたところで突然に関心顔になると改めて、ゆっくりと正面へと向きなおした。


「千代様!」


「恭一さん!?」


千代の動きに一瞬遅れて凪と佐久弥の叫び声がはいる。


「御託はもういい」


声の主は恭一。その場全てを埋め尽くすような殺気を放ちながらそこに、居た。その存在だけで場の空気が明らかに張り詰めたものへと変わっていた。


その姿を見ていた四人は四者四様の反応だった。


佐久弥は立ち上がりかけて、その場で凍りついたように動きが止まっていた。


鼎はただ驚愕の表情を浮かべていた。


凪は二人と違い、千代と同じようにどこか感心するような顔をしていた。


そして和佐は、恭一を見てなにやらおかしそうに笑っていた。


「ほぅ・・・少しはやるか。まあ、そうでなくては・・・・・」


今にも襲い掛かってきそうな恭一に下がる事もせず、千代は感心し他表情で立っている恭一を見上げていた。その表情には明らかに余裕が窺えた。


「・・・・・知っている事全て、話せ」


研ぎ澄まされた刃の様なその言葉にも、千代は可笑しそうにしながら笑い声を押し堪えた。


「そんなに知りたいか?」


無言のまま睨み続ける恭一。場の空気が更に張り詰めたものになる。

漸く笑みを止めると千代はその場から滑らかに立ち上がった。


「どちらにしろ、それはお主の実力次第じゃな。初関は合格、といったところか。こっちじゃ・・・・・ついて来られ」


振り向いて、戸を開け千代は部屋から出て行った。が、一歩出たところで振り向くと未だその場に居た恭一に振り向く。


「来ぬのか?」


促しに、無言のままで恭一が着いていった。

続いて、慌てて席を立った佐久弥が心配そうにして付いて行った。


次に動いたのは鼎。鼎は一度まだ動かずに座っている和佐をバカにしたような視線を一度おくってから出て行った。


後には誰も続かなかった。


「・・・凪ちゃんはいかないのか? それともまさか俺と一緒に居たいとか?」


しばらくしてから未だ立とうともせずにずっとこちらの事を視ていた凪に向かって和佐が可笑しそうに言う。


「莫迦な芝居はやめろ」


どこか呆れた響きを含ませながらそう言うと、凪は静かにその場から立ち上がった。


「俺としては裏方に回りたかったんだけどなぁ・・・」


口惜しそうに呟く和佐。


「千代様もわかっていた。お前も同行者だ」


最後にそれだけ残して、凪は部屋から出て行った。


「ちぇっ・・・あのガキは気付いてなかったけどな」


微笑みながら呟き、和佐は何事も無かったように立つと凪に続いて最後にその部屋を出て行った。




七宝殿〜居間で興っている事?〜



銃は痴話「無法者の礼節殺法」



萌 なんだか久しぶりな感じ……どうしてだろ?



………


萌 やっぱり一人だと寂しいかも、こういう時は…今回のお客さん、とーじょー


鼎 ………で、何で僕なわけ?


萌 だってぇ〜、他に来てくれる人がいないんだよ


鼎 他には姉さん、凪さん…くらいか、確かに僕が一番の脇役っぽいけど…


萌 それに鼎君、今回は(、)、出てるでしょ


鼎 …なんか引っかかる言い方だね、萌さん


萌 そうかな?わたしは別にそんな事はないけど…


鼎 ま、別にいいけどね、こんな脇の下で何言っても変わんないし


萌 わ、脇の下って、それはさすがに言いすぎだよぅ


鼎 僕はただ事実を言ったまでだよ


萌 …いいよ、もうこれからはここでわたしの物語なんて連載しちゃうんだから


鼎 勝手にすれば? 僕の知ったことじゃないし


萌 うん、そうする…ということで今回の見所だね


鼎 いきなり話題飛びすぎ


萌 はい、時間無いからちゃちゃっと言っちゃうよ…題はずばり『お兄ちゃん』です!!


鼎 それじゃいつもと変わらないよ…


萌 別にお兄ちゃんだって悪気はないんだよ、少し言葉が足りないだけだよ


鼎 それを言い切るところはすごいと思うけど……あれは絶対にそれだけじゃないって


萌 それにあれは感謝してないね、お兄ちゃんの偉大さ加減が大きすぎ理解出来てないよ


鼎 無視しないでくれる? というかあれ、君の兄さんはもう病気の域だと思うよ、確実に


萌 そうだよ、人にお礼をする時はちゃんと誠意と真心を持ってしなくちゃ駄目だよ


鼎 ……まあ始めから期待してないしね、なんて言ってもあれにしてこの妹ありだろうね


萌 それにしても…もしかして鼎君シスコン?


鼎 な、よりによって何で僕が姉さん相手にそんな事言われなくっちゃいけないんだよ!?


萌 そ、そうなんだ、わかったからそんなに大声出さないで


鼎 それにそもそも既に兄妹の域を出てそうなあんたにだけはそんな事言われたくないよ


萌 ……え?(真赤)


鼎 ああ、もう、判ってるからそんなことで顔を赤らめるなよ!


萌 へへ……ふへっ


鼎 はぁ、こんなの相手なんてもう嫌だ(そのまま歩いて退場)


萌 ふゃぁん………て、あれ、鼎君、どこ行ったの?



………


萌 ま、いっか、それにもう終わりの時間だし…それじゃ、また次回十九話で会おうね〜



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