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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
二章 ~仲間~
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間話「黒の部屋の狩人」






閉め切られた真っ暗な部屋の中。外から光が漏れてくるわけでなければ外へ光が漏れるわけでもない。

真実に近い昏闇。


光はなく、内の様子など誰にも分かるわけもない。何かが動く物音がするでもなければ誰かが居るような気配すらなかった。


と、一角の壁が開きそこから外界の光が漏れてくる。

その光を遮る影は背のやや低い、まだ少女、もしくは少年と思われる陰影。そして壁と思われた出入口が再び閉まり、内部はまた闇に閉ざされた。


「どうしたんですか、その姿?」


暗闇の中、女性特有の高い声がからかい口調で上がる。たった今入ってきた人物、少女のものだ。


入ってきた時の光によって内部の様子を僅かだが見ていたからだろうか、何も無いはずの、暗闇の部屋の中に向かって話しかける。


「あ、もしかして誰かにやられちゃって、それでおめおめと逃げ帰ってきたんですか?」


「何、だと・・・?」


続いて恐ろしく殺気の篭った低い男性特有の声が先ほど少女の声の上がった方向に向かって発せられた。

声からすれば最低でも男が一人、初めからこの部屋の中に居た事になる。何も無い、ただ暗いだけの部屋に、である。その異様な行為だけでも男の精神が尋常でない事だけは判る。


「そ、そんなに怒らないでくださいよ。ほんの冗談じゃないですか〜?」


先ほどよりも多少切羽詰った、高くおどけた少女の声が上がる。雰囲気だけでも声の主が殺気に中てられてかなり焦っているのが十分に窺えた。


真暗闇だというのに、あくまで擬似闇であり慣れてしまったからだからだろうか、男の瞳にはしっかりと顔に笑みを浮かべながらも焦った少女の陰影が映っていた。それを見た男の唇が微かにつり上がったが、当然少女の目には見えていないだろう。


「・・・・冗談なら相手を選ぶ事です。次は無いですから、覚えて・・・は居ずとも結構」


「・・・・・・」


「・・・・まあいいでしょう。今はあなたにやってもらう事があって態々こうして会っているのですから。多少の無礼は大目に見てあげるとしましょう」


「わたしが、やる事ですか?」


不思議そうな女の声が上がる。


少女はこの男に呼ばれてこの場所まで来ていた。会った事はないものの、恐らくは少女の目の前に居る彼とは以前からの知り合いであった。だからある程度だがこの男の事は知っているつもりだった。決して、他人に頼みごとなどをする性質ではなかったはずである。

少なくとも少女はそう記憶していて、不思議に思うのも尤もだろう。


実際、男の方も頼み事などする気は全く持っていなかった。彼にとっては、今から彼女に与えるのは上位者から下位者への確固たる命令でしかない。


「実に興味深い相手を見つけましてね、彼を見つけてもらいます」


「彼、ですか?」


「ええ。男が一人」


それだけの、無碍も少女の拒絶の意思も持たせる気のない男の言葉。

少女は次に発せられる言葉を待った。が、それ以上男の口から発せられるものは何も無かった。


その沈黙で逆に返事の返ってこなかった男の方が少しだけ苛立ったような言葉を発する。


「何か不満でも?」


「男・・・・・この街で、ですか? そんな、こんな広い場所でたった一人、それも男を探せってだけ言われて見つけられるはずがないじゃないですか・・・」


少女の言うことは尤もである。どれだけ多くてもたった一つの『男を捜せ』とだけ言われて目的の人物を探せる方がどうかしている。

だがそんな少女の不満も男はなんら気にかける様子はなかった。空気の揺さぶりが感じられなかったのがその証明。


「心配は不要。彼・・・いえ、あの年頃なら少年、でしょうか。どちらにせよ一目見れば解せます。特にあなたのあの能力ならなおの事、ね」


あくまで自信に満ちた男の言葉。それに少女はこれ以上の無駄な詮索は止めにした。


心の中でその人物に予測をつける。が、どれだけ考えてもろくな人物像にならなかった。一目見ただけで分かる相手などたかが知れている。


存在感、または狂気、そのどちらか?


無駄な考えに終わり、少女は一旦考えるのを止めた。


「で、もしわたしがその人を見つけたとして・・・・どうするつもりなんですか?」


「それはあなたが気をかける事ではない」


少女は黙った。その男の大きな態度に、ではない。

もしも彼の探している人物が見つかったとして、彼がその人をどうするかを想像していた為に、である。


結果は散々足るものであった。どう転んでもその人物にろくなことなどありはしないだろう。少女の考えでは最悪・・・いや、最善でさえ満足に生きていられるかどうか、怪しかった。


思惑に少女の表情が自然と曇り、それを暗闇の中で男の目がしっかりと捉える。男の口元に微かに笑みが浮かんだ。


「どうした? まさか断る、とでも言う気ですか?」


嘲るようにして言う男に対して少女は勢いよく首を横に振ってから、今までの彼女の声を考えると驚くほど静かな声で答えた。


「いえ、分かりました。とりあえず言われたとおりに探してみましょう。けれど期待通りに見つかるかどうか、知れませんよ」


「絶対見つかりますよ。すぐに、ね。あれはそういうモノだった、あなたたちよりも、むしろ我等に近しい」


「・・・・・・・」


不適に笑う男の事を少女は不気味なほど笑顔を崩さずに見ていた。張り付いた仮面のような、でも確実に本心を表したその表情で。


「それで、用事って言うのはそれだけなんですか?」


「はい、その通りです」


「そうですか。それなら、わたしはこれで行かせてもらいますね。わたしだってこれで結構に忙しいんです」


「・・・ふん」


詰まらなそうに声を漏らす男を後目に、少女は暗闇の中でも入ってきた出入口を正確に開けると、入ってきたときと同じようにして出て行った。

ずっと、少女の顔に浮かんだ仮面の如き笑みが消えた事は一瞬たりともない。


「あの笑み、相変わらず間抜けそうな小娘ですね」


男の小さな声が響き、後は何も聞こえなくなり空間がまたほとんど完全な闇へと戻っていた。



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