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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
二章 ~仲間~
22/51

十七話「徒然なる終演者達」


ぷべぽー

…何か書かずにはいられない。






「頼むぞ、無事でいて」


日は沈み掛けているがまだしばらくは夕日として見えるだろう程の時間。

凪は必死に走っていた。


念のため、と言う事であの後に真衣と名乗った少女の証言が正しいかどうか確かめるべく一旦家に戻った結果、時間を浪費してしまった事を今はただ後悔する他ない。

探した範囲では結局佐久弥の足取りは捉えられなかった。


そうなれば言われた通りに指定の場所へと向かうしかない。


「どうしてこんな・・・」


呟いても現在の理由だけははっきりしていた。


手が胸に掛けた首飾りに掛かる。

全ては、今佐久弥の身が危ないのはこれが原因。

だが分かっているのはそれだけだ。分からない事は多々有りすぎた。


一つに昨日の男の変貌、あれは佐久弥の言葉どおりなら確かに異常としか言いようがない。

二つにこの首飾り、あれから幾度試してみても全く遣えなかった。うんともすんとも言わない。そもそも何故こんなものを渡されたのか、それも疑問ではある。

三つに弧月真衣という少女、彼女は余りにも内情を知りすぎているような気がしてならなかった。


どうにも昨夜辺りから何かがずれてきている、浮かんだ考えに頭を振って必死に取り消す。


「っ!?」


「うわっ、と」


T字路の曲がり角、ぶつかりそうになり咄嗟に右へ避ける。相手も運良く反対側に避けてくれたようでぶつかる事はなかった。

どうやら考えに没頭しすぎだったようで、軽く反省して


「ごめんなさい」


最低限の謝罪を済ましてからすぐに駆け出した。


「あ、ちょっと・・・・」


背中から相手の声が届いてきたが今は一刻を争う。掛け声に振り返る事なく凪はひたすら目的地を目指した。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「かーずーちゃん」


今まで聞いた事もないような甘い声と紅潮した頬。恥ずかしげに、それでも身を寄せてくるその姿は紛れもなく見慣れた幼馴染のものだった。


「ねぇ、和ちゃん・・・」


「な、何だ?」


自分で緊張しているのがわかっていつつそれをどうする事も出来ない。でもそれでもいいか、と内心思える自身がいる。


「あの、ね」


胸に向かって『の』の字を書きながら見上げてくる潤んだ瞳。


ごくり、と喉がなる。


「恥ずかしいけど、和ちゃんならわたし、いいよ?」


何かを期待するように瞼を閉じるその姿に、肩に両手を掛けて身を今以上に引き寄せると自身も瞳を閉じた。


顔をゆっくりと近づけていき、触れるかという刹那。


「ねぇ、和く〜ん?」


瞳を開けた、瞬間全身に鳥肌が立つ。

目の前の“彼女”がにこりと、間違いなく最上の笑みを浮かべる。


そして、


「ごふっ!?」


殆ど消化した昼食を戻すほどの圧力が腹部に係り、


「お目覚めかしら?」


和佐は目を覚ました。

最初に目に入ったのは何故か自分を踏み付けて見下している舞の姿。程よい長さのスカートの下からその中身が見


「!!!」


下腹部よりちょっと下の部分に伝わった激痛に声も出ずに意識すら跳びかけた。おまけに全身が打ちつけれれる様な衝撃にも襲われる。


「萌ちゃん、酷いわ。和ったら今私のスカートを下から覗き込もうとしたのよ」


可愛らしく身を反してその後ろにいた萌へと抱きつく少し涙目の舞の姿が霞んで見える。


「え・・・・・和ちゃん、それって本当?」


少し軽蔑の混じった視線、先ほど夢で見たものとは雲泥の差であった。

ただ見られる本人、和佐は言葉を発する事も出来ずに地べたで苦しみに耐えながら声無き叫びを上げることしか叶わないでいた、のだが。


「何も言わないのは認めた証拠よ。折角風邪を引かないようにって私が起こしてあげたのに恩を仇で返すなんて、そんなの酷すぎる」


声が出ないのはお前の仕業で酷いのはお前だ、と言いたいのだが声が出ない。


「うん、でも舞ちゃんの起こし方ももうちょっと優しくても良かったと思うよ?」


「それは・・・・初め、折角萌ちゃんが優しくしてくれたのに起きない和が悪いのよ」


「う〜ん、それもそう、かな?」


「そうよ」


「そうなの?」


「ええ」


「ふぅん」


「違うわっ!!!」


身を起こす。ようやく痛みも引いてあそこの具合も落ち着いてきてくれた。


「で、和佐君は何だってこんなところで優雅に寝てたの?」


こんな所、と言われて和佐は初めて自分がいる場所を認識した。

地面の上、公園の風景。そして自分がいたらしいのはベンチがすぐ傍にある。


瞬間、意識を失う直前の記憶を思い出す。


「そうだ! きょ・・・」


普段と変わらない萌の姿が目に入って、和佐は飛び出しかけた言葉を慌てて呑み込んだ。


「きょ・・・キョンシー?」


「違うわ、萌ちゃん。今日、よ」


微妙に惜しい。


「今日? 今日って何かあったの、和ちゃん?」


「あ、その・・・えっと、な・・・・」


「うん・・・・って何、舞ちゃん?」


萌の方に手を置いた舞は何も言わずに首を横へ振った。それから耳元で何かを呟く。


「!!」


萌の顔が真赤に染まった。

果たして何を吹き込んだのか、非常に気になりはしたが直感に従って和佐は何も言わずに言葉を呑み込んだ。ここで突っ込むとそれこそ負けになる、そんな気がしたのだ。


と、現状を思い出した。


「悪いな、一応起こしてくれた礼は言っておこう」


手を上げて、和佐は身を翻すなり走り出す。


「か、和ちゃん。ほどほどにね・・・」


背後から聞こえた声はあえて無視する方向で。


公園を出て、奔りながら思考を巡らせる。

夕日の翳った今から探していてもたかが知れている。と、すればばれずに捜し出す事はほぼ不可能。だがだからと言って諦めるなんて論外。


兎に角。


取り敢えずの指針として人の少ない方へと足を向けて。


「っと、わる・・」


ぶつかりそうになった相手の顔を見て、それ以上の言葉は出てこなかった。


「・・・・・・・・・・・」


その相手、恭一は和佐を一瞥だけしてその横を通り過ぎる。


「て、ちょっと待て、恭一」


慌てて恭一の肩に手を伸ばして、殆ど反射的に動いてきた恭一の動きに和佐はすぐさま身を引いた。


「何だ」


「何とも、ないか?」


言っておいてから観察もしてみる。

恭一の様子に変わった様子は無い。あえて言うならばいつもより不機嫌そうなところだろうか。

だがそれならば問題は何も無い。


「余計な世話だ」


用はもう無いとばかりに恭一は身を返して遠ざかっていく。


和佐はしばらくの間それを眺めて、


「・・・・・・は?」


予想外も予想外の返答に心配も何もが吹き飛んでいた。

数分もその場で立ち尽くした後、全身から力を抜くと和佐は所在無さ気に後頭部を軽く書いてみせる。


「まぁ、よかった・・・のか?」


未だ混乱の内にありながら、和佐はとりあえず自分も帰路につくことにした。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「はあ、はあ、はぁ、はぁ・・・・・」


目的地はもう目の前。

切れる息を整えつつ、凪は敢えて余裕を持たせるようにゆっくりと丘を登っていった。


丘を登りきり、工場の入り口付近に座っている人影が目に入った。向こうも気付いたらしく立ち上がる。


「来たぞ」


「あはは・・・・・そうですねぇ。七宝は持ってきてくれました?」


何故か彼女、真衣と名乗った少女は疲れ気味の様子で、半分自棄になっているようだった。

何の策略か、兎に角警戒を解かずに肯定を示し、鋭く相手を睨みつける。


「佐久弥は何処?」


「あ、はははは。それがですね・・・・・」


一層、壊れたように笑う。

凪の脳裏に最悪の光景が思い浮かび、思わず詰め寄りかけた所で真衣は笑いを止めると一層疲れ気味に口を開いた。


「態々急いできてもらい大変申し訳ありませんが・・・・・囚われのお姫様はもう王子様に助け出されてしまっていたりします」


「・・・・どういう事だ?」


「言葉通りに。わたしは報告と言うか・・・とりあえずそれを伝えるためだけに貴方を待っていましたから」


真衣が一歩近づく。

凪は反射的に腰の短剣を抜いた。


「それでは少々予定とは違いますが、頂くものを頂きましょうか」


言うが早いか、真衣が一直線に凪へと駆けた。更に動こうとする凪に牽制に袖内から出した手裏剣を抛る。


「くっ」


短剣で手裏剣を撃ち落とし、


「やっぱり素直に渡してくれませんか?」


眼前にはもう真衣が残念そうな表情で、いた。


短剣を振り下ろす、が手首を取られて止められる。

もう片手が首に掛かった首飾りに伸びて、凪は咄嗟に蹴りを放った。


空ぶる、が代わりに真衣は首飾りを諦めて遠退く。凪も同じく距離をとって下がった。


二人に、間が空く。


「佐久弥がここにいない以上、お前に渡す理由は無い」


「それは、そうですねぇ・・・・・・でも解せませんよね。どうしてあの人がこんな」



考えるように頷いた真衣の様子が変わる。鋭い、射抜くような視線。だがそれは凪を通り過ぎてその後ろへと向いていた。


真衣の余裕が一切消えている事を不可思議に感じながらも凪は振り返って見るべきかどうかを迷っていた。

後ろに誰かがいるのは明確、だがこのままこの少女に背を向けるのもどうか、と。


「あら? あらら・・・・人、お嬢さんが二人もいますね」


何故か聞き覚えのあった声に凪は思わず振り返っていた。


いたのは一人の男。それも記憶が正しいならつい先ほど、此処へ向かう途中に街角でぶつかりかけた相手のはず。

認識するなり、凪はその男の眼に入らないように抜いていた短剣を仕舞い込んだ。


「貴方は・・・」


「おや、何処かで見たかと思えばつい先刻僕がぶつかりそこなった人じゃないですか」


間の抜けた、緊張感の欠片もない声。


「それともう一人・・・・・・・お友達?」


尋ねるような声に凪は我に返った。

今まで敵に背を向けていた事実に慌てて振り返るが、真衣は先ほどと同じ真剣な表情のまま全く動いてもいない。


「・・・・ど」


微かに真衣のものと思われる音が風に乗って届く、が何を言ったのか。


にこり、と真衣が笑みを浮かべた。今まで抜けていた余裕も復活している。


「どうやら、とんだ邪魔が入っちゃいましたね」


ため息が一つ、真衣から構えと緊張が解ける。そのまま凪の方へと歩いてくる。

咄嗟に徒手のまま構えを取るが、特に気にする様子もなく真衣は凪の真横をそのまま素通りして行ってしまう。


「また、近いうちに伺います。それまでに考えを改めてくれると嬉しく思いますね」


すれ違い様に囁くように、それだけ。


真衣の姿を追って振り返る。

その姿は今来た男の脇も何事もなく通り過ぎて、そのまま街へと向かう坂道へと消えた。


交代するように、何処となく曖昧な笑みを浮かべながら男が凪へと歩み寄ってくる。


「何だか、お取り込み中でしたか?」


「いや」


正直、助かったと思った。

徹して真衣の動きがどこかぎこちないものと感じはしたが、あのままでは首飾りを獲られるのも時間の問題、それほどの実力差をただ一度の交差で痛感してしまっていた。


がぶりを振ってその考えを振り払う。

今回は何とかなった、今はそれでいいではないか、と。


「それよりもこんな場所・・・・何か用事でも?」


此処は忘れられた街外れ。余程の事がない限り足を踏み入れる事もない。つまりこの男はそれだけの理由があったという事、それを考えると自然と警戒心が強まった。

だがそんな凪の様子も気にしていないようで男は一度珍しそうに辺りを見回して、少しだけ照れたように笑みを浮かべた。


「いやぁ、実はこの街に引っ越してきたばかりなもので少々散歩がてらに探検でも、と思い歩いていたのですが・・・・・・実は道に迷いまして、困ったものです」


少しだけ頬が赤いのは男のようないい歳になって探検などと言っているからだろうか。

はは、と笑う男の邪気のない様子に自然と凪は肩の力を抜いていた。


「で、貴方の方はどうしたのです?」


「もう終わった」


短く返す。

別に答えるのが面倒だとか警戒しているからではなく、今すぐ佐久弥の無事を確かめたいのと削った精神力に気疲れがでているだけである。


少しだけ早足に、凪は男の脇を通り過ぎて丘を下る道に行った。


「礼を言う。助かった」


「?」


すれ違いざま囁く、聞こえない程の声。当然目の前の男には聞こえないように。


何処となく湧き出た気恥ずかしさに自然と駆け出そうとし


「名前」


背後から聞こえた男の声に振り返っていた。


「名前、お尋ねしていいですか?」


唐突の事に凪は思わず警戒心を強めた。

道は自分の後ろにあり、逃げる事は出来ると認識しつつ口を開く。


「・・どうしてだ?」


「いえ、ね」


男が何かを言いよどむような仕草をする。

凪が訝しみ、半歩後ろに下がりかけたところで男が淀むのを止めた。


「また会えそうな気がするんですよ、可愛いお嬢さん?」


ぼっ、と火が出るように顔が紅潮するのを自覚して、凪は男の視線から顔を隠すように横を向いた。


「渫槁・・・凪、だ」


ぼそり、と呟く。それでも男には聞こえていた。


「凪さん、ですか。良い名前ですね」


まるで社交辞令。

それを分かっているのに、なお顔が熱くなる。


「また近いうちに逢えると良いですね、凪さん」


微笑む。


「あ・・・ああ」


どうしようもない居心地の悪さに何と言っていいのか、口の中が乾いて緊張する。


「よ、用事が無いならもう行く」


「はい、それでは。引き止めて済みませんでした」


背後からのなんとも穏やかな声に一層理由も解せない居心地に悪さを感じ、


「じゃ」


短く一言だけ言って、全力で駆け出した。


「はい、では“また”」


そんな声が聞こえたが、聞こえない。


ふつふつと湧き上がる怒りとも取れない感情に凪はひたすら、家にたどり着いて酷く落ち込んだ様子の佐久弥の出迎えを受けるまで走り続けた。そして同時に、佐久弥が無事だった事を思い出して安心した。






七宝殿〜居間で興っている事?〜



柔軟な「徒然なれ終始立って・・・」



萌 題名が『徒然なる終演者たち』っていうのは…


舞 ただ単に余者達の行動って事でしょ


萌 ま、舞ちゃん、そんな言い方…


和佐 還ってきたなり聞く言葉がそれか


萌 あ、和ちゃん……和ちゃんも還ってきたんだ


和佐 おうよ、って今度は舞までいるんだな


萌 そうだよ〜、前回から舞ちゃんも復帰したみたい


舞 悪い?


和佐 悪い、以外の言葉が見つからないな


舞 そう……(すすす――)


和佐 …おい、そう言って気配消しながら俺の後ろに迫ってくるの、辞めろ!


萌 でもこれでいつものメンバーが勢ぞろいだね


和佐 皆脇役ってか?


舞 和限定で、ね


和佐 その言葉そっくり返すぜ、なんてったって今回は俺も出てるんだから


萌 って言ってもほんのちょっとだけだけどね


舞 ほーんと、それにそれをいったら私達だってちゃんと登場してるわ


萌 そういえばそうだね、久しぶりに、わたしは八話、舞ちゃんなんて十話ぶりだよ〜♪


舞 それは…残念だわ


萌 どうして?


舞 実はここに来られる休暇は今回までなの


和佐 あ、実は俺もそう、今回顔出せたけど一回限りになりそう


萌 え〜、二人とも……じゃあまた前みたいに戻るの?


舞 そうなりますね


和佐 そうなるな


萌 …でも、それも良いかも。お兄ちゃんも呼べるし


和&舞 駄目、それは絶対ダメ(即答)


萌 どうして?


和&舞 そんな本編でも出番のある人を持ってきたらここの意味が無くなる(わ)


萌 それじゃ、佐久弥さんもダメなのかなぁ


和&舞 ん、それは別に良いんじゃない?


萌 と、いうわけで次からはお兄ちゃんも呼べちゃう紹介コーナー♪


和&舞 し、しまった!!!


萌 じゃあまた次回十八話で会おうね


和&舞 ちょ、ちょっと待って萌ちゃ…(本日は終了〜)



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