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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
二章 ~仲間~
21/51

十六話「重なるは運命の環」


ぶぶ〜(…だから何が?)





然して広い場所でもなく、程なく足跡は外へと向かっている事が分かった。


「・・・・・・」


もう目の前のドアを行けば外、と言うところで恭一が足を止めた。後ろに続いていた佐久弥の足も自ずと止まる。


「どうか・・・しました?」


「誰かいる」


実に淡々とした物言い。

佐久弥が恭一を凝視したまま固まって、数秒の後に不安そうな目で見上げてきた。


「誰、でしょうか?」


「・・・・・・・」


その問いには答えずに、恭一はしばしの沈黙の後再び歩き出した。歩みに迷いや不安は一切ない。


「恭一さん?」


「一人で行く」


「で、でも・・・」


振り返って佐久弥を見る。


「邪魔だと言っている」


「ぁ・・・はい。わかり、ました」


寂しそうに俯く佐久弥。その姿を見せずして恭一は再び歩き出していた。

途切れた足音、それだけが重要な事。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「え?」


外に出たすぐ傍、そこに彼女は座っていた。

恭一の姿を認めるなり立ち上がり距離を取ったがそれ以上動こうとしない。まるで恭一が、いや誰かが中から出てきた事に驚いているようだった。


「お前、は・・・」


鋭い視線で睨みつけてくるのは一人の少女。同い年くらい、短髪と佐久弥の言った条件に一致する。

服装は着飾るのではなく、あくまで動きやすさを重視したようなもの。だが似合ってないかと言われればそうではない。また一瞬の身のこなしから見てもかなりできるのは間違いない。


が、そんな下らない事より何よりも、恭一は彼女がそんな表情を向けてくる事、恐らく彼女の驚き以上に、また非常に珍しい事に戸惑ってさえいた。


「誰です、あなた?」


初めて聞いた、刺す様な声は彼女のもの。

見間違いでも聞き間違いでもありえない。この距離で間違えるほど耄碌(もうろく)はしていない。


「・・・違う、のか」


目の前の彼女から相違点を見つけようとしてもどこも見つからない。

容姿、体躯、声、どれをとっても妹の友人、“如姿舞という少女”のものに違いなかった。

ただ態度だけが真逆。親しみではなく憎しみさえ感じ取れる。


「失礼ですが、何方ですか?」


「お前こそ、誰だ」


しかしそれはそれ。敵愾心を向けてくる相手をみすみす逃す恭一ではない。たとえ相手が知人であり妹の親友だとしても、だ。

戸惑いはもう何処にもなかった。


目前の相手は別人だ、と。正確には別人であって欲しい、だったがそれに自覚があるかどうか。


「・・・では、この先で何をしていたんですか? 返答次第では容赦できませんよ」


緊張感を漂わせる少女。だがそれが何故焦っているように見えるのか。


如何でも良い事だ、と。


「何もしていない」


「・・本当ですか?」


「何もしていない、と言った」


少女のやや緊張が和らいだ。


「それならば、速やかにこの場から立ち去る事をお勧めします」


「断る」


街へ降りる道を示した少女に、そちらへは行かずに恭一は一歩、近づいた。


「何のつもりですか?」


少女の警戒が再び戻る、が気にしない。


「お前は誰だ」


「・・・言う必要性を感じませんね」


「ここで何をしていた」


「あなたには関係のない事ですよ?」


「そう、か」


「そうで、す?」


喉を握られて、少女の声が詰まる。

何が起こったのか解らないと言うように呆けた少女の表情。


「話せ」


「っ!!」


最大まで少女の頬が引き攣る。

ようやく何をされたか気付いたらしい少女に恭一は力を加えて掴んだ身体を足払いと同時に引き倒し、身体を引いた。


三寸先を風が過ぎていく。


跳び蹴りに続いて、その足で逆に腕を固められそうになって恭一は彼女の首を解放した。


足を空いた少女はそのまま恭一と距離をとるように離れていく。


「誰かは存じませんが・・・・・帰ってくれる気はないようですね」


嘆息。


恭一はもう答えない。無言のまま、数歩の踏み込みで少女との間が詰まる。より早く、少女は袖の内より出した物を恭一に向かって投げつけていた。


跳んでくるものを紙一重で避けて少女へ向かおうと、腕に絡みつく何かの感覚があった。

視線を落として目に入ったのは腕に捲きついていた鎖。


前に引き摺られる。


突然の加力に体勢が前のめりになりかけて、構わず恭一は加速した。招待されているのなら素直に向かうまでの事。


意図に気付いたのか少女はすぐに二人を繋いでいた鎖を放棄した。少女の側の鎖が恭一の横手に生えていた木に捲きついて止まる。


今度は逆に身体が後ろへと引き、強制的に止められる。


すかさず少女が再び手の内から何かを投げた。

投げられたのは丸い玉。


恭一の足元に着弾したそれは煙を上げて爆発した。


「ちっ・・」


爆発の威力は殆どなかったのだが、数秒もたたずに吐き出た煙が完全に視界を遮ってしまう。


腕に捲きついた鎖を解き、少女の姿を最後に見た場所へと駆ける。


「何処に行くつもりですか?」


後方から聞こえた声。

恭一は振り返って、背後からの空を切る音に咄嗟に身体を横に投げ出した。


跳んだ先、煙の向こう側に人影を見止める。その影が手を振り上げる。


「ご苦労様でした」


振り下ろされた。


煙の中でも微かに影の手元が光っている。


構わず、前に出る。

手を差し出して、振り下ろされる影の腕へと撫でるように添える。


「え?」


驚きに満ちた少女の顔を真横から眺め、恭一は少女の動作そのままに、誰もいない空間へとその腕を彼女の腕と同時に振り下ろした。


当然、少女の腕は空を切る。


添えていた少女の腕を取りそのまま関節を取りにいき、寸前で力任せに振り払われた。そして少女の姿が再び煙の中に消える。

耳を済ませるが何の音もしない。


少しずつ、煙が晴れていく。


煙がなくなったとき周囲を見渡しても少女の姿は何処にもなかった。


ふと気配に上を向き、少女の姿を認めた。手にした獲物――警棒ほどの長さの鉄の棒を構えたまま降って来る。

半歩後ろに下がり正面からそれを向かえ打つ。


「恭一さん!?」


「え!?」


背後から聞こえた声に少女の身体が目に見えて強張った。


降って来る少女に手を伸ばし、掴んだ腕を自らの元に引き込む。

少女が振り下ろした鉄棒を掴んだ手で薙ぎ払い、勢いを殺さずにもう片手をそのまま拳を水月へ。


「かはっ・・・」


少女の体がくの字に曲がる。

更に腹部に数度、容赦なく拳を叩き込んで止めとばかりに上段蹴り。


力なく少女の体は地面を少しだけ転がって、止まった。

少しの後に少女が身を引き摺るように起き上がろうとする、が出来ずにその場に膝を崩した。


恭一はその少女に目をくれるではなく、後ろを振り向いて駆け寄ってくるそれを睨みつけた。


「恭一さん!」


剣呑な雰囲気に気付いたのか向かってくる足が止まる。その場で踏鞴を踏み、視線を逸らしつつも完全に逸らせない様子。


「え、と・・その、音がして・・・恭一さんが、怪我・・とかしてないかなって心配、になったのですが・・・・・・・どこか怪我していませんか?」


「見れば分かる」


「そう、です・・ね」


恭一の体を見て、怪我がない事を見たのか佐久弥からほっと肩の力が抜けた。


「良かったです、恭一さん」


無邪気な笑顔を見せる、その姿が。


何処にも似ている箇所などありえないのに。


何時か在ったような風景。太陽が昇っていたあのとき、何処だったか?


――もう、あんまり無茶しちゃ駄目でしょ?


自分は拗ねて、何かを言い返した。


――だ・か・ら、それが心配なんだって


少し困ったような、それでいて安心できる優しい笑顔。


――でも良かった、大事がなくて・・・ね?


「恭一さん?」


戻っていた。

夕日が出ている。真昼などではない。


いつの間にか佐久弥の顔が間近に迫っていた。両手も肩を掴んでいる。それに気付いて恭一は肩から手を離すと共に半歩下がった。


「何でもない」


鉄棒を払った方の手の鈍痛に、ほとんど無意識に佐久弥の視界から外れるように動いていた。


胸の中に去来する感情に、恭一は居た堪れないように視線を逸らした。どうして後悔と懺悔を感じているのか、その真意はまるで分からずに。


丁度視界の端に建物の壁を支えに立ち上がっている少女の姿を見止めた。立ち上がるとはいっても膝が笑っていて、軽く押しても倒れるだろう程の弱々しさではあるが。


ぴたりと、視線が重なる。


「・・・・・が・・・・る」


『敵』に構える。


「恭一さん?」


不思議そうな声。その声に恭一は構えを解いた。

一瞬、今にも倒れそうな少女から気圧されそうなまでの殺気が溢れたのだが、今は完全に霧散していた。


「はは、はっ・・・・こんな愛らしい女の子相手に此処まで容赦無用とは、流石に効きますね」


後ろで佐久弥が息を呑んだような気がしたが、気にしない。額の汗と苦笑を浮かべる少女の下へと歩み寄った。

少女は動かない。動けない、かも知れないが。


「知っている事を話せ」


「・・・お断りします、と言ったら?」


「吐かせる」


「ふ、ふふふっ」


恭一の答えに満足か、それとも自嘲か。少女の口から笑いが漏れる。


「千里・・・恭一さん?」


先ほどからの佐久弥の言葉を聞いていたからか。確認するように少女は恭一に視線を向けてきた。

恭一は無言だったが隣まで来た佐久弥が二人の間を交互に見ていて、丸分かり。


今度は明確な自嘲が少女に浮かぶ。


「そうですか。貴方が千里恭一さん、ですか。ふふ・・・」


「・・・・あれ?」


二度目にしてようやくか、佐久弥が不思議そうに声を上げた。

それは自分が言っていないはずの恭一の姓を少女が知っていた。つかり彼女が予め恭一の事を知っていた、と言う事なのだが。


恭一にとってはそんな事。目の前の相手が敵であるのだからそれ以上は何もない。


「はぁ・・・で、恭一さん。貴方はどうしてこんなところにいるんですか?」


何かを諦めたように発せられた少女の言葉からは最早敵対心がない。


「気付いたら此処にいた。それよりも」


恭一が更に一歩近づいて、気付かなかった。敵対心がまるでなかった所為かもしれない。


「話してもらう」


「丁重にお断りしましょう、“王子様”」


不敵な笑みが少女に浮かぶ。そして手に握っていたそれを足元に転がした。

丸い、玉。


「恭一さん!!」


横から飛びついた佐久弥に押し倒される。こちらも敵意がないから気付かなかったのか。


視界の端で玉が爆発した、小さく。

煙が勢い良く広がっていき、瞬く間に視界を塞いでしまう。あのときの煙玉だった。


佐久弥をどかして急いで少女がいた場所に手を伸ばしたが、空振り。


「王子様、今回は貴方の御名に免じて隣にいるお姫様は素直にお返ししましょう」


どこか芝居がかった声が聞こえてくるがまるで空間全体から聞こえてくるように場所が特定できない。


「あ、そうそう。わたしの名前は弧月真衣と言います。一方的に知っているのは対等じゃないでしょう?」


次第に声が遠ざかっていく。だがそれも空間全体からで特定は無理。


「次会う時は愛情を籠めてマキちゃんと呼んでくださいね、囚われの王子様」


どこか哀しげな声を最後に少女、真衣の声は聞こえなくなった。恐らく何処かへ逃げ終えたのだろう。

煙が引いて、やはり真衣の姿は何処にもなかった。人がいる気配も傍の佐久弥以外は感じない。


息を一つ吐いて、体に残っていた力を抜く。


もう一度周囲を見渡してから恭一は足を街へ降る道へと向けた。最早誰もいないこんな場所に用はない。むしろ初めから用事などなかったのだが。


「あ、待ってください」


後ろから小走りで声が近づいてくる。

恐らく数歩後ろ、歩幅の違いからか多少早足で佐久弥がついてくる。


「あの、わたしの言った女の人を覚えていますか?」


「憶えている」


「彼女、でした」


「そうか」


別に態々言われる必要もなく、結局何が言いたいのか分からなかった。が、それだけで何かを気にする恭一でもない。ただ普段と変わらずに坂を降りていく。


「あそこって・・・・街外れの工場跡、だったのですね。分かりませんでした」


独り言か話しかけているのか、どちらにしろ恭一に答える気は無いが。


少しだけ困ったような気配が背後から伝わってくるような気がした。


「あの、何処へ向かっているのですか?」


「家だ」


「そ、そうですよね」


本当に、何が言いたいのか分からない。


そういえば、と。萌もよくこんな言い淀む事があった事を思い出す。


「あっ」


気付いた時には右手を引かれていた。いや、握られていたと言うべきか。

反射的に振り払おうとするもそれよりも強く、両手で握られてしまい仕方無しに恭一は振り返った。


「駄目です」


突然言われても何の事だか分からない。

恭一がそれを口に出すより先に、今までで一番強い調子で佐久弥がはっきりと言った。


「やっぱり怪我、しています。少しじっとしていてください」


握られていた手が今度はそっと包み込まれる。

鈍い痛みを発していた其処がじんわりと熱を孕んでいくように温かくなって


――これくらいなんともないよ


世界に亀裂が入った。


はっきりと、幻聴は実際になっていたのではないかと思われるほどに響いた音。

溢れるように湧き上がってくるのはどうしようもないほどの恐れの感情。


ただただ、力任せにつかまれている佐久弥の両手を振り解いた。


「ぁ、駄目で」


「触るな」


拒絶を表す言葉。出た瞬間に遣る瀬無さが湧き出たが、今更。


振り払われても尚伸びかけていた佐久弥の手がぴたりと止まった。


「す、済みません。わたし・・・・」


逃げるように――いや、実際逃げたのか――恭一は佐久弥に背を向けると今まで以上の早足で坂を降りていた。

振り返って彼女がどんな表情をしているかなど見る気もさらさら起きない。


拭っても拭っても拭いきれない怒りの感情。それを振り払うように恭一は走り出した。


後ろから誰か、佐久弥が追ってくる音も気配もない。

あの場所に留まっているのかもしれない――が、どうでもいい。


振り返ることなく先、戻るべき場所へ向かって進むのみだった。






七宝殿〜居間で興っている事?〜


十六課「傘要るのは雲停の日」



萌 本日は久しぶりに舞ちゃんの登場です


舞 ほんと、久方ぶりね


萌 今迄どうしてたの?


舞 いえ、ちょっとした野暮用を片付けていたのよ


萌 ふぅん……そうなんだ?


舞 ええ、それと余り深く突っ込まないでね、詳しく説明したくないの


萌 え、うん…じゃ、早速今回の説明に入ります


舞 ……お兄さんが珍しく活躍しているのね


萌 うぅ、お兄ちゃん、主人公なのに反論できないところが哀しいよ


舞 ま、まあまあ、きっとこれから増えていくわよ………多分だけど


萌 ………うん、そうだよね


舞 え、ええ


萌 …う〜ん、前回の予告どおり真衣さんがお兄ちゃんに会っちゃったよ


舞 私、本編で大丈夫かしら?


萌 …きっと、大丈夫だよ


舞 萌ちゃん…?


萌 だってこのとき舞ちゃんわたしと一緒に部活動見学してたもん


舞 まあ、あのお兄さんがそれを解してくれる御仁だと私、大変嬉しいんだけどね


萌 大丈夫だよ、お兄ちゃんだって話せばきっと分かってくれるって


舞 そう?


萌 うん、きっと、多分、恐らく…………ううん、絶対だよ!?


舞 萌ちゃんがそこまで言うのなら信じてみてもいいわね


萌 う、うん!


舞 …それじゃ、時間もないので早速次の話題へ


萌 切り替え早いね、舞ちゃん


舞 折角用事も一段落して休暇をもらってここへ来られたんだからしたい事しなくっちゃ


萌 ? 舞ちゃんのしたい事って?


舞 それはもちろん萌ちゃんと時間を共有する事よ


萌 でも…本編でもいつもわたし舞ちゃんと一緒にいるよ?


舞 それは……(より濃密な時間の共有を、と)またそれって事


萌 そうなんだ


舞 それじゃ、こんな茶番劇を早く終らせちゃいましょう


萌 うん、そうだね、わたしも久しぶりに舞ちゃんといっぱいお話したいよ


舞 ささ、皆さんにご挨拶―、(そそくさと退場)


萌 それじゃそういう事で御免ね、また次の十七話で遭えることを楽しみにしてるよ〜



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